前回勝手に続き物にしてしまって、ごめんなさい。
だって書ききれなかったんですもの!!
改めまして、池澤春菜です。
「ナルニアも物語」に続き、今回は「指輪物語」のお話を。
原題のThe Lord of the Ringsを「指輪物語」と訳してしまう、この直球にして豪快なセンス!!
原作には、この翻訳マジックがいかんなく発揮されています。トールキン自身が「翻訳はその国の言葉で」と言っているのもあり、地名やあだ名がしっくりと私たちにも馴染むものに。
ちょっと余談にはなりますが、こと翻訳物において、翻訳者の力量、翻訳者のカラーというものがどんだけ大事か!!
今まで数々の作品を読みながら感じてきた微妙な思い。
「……このしっくり来ない感じは、きっと原作にはないに違いない」とため息をついていた私としては、ここんとこは声を大にして言わせていただきたい!!
ギブスンのサイバーパンク三部作は、黒丸尚さんじゃなきゃダメだったんです。
タニス・リーの平たい地球は、誰がなんと言おうと浅羽莢子さんなんです。
「ナルニア国物語」と「指輪物語」。瀬田貞二さんがいなかったら、私の人生に光なし。
今回の「指輪物語」→映画版ロード・オブ・ザ・リングにも、数々の翻訳の苦労があったようで……。原作を読んできた人、まだ読んだことがない人、日本語の語感と、英語のとして正しさ、いろんなものを全部成立させるのは、至難の業ですよねぇ。
確かに、ヴィゴ・モーテンセンに向かって「馳夫さん!!」と呼びかけるには、相当な勇気がいる気がします。
でも、サルマンとサルーマンとサウロンには未だに混乱中。アイゼンガルドとイセンガルドも混乱中。伸ばす棒があるかないか、単語の始まりの音の雰囲気、細かいところでけっこう違うもんなんですね。
でも、そんな原作フリークの些細な戸惑いすら吹っ飛ばすほど、映像化された指輪物語は素晴らしうございました。
私が最初に指輪物語を読んだのは、小学生の時。
六巻というボリュームにしびれ。
活字のつまり方にしびれ。
補足にしびれ。
面白くて、しかも量もたっぷり、何度読んでも夢中になれる奥深さ。つまり、活字中毒の求める夢がそこには全部詰まっていたわけです。
全世界にいる無数の指輪物語フリークを差し置いて、この私がのうのうと語れることではないと思うけど……でも、やっぱり、指輪物語は最高に面白い。
壮大な物語と言えばオデュッセイアもイリアスも、三国志も、マビノギオンも、古事記もそうですが、それに比肩するここまで大きな世界を、個人で創造したのは、歴史的に見てもかなり希有なことでは?
気候や風俗は言うに及ばず、言葉まで作り上げてしまったトールキンの緻密な構成力。さすが古英語の教授!!
奥深い歴史と広大な中つ国を背景に活躍する、生き生きとした登場人物達。
その中でも、やっぱり私は馳夫さんことアラゴルンが一番のお気に入りでした。
とはいえ、ファーストインプレッションは惨憺たるもの。
旅の途中、宿屋の食堂で出会った馳夫さんは「変わった様子」「履き古し、泥のついたブーツ」「半白のもしゃもしゃ頭」とあからさまに怪しい風体。暗い隅っこで目深にフード、ひっそり座って、フロド達の話に聞き耳を立てています。うん、これは、怖い。
小心者のフロドなんてさっそく、「きっと、ごろつきにお金を巻き上げられるんだ(泣)」と早合点。
でもアラゴルンは、本当はとても凄い人。王の血筋に生まれ、ゆくゆくは二つの王国を統べる上級王に。人間とエルフの希望をつなぐ者としてエステル(希望)、星の鷲を意味するソロンギル、エルフの石を意味するエレッサール……とてもたくさんの名前を持っている、日本で言ったら寿限無みたいな人(ちょっと違う)。
でも、フロド一行と会うまで実に70年(!!)近く荒野を彷徨っていたので、そりゃもう惨憺たる見た目に。
暗くて、疑り深くて、割と陰湿。神経質で、秘密主義。
でも、誇りと孤独の重さを、存分に知っている。
どうもこの「孤高の」という存在に弱い私は、この時点でイチコロです。
映画の方では、ちゃんとカッコイイ登場の仕方になっておりますので、ご安心を。原作のアラゴルンに馴染んでいる身としては、ちょっと二枚目過ぎる気もしますが……ま、逆のパターンに比べたら。
優しくて温かくてユーモラス、でも強大な力と、力の持つ怖さをも存分に知っているガンダルフも、おひげが似合うイアン・マッケランがピッタリ(正直、X-MENのマグニートーはどうかと思ったけど)。
原作で憧れていた、ガンダルフの愛馬飛蔭も、神々しい姿を見せてくれています。
読んだ人それぞれの頭の中にある像を、誰も違和感を覚えることなく映像化するなんて絶対に無理だとは思うけれど、この映画はその最大公約数に限りなく近いんじゃないかなぁ。
まだ原作を読んでいない方は、これを機に、じっくりたっぷり、指輪物語の世界に浸ってみて下さい。
小さなところから興味を引かれ始め、どんどんと深みにはまり、読む度毎に新しい発見がある。
私にとって指輪物語は、生涯に渡って飽きることなく、繰り返し読める魔法の本です。
と、いうことで、次回はとうとう「ゲド戦記」!!■
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