日本だけなのか、あるいは知らないだけで実は世界中に氾濫しているのかよくわからないもののひとつに「世界三大」ナンタラ・・・というのがあります。
ホラ、よく言いますよね。
たとえば世界三大映画祭はカンヌ、ベルリンの二つはデーンと腰掛けているものの、もうひとつの席には歴史の長いヴェネツィアが入ったり、規模の大きさでトロントが入ったりと、ものすごく曖昧。一般的に認知されている映画祭でさえ、こんな風なのですからほかの「世界三大」は言わずもがなですよ。
こんなことなら、世界三大「最古」映画祭とか、世界三大(来場者)映画祭にしちゃえばいいのにとまで思ってしまいます。
しかし!
とかく怪しい「世界三大」シリーズにおいても、揺るぎない、いや揺らいではならないものが2つだけあるのです。
ひとつは当チャンネルが12月に総力を挙げてお送りする「世界三大ファンタジー」。これはもう、説明するまでもなく『ナルニア国物語』と『ロード・オブ・ザ・リング』そして『ゲド戦記』に決まっております!
え? 誰がきめたって?
それは厳正なる審査の上、当チャンネルが決めたのです。テヘヘ。
(きっとこういう風に、他の「世界三大」シリーズも決まっていったんでしょう・・・)
※編成部注:いやいやライターさん、これは世の中的にホントにあるんだってば!ウチが勝手に捏造したんじゃありませんから。
そしてもうひとつが、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトンの三人からなる世界三大ギタリストなのです。
10月より当チャンネルで始まった新企画「ミュージック・シネマ」が『ボディ・ガード』、『スペース・ジャム』に続き、満を持してお送りするのが、この三大ギタリストの一人、クラプトンの名曲と切っても切れない『フェノミナン』です。
エリック・クラプトン。
口にしただけで、ある人は遠い目をしながら「クリームの頃のあいつはさ・・・」と語りだし、ある人は「ベ?ル・ボト?ム・ブルース??」と歌い始めてしまう、まさにリヴィングレジェンド。
これまでクラプトンの影響で家に連れてこられ、押し入れにつっこまれたギターは世の中にいった何本あるのでしょう・・・。
そんなクラプトンが映画『フェノミナン』に提供したのが90年代を代表する名曲中の名曲「Change the World」なのです。
当時のクラプトンはすでにライヴアルバム「アンプラグド」や「Tears in Heaven」をリリースした後。音楽ファンでなくとも十分すぎるほど知られた名前でしたが、その敷居をさらに下げたのがこの曲でしょう。映画は観たことなくとも、曲は知ってるという人も多いはず。
なんつってもうちの母親でも知ってるぐらいですから。
さて、そんな名曲を生むきっかけとなった映画『フェノミナン』は農家とディスコが似合うただ一人の男、ジョン・トラボルタ演じるジョージがある日、不思議な光を浴びて、スゴイ能力を手にしてしまうという物語。
つまり突然すごい力を手に入れたために、彼自身が「Change the world」してしまうわけです。(←ベタ)
光を浴びて以降、ジョージは突如発明や読書に目覚め、すごい勢いで知識を身につけていきます。最初はその能力を発揮して、周囲に歓迎と驚きをもって迎えられるジョージ。しかし、あまりに普通とかけ離れた能力に、いつしか人は彼を怖がり、近づかなくなってしまうのです。
そうして、ある日ジョージに思いも寄らぬ来訪者が・・・というお話。
当企画で放送するぐらいですから、『フェノミナン』には、数多くの名曲が効果的に使用されていますが、今回はとくに注目して欲しい見所を二つご紹介しましょう。
まず一つ目はジョージが自分の能力に初めて気づくシーン。
ペンを取ろうとすると、なんとペンがするすると近づいてくるんです。
ええっ!! マジで?! さわってないけどペン動いてる!!
と驚いた表情でペンを見つめるジョージ。
ここに最高のタイミングでピーター・ガブリエルの「I Have The Touch」が流れてくる。
「アイ・ハヴ・ザ・タッチ!」
・・・・・・そのままっつうか、何というか。まあ、言いたいことは何となくわかりますけどね。
そしてもうひとつは、ジョージが思いを寄せる女性、レイスが彼の家を訪れるシーン。このときのジョージはすでに、人から避けられて憔悴状態。ここでレイスは傷つき、疲れ果てているジョージの髪を洗い、ヒゲを剃ってあげるという、女神のような優しさをみせます。
この場面は作品の中でもとりわけ美しいシーンなのですが、アマノジャクな僕としては、ここに至るまでの説明が少なく、「アレ!ちょっと唐突じゃない?!」って思ったりしたのです。というのもそれまでレイスはジョージと距離を置いて、お友達としてしか付き合っていなかったから。
でも、そんなアマノジャク体質の僕でさえ、アーロン・ネヴィルによる甘〜いラヴソング「Crazy Love」がきこえた途端
あぁっ! もうそんなのどうでもイイ!
言葉や説明がなくても愛は伝わるんだぜ、クレージーラブだぜ。
溢れる感情を抑えきれなくなったんだね、レイス・・・。
とあっさり納得し、ささいなことはどうでも良くなってしまうのです。
音楽が良い映画ってのは得だなあとつくづく思いますね。
優れたミュージック・シネマに、余計な言葉はいらないのです!
さて、こんな具合に名曲が至る所に散りばめられた『フェノミナン』ですが、サントラも充実しております。エグゼクティブ・サウンド・プロデューサーは「ザ・バンド」のロビー・ローバートソン。彼はクラプトンに勝るとも劣らないロック界の大物だけに、錚々たるメンバーの楽曲がずらりと並びます。
と言っても、ここでポイントなのは、「知っている人には大物だけど、ふだん洋楽を聴かない人にはまったくキャッチーじゃない」セレクトなのがポイント。
ブライアン・フェリーとか、ジュエルあたりはまだヨシとしよう。
でもタジ・マハールとか、知ってます?
絶対、インドの「タージ・マハル」を想像する人のほうが多いはず。
しかも大ヒットしたサントラの宿命なのでしょうか、昨今の中古CDショップでは大抵「100円均一」コーナーに並んでたりします。映画ファン、音楽ファンとしては嬉しいような、悲しいような気分です。
それと『フェノミナン』にはシェリル・クロウの「Everyday Is A Winding Road」も使用されているのですが、シェリル・クロウと言えば一時、クラプトンと付き合っていた美人ロッカー。それだけに
クラプトン「ロビー、オレいま狙ってる美人ロッカーがいるんだけどさ、その子の曲も映画に使ってみてよ」
ロビー・ロバートソン「エリック、おれたちゃいい歳なんだから、そろそろ、そういうことはさ・・・」
クラプトン「いやー、そこを何とか」
みたいな経緯を経て、映画に使われたのカモと想像するのも醍醐味かもしれません。(2人の名誉のために補足すると、この時点でシェリル・クロウはすでに大スター)
ま、それはさておき映画の後には恒例のミュージック・クリップが愉しめますので、そちらもお見逃しなく。
今回は言うまでもなく「Change the World」です。■
(奥田高大)
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