■素顔のロサンゼルス
ここロサンゼルス(L.A.)は、言わずと知れた映画の都。普段はロケ地として様々な舞台に早変わりしますが、この町がL.A.としてそのままの顔で登場する映画も沢山あります。甘いロマンスに渋いクライム・サスペンス。ジャンルを問わずこなせるのは、豊かな自然と、多様な文化を持つL.A.ならでは。名所と呼ばれる観光スポットから何の変哲もない交差点まで、映画マニアなら押さえておきたい、あのシーンのあの台詞が生まれた場所へ、いざ出発です。
<鉄道>
訪れた土地をより身近に感じさせてくれる鉄道は、スクリーンでも観る者の旅心を誘います。車社会でありながら、実は意外なほど電車の線が延びているL.A.。ダウンタウンのユニオンステーション(1)は、長距離列車やメトロ(地下鉄)が乗り入れるターミナル駅として、その中核を担っています。風格あるスパニッシュ・コロニアル・スタイルの建物は、これまで数々の映画に登場。「ニック・オブ・タイム」では、ジョニー・デップ演じる主人公の悪夢の始発駅となります。
1.ユニオンステーション
※シンボルの時計台が、迫るタイムリミットを知らせる
2.ターミナル・アネックス郵便局
ちなみに、姉妹ビルのような隣の建物は、駅と同時期に建てられた、かつての中央郵便局。今でもターミナル・アネックス郵便局(2)として機能する一方、「シティ・オブ・エンジェル」でメグ・ライアンが働く病院として使われるなど、ロケ地としても活躍しています。
3.7thStreet 駅
さて、ユニオンステーションから3つ目、ダウンタウンのビジネス街にある7th Street駅(3)は、2004年の「コラテラル」に登場。ロングビーチ行きの地下鉄は、物語の重要な役割を果たしています。
4.レドンド・ビーチ駅
ただし、実際にエンディングの舞台となったのは、グリーンラインの終点レドンド・ビーチ駅(4)。実はマイケル・マンがこの駅を使用するのは「ヒート」に続き2回目ですが、夜明けのL.A.+無機質なホームは、さすがマン監督。哀愁漂うドラマを描かせたら右に出る者はいません。
<ホテル>
L.A.のホテルは、映画関連のイベントに使われたりスターが宿泊したりと、華やかな話題に事欠きません。中でも、ハリウッドのど真ん中、チャイニーズ・シアターの向かいにあるハリウッド ルーズベルト ホテル(5)は、記念すべき第1回アカデミー賞授賞式が行われた由緒あるホテル。あのマリリン・モンローが2年間暮らしていたこともあったそう。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」でレオナルド・ディカプリオが泊まる”トロピカーナ・モーテル”は、ここの裏玄関です。
5-1.ハリウッド ルーズベルト ホテル正面
5-2.ハリウッド ルーズベルト ホテル裏側
6.Wホテル
レトロ・フューチャー的なガラスの塔が摩天楼で一際目を引くのは、ダウンタウンのウェスティン ボナベンチャー ホテル アンド スイーツ(7)。その特徴的な構造から、「トゥルー・ライズ」や「リーサル・ウェポン2」など、多くの映画の舞台となってきました。そして、ほぼ全編が撮影された「ニック・オブ・タイム」では、ジョニー・デップとクリストファー・ウォーケンが、緊迫感ある対決を繰り広げます。
7.ウェスティン ボナベンチャー ホテル アンド スイーツ
同じくダウンタウンにあるスタンダード ホテル(8)は、逆さまのロゴが印象的。デザイナーズ家具にこだわったこのブティックホテルは、カリフォルニアでは他にサンセット通りのみ。「コラテラル」で、ジェイミー・フォックスが通行人から携帯電話を強奪するのが、このホテル前です。
8-1.スタンダードホテルロゴ
8-2.スタンダードホテル前
<レストランカフェ>
食も映画のムードを演出する大事な小道具。映画のちょっとした台詞からも、ヘルシー志向で流行に敏感なL.A.っ子の食生活を垣間みる事ができます。「抱きたいカンケイ」でアシュトン・カッチャーとその友人達が溜まり場として使っているのは、カルバー・シティーのレストラン、アカシャ(9)。ジャンルに縛られず、素材を活かした料理が人気で、ランチ時には近くのソニー・スタジオ関係者で賑わいます。
9.レストラン・アカシャ
また、カッチャーがナタリー・ポートマンとばったり出くわし、勝手に運命を感じてしまうのが、トースト・ベーカリー・カフェ(10)です。お洒落なカフェの並ぶサード・ストリートの中でも特に人気店で、セレブ出没率も高いと評判。パティオ席で太陽を浴びながら通りを眺めるのも、L.A.ならではの楽しみ?
10.トースト・ベーカリー・カフェ
さらに一瞬だけれど見逃せないのが、スプリンクルズ(11)。始めは追い返されたカッチャーがナタリーのアパートに入れてもらえたのは、ここのカップケーキのお陰。ここ数年、L.A.は空前のカップケーキブームですが、その火付け役となったのが、ビバリーヒルズのスプリンクルズ。それまで愚痴をこぼしていたナタリーやルームメイト達が一瞬にして黙ってしまうほどの威力は凄い。
11-1.スプリンクルズ
11-1.カップケーキ
<文化>
ロマン・ポランスキーの傑作「チャイナタウン」のタイトルになっている伝説的なチャイナタウン(12)は、ダウンタウンの北端に位置します。途中何度も台詞に登場させながら、あえてラストシーンまでは見せないところが、この映画の絶妙さ。「忘れろ、チャイナタウンなのだから」と言わしめるミステリアスな町の雰囲気を一層高めています。残念ながら、今は当時の面影は全くありませんが、近年のチャイナタウンは、「ラッシュアワー」や「グリーン・ホーネット」などの舞台になっています。
12.チャイタウン
広大なキャンパスを持つアメリカの大学は、それだけでも一見の価値ありですが、撮影にも頻繁に使われるため、ロケ地として訪れる楽しさも。「抱きたいカンケイ」でナタリーが勤める病院として登場するのは、ウエストウッドにある名門校UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)(13)。ハリウッドとの関係も深く、映画学科の卒業生にフランシス・F・コッポラやアレクサンダー・ペインらが名を連ねるほか、近くの映画館では毎月のように映画のプレミアが催されています。
13.ULCA
ウエストウッドからウィルシャー通りを東に向かい、ビバリーヒルズを抜けたところにあるLACMA (ロサンゼルスカウンティ美術館) は、アメリカ西海岸最大の美術館。その充実した展示はもちろん必見ですが、ここでの注目は1920年代頃の街灯を200本以上集めた屋外アートのアーバン・ライト(14)。通りから気軽に入って楽しむことができるため、特に夜は絶好の写真スポットとして人気です。「抱きたいカンケイ」では、セックスだけの関係だった二人が記念すべき初デートとしてバレンタインの夜に訪れます。でも、デートの締めだったはずが、ナタリーにはロマンチックすぎて逆にプレッシャーだったよう。喧嘩になった挙げ句、警備員に追い出されるという残念な結果に。
<ビーチ・公園>
ロサンゼルスといえば、やっぱり広い空、青い海のイメージ。スターの豪邸が立ち並び、数々の映画やコマーシャルで知ら
れるマリブビーチ(15)は、ベニス・ビーチやサンタモニカを更に北上した所にあります。「シティ・オブ・エンジェル」でニコラス・ケイジと仲間の天使達が浜辺に佇む幻想的なシーンは、ここの夕焼けをバックに撮影されたものです。
15.マリブビーチ
マリブビーチからL.A.空港付近まで下ると、人工としては世界最大のヨットハーバーであるマリナ・デル・レイがあります。湾内には、「抱きたいカンケイ」でアシュトン・カッチャーが焼きもちを焼くバーベキューのシーンで出てくるバートン・チェイス・パーク(16)が。海風と緑が心地よい公園では、週末にピクニックや結婚式を楽しむ人々で賑わいます。
16.バートン・チェイス・パーク
海だけでなく、L.A.では気軽に行ける山や公園にも不自由しません。チャイナタウンに隣接するエリジアン・パークは地元の景観スポット。晴れていれば、「シティ・オブ・エンジェル」のように天使の気分でL.A.の町を一望できること間違いなしです。
また、そのすぐ近くにあるエコ・パークは、「チャイナタウン」に登場。明らかに場違いなジャック・ニコルソンと助手が手漕ぎボートでターゲットを尾行する池は、今年6月に2年間の工事を終えて生まれ変わったばかり。蓮の花が咲き誇り、噴水の向こうにはダウンタウンの摩天楼を見渡すこともできる、これまたフォトジェニックなポイントです。
いかがでしたか?
ロケ地を訪れる機会があれば、その空気を肌で感じることで映画との距離もぐっと縮まるはず。映画を知って町を楽しみ、町を知って映画を楽しむ——それがロケ地巡りの醍醐味ではないでしょうか。■
(ザ・シネマ LAオフィス/Nao)