検索結果
-
PROGRAM/放送作品
プロヴァンス物語/マルセルの夏
まるで大自然のおとぎの国──人生で最も美しい幼少期の夏の日々を綴る『プロヴァンス物語』2部作の一編
フランスの国民的作家マルセル・パニョルの自伝的作品を詩情豊かに映像化した『プロヴァンス物語』2部作の一編。自然が美しい南仏で織りなされる家族模様や友情を、のどかな空気を漂わせてノスタルジックに綴る。
-
COLUMN/コラム2014.05.01
【未DVD化】80年代アイドル、クリスティ・マクニコルの好演が光る、舞台原作の未DVD化作品
系列的には先行するジョディ・フォスターと同じボーイッシュ系に属するクリスティが、日本でブレイクスルーするきっかけになったのは『リトル・ダーリング』(80)。同系列のトップアイドルだったテイタム・オニールがタイプキャストを嫌ってスルーした不良娘役を振られたクリスティは、少女たちが集まるサマー・キャンプで終始お嬢様然として振る舞う相手役のテイタムを、皮肉にも、完全喰い。外見はタバコが手放せない不良少女が、内側には女の子らしい繊細さを隠し持つ捻れたキャラクターは、以来、彼女の持ち役になり、翌81年に出演した『泣かないで』でも物語の"緩和剤"として大いに効果を発揮している。 まず、これがDVD未リリースなんて意外。1980年代にブロードウェーとハリウッドの架け橋であり続けた人気劇作家、ニール・サイモンが、当時の妻で女優のマーシャ・メイソンを主役に、自身のヒット舞台劇を脚色した演劇ファンにも映画ファンにとってもフレンドリーな一作なのに、なぜ? まあ、その理由はさておき、サイモンによるオリジナルの舞台劇『The Gingerbread Lady』は、彼が往年の大女優、ジュディ・ガーランドにインスパイアされて書き綴った、女優としての才能に恵まれながら自滅的な生活を続けるダメな母親の再生劇。舞台では『レッズ』(81)でアカデミー賞に輝いたモーリーン・ステープルトンが演じてトニー賞を獲ったこの役を、映画では演技派の代名詞でもあったメイソンが演じて4度目のオスカー候補になっている。それは、彼女がサイモン脚色による作品でオスカー候補になった3本目で最後の作品。映画はサイモンの舞台的な展開力が秀逸で、冒頭から字幕では追い切れないスピードで練り上げられた台詞が次々と連打される。 アルコール依存症のリハビリ施設で6年間の禁欲生活に耐え抜いたメイソン演じるヒロイン、ジョージアに、いよいよ退院の日が訪れる。彼女を迎えにやって来るのはショーン・ハケット演じる親友のトビーだ。セレブライフをエンジョイする有閑マダムのトビーは、舞台女優として活躍するジョージアの良き理解者である。そして、ニューヨークにあるジョージアのアパートでウェルカムディナーを作って待機しているのは、同じく親友の舞台俳優、ジミー。ジェームズ・ココが若干粘つく台詞回しで演じるジミーは、食材を運んできたデリバリーボーイに指摘されるほど、誰が見ても分かり易い中年のゲイである。こうして、アルコール依存から一応生還したジョージアと、実は彼女と同レベルの深刻なメイク依存(厚塗りしていないと不安で仕方がない)のトビーにゲイのジミーが加わり、自虐的で辛辣な会話の場が久々にセッティングされる。堰を切ったようにきついジョークを飛ばし合う女2人に対して、ジミーが「あんたたちの会話はセックスの次に面白いわ」と言い放ったり、二重顎をさすりながら「オードリー・ヘプバーンの首が欲しい」と呟いたり、サイモンの舞台的な、ある意味一発ギャグ的な台詞は一旦収録して再生したいほど。聞き逃すのはもったいない。登場人物が散々喋り倒した挙げ句、ドアの外へ消えて行く演出も、舞台的でそつがない。 ところが、そんな雰囲気が一変する。そこら中に充満する演技過多なムードが、クリスティ・マクニコル演じるジョージアの一人娘、ポリーが画面に現れた途端、映画的なそれにシフトする。ポリーはすでにジョージアと離婚している父親の下に引き取られた身ながら、許可を得て1年限定で母娘水入らずの生活を送るべく退院を心待ちにしていたのだ。自分の弱さが原因で手放すことになった娘に対する罪悪感と、今更一緒には住めないという拒絶感から二の足を踏むジョージアをすべて理解した上で受け止めようとするポリーの成熟度を、クリスティは佇まいだけで体現。他の大人たち同様、ポリーの台詞も少なくはないのだが、クリスティは脚本の行間を表情やニュアンスで埋めていく。彼女の抑制された演技は、やがて、様々なトラブルが重なって再び酒に手を出してしまうジョージアを思いっきり詰るシーンで逆方向に振れる。目に一杯涙を溜めて「もうママの事情なんてたくさん!」と言い放つ場面は、クリスティと一緒にわがままな母親に耐えてきた観客の心まで、一緒に解き放ってくれるのだ。 『リトル・ダーリング』の前にTVドラマ『ファミリー/愛の肖像』(1979年4月から東京12チャンネル・現テレビ東京で放映)で5人家族の個性的な次女、レティシアを演じた経験上、クリスティはアンサンブルで映える演技というものを若くして会得していたのかも知れない。サイモンのキャスティングがそれを見込んでのことだったかどうかは不明だが、『泣かないで』に於けるクリスティの演技は気丈さと繊細さを併せ持った、やはり彼女ならではの個性に裏打ちされたものだ。なのに、アカデミー会員は1982年のアカデミー主演女優賞候補にメイソンを、助演女優賞候補にショーン・ハケットを、助演男優賞候補にジェームズ・ココ(ラジー賞も同時受賞)を選んだものの、クリスティだけは候補の枠外へと押しやった。オスカーは分かり易い熱演がお好みなのだ。代わりに、クリスティは同年のヤング・アーティスト・アワードをちゃっかり受賞しているけれど。 劇中には他にもチェックポイントが幾つかある。ジョージアとポリーがショッピングに出かけるシーンで2人をナンパしてくる大学生の片割れは、『フットルース』(84)でメジャーになる前のケヴィン・ベーコン。台詞の中にウッディ・アレンの『マンハッタン』(79)や、ブロードウェーでロングラン公演6年目に差し掛かった『コーラスライン』が出てくるところは、いかにも時代である。また、ジョージアと元恋人の劇作家、デヴィッドが再会するレストラン、JOE ALLENは、物語のニューヨーク西46番街にあるステーキが美味しい老舗レストラン。一般客に混じって公演後に夕食をとる舞台関係者たちの姿を度々見かける有名店だ。 さて、その後のクリスティはどうなったか? 『泣かないで』の後、デニス・クエイド扮する兄とアメリカを旅する『さよならジョージア』(81)、社会派サスペンス『ホワイト・ドッグ』(81)、荒唐無稽な海賊映画『パイレーツ・ムービー』(82)、純愛映画『クリスティ・マクニコルの白いロマンス』(84)と、立て続けに主演作が公開されたがどれも評価はイマイチで、やがて、1998年のTVドラマを最後に芸能界から身を引いてしまう。彼女が久しぶりに脚光を浴びたのは2012年のこと。当時49歳のクリスティはゲイであることをカミングアウトしたのだ。本人はその理由を「同性愛であるがために差別される子供たちを自分がカミングアウトすることで助けたい」と説明。その潔さ、実直さは、かつて女優として確立したイメージと何ら変わらないことを証明してみせた。そんな彼女の今を知った上で観ると『泣かないで』のポリー役は否が応でも味わいが深くなる。■ 1981 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
-
PROGRAM/放送作品
シンシナティ・キッド
マックィーン演技派開眼!往年の名優エドワード・G・ロビンソンと対決する、ギャンブル映画の最高峰
アクション・スターと見られていたマックィーンが、名優エドワード・G・ロビンソンを向こうに回してギャンブルの息詰まる緊迫感を見事に演じ、演技派としても認められるキッカケとなった、ギャンブル映画の傑作。
-
COLUMN/コラム2015.11.30
男たちのシネマ愛①愛すべき、未DVD・ブルーレイ化作品(2)
なかざわ:次にその6作品それぞれについてお話したいと思います。先ほど話題にも出た「スパニッシュ・アフェア」ですが、アクションが多いドン・シーゲル監督映画の中でもかなり異色ですよね。 飯森:まあ、アクションもあるといえばありますけれど(笑)。 なかざわ:でも、基本的には観光ロマンスですよね。そもそもドン・シーゲル監督といえばバイオレンスですから、こういう映画を撮るというイメージが映画ファンにはない。 飯森:主人公も、なかなかドン・シーゲルらしからぬヒーローでね。スペインにやって来たアメリカ人の建築家が、地元の会社の女性秘書に道案内をしてもらうんですけれど、彼女にほれているチンピラが突然飛び出してきて、俺の女に手を出すなってナイフで脅すわけですが、すると主人公は「ごめんなさーい!」って逃げ出しちゃうんですよね(笑)。 なかざわ:「お前とは“できてない”って説明しろ!」ってね。で、後からその秘書に「あの人は男じゃない」とか言われちゃう。とんでもないヒーローですよ。 飯森:あれは衝撃的でしたね。普通、映画でそれは言わないはずでしょ。ましてやドン・シーゲル映画ですから。 なかざわ:しかも1950年代の映画ですよ。まだまだ男は男らしくが社会通念だった時代に、こんな無責任な男ってアリかよという。この主人公を演じているリチャード・カイリー(注6)という俳優は、我々にとっては年を取ってからの名バイプレイヤーとしておなじみですが、若いころの主演作というのは初めて見ましたね。もともとブロードウェーのミュージカル俳優なので、若いころの映画出演作自体が少ないんですよ。そういう意味でも珍しい映画です。あとは、チンピラの片腕みたいなフェルナンドって男が出てきますけど、あれをやっているホセ・マヌエル・マルティンって役者は、後にマカロニ・ウエスタン(注7)の悪役を沢山やっています。他にも、ジェス・フランコ(注8)のフー・マンチュー映画(注9)とか、ポール・ナッシー(注10)のドラキュラ映画にも出ていたし。スペイン産B級映画ではお馴染みの顔で、この人がアメリカ映画に出ていたというのも新鮮な驚きでした。 飯森:あと、これは劇中で言及されていませんが、フランコ政権の時代に作られた映画なんですよね。スペインは’70年代に民主化されましたが、この映画がロケされたころのスペインはゴリゴリの独裁政権下ですよ。 なかざわ:とはいえ、あの国はダブルスタンダードというか、フランコ政権下でも輸出用に結構エログロな映画も作っているんですよね。そういった作品には、スペイン国内向けバージョンとインターナショナル・バージョンがあった。服を着ているとか着ていないとか、残酷なシーンがあるとかないとかの違いなんですけれど。それと、殺人やセックスが絡む映画は必ず舞台をイギリスとかフランスに設定していて、たとえスペイン国内で撮影していても外国の出来事にしちゃう。スペインには人殺しや変質者はいませんからと(笑)。そんな中で、ジェス・フランコやポール・ナッシーが出てきたわけです。 飯森:スペイン映画というのも研究すると面白いかもしれませんね。最近のスパニッシュ・ホラーの質的な素晴らしさとか。個人的には、ドイツ映画がそうしたことをやっていてもおかしくないと思うんですけど。 なかざわ:そうなんですよ。でも、ドイツはナチスのトラウマに戦後ずっととらわれてきちゃったところがあって、そもそもエログロ映画が作れないし、上映できなかった。 飯森:「ネクロマンティック」(注11)がフィルムを没収されて焼却処分されましたもんね。ゲッベルスがやったことと同じことしてんじゃないか!みたいな。って、かなり脱線してしまいましたが(笑)。 なかざわ:だいぶ遠くに行っちゃいましたね(笑)。 注6:1922年生まれ。俳優。代表作は「星の王子さま」(’75)や「エンドレス・ラブ」(’81)など。1999年死去。注7:1960年代に世界中で大ブームを巻き起こしたイタリア産西部劇の総称。欧米ではスパゲッティ・ウエスタンという。注8:1930年生まれ。監督。代表作は「美女の皮をはぐ男」(’61)や「ヴァンピロス・レスボス」(’70)など。2013年死去。注9:クリストファー・リーが中国人の犯罪王フー・マンチューを演じるシリーズ。全5作中、最後の「女奴隷の復讐」(’68)と「The Castle of Fu Manchu」(’69)をフランコが監督。注10:1934年生まれ。俳優。代表作は「吸血鬼ドラキュラ対狼男」(’68)など。ハシント・モリーナ名義で脚本や監督も。2009年死去。注11:1987年製作。死体愛好家カップルの狂気と快楽を描き、本国ドイツはもとより世界各国で上映禁止に。ユルグ・ブットゲライト監督。 次ページ >> 怪人の造形も’80年代的にはイケていたんだろうと思います(飯森) 「スパニッシュ・アフェア」COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 「ザ・キープ」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「世界殺人公社」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「黄金の眼」COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 「くちづけ」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「ウォーキング・トール」© 2015 by Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
-
PROGRAM/放送作品
ジュラシック・パーク
恐竜を現代に蘇らせ(CGで)恐竜動物園を開設!スピルバーグが放った、映画史の画期となった歴史的重要作
『T2』で本格使用されたCGで今度は恐竜を描く。当時の観客を驚嘆させたこの技術革新が映画史の転換点に。CGや手に汗握るスピルバーグ印のサスペンスの裏には遺伝子工学と倫理の問題を問う深いメッセージ性も。
-
COLUMN/コラム2016.01.22
男たちのシネマ愛③愛すべき、ボロフチック監督作品(4)
飯森:そんなこんなで、ちょうど“猥褻と芸術”の問題がクロースアップされている時期に、この「インモラル物語」が鳴り物入りで日本へ入ってきたものの、ボロフチックさんはだんだんとそこまでの大きな扱いを受けなくなっていった。でもまだまだ注目はされていた、という時期に日本公開されたのが「夜明けのマルジュ」です。 なかざわ:これはシルヴィア・クリステル【注53】にジョー・ダレッサンドロ【注54】が主演。エマニエル夫人とアンディ・ウォーホル【注55】一派という、当時のまさに旬な顔合わせです。 飯森:特にシルヴィア・クリステルは全盛期でしたよね。 なかざわ:その後に「エアポート’80」【注56】でハリウッド進出もしていますし。ヨーロッパを代表する大物セクシー女優でした。 飯森:これがまた話しづらい映画でしてね。とんでもないネタバレがあるんですよ。ジョー・ダレッサンドロふんする主人公は、フランスの郊外にあるプールもあるような豪邸で、奥さんと可愛い息子と一緒に暮らしていて、お手伝いさんもいるかなり裕福な人物なんです。しかも、奥さんとはやりまくり(笑)。朝一番に花を摘んできてね、全裸でベッドに横たわっている奥さんの体に花びらを撒く。そこに大きな窓から注ぎ込む朝日が、胸の谷間や股間の谷間に花びらの散らばった奥さんの体を美しく照らし出すわけですよ。そんな状態でセックスをする。すごくロマンチックな感じで、いやらしい感じの全くしない、とても綺麗なラブシーンです。性的にも満たされていて、なおかつ小さな可愛い息子までいる。そんな主人公が出張でパリへ行く事になるわけですが、家族に見送られて大都会へやって来た彼が真っ先にすることというのが、赤線地帯で売春婦探しなんです。まあ、別腹ってことなんですかね(笑)。 なかざわ:当時は紳士の嗜みだったのかもしれませんしね。 ■ ■ ■この先ネタバレを含みます。■ ■ ■ 飯森:で、彼の買った売春婦というのがシルヴィア・クリステル。妻ではない女をお金で買って抱きました、ああスッキリした、と。その翌日、彼は手紙を取りに行くんです。もともと事前に家族と約束をしているんですよ。連絡をするならここへ手紙を送ってくれと。で、それをチェックしに行くわけです。すると、案の定手紙が届いている。中身を確認すると、家政婦からで、奥さんが亡くなったと書いているんです!ところが、それを読んだ彼は黙って懐に入れちゃう!そして、またもやシルヴィア・クリステルを探して夜の街をさまよい、そのあとも何度か寝ちゃう!このあたりの展開は、かなり難解かもしれません。なにしろ主人公が何を考えているんだか、さっぱり理解不能なので。 なかざわ:これは20年以上前にビデオで見たきりなので、記憶はかなり曖昧ですね。 飯森:で、ここからがネタバレ全開なんですが、ラストで例の手紙を取り出してもう一度読むんですよ。すると、息子も死んだってことが書いてある。あの可愛い息子が自宅のプールに落ちて死んじゃって、それで半狂乱になった奥さんが衝動的に自殺したというのが事の全貌だったわけなんですが、我々観客には奥さんが死んだ部分しか明かされていなかったわけです。それまで売春婦と何度もやった主人公は、夜が白々と明けていく中、車の中でその手紙を改めて読みながらさめざめと泣いて、次の瞬間にバーンと銃声がこだまして終わり。恐らく自殺したんでしょう。何を言いたいのか分かりづらい映画です。で、当時の監督のインタビューを読むと、実は奥さんとシルヴィア・クリステル演じる売春婦が似ているという設定らしいんですね。奥さんが死んじゃったことで気が動転した主人公は、瓜二つの売春婦を抱くことで現実逃避しようと思ったらしいんですよ。でも、映画に出てくる奥さん役の女優とシルヴィア・クリステルは全然似ていない。だから、インタビューを読んでビックリしました。 なかざわ:他人の空似じゃないですけれど、その人にしか分からない共通点みたいなものはあるんでしょうけれどね。 飯森:でもそれは映像として描かないとダメですよ!シルヴィア・クリステルに聖女と娼婦の一人二役やらせるとか。あと、時系列も本来は違ったみたいですね。原作だと出張へ向かっている最中に訃報が届くらしいんです。なので、家族がみんな死んじゃったと分かった状態で、それでもパリへ行って夜の街をさまようという話になっているようなんですね。でも、映画だと単に出張先でハメを外して女遊びしたところ、その翌日に奥さんの訃報が届いて、それでも遊びを続けた挙句、改めて手紙を読むと息子も死んでいたことが分かり、あの家にはもう誰もいないからということで自殺する。そういう、ちょっと理解しがたい作りになっています。どうやら原作では、手紙で奥さんが死んだという一文を見つけて、動転のあまり手紙を畳んで読まなかったらしいんですよ。 なかざわ:すると、そもそも手紙をちゃんと読んではいなかったわけですね。 飯森:ともかく、驚くくらい唐突な展開の映画なんですけれど、ボロフチックさんにとっては勝負作だったのではないかなという気もします。なにしろ、プロデューサーのレイモン・アキム【注57】も、キネマ旬報のインタビューで「第二の『ラスト・タンゴ・イン・パリ』【注58】以上のものです」と豪語しているし(笑)。少なくとも、「エマニエル夫人」を上回る!くらいの意気込みで作られたのではないかと思いますね。 なかざわ:確かに主演も美男美女の旬なスターを揃えているし、作品のテイストにしても薫り高き文芸映画という趣ですから、ここでひとつ評価を固めておきたいという野心はあったのかもしれないですね。なにしろ、「インモラル物語」や「邪淫の館・獣人」で好奇の目に晒された後ですし。 飯森:とはいえ、そこまでの評価は得られなかった。当時はベルトルッチやポランスキー【注59】に続く逸材として将来を嘱望されていたようですが、このあとは次第に「結局ポルノの人なんでしょ?」みたいな扱いをされてしまう。 なかざわ:キワモノ系の監督なんかと一緒にされてしまった感はありますね。 飯森:ただ、今お話したような裏話的な解釈を踏まえた上で見ると、いろいろな謎解きとかメタファーに満ちた映画のようにも思えるんですよ。深読みを楽しめる奥の深い作品だとも言えます。あとはシルヴィア・クリステルですよ。彼女がとんでもなく美しい!格調が高いというか。彼女の場合、服を着てる時より脱いだ時の美しさですよね。裸身が高貴! なかざわ:彼女は当時のポルノ女優の一般的なイメージとは一線を画す存在ですよね。儚げだし、体も華奢だし。グラマラスからは程遠い。竹久夢二【注60】のイラストに描かれてもおかしくない。 飯森:そういう意味では、日本人受けするタイプかもしれませんね。その究極の女体美を堪能するという一点においてもオススメです。 <注53>1952年生まれ。映画「エマニエル夫人」(’74)で世界中に大旋風を巻き起こした。2012年没。<注54>1948年生まれ。ヌード・モデルを経てアンディ・ウォーホルに見出され、彼のアングラ映画に次々と主演して’70年代サブカルチャーの申し子となる。<注55>1928年生まれ。アメリカの芸術家でポップ・アートの生みの親。絵画や音楽、映画にまでその才能を発揮し、彼の取り巻きグループからはモデルのイーディ・セジウィックやキャンディ・ダーリン、ジョー・ダレッサンドロなどのスターが生まれた。<注56>1979年製作。映画「エアポート」シリーズの第4弾。超音速旅客機コンコルドがミサイルに狙われる。アラン・ドロンとシルヴィア・クリステルが主演。<注57>1909年生まれ。フランスの映画製作者。兄のロベールと共同で、「望郷」(’36)や「太陽がいっぱい」(’60)、「昼顔」(’67)などの名作を手がける。1980年没。<注58>1972年製作。主演のマーロン・ブランドとマリア・シュナイダーの大胆な性描写が物議を醸した。ベルナルド・ベルトルッチ監督。<注59>ロマン・ポランスキー。1933年生まれ。ポーランドの映画監督。代表作は「反撥」(’65)、「ローズマリーの赤ちゃん」(’68)、「テス」(’80)、「戦場のピアニスト」(’02)など。<注60>1884年生まれ。日本の画家。アンニュイな美人画で知られる。1934年没。 次ページ >> 『罪物語』…俺には妻がいるがもう愛してない、離婚調停中で近々別れる予定、という、よくあるパターン 『インモラル物語』"CONTES IMMORAUX" by Walerian Borowczyk © 1974 Argos Films 『夜明けのマルジュ』©ROBERT ET RAYMOND HAKIM PRO.
-
PROGRAM/放送作品
ジンジャーとフレッド
『8 1/2』のフェデリコ・フェリーニが30年ぶりに再会した芸人コンビの情感にあふれる姿を描く
監督・脚本は映像の魔術師フェリーニ。クリスマスのテレビ番組に出演するために30年ぶりに再会を果たした芸人コンビ“ジンジャーとフレッド”の姿を描いた情感あふれるフェリーニ後期の作品。
-
COLUMN/コラム2017.04.10
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年5月】タラちゃん
『ザ・フライ』は人間がハエ男になってしまうというお話でしたが、本作は一度人間としては死んで、ハエとなって甦るお話。前代未聞、インド発の「フライ」アクションです。 お調子者のジャニは、近所に住む美しい慈善活動家ビンドゥに一方的な想いを寄せている。はじめはウザがられていたが、努力の甲斐あって次第に2人の距離は縮まっていく。資産家でありながらヤクザとしても暗躍しているスディープは、それを良く思わず、ジャニを殺害してビンドゥに近づく。ジャニは執念でハエ=「マッキー」となって死から甦り、彼女を守るべく立ち上がる。 あらすじを読むだけで笑ってしまう、誰も想像しえなかったであろう奇想天外ストーリー。これだけ聞くと正直「B級」のニオイが漂いますが、決して侮ってはなりません!ハエの視点で巨大な人間の世界を飛び回るCGの迫力は思わず息をのむクオリティ。本国で大ヒットしたのがうなずける、一大エンターテインメント作品になっています。 特筆すべきは脚本。「よく思いつくなあ…!」と思わずうなってしまう細かい描写の連続。小さな体の非力なハエが、最強のヤクザたちに勝てる唯一の武器、それは【ウザさ】!相手が手を動かせない状況で顔にペタッと止まったり、耳元を飛び交って羽音を聴かせたり、文字通りの「ウザッ!!」という攻撃を仕掛けるジャニ。しかもスパ中、会議中、お休み前など、一番ウザいタイミングで襲ってきます。それを「んもううっ!やめんかいっ!」と嫌がる悪役スディープの演技も爆笑必至です。 一見史上最弱の生き物であるハエが、どんどん筋トレしてたくましくなり、持ち前のウザさでライバルを追い詰めてくストーリーが本当に秀逸!本作を観たら、それ以降ハエを見る目が変わること請け合いです。 もちろん踊るシーンも歌うシーンもありますよ。インド映画ですもの。「僕はハエ 地獄に落ちろ」と繰り返す、めちゃくちゃな歌詞も必見です。エンディングには目を疑うダンスシーンが登場しますので、最後までしかとご覧ください!■ ©M/s. VARAHI CHARANA CHITRAM
-
PROGRAM/放送作品
チップス先生さようなら
イギリスの作家ジェームズ・ヒルトンの名作「チップス先生さようなら」のミュージカル映画
原作はジェームズ・ヒルトンの代表作「チップス先生さようなら」。イギリスのパブリックスクールに勤める堅物で不器用な教師チップスを『アラビアのロレンス』のピーター・オトゥールが演じた心温まるミュージカル。
-
COLUMN/コラム2017.02.26
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年3月】うず潮
エンド・オブ・ウォッチ【EOW】 とは、警察官に義務づけられた業務日誌の最後に記入する言葉だそう。EOW=「見回り終了」を意味し、また、二度と見ることができない「殉職」も意味する警察内の隠語 2016年に話題をさらった『スーサイド・スクワッド』、ブラピ主演の戦争映画『フューリー』の監督、デヴィッド・エアーが放つ市警コンビの危険な日常をリアルに描くポリス・アクション!デヴィッド・エアーは舞台となった犯罪多発地区サウス・セントラルで若かりし頃を過ごした経験を活かし、現場の臨場感と緊張感を漂わせながら、死と隣り合わせな警察官たちの悩みや絆を再現。 『ナイトクローラー』で怪演ぶりが注目されたジェイク・ギレンホールが主演、警官の心情を見事に演じ、その相棒役に『フューリー』で戦車操縦士を演じたマイケル・ペーニャが好演。 ジェイク・ギレンホール&マイケル・ペーニャの市警コンビがパトロール中に、一軒家に潜む数十人の不法入国者を発見。それをきっかけに巨大麻薬カルテルから目をつけられ、2人の抹殺命令がギャングたちに下る。彼らと2人が繰り広げる息を飲む銃撃戦シーンは見事の一言。ロス市警の制服警官たちが過ごす日常を疑似体験できる1本。是非ご覧ください! © 2012 SOLE PRODUCTIONS, LLC AND HEDGE FUND FILM PARTNERS, LLC