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PROGRAM/放送作品
地獄の黙示録・特別完全版
コッポラ監督の代表作にしてベトナム戦争映画の最高傑作に、50分近い新映像を加えた、これぞ完成形!
コッポラ監督の代表作『地獄の黙示録』。製作時に様々な紆余曲折があった映画だ。あれから20年を経て、巨匠となったコッポラが自らが納得いく形に再編集。実に50分もの映像を新たに加えた、これぞ完全版。
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COLUMN/コラム2015.12.05
男たちのシネマ愛②愛すべき、味わい深い吹き替え映画(2)
飯森:僕はコメディーも吹き替え向きだと思っています。ギャグの場合は情報量だけじゃなくてタイミングの問題もある。字幕の2行目にオチが出てきちゃって、せっかくのギャグが台無しになっちゃうとかね。それと、これは日本語吹き替え擁護派の第一人者でもある漫画家のとり・みき(注6)先生に取材させて頂いた時に、聞いてなるほどと思ったことなんですが、字幕は画面の邪魔をすると。これって字幕派の人は案外気付いていない。吹き替えがオリジナルと違うというのであれば、なぜ字幕が画面に乗っている状態を良しとするのか。映像に集中したい映画であればあるほど、字幕は目障りになるんですよ。 なかざわ:ちなみに、海外は吹き替えが主流ですよね。アメリカ人なんか字幕っていうだけで敬遠する人が多いですし。 飯森:ヨーロッパでも外国映画は吹き替えが一般的みたいですよ。 なかざわ:吹き替えの事情って国によってまちまちですが、例えばアメリカではボイスアクターという職業自体はありますが、それでも声優を専門にしているわけじゃない。俳優としての仕事が少ないから、声優をやらざるを得ないというケースが多いんですよ。なので、今の日本みたいに最初から声優を目指している人というのはあまりいない。以前に、セス・マクファーレン(注7)が作っている「ファミリー・ガイ」(注8)というテレビアニメの声優さんたちにインタビューしたことがあって、日本では声優の専門学校があるんですけどアメリカにもありますか?って尋ねたところ、そんなの聞いたことないねって言ってましたよ。 飯森:日本もそうだったんですけれどね。それこそ、「厳選!吹き替えシネマ」で取り上げているような昔の作品では、舞台をメインに活躍されていた劇団俳優さんが、声の仕事ももらってやっていた。だから、有名な方の中には声優と呼ばれることを嫌がる人もいて。声だけやってるわけじゃない、総合的な演技者だからと。でも、その後のアニメから発生した声優ブームのおかげもあって、だいぶ意識はかわりましたよね。 なかざわ:面白いのは、イタリアだと日本のオードリー・ヘプバーン(注9)=池田昌子(注10)さん、刑事コロンボ(注11)=小池朝雄(注12)さんみたいな感じで、特定のハリウッド俳優の声は専門の声優が吹き替えるという伝統があったらしいんですよ。今も同じなのかは分かりませんが。で、中にはハリウッド俳優並みにスター扱いされる人もいたらしいですね。 飯森:日本ではマニア用語で「フィックス」と言いますね。シュワルツェネッガー(注13)なら玄田哲章(注14)さんとか。でも、意外と侮れないのが屋良有作(注15)さんなんですよ。屋良さんといえば「ちびまる子ちゃん」(注16)の父ヒロシですけど、「コマンドー」(注17)とか「トータル・リコール」(注18)とかの頃はシュワちゃんもされていました。フィックスといっても、だんだん一本化されていくんでしょうね。あるいは複数の方でフィックスされることもありますし。例えば、ハリソン・フォード(注19)なら村井国夫(注20)さんか磯部勉(注21)さん。村井さんがやるとちょっとチャラく聞こえるけれど、磯部さんは激シブ。同じハリソン・フォードでも印象が全く変わるんです。村井さんの「インディ・ジョーンズ」(注22)はちょっと女たらしでお調子者だけど、磯部さんの「インディ・ジョーンズ」はダンディー極まりない。別の価値を持ったコンテンツとして両方楽しめるんです。賛否両論だと思いますが、吹き替え肯定派にとってはこれがいいんですよ。 なかざわ:最初に述べたように自分は字幕派だけど吹き替えも否定しませんし、オリジナル版よりも面白くなったというケースも実際にあるとはいうものの、それでも引っかかる点はあるんですよ。それがですね、例えば日本語の吹き替えだと悪人はいかにも悪人ぽいしゃべり方をすることって多くありません? その役柄のイメージをステレオタイプに当てはめて演じる声優さんが多いと思うんですよ。でも、アメリカの俳優は絶対にそんな演技はしない。確かに大昔はオーバーアクトな俳優も多かったけれど、今は“演技を演技に見せない演技”というのが良しとされています。なので、日本語吹き替えの大袈裟な台詞回しには違和感を覚えるし、場合によっては作品を台無しにしていると思うんです。 飯森:それは、’60年代後半から’70年代にかけて、アメリカでメソッド演技が主流になったことと関係しますよね。 なかざわ:リー・ストラスバーグ(注23)ですね、アクターズ・スタジオ(注24)の。 飯森:スーザン・ストラスバーグ(注25)のお父さん! なかざわ:いや、それ、我々以外だと分からない人の方が多いと思います(笑)。 飯森:まあ、要はロシアで発明された演技法ですよね。そもそも、古代ギリシアの昔からシェイクスピアやオペラを経て、人類は舞台での演技というのを培ってきたわけです。スポットライトを浴びて、客席に向かって芝居をする。2階席から見ても、何をしているのか分かるような感情表現を磨いてきた。ところが、映像が発明されてクロースアップが出来るようになると、そんな大げさな芝居はいらなくなったわけです。例えば、本当に人間が悲しんでいる時、それこそ芝居みたいに髪をかきむしったりなんかしないじゃないですか。 なかざわ:まあ、イタリア人だったら別かもしれませんけどね(笑)。 飯森:ラテン系の人は置いておいて(笑)。ごく普通の人はそんなことしない。だから、本当に悲しそうな演技をするためにはどうすればいいのか。それをどうすればフィルムに捉えることができるのか。そのノウハウを研究して生まれたのがメソッド演技なわけです。 なかざわ:いわゆるスタニスラフスキー・システム(注26)ですよね。 飯森:そこからアメリカでもニューヨークの演劇界なんかでメソッド演技を研究するようになり、マーロン・ブランド(注27)やアル・パチーノ(注28)ダスティン・ホフマン(注29)などが、そういう演技アプローチを取り始めた。ところが、日本ではそうならなかったわけです。日本は引き続き今でも、舞台演劇をやっている人こそ本格派だという信仰がある。 なかざわ:そのくせ舞台俳優ってあまりお金になりませんけどね。 飯森:僕は仕事柄、最近の邦画をほとんど見ないので、たまに近年の日本映画を見ると、芝居が大きくてビックリしちゃうんですよ。 なかざわ:本当にそうですね。もちろん、全員がそうではないですし、特にインディーズ系の映画だと自然な演技をされる役者さんも多いですけど。やはり演出家のセンスの問題もあるような気がします。 飯森:我々の感情とか生活の延長線上に物語があるんじゃなくて、完全に別物になっちゃっている。だから、そういうものと思って割り切りながら見ないと、僕みたいな洋画派が見るとビックリちやうんですよ。 注6:1958年生まれ。漫画家。代表作「クルクルくりん」「遠くへ行きたい」など。注7:1973年生まれ。映画監督、アニメ作家、俳優。テレビアニメの代表作は「ファミリー・ガイ」、実写映画の代表作は「テッド」(’12)シリーズ。注8:’99年より放送中の長寿テレビアニメ。田舎町に住む家族の日常を、下ネタや差別ネタ満載の過激なブラック・ユーモアで描き、アメリカでは常に保護者から俗悪番組と非難されている。注9:1929年生まれ。女優。代表作はアカデミー主演女優賞に輝いた「ローマの休日」(’53)、「マイ・フェア・レディ」(’64)など。1993年没。注10:声優。オードリー・ヘプバーンやメリル・ストリープの吹き替えで知られる。アニメ「銀河鉄道999」のメーテル役でも有名。注11:’68年から’03年まで制作された同名刑事ドラマ・シリーズの主人公。一貫して俳優ピーター・フォークが演じた。注12:1931年生まれ。俳優。「仁義なき戦い」(’73)シリーズなどの映画で活躍する傍ら、ドラマ「刑事コロンボ」などの吹き替え声優としても活躍。1985年没。注13:1947年生まれ。俳優。代表作は「ターミネーター」(’84)シリーズや「プレデター」(’87)など。注14:1948年生まれ。声優。シュワルツェネッガー本人から専属声優として公認されている。注15:1948年生まれ。声優。「ちびまる子ちゃん」のお父さんや「ゲゲゲの鬼太郎」のぬりかべなどアニメ声優として知られる。注16: さくらももこの原作漫画をアニメ化した国民的テレビアニメ。注17:1985年制作。娘を救うため宿敵と対決する元特殊部隊隊員をシュワルツェネッガーが演じる。マーク・L・レスター監督。注18:1990年制作。偽の記憶を植えつけられた工作員をシュワルツェネッガーが演じる。ポール・バーホーベン監督。注19:1942年生まれ。代表作は「スター・ウォーズ」(’77)シリーズや「インディ・ジョーンズ」(’81)シリーズなど。注20:1944年生まれ。俳優。「日本沈没」(’73)など数多くの映画やドラマで活躍し、声優としても定評がある。注21:1950年生まれ。俳優。NHK大河ドラマ「元禄太平記」などのドラマや映画で活躍。声優としてはハリソン・フォードやチョウ・ユンファでお馴染み。注22:スピルバーグ監督の同名映画シリーズでハリソン・フォードが演じた探検家。注23:1901年生まれ。俳優、演技コーチ。マーロン・ブランドやマリリン・モンロー、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノなど数多くの俳優に演技指導を行い、自らも「ゴッドファーザーPART Ⅱ」(’74)などの映画に出演。1982年没。注24:リー・ストラスバーグが設立したニューヨークの名門演劇学校。注25:1938年生まれ。女優。映画「女優志願」(’58)の主演で清純派スターとして大ブレイク。1999年没。注26:ロシアの演出家コンスタンチン・スタニスラフスキーが、’30年代に提唱して世界的に普及したリアリズム重視の演技理論。注27:1924年生まれ。俳優。アメリカ映画史で最も重要な俳優の一人。代表作は「波止場」(’54)や「ゴッドファーザー」(’72)など。2004年死去。注28:1940年生まれ。俳優。代表作は「ゴッドファーザー」(’72)シリーズや「スカーフェイス」(’83)、「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」(’92)など。注29:1937年生まれ。俳優。代表作は「卒業」(’67)や「クレイマー、クレイマー」(’79)、「レインマン」(’88)など。 次ページ >> 各国の事情を鑑みると、“オリジナル音声って何なんだ?”って話になる(なかざわ) 『ゴッドファーザー』COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 『ゴッドファーザーPART Ⅲ』TM & COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED 『レインマン』RAIN MAN © 1988 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved 『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』©Channel Four Television/UK Film Council/Illuminations Films Limited/Warp X Limited 2012 『ファール・プレイ』COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
真・地獄の黙示録
コッポラ版『地獄の黙示録』の基にもなった傑作小説を、より原作に忠実に映像化したスペクタクル巨編
巨匠フランシス・フォード・コッポラ『地獄の黙示録』の基にもなった小説『闇の奥』を忠実に映像化した作品。コッポラ版でマーロン・ブランドが扮したカーツをジョン・マルコヴィッチが、マーティン・シーンが演じたウィラードにあたる役をティム・ロスが演じている。
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COLUMN/コラム2015.12.20
男たちのシネマ愛②愛すべき、味わい深い吹き替え映画(5)
なかざわ:さてさて、今回セレクトされた吹き替え版の中から特に注目して欲しい作品はありますか? 飯森:やっぱり「ゴッドファーザー」(注48)ですかね。 なかざわ:その理由とは? 飯森:まず、フェイスブックで「今度は『ゴッドファーザー』の吹き替え版でもやろうかな」って書き込んだところ、凄まじい反響があったんですよ。僕の世代(’75年生まれ40歳)にとっては「風と共に去りぬ」(注49)とか「理由なき反抗」(注50)のような“往年の名作”的な位置付けの作品ですが、恐らくリアルタイムの人にとっては僕にとっての「インディ・ジョーンズ」のような超大作という印象だったんだろうと思うんです。それがテレビ放送されるとなった時に、当時のリアルタイムの人たちは喜び勇んでテレビにかじりついたはずなんですね。で、その最初にテレビ放送された吹き替え版が、今回のこれなんです。放送枠は水曜ロードショー。水野さんが金曜ロードショーに移る前に担当されていた番組ですね。’76年に野沢那智さんがアル・パチーノをやったバージョン。その4年後の’80年に同じく水曜ロードショーでやったパート2も、吹き替えのキャストは同じ。さらにだいぶ後ですね、14年後ですか。局がフジテレビに移って、ゴールデン洋画劇場で放送されたのがパート3なんですが、これまたアル・パチーノやダイアン・キートン(注51)などの常連組を、全く同じ声優さんが担当している。実はこれ、全て東北新社(注52)が吹き替え版を作っているからなんです。 なかざわ:なるほど!分かりやすい(笑)。 飯森:でも、これらのバージョンはDVDには入ってない。昔の吹き替え版は短くカットされているし、音声自体も古くなっているので、DVD発売時の最新技術で綺麗に作り直した新録版を収録しているんですよ。それはそれで良く出来ているんです。なので、初めて見る人ならこのテレビ版じゃなくていいと思う。ノーカットだし音質もいいし。ただ、あの時代にこの放送日にかじりついて見ちゃった人、ましてやビデオに録画して何度も何度も見ちゃったという人がいるわけです。そういう人にとっては、声が違うというのは違和感以外の何ものでもない。ちょっとこれじゃないんだよなって。 なかざわ:それって、アニメ主題歌のパチソン(注53)を聞いちゃった時の感覚みたいなもんですよね(笑)。 飯森:そうそう!あの気持ち悪さですよ。で、当時実際にどれほどの視聴者が日本全国で見たか分かりませんが、決して少なくはないはずです。しかし、そうした人たちが、今はこれを見ることができないんですよ。永遠に戻らない少年の日の思い出のように。悲しいでしょ? 懐かしいというのはそういうことではないのか。そこは我々がなんとかしようじゃありませんか!ってことで、不可能を可能にするのがこの「厳選!吹き替えシネマ」。今では見る機会のほとんどない野沢那智さん版を、1から3までまとめて放送しましょうというわけです。 注48:1972年制作。イタリア系マフィア、コルレオーネ一族の波乱に満ちた運命を描く。アカデミー作品賞受賞。フランシス・フォード・コッポラ監督。注49:1939年制作。スカーレット・オハラとレッド・バトラーの宿命の激愛を描きアカデミー作品賞受賞。ヴィヴィアン・リー主演。注50:1955年制作。同年の「エデンの東」と並んで主演ジェームズ・ディーンの名声を決定づけた。注51:1946年生まれ。女優。代表作は「ゴッドファーザー」(’72)シリーズや「アニー・ホール」(’77)、「マイ・ルーム」(’96)など。注52:外国の映画やドラマの日本語版制作をはじめ、CMや映画の制作、衛星放送事業などを手がける日本の会社。注53:有名曲のパチモノ、つまり偽物を指す俗称。かつては、人気の洋楽ヒットやアニメ主題歌を無名のスタジオミュージシャンなどに演奏させた、廉価版のレコードやカセットテープが多く出回っていた。 次ページ >> 結果的に面白くて、なおかつ映画を壊してなければ全然かまわない(なかざわ) 『ゴッドファーザー』COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 『ゴッドファーザーPART Ⅲ』TM & COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED 『レインマン』RAIN MAN © 1988 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved 『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』©Channel Four Television/UK Film Council/Illuminations Films Limited/Warp X Limited 2012 『ファール・プレイ』COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
カンバセーション…盗聴…
カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した、フランシス・フォード・コッポラ監督による傑作サスペンス
フランシス・フォード・コッポラが『ゴッドファーザー』成功後に取り組んだ傑作サスペンス。プロの盗聴屋が殺人事件に巻き込まれる様子を描き、カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した。主演はジーン・ハックマン。
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COLUMN/コラム2015.12.25
男たちのシネマ愛②愛すべき、味わい深い吹き替え映画(6)
なかざわ:その他のイチオシはどれでしょう? 飯森:「ファールプレイ」(注54)ですね。これは日曜洋画劇場でやったバージョンなんですが、ローカライズが魅力的なんですよ。日本ならではの味というか、日本語吹き替えにしか出せない味。オリジナルよりも面白くなっちゃったというパターンです。なぜなら、ダドリー・ムーア(注55)を広川太一郎(注56)さんがやっているから。もう明らかにオリジナルのセリフとは関係ないことをしゃべっているんです。 なかざわ:コメディーは特にそうだと思うんですが、笑いの文化って国によって全く違うじゃないですか。その国の生活様式であったり価値観であったりが色濃く反映されますから。それをそのまま日本に持ってきてもピンと来ないことが多いですもんね。 飯森:あくまで僕の個人的な感想ですけど、某動画配信サイトで提供している字幕版の「サタデーナイトライブ」(注57)なんかも、すごく期待して見たものの、僕みたいなリアルタイムのアメリカ事情に通じてないコッテコテの日本男児でおまけに英語弱者には、面白さがいまいち分かりづらいんですよ。 なかざわ:ユーモアって言葉の組み合わせや語呂合わせ、ニュアンスなんかから生まれたりするので、そもそもの構造が違う別言語に直接変換しても意味が伝わらないんですよね。 飯森:広川太一郎さんはいつもの調子ですよ。“選り取りみどり赤黄色”、ってギャグを言うんですけど、そんなこと英語で言っているわけがない(笑)。でも、直訳しても意味がないんですよ。結果的に面白ければいいじゃんというノリで作られた吹き替えなんです。 なかざわ:結果的に面白くて、なおかつ映画を壊してなければ全然構いませんよね。 飯森:若干壊しちゃっているんですけどね(笑)。ちょっとヤンチャが過ぎるというか。なんでもこの調子で笑い倒してしまうので、そのキャラクターじゃなくて広川太一郎が前面に出てきてしまう。特にコメディーリリーフ的な脇役をやると、全部かっさらっていくような目立ち方をするんです。だって、この映画だってダドリー・ムーアなんか殆ど出ていない。たったの3回しか出てこないんですよ。その全てに変な日本語ギャグを入れているおかげで、すごく面白い。でも異常に広川太一郎の印象が残ってしまう。 なかざわ:もはやそれはダドリー・ムーアじゃない(笑)。 飯森:なのでこれには賛否両論あるかもしれませんが、でも気に入らなければ字幕版を見ればいいんですから。僕は間違いなく字幕版より面白いと思いますね。ちなみに、キャラクターよりも前に出てきてしまうといえば、野沢那智さんもその傾向がありますよね。ただ、今回初めて野沢さん版の「ゴッドファーザー」を見たんですけど、パート1の音声を最初に聞いたとき、何度聞いても野沢さんに聞こえないの。しかも完全に違うんじゃなくて、野沢那智にすごく似ている普通の人がやっている感じなんです。ミスで違う音源が納品されたのかと確認しても、テープには’76年版と書かれているし、野沢さん以外のキャストは’76年版キャスト表と照らし合わせて間違いなく一致するので、恐らく間違ってはいないはずです。でも、これオンエアしたら音源間違いの放送事故になっちゃうんじゃないかと、いまだに若干ビビってるぐらいなんですが、こればっかりは確かめようがない。結局、100%裏を取れる確実な方法が実は無いんですよ。最後に頼れるのは自分の耳だけなんです。 なかざわ:ご本人も亡くなっていますしね。 飯森:それがね、パート3になると完全に野沢那智になってるんです。アクが強くなっているんですよ。僕らの知っている野沢さんです。誰が聞いても一発で野沢さんだと分かる個性がある。山寺宏一(注58)さんみたいにカメレオンのごとく声を変えられる方もいますけど、野沢さんは野沢那智調みたいな独特の節回しがあって、パート1とパート3を聴き比べると、それが後年になるに従って強くなっていたことが分かります。恐らく吹き替えに寛容ではない人が見ると、「これはもうアル・パチーノじゃない」ってなるんでしょうけれど、その一方で「よっ!野沢那智!」って期待している人もいますから、良きにつけ悪しきにつけだとは思いますが。いずれにせよ、パート1の頃はすごく抑えて演技をしていたんでしょうね。まだ独特のクセが生み出される前だったんだろうと。 なかざわ:声優として経験を積むことで、自分のスタイルを確立して行ったんでしょうね。 飯森:するとね、「ゴッドファーザー」にも別の物語が生まれるわけですよ。堅気の道を歩もうとした若者マイケル・コルレオーネ(注59)が、やがてマフィアのボスに登りつめる。一方で、ごくごく平凡な青年の声だった野沢さんが、パート3で年季の入ったボスを演じると途端にドスが効いているんです。 なかざわ:マイケルと野沢さんの成長がシンクロするんですね。 飯森:そうなんですよ。しかも、野沢さんも意図してやっているわけじゃないですから。そういう面白い見方もできるかもしれませんよね。 なかざわ:それは確かに意外な発見です。 ■字幕絶対派だのアンチ字幕派だのということ自体がナンセンス(飯森) 飯森:さて、最後にこれだけは言っておきたいということがあるんですが、よろしいですか(笑)? なかざわ:どーぞどーぞ。 飯森:うちのザ・シネマというのは東北新社がやっているチャンネルじゃないですか。東北新社というのは映像制作会社でCM作ったり映画作ったりCSチャンネル運営したりしてますけれど、そもそもの成り立ちは外国映画やドラマの日本語吹き替え版の制作なんです。なので、もともと吹き替えに強い会社なんですよ。 なかざわ:確かに、最初に東北新社さんの社名を覚えたのは、映画だかドラマだかの最後に出てくるクレジットだったと思います。 飯森:とはいえ、字幕も作っているんですよ。両方うちで作ってる。だから、字幕絶対派だのアンチ字幕派だのということ自体がナンセンスで、両方いいに決まっているじゃないか!というのがサラリーマンとしての僕の立場なんです。だから、そういう日本における吹き替え制作の歴史を踏まえたうえで、この「厳選!吹き替えシネマ」という企画をやっているということも、是非みなさんにお伝えしておきたいと思います。 (終) 注54:1978年制作。ローマ法王の暗殺計画に巻き込まれた女性と探偵を描いたヒッチコック風コメディー。ゴールディ・ホーン主演。注55:1935年生まれ。俳優。代表作は「ミスター・アーサー」(’81)や「ロマンチック・コメディ」(’83)など。注56:1939年生まれ。声優。ロジャー・ムーアやトニー・カーティスの吹き替えのほか、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」の古代守役でも知られる。2008年没。注57:1975年から続くアメリカの国民的なバラエティ系コメディ番組。ジョン・ベルーシやビル・マーレイなど数多くの大物コメディアンを輩出している。注58:1961年生まれ。声優。ジム・キャリーやウィル・スミスなどの吹き替えで知られ、バラエティ番組などでも活躍している。注59:映画「ゴッドファーザー」三部作を通しての主人公。コルレオーネ家の三男として生まれ、普通の人生を送ろうとするものの、やがて家業を継いでボスになる。 『ゴッドファーザー』COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 『ゴッドファーザーPART Ⅲ』TM & COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED 『レインマン』RAIN MAN © 1988 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved 『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』©Channel Four Television/UK Film Council/Illuminations Films Limited/Warp X Limited 2012 『ファール・プレイ』COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
コットンクラブ
ラグジュアリーな時代の文化にうっとり。伝説のナイトクラブを舞台に巨匠コッポラが描き上げる人間ドラマ
1920年代に栄えた実在の豪華ナイトクラブで繰り広げられる、ミュージシャンやダンサー、ギャングらの人生模様をコッポラが描いた群像劇。主演のリチャード・ギアとダイアン・レインは本作以後もしばしば共演する名コンビだ。
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COLUMN/コラム2013.10.01
「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイドその1
年に一度の映画界最大の式典といえばアカデミー賞授賞式。その年最高の映画が決まるとともに、その時を代表するセレブ達のトップが決まる授賞式でもある祭典でもある。そこで注目したいのは、そのときどきを刻む衣装。授賞式当日のセレブ達のきらびやかなドレスもそうだけど、最優秀衣装デザイン賞を受賞した作品は、有名デザイナーがデザインした衣装がズラリ。 たとえば、古くは1956年の『泥棒成金』は、『ローマの休日』などの衣装デザインを担当したハリウッド映画衣裳デザインの第一人者であったイデス・ヘッドが担当(彼女は衣装デザイン賞を8回も受賞している)。衣装をポイントにして映画を観ると、その時代のトレンドや、描かれた時代の再解釈、そしてデザイナーの本気が見えてくる。 忘れられないのが、1977年の大ヒット作『サタデー・ナイト・フィーバー』のような作品。この映画で出てきた衣装は70年代アメリカの若者達のトレンドが浮き彫りになったことでも知られる。これは当時の流行のメインではなく、サブカルチャーの中で流行ったものだけど、それが後にメインになり、そして廃れ、また近年のヒップホップシーンにおいて再解釈されていることを考えると、その影響力は計り知れないことがわかるだろう。 同様の作品としては2006年のノミネート作『ドリームガールズ』も60年代アメリカのR&B界のファッションシーンが映し出されているが、これまた流行は一巡して、今観ても新しい衣装に見えるから不思議。また、時代ものの映画はストーリーもさることながら、コスプレならではの華麗な衣装から観た方が、よほど親しみやすいというもの。 オリビア・ハッセー・ブームを巻き起こした1968年の受賞作『ロミオとジュリエット』なんて、衣装の魅力がジュリエットの可憐な美しさを引き立ててるし、2010年のノミネート作『英国王のスピーチ』も今ほどオープンではなかった戦前の英国王室の荘厳さを、宮殿や社交界のシーンで実感できる。 そういった中でも特筆すべきは、石岡瑛子にオスカーをもたらした1992年の『ドラキュラ』は必見作。以後の彼女が手がけた「ザ・セル」やこちらもアカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされた「白雪姫と鏡の女王」にも観られる、西洋のゴシック様式と日本の着物や甲冑からモチーフを得たデザインの原点ともいえる衣装の数々が目にできるのだから。 そして忘れてはならないのは、有名デザイナーたちによる衣装! 今年リメイク版が公開された1974年の受賞作『華麗なるギャツビー』は、ラルフ・ローレンが衣装デザインを担当。1920年代アメリカン上流社会を舞台にしたこの作品は、いかに上流社会の人々の優雅さを表現するかで、我々がよく知るラルフ・ローレンが貢献していたというだけで、興味がわくところ(ちなみにリメイク版はブルックス・ブラザーズとプラダが担当した)。 有名デザイナーが担当してオスカーを得た作品でいえば、当時既にファッション界のカリスマであったエマニュエル・ウンガロが担当した1980年の『グロリア』あたりもチェックを。 また、受賞こそ逃したが、元グッチ、イヴ・サンローランのクリエイティブ・ディレクターで現代ファッション界を代表するトム・フォードが監督と衣装デザインを担当した2009年の『シングルマン』は、ファッション・デザイナーのセンスで描かれた映画だけに、おしゃれ好きの人のマスト・リスト。「これが衣装デザイン賞を逃すなんて、どうかしてるよアカデミー! だって、トム・フォードだよ?」と、授賞式当時は現地マスコミの間でもヤジが飛んだほど。彼が常に提案しているトラッドとセクシーの見事な融合を、一編の映像にまとめた希有な作品だ。映画に詳しくない人も、たくさんは観ていないという人も、衣装から観ると映画、そしてアカデミー賞が楽しく見えてくる。ちょっと視点を変えてみてはいかが?■ ■ ■【特集「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイド】は最終回「デザイナー編」へと続きます。次回の更新は10月16日を予定しております。最終回も、ファッションのプロである田口淑子さんに引き続き、映画とファッションの「深い関係」を解説していただきます。乞うご期待下さい!そして、10月特集「映画はファッションの教科書!」は10/17(木)-20(日) 【再放送】 10/28(月)-31(木)の日程で 下記11作品でお送りします! ドラキュラ(1992)ロミオとジュリエット(1968)陽のあたる場所英国王のスピーチグロリア(1980)華麗なるギャツビー(1974)ドリームガールズサタデー・ナイト・フィーバーラブソングができるまでシングルマン泥棒成金 ぜひ映画本編でも、数々のファッションをお楽しみ下さいませ!■
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PROGRAM/放送作品
(吹)ゴッドファーザーPART II [デジタル・リストア版]
偉大なる父との対比で浮かび上がる、若きドンの苦悩と孤独…傑作大河ドラマ・シリーズ第2弾
一大マフィア帝国を築いた初代ドンの若き日と、様変わりした時代の中で孤独を深める2代目ドンの苦悩を壮大な年代記として絡め、シリーズ前作に続きアカデミー作品賞に輝く快挙を達成。作品賞の他にも5部門を受賞。
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COLUMN/コラム2013.10.18
「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイド最終回【デザイナー編】
長年モードの世界に身を置かれ、その歴史を見てこられた田口淑子さんに再び解説して頂きます。映画本編の華麗なるファッションの世界のエッセンスがちりばめられた必読ガイドです!! ■ライフスタイルを提案するラルフ・ローレン ラルフ・ローレンのメンズコレクションはミラノで開催されていた。「アルマーニ」や「グッチ」、際立つラグジュアリーブランドが多いミラノメンズの中でも、ラルフ・ローレンの演出は異色だった。門扉をくぐったところからすでに会場の演出は始まっていて、日常とは違う空間が出現する。玄関まで点々とキャンドルが灯され、前庭には布製のソファが点在。黒服のギャルソンが、銀のトレーでウエルカムシャンパンをサービスしてくれる。部屋の壁にはいくつもの肖像写真が飾られ、いたるところが花でいっぱい。客席の椅子も、カーテンも、全てがニューイングランドスタイル。「ギャッツビーの邸宅ようだ」と、私と同じ感想をもった、取材するジャーナリストはきっと多かったことと思う。 「華麗なるギャッツビー」はジャズエイジのアメリカ、ロングアイランドが舞台。女たちのドレスは、ラッフルやフレアのある典型的なフェミニンタイプ。シフォンやデシンの薄い布地にはビーズやフリンジがあしらわれ、キャップ型ヘッドドレス、オーストリッチのストール、シームのある絹のストッキングと、どれもが装飾的でデカダンなスタイルだ。 そしてギャツビーの衣裳はラルフ・ローレンがデザインしている。この映画を観る時は、三つ揃いのスーツの、衿のVゾーンに注目してほしい。シャツ、ネクタイ、ジャケット、三つのアイテムの色の配分とデイテールの遊び心の表現が、着る人によって微妙な違いを見せているのだ。この時代のスーツは今も古くなっていないどころか、アメリカントラッドのお手本の最高峰として、おしゃれ好きな男たちにとっては必見の、永遠の映画なのである。ジュエリーはカルティエが担当した。今年、ミウッチャ・プラダがレディス、ブルックス ブラザーズがメンズ、ジュエリーをティファニーが担当したリメーク版が公開されて話題になった。2つの作品を比較してみると、映画の制作年度である1974年当時と2012年の、それぞれの時代性が、‘20年代のファッションに、複層的に投影されているのがわかってきて興味深い。 ■アートとモードを融合させた石岡瑛子 「ドラキュラ」は石岡瑛子が衣装と美術を担当。冒頭の15世紀、まだ吸血鬼になる前のトランシルバニアの王ドラキュラが戦で装着する甲冑は、流線型の造形が未来的。衣裳というよりはもはやアート作品と言えるだろう。やがて舞台は400年後、19世紀末のロンドンに移る。ウイノナ・ライダー演ずる、ドラキュラが恋したミナのドレスは、いかにも貞淑な良家の子女風の控えめな色とデザイン。男たちの服装も時代考証にほぼ忠実に、フロックコートやシルクハットを再現している。石岡瑛子ならではのアート性を遺憾なく発揮したのが、ミナの友人ルーシーの「死のウエディングドレス」だ。純白のレースの、エリザベスカラーと、長くトレーンを引くヘッドドレスのボリューム感が息をのむほど美しく、「ドラキュラ」が1992年度のアカデミー賞、衣裳デザイン賞を受賞したのも大いにうなづける。 ■女優の衣装を革新した人、イデス・ヘッド 「泥棒成金」のグレース・ケリーの衣装デザインはイデス・ヘッド。彼女は「裏窓」以来の、ヒッチコックのお気に入りで常連スタッフ。オードリー・ヘプバーンの「ローマの休日」や、サブリナパンツが今も若い女性の定番ボトムスになっている、「麗しのサブリナ」の衣裳も彼女の手による。グレース・ケリーのクールビューティを最大限に引き出す、ゴテゴテと飾り立てない衣裳のシンプルさは、当時革命的だったろうと思う。イデスの写真を見ると、もし彼女が今生きていたらコムデギャルソンやヨウジヤマモトの前衛的なクリエーションに共感したに違いないと思わせる、知的で職人的な雰囲気の人だ。 ■トム・フォードの完璧な美学 トム・フォードの初監督作品、「シングルマン」。トムの経歴をたどると、1990年「グッチ」のデザイナーに就任。どちらかというとコンサバティブなハイクラスのマダム御用達だったブランドを、一躍世界のラグジュアリーファッションの筆頭ブランドに変革した立役者だ。その後、自分のブランド「トム・フォード」を設立し、ビジネスの規模を拡大するのが第一のテーマではなく、トム自身の美学のもと、真のラグジュアリーとは何かを追求し続けている。 「シングルマン」でコリン・ファース演ずる大学教授ジョージの隙のないワードローブ。スーツ、シャツ、ナイトガウン。アクセサリーでは、左手小指の指輪、靴、ブリーフケース、眼鏡。全てがトム・フォードならでは完成度だ。トムが自分のブランドで目指していることは、この映画で彼が表現したかったこととぴったりと重なっている。ジョージが着る何気ない白いシャツが、なぜこれほど存在感を持ち、ジョージの個性を表現し、視覚的な美しさを讃えているのか、その答えを映画を見ながら一考してみていただきたい。「シングルマン」はここ数年の映画の中で、最もファッション性が高く表現された作品と言えるだろう。 ■ ■ ■ 【特集「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイド】 10月特集「映画はファッションの教科書!」は10/17(木)-20(日) 【再放送】 10/28(月)-31(木)の日程で 下記11作品でお送りします! ドラキュラ(1992)ロミオとジュリエット(1968)陽のあたる場所英国王のスピーチグロリア(1980)華麗なるギャツビー(1974)ドリームガールズサタデー・ナイト・フィーバーラブソングができるまでシングルマン泥棒成金 コラムで予習、映画本編で答え合わせ!!映画を教科書にして、ご自身の着こなしに取り入れてみてはいかがでしょうか?■