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PROGRAM/放送作品
シネマの中へ 「ワーテルロー(1969)」
長塚京三の案内で、クラシック映画を楽しむためのポイントを予習する、5分間の解説番組
毎週土曜あさ10時の「赤坂シネマ座」。この枠で取り上げる、映画史に残る名作たちの魅力を、俳優・長塚京三さんが紹介。クラシック映画の敷居の高さを取り払う様々な予備知識で、本編が120%楽しくなる。
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COLUMN/コラム2018.03.05
ポランスキー的な“恐怖”と“倒錯”が濃厚に渦巻く悪夢的スリラーの傑作『テナント/恐怖を借りた男』
■『チャイナタウン』と『テス』の狭間に撮られた日本未公開スリラー 『反撥』(65)、『ローズマリーの赤ちゃん』(68)、『チャイナタウン』(74)、『フランティック』(88)、『戦場のピアニスト』(02)、『ゴーストライター』(10)などで名高いロマン・ポランスキーは、言わずと知れたサスペンス・ジャンルの鬼才にして巨匠だが、アルフレッド・ヒッチコックのような“華麗なる”イメージとは異質のフィルムメーカーである。その一方で“倒錯的”な作風においてはヒッチコックに勝るとも劣らないポランスキーの特異な個性は、彼自身の世にも数奇な人生と重ね合わせて語られてきた。 ユダヤ系ポーランド人という出自ゆえに第二次世界大戦中の少年期に、ナチスによるユダヤ人狩りの恐怖を体験。映画監督としてハリウッドで成功を収めて間もない1969年には、妻である女優シャロン・テートをチャールズ・マンソン率いるカルト集団に惨殺された。そして1977年、少女への淫行で有罪判決を受けてヨーロッパへ脱出し、今なおアメリカから身柄引き渡しを求められている。 このように“身から出た錆”も含めて災難続きの大波乱人生を歩んできたポランスキーだが、日本でも多くの熱烈なファンを持ち、母国ポーランドでの長編デビュー作『水の中のナイフ』(62)から近作『毛皮のヴィーナス』(13)までの長編全20本は、そのほとんどが日本で劇場公開されている。妻のエマニュエル・セニエとエヴァ・グリーンをダブル主演に据えた最新作『Based on a True Story(英題)』(17)はスランプ中の女流作家とその熱狂的なファンである謎めいた美女との奇妙な関係を描いたサイコロジカルなサスペンス劇。こちらもすでに日本の配給会社が買付済みで、年内の公開が予定されている。 今回紹介する『テナント 恐怖を借りた男』(76)は、シャロン・テート惨殺のダメージから立ち直ったハードボイルド映画『チャイナタウン』と文芸映画『テス』(79)の間に撮られた心理スリラーだ。原作はローラン・トポールの小説「幻の下宿人」。『ポランスキーの欲望の館』(72)、『ポランスキーのパイレーツ』(86)と合わせ、わずか3作品しかないポランスキーの日本未公開作の1本だが、上記の2作品とは違ってなぜ劇場で封切られなかったのか理解に苦しむハイ・クオリティな出来ばえである。さらに言うなら“ポランスキー的な恐怖”を語るうえでは絶対欠かせない重要な作品なのだ。 ■極限の疎外感に根ざしたポランスキー的な“恐怖” 主人公の地味なサラリーマン、トレルコフスキーはフランスに移り住んだポーランド人。彼はパリの古めかしいアパートを借りようとするが、やけに無愛想な管理人のマダム(シェリー・ウィンタース!)に案内されたのは、前の住人である若い女性シモーヌが投身自殺を図ったいわく付きの部屋。シモーヌは現在入院中なのだが、マダムは嫌な笑みを浮かべて「まだ生きてるけど、死ぬのは時間の問題よ」などと不謹慎なことを言い放つ。やがてシモーヌは本当に死亡し、トレルコフスキーはこの部屋での新生活をスタートさせるが、次々とおぞましい出来事に見舞われていく。 トレルコフスキーがまず悩まされるのは隣人トラブルだ。会社の同僚を部屋に招いて引越祝いのパーティーを開くと、上の階の住人からの苦情を受け、下の階に住む年老いた大家からは顔を合わせるたびに「君は真面目な青年だと思ったのだが」と皮肉交じりの小言を浴びせられる。こうしてトレルフスキーは“"物音”を立てることに過敏になっていくのだが、ある日訪ねた同僚の男は深夜にステレオを大音量で鳴らし、文句を言いに来た隣人を「いつ、どんな音で聴こうが俺の勝手だ!」と逆ギレして追い返す。何たる神経の図太さ。しかし小心者のトレルコフスキーには、そんなマネなどできるはずもない。この映画は社会のルールを守り、すべてを無難にやり過ごそうとするごく平凡な常識人が言われなき非難と攻撃を受け、精神的に孤立していく過程を執拗なほど念入りに描き、カフカ的な不条理の域にまで昇華させている。 むろん“倒錯の作家”ポランスキーが紡ぐ恐怖が、ただの隣人トラブルで済むはずもない。部屋のクローゼットからは前住人シモーヌの遺品である黒地の花柄ワンピースが発見され、壁の穴にははなぜか人間の歯が埋め込まれていることに気づく。そして夜な夜な窓の外に目を移すと、向かいの建物の共同トイレに人が立っている。しかもその人物は幽霊のように生気が欠落していて、身じろぎもせずただボーッと突っ立っているのだ。ここまで記した隣人、ワンピース、歯、共同トイレの幽霊人間のエピソードはすべて、このうえなく異常な展開を見せる後半への伏線になっている。ついでに書くなら、トレルコフスキーが行きつけのカフェで煙草のゴロワーズを何度注文しても、マスターが「マルボロしかない」と返答し、頼んでもいないホット・チョコレートを差し出してくる逸話も要注意だ。生前、このカフェに通っていたシモーヌはマルボロの愛好家であり、いつもトレルコフスキーが座る席でホット・チョコレートを飲んでいたのだ! かくしてトレルコフスキーはアパート関係者やカフェのマスターらがこっそり結託し、自分をシモーヌ同様に窓からの投身自殺へと追い込もうとしているのではないかというオブセッションに取り憑かれていく。こうした人間不信を伴う極限の疎外感こそが、まさに前述した“ポランスキー的な恐怖”の根源である。本作はそれだけにとどまらない。人間不信の被害妄想的な側面を徹底的に膨らませ、トレルコフスキーとシモーヌのアイデンティティーの一体化をまさかの“女装”によって直接的に表現しているのだ。むろん、そうした奇妙キテレツなストーリー展開はローラン・トポールの原作小説に基づいているが、グロテスクなようで怖いほどハマっている女装も含め、すべてを主演俳優でもあるポランスキー自身が演じている点が実に興味深い。 ■物語の見方がひっくり返されるポランスキー的な“倒錯” ひょっとすると、ブラックユーモアも満載されたこの映画は、現実世界で理不尽な厄災に見舞われ続けてきたポランスキーが、自らの内なる恐怖と向き合うセラピーを兼ねた企画なのではないかという気がしてくる。そう考えると、映画の見方そのものが根底からひっくり返される。そもそも前住人が怪死を遂げた事故物件を積極的に借りたがるトレルコフスキーの行動は不可解だし、入院中のシモーヌをわざわざ見舞いに行く律儀さも不自然だ。もしやトレルコフスキーは周囲の悪意に翻弄されて悲惨な運命をたどったのではなく、言わば“安らかな自己破滅”を望んでこのアパートにやってきたのではないか。理屈では容易に納得しがたいこのような突飛な解釈が脳裏をかすめるほど、本作には“ポランスキー的な倒錯”が濃厚に渦巻いている。 寒々しくくすんだ色調の映像を手がけた撮影監督は、イングマール・ベルイマンとの長年のコラボレーションで知られるスヴェン・ニクヴィスト。カメラがアパートの窓と外壁をなめるように移動するオープニングのクレーンショットからして印象的だが、そこで最初にクレジットされるキャストはイザベル・アジャーニである。前年に狂気の悲恋映画『アデルの恋の物語』に主演して一躍脚光を浴びた彼女は、本作の撮影時21歳。まさに売り出し中の新進美人女優だったわけだが、ここで演じるのはトレルコフスキーと出会ったその夜に映画館へ繰り出し、『燃えよドラゴン』を観ながら客席で発情するという変態的なヒロインだ。 そんなアジャーニの起用法も何かとち狂っているとしか思えないが、観ているこちらの困惑などお構いなしにポランスキーの神経症的な恐怖演出は冴えに冴えている。とりわけ『世にも怪奇な物語』のフェリーニ編を想起させる“生首”の幻想ショットには、何度観てもうっとりせずにいられない。■ TM, ® & © 2018 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
特集ガイド WWⅡ:戦場を描いた映画とドキュメンタリー
第二次世界大戦を題材にした映像作品の中から、「戦場」を捉えた作品に焦点を当て、世界各地で起きた戦いのあらましをたどる。
全世界50カ国以上が参戦し、1939年からおよそ6年にわたり激戦が繰り広げられた第二次世界大戦。戦後、残された映像や資料、人々の証言をもとに、数多くの映画やドキュメンタリー作品が製作され、知られざる戦争の実態や戦略の局面などが再現されてきた。この番組では、様々な映像の中から、「戦場」を捉えた作品に焦点を当て、世界各地で起きた戦いのあらましをたどっていく。
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COLUMN/コラム2016.08.16
ミート・ザ・ペアレンツ2
恋人パム・バーンズ(テリー・ポロ)との結婚を、彼女の父ジャック(ロバート・デ・ニーロ)に渋々ながら認めてもらってから2年後。グレッグ・フォッカー(ベン・スティラー)は、結婚式の前にパムの両親を自分の両親に引き合わせることになった。 だが彼は恐れていた。弁護士と医師のカップルとジャックには説明していたものの、実際は父バーニー(ダスティン・ホフマン)は長い間専業主夫、母ロズ(バーブラ・ストライサンド)は高齢者専門のセックス・セラピストというジャックの価値観を超えた人々だったからだ。しかも二人とも奔放な性格で、元CIAのお堅いジャックとウマが合うはずがない。案の定、ジャックとバーニーは衝突し始め、騒動の中でパムの妊娠、そしてグレッグの隠し子疑惑まで発覚してしまう……。 『メリーに首ったけ』(98年)でトコトン不運なキャラを演じて、コメディ俳優として大ブレイクしたベン・スティラーが、ギャングや刑事といったコワモテなキャラを得意とする名優ロバート・デ・ニーロに散々にいたぶられる! 『ミート・ザ・ペアレンツ』(00年)はそんな絶妙のアイディアによって、世界中でメガヒットを記録したコメディ映画だった。 それから4年後に公開されたこの続編では、『Meet the Fockers(フォッカー家との面会)』という原題通り、ジャックの方が未来の義理の息子の一家と対面することになる。てっきりグレッグ同様の小心者の家族なのかと思いきや、息子とは正反対の豪快な両親という設定が意外で面白い。今作ではジャックも被害者側なのである。 そんな最強のフォッカー家の夫婦を、デ・ニーロとともに70年代のハリウッドを支えた大物俳優ダスティン・ホフマンとバーブラ・ストライサンドが扮するというサプライズ、しかもそれまで全く演じたことがなかったブッ飛んだキャラを演じるというインパクトはトンデモないものがあった。アメリカ本国だけで約2億8000万ドルという凄まじい興行収入を記録したことが、当時の笑撃を証明している。 監督のジェイ・ローチによると、当初バーニー役はバーブラの実の夫ジェームズ・ブローリン(『ウエストワールド』(73年)や『悪魔の棲む家』(79年)で知られる俳優。彼と前妻との間に生まれた子が今をときめくジョシュ・ブローリンだ)に演じてもらうことを考えていたらしい。 だが、その話が立ち消えになってしまい、ダメもとでダスティン・ホフマンに頼んだところ何故か快諾されたのだという。しかもローチが驚いたことには、『クレイマー、クレイマー』(79年)と『レインマン』(88年)で二度のアカデミー主演男優賞に輝く大名優は、バーニーそのままの天然な人だったそうなのだ。そのためか本作のホフマンは無理をしているところが全く無いどころか、無茶苦茶楽しそう。デ・ニーロとの硬軟対決もイイ味を出している。 本作で<本性>を現したホフマンは、これで肩の荷が下りたのか以後は、ウィル・フェレル主演作『主人公は僕だった』(06年)やアダム・サンドラー主演の『靴職人と魔法のミシン』(14年)、そしてジャック・ブラック扮する主人公パンダの師匠役の声を務めた『カンフー・パンダ』シリーズ(08年〜)といったコメディ映画における飄々とした脇役が当たり役となった。またストライサンドもセス・ローゲンと共演した『人生はノー・リターン ~僕とオカン、涙の3000マイル~』(12年)では、本作のロズとよく似たキャラを演じている。『ミート・ザ・ペアレンツ2』は、一時代を築いた名優たちの老後をも決定づけた重要作なのだ。 個人的には、本作におけるバーンズ家とフォッカー家の戦いには、デ・ニーロとホフマンというニューシネマ時代のスター同士の競演、真面目さと奔放さのせめぎあい以外にも、別の対立軸がひっそりと盛り込まれていると思う。それはW.A.S.P.とユダヤ系の差異だ。 W.A.S.P.とは、White Anglo-Saxon Protestant(白人のアングロ・サクソンのプロテスタント)の略称で、主にイギリスやドイツから渡ってきたプロテスタントのキリスト教徒のこと。イギリスの植民地だった時代からアメリカ社会の主流を占めているグループであり、現在までW.A.S.P.以外の大統領はジョン・F・ケネディ(カトリック教徒)とバラク・オバマ(父親がケニア人)しかいないことがその事実を証明している。 そんなW.A.S.P.の中でも支配階級と言えるのが、プレッピーと呼ばれるプレップ・スクール(名門私立高校)出身者だが、ブライス・ダナー演じるジャックの妻ディナが劇中で身につけている淡い色のサマーセーターやポロシャツのファッションはその典型といえるもの。おそらくバーンズ家はプレッピーという設定なのだろう。 一方のフォッカー家はユダヤ系だ。主に中欧や東欧に住んでいたユダヤ教徒を先祖に持つ彼らは、アメリカの人口比では2パーセントを占めるだけのマイノリティだが、ビジネスや学術の分野、そしてハリウッド映画界でも絶大なパワーを持つ。そのことによって「何か企んでいる」といった陰謀論が語られがちな人たちではあるのだけど、それは全くの言いがかりである。というのも、彼らの先祖がこうした仕事に多くいる理由は、人種差別によって農業に従事することを禁じられていたため、それ以外の分野を代々家業にせざるをえなかったからだ。そうしたら産業革命が起こり、彼らが携わっていた分野が重要視されるようになり、結果的に華やかなポジションに立ってしまったというわけだ。 ラビと呼ばれる宗教的指導者のもとで、旧約聖書の戒律に従って今も生きる超保守的な人々がいる一方で(興味がある人は、ジェシー・アイゼンバーグ主演作『バッド・トリップ 100万個のエクスタシーを密輸した男』(10年)を観てほしい)、その反動なのか無宗教や反体制の人々がやたらと多いのもユダヤ系の特徴である。ちなみにカール・マルクスやアレン・ギンズバーグ、ボブ・ディランはユダヤ系である。 もちろんフォッカー家は後者の流れに属する人々。そして彼らを演じるスティラー、ホフマン、ストライサンドも全員ユダヤ系だ。ただしスティラーの母親はカトリック(スティラーの両親であるジェリー・スティラーとアン・メイラは互いの宗教をネタにする夫婦漫才を得意芸としていた)で、W.A.S.P.役のデ・ニーロは本当はカトリック。ブライス・ダナーは自分はW.A.S.P.だが、夫だったブルース・パルトロウと娘グウィネス・パルトロウはユダヤ教徒だったりするので、現代のアメリカ社会は映画よりもずっと複雑なわけだが。 本作のラストを飾る結婚式のシーンもユダヤ教に則ったものだが、その司祭としてユダヤ教徒でも何でもないオーウェン・ウィルソン(しかもノークレジットのカメオ出演なので、当時観客はとっても驚いた)扮するケヴィンが再登場するのは、だから特大級のギャグなのである。 なおホフマンとスティラーは、ノア・バームバックの新作で、ユダヤ系家庭を描いたコメディ『Yeh Din Ka Kissa 』でも親子を演じる予定だ。しかもこの作品には『靴職人と魔法のミシン』でホフマンの息子役だったアダム・サンドラーも再びホフマンの息子役で出演する。つまりスティラーとサンドラーは兄弟を演じることになる。長年の友人同士でありながら、これまで共演の機会がなかったふたりのコメディ・レジェンドが、ホフマンというこれ以上ない重鎮の見守る中、ユダヤ系というアイデンティティのもとで共演する。個人的にはこれが今一番楽しみなコメディ映画だ。 © 2016 by UNIVERSAL STUDIOS and DREAMWORKS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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PROGRAM/放送作品
(吹)エクスペリメント
狂気の心理実験は実際に行われていた!ドイツ映画の問題作『es[エス]』をハリウッド・リメイク
1971年にスタンフォード大学で実際に行われた心理実験を基にしたドイツ映画『es[エス]』を、ハリウッド実力派俳優による迫真の演技合戦でリメイク。看守と囚人を演じる被験者たちの変化が、実験の狂気を物語る。
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COLUMN/コラム2016.08.16
モンスター上司
「アメリカでは自分は自分、人は人」 これは和製ミュージカル映画としてカルト的な人気を誇る『君も出世ができる』で、アメリカ帰りの合理主義者に扮した雪村いづみが歌う「アメリカでは」という挿入曲の歌詞の一節だ。1964年公開作なので、今から半世紀以上も前の映画だけど、日本人がアメリカ企業について思い浮かべるイメージはあまり変わっていないんじゃないかと思う。 ところが、そんな幻想を粉々に打ち砕くコメディ映画がアメリカには存在する。『モンスター上司』がそれだ。テレビコメディで活躍していたマイケル・マーコウィッツが草稿を書き、『BONES』の精神科医ランス・スイーツ博士役で知られる俳優ジョン・フランシス・デイリーとジョナサン・ゴールドスタインのコンビが仕上げた同作の脚本(アメリカの映画界ではよくリレー形式で脚本が書かれる)は、ブラックリスト(映画化が決まっていない脚本で有望と目されているもの)として扱われ、各社が争奪戦を繰り広げたそうだ。では、その内容はというと…。 主人公はニック(ジェイソン・ベイトマン)とデール(チャーリー・デイ)とカート(ジェイソン・サダイキス)の三十代男子3人。親友同士の彼らは、立場はちがってもヒドい上司に悩まされているという共通点があった。金融業界で働くニックの上司デビッド(ケヴィン・スペイシー)は、朝6時から深夜まで部下をこき使うパワハラ野郎。しかも妻の浮気をやたらと疑うサイコ的な性格を持つヤバい男だった。歯科助手のデールの上司の歯科医ジュリア(ジェニファー・アニストン)は、デールに婚約者がいながらセクハラ攻撃をしかけてくる色情狂。職場で始終迫られ、デールの忍耐は限界に達していた。化学薬品会社の経理マンを務めるカートは、ドラッグ中毒の社長の息子ボビー(コリン・ファレル)が直上司なことに手を焼いていた。それでも社長がいい人だったから耐えていたものの、彼の急死によってボビーが社長に。リストラや環境廃棄物の第三世界への投棄を推し進めるのを目の当たりにして、怒りのゲージが振り切れてしまう。 かくして追いつめられた3人は、場末のバーでムショ帰りの謎めいた男ディーン(ジェイミー・フォックス)の指導を受け、互いの上司を暗殺する計画に乗り出すのだった。そのためには敵の弱点を掴むのが大事と、3人は上司たちの留守中に家宅侵入するものの、それだけで罪の意識を覚えてしまい計画をうち切ろうとする。ところが、デビッドの部屋にボビーのスマホを置き忘れたことが原因で、妻の浮気を疑うデビッドが、ボビーを射殺するという事件が勃発してしまう。現場の近くにいた3人は警察にマークされはじめ、殺人を考えていただけで殺人容疑で逮捕されるという絶対絶命のピンチに陥ってしまう! 今作の監督を任されたのはセス・ゴードン。超名門イェール大学を卒業したあと、国連のケニア支援プロジェクトに従事。そこからドキュメンタリー映画のプロデューサー兼監督に転じ、そこでの演出の腕が見込まれてヴィンス・ヴォーンとリース・ウィザースプーン共演のクリスマス映画『フォー・クリスマス』(08年)で長編映画デビュー。いきなり1億ドル以上のメガヒットを記録してしまったという変わり種監督だ。 この監督の人選で分かる通り、当初はヴィンス・ヴォーンやオーウェン・ウィルソンらがキャスティングの候補にのぼっていたらしい。しかし最終的には中堅俳優で固める布陣に落ち着いた。このキャスティングこそが、本作成功の最大のファクターになったと思う。主人公がスター俳優すぎると、職場でのイジメにリアリティがなくなってしまうからだ。 その点、本作のジェイソン・ベイトマン、チャーリー・デイ、ジェイソン・サダイキスのトリオは絶妙なところを突いていると思う。ベイトマンについては他作品の記事で、何回か書いているので、ここでは残り2名について書いておこう。チャーリー・デイとジェイソン・サダイキスはドリュー・バリモアとジャスティン・ロングが共演したロマンティック・コメディ『遠距離恋愛 彼女の決断』(10年)でロングの友人役として共演しており、そこでのコンビネーションが認められて本作で再共演することになったと思われる。 デイは76年生まれ。アメリカでは、2005年から放映が開始され、今も続いている人気シットコム『It's Always Sunny in Philadelphia』の主演俳優兼脚本家として知られている。映画俳優としては、怪獣の撃退方法を偶然発見する科学者に扮した『パシフィック・リム』(13年)でのコミカルな演技が記憶に新しい。 ジェイソン・サダイキスは75年生まれ。セカンド・シティやアップ・シチズン・ブリゲイドといったコメディ劇団を経て、03年に『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』のライターに採用。05年からパフォーマーとして出演するようになり、13年の卒業まで8シーズンにわたって活躍し続けた。09年からはセス・マクファーレンが手がけるアニメシリーズ『The Cleveland Show』(09〜13年)にも声優として出演。『SNL』は基本的に出演者にはテレビ番組の掛け持ちを許されないので、これは異例のことだ。 コメディアンとしてはアイディア一発で笑わすというより、巧みな演技で笑わせるタイプのため映画進出も早く、『SNL』のレギュラー昇格直後にデヴィッド・ウェイン監督の『幸せになるための10のバイブル』(07年)に出演。前述の『遠距離恋愛 彼女の決断』を経て、ファレリー兄弟の『ホール・パス/帰ってきた夢の独身生活<1週間限定>』(11年)ではオーウェン・ウィルソンとダブル主演を果たした。そして本作やウィル・フェレル主演作『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』(12年)を経て、本作でも共演しているジェニファー・アニストンとリユニオンして、堂々主演を務めた『なんちゃって家族』(13年)が大ヒット。名実ともにスター俳優となった。 アニメ『アングリーバード』(16年)では主人公レッドの声を務めたほか、『栄光のランナー/1936ベルリン』(16年)といったシリアス物から、レベッカ・ホール共演の『Tumbledown』(15年)やゲイリー・マーシャルの遺作『Mother's Day』(16年)といったロマンティック・コメディまで幅広く出演している。本作を含めて、特別イケメンというわけでもないのにモテ男を演じることが意外と多いのは、私生活の反映なのかもしれない。サダイキスのパートナーは、テレビドラマ『Dr.HOUSE』や『トロン: レガシー』(10年)で知られる美人女優オリヴィア・ワイルドなのだから。 そんな実力はあるけど、まだ「知る人ぞ知る」状態の彼らをイジメまくるのが、『アメリカン・ビューティー』(99年)でアカデミー主演男優賞を獲得し、近年は『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(13年〜)で悪の大統領フランシス・アンダーウッド役で知られるケヴィン・スペイシー、国民的人気を誇ったテレビ・シットコム『フレンズ』(94〜04年)のレイチェル役でブレイクし、以後もロマンティック・コメディ界の頂点に君臨し続ける鉄人ジェニファー・アニストン、そして『ヒットマンズ・レクイエム』(08年)でゴールデン・グローブ賞をゲットし、超大作『トータル・リコール』(12年)からオフビートな『ロブスター』(15年)まで幅広い活躍を続けるコリン・ファレルといったスター俳優たちだ。この「格差」があるからこそ、イジメが実感を持って伝わってくるのだ。 というわけで、主人公3人がこの「格差」をどのようにひっくり返すのかを、ワクワクしながら観て欲しい。 © New Line Productions, Inc.
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PROGRAM/放送作品
キラー・インサイド・ミー
[R15+]ベストセラー犯罪小説を実力派マイケル・ウィンターボトム監督が映画化したクライムストーリー
異端の犯罪小説家として名高いジム・トンプソンのクライムノベルを映画化。誰にでも好かれる田舎町の保安官が、ある娼婦と出会ったことがきっかけで冷酷な連続殺人鬼に変貌してゆく…。驚愕のラストが待ち受ける!
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COLUMN/コラム2016.09.09
泥棒は幸せのはじまり
生真面目なサラリーマンのサンディは、無駄使いを一切していないにも関わらず、ある日突然クレジットカードが限度額に達して使えなくなってしまう。どうやら個人情報を盗まれていたらしい。おまけに彼の名を騙った犯罪が多発。このままでは会社からクビにされてしまう! 焦ったサンディは、容疑者である詐欺師を、警察に引き渡すためにデンバーからはるばるフロリダへと向かうのだが……。 『泥棒は幸せのはじまり』は、個人IDの盗難をテーマにした今どきのコメディだ。主人公のサンディを演じるのは、ジェイソン・ベイトマン。つい最近スターになったように思える彼だけど、そのキャリアはとても長い。何しろ最初のブレイク作が、あの伝説的なテレビドラマ『大草原の小さな家』なのだから。 当時11歳だったベイトマンが登場したのは、81年から翌年にかけての最終シーズンで、インガルス家の養子になるジェイムスを演じた彼は、アイドル的人気を博した。ところがその後が続かなかった。大人になっても童顔のままだったことも災いして、90年代には早くも“あの人は今”状態になってしまったのだ。 だが捨てる神あれば拾う神あり。やはり元子役ということで過去に苦労していたことがある映画監督ロン・ハワードに助けられ、彼が製作総指揮を手掛けたテレビコメディ『ブル~ス一家は大暴走! 』(03年〜)に抜擢。奇人変人揃いの登場人物の中で、唯一マトモな主人公マイケルを演じて大復活を遂げたのだった。 ドラマは、視聴率低迷によって06年に打ち切りになったものの、カルト的な人気を背景に13年にネットフリックスで新シーズンが製作されるなど、今も継続中だ。ちなみにこのドラマで彼の息子役を演じたことをきっかけにブレイクしたのがマイケル・セラである。 ここからベイトマンの活躍が始まる。このドラマにゲスト出演していたベン・スティラーからコメディ・センスを認められて、『スタスキー&ハッチ』や『ドッジボール』(ともに04年)、『ハニーVS.ダーリン 2年目の駆け引き』(06年)『南の島のリゾート式恋愛セラピー』(09年)といったスティラーやヴィンス・ヴォーンの主演作に相次いで出演し、フラットパック準メンバーとなったのだ。 加えて、大人になりきれない中年男を演じて絶賛された『JUNO/ジュノ』(07年)や、ケヴィン・スペイシーやジェニファー・アニストンを従えて堂々主演を務めた『モンスター上司』(11年)がヒットしたことで、40代にしてコメディ・スターの地位を獲得したのだった。その後も監督も兼務した『バッドガイ 反抗期の中年男』(13年)や、『モンスター上司2』(14年)といった作品に主演。最近では、メガヒット・アニメ『ズートピア』(16年)でキツネのニックの声を担当したことが記憶に新しい。 『泥棒は幸せのはじまり』は、前述の『モンスター上司』の監督セス・ゴードンとのコンビによる第二弾だった。本来は無関係にも関わらず、トラブルに巻き込まれる小心者キャラは、ベイトマンが得意とするもので、今作でも次々起きる災難を前にして、死んだ目で呆然と佇む演技で笑わせてくれる。 但し、ベイトマンは、本作の脚本を最初に読んだ時、「このままで大丈夫か」と危機感を抱いたそうだ。無理もない、トラブルメイカーを連れた主人公が、約束の日までに家に帰ってこれるかどうかでハラハラさせる本作のプロットは、あのコメディ界のレジェンド、ジョン・ヒューズが監督と脚本を手がけ、スティーヴ・マーティンとジョン・キャンディが共演した大傑作『大災難P.T.A.』(87年)にあまりにも似ていたからだ。 それだけならまだしも、この作品を事実上リメイクしたコメディが10年に公開され、既に大ヒットを記録していたのだ。その映画こそが、ロバート・ダウニー・ジュニアとザック・ガリフィアナキスが共演した『デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜』だった。『泥棒は幸せのはじまり』との類似点はそれだけではなかった。『デュー・デート』の監督トッド・フィリップスは、『ハングオーバー! 』三部作(09〜13年)で知られるヒットメイカーだが、元々ドキュメンタリー畑の出身だった。対する『泥棒は幸せのはじまり』の監督セス・ゴードンもドキュメンタリー出身であり、脚本家のクレイグ・メイジンに至っては、『ハングオーバー! 』の第二作と第三作の脚本家でもあった。そのため詐欺師のキャラクターは完全にザック・ガリフィアナキスを意識して書かれていた。そう、このまま作ったら、そっくりになってしまうのだ。 危機感を抱きながらベイトマンは、偶然あるコメディ映画を観たことで、打開策を思いついた。その映画のタイトルは『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11年)。、詐欺師のキャラを男から女に変更して、同作でヨゴレ系ギャグを一手に引き受けるメイガン役を好演していたメリッサ・マッカーシーに演じさせればいい!こうしてキャラの立ちまくった女詐欺師ダイアナが誕生したのだった。 マッカーシーは元々『ギルモア・ガールズ』(00〜07年、今年11月にNetflixで復活)や『サマンサ Who?』(07〜09年)といったテレビドラマで、主人公の気のいい友人役を演じて人気を博していた脇役女優で、『ブライズメイズ』のメイガンのような破壊的で不穏なオチ担当のキャラを演じたことはそれまで無かった。 しかしこの挑戦は、彼女にアカデミー助演女優賞ノミネートをもたらし、新たなキャリアを切り開いた。『ブライズメイズ』以降のマッカーシーは、同作の監督ポール・フェイグとの二人三脚で、コップ・アクション『デンジャラス・バディ』(13年)や『007』へのオマージュに満ちたスパイ・アクション『SPY/スパイ』(15年)、そしてオール・フィメール・キャストが話題を呼んだ『ゴースト・バスターズ』(16年)といったアクション・コメディ作でヒットを飛ばし続けている。また夫でもあるコメディ俳優ベン・ファルコーンがメガホンを取った『タミー/Tammy』(14年)では脚本にも挑戦するなど、クリエイターとしての才能も発揮している。 そんなマッカーシーは本作で、悪気は無いけど、最悪のタイミングでトラブルを巻き起こすダイアナを熱演。一見、極悪そうなキャラクターの奥底に善人の素顔を覗かせるあたり、つくづく演技が巧い人だなと感心させられる。 ちなみに彼女は、『ハングオーバー!!! 最後の反省会』にも特別出演している。そこで彼女は、ザック・ガリフィアナキス扮するトラブルメイカー、アランと最終的に結ばれる女子を演じているのだが、おそらくこれは『デュー・デート』と『泥棒は幸せのはじまり』が似ていることから思いついたストーリーのはず。本作は『ハングオーバー』シリーズの結末に逆影響を与えていることになる。 散々『デュー・デート』との類似ばかり語ってしまったけど、最後に本作ならではの要素を紹介しておこう。それはダイアナが犯した別の詐欺が原因で、彼女とサンディが賞金稼ぎに追われるというサスペンス的な展開だ。しかも追っ手を演じるのは、ラッパーのT.I.とウィル・フェレル主演作『俺たちサボテン・アミーゴ』(12年)でヒロインを演じていた美女ジェネシス・ロドリゲス、そして『ターミネイター2』のT-1000役で映画史に名を残すロバート・パトリックという豪華な面々! そんなわけで、笑いと涙とカー・アクション全部盛りのエンタメ作を楽しんでほしい。 © 2013 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
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PROGRAM/放送作品
シネマの中へ 「卒業」
長塚京三の案内で、クラシック映画を楽しむためのポイントを予習する、5分間の解説番組
毎週土曜あさ10時の「赤坂シネマ座」。この枠で取り上げる、映画史に残る名作たちの魅力を、俳優・長塚京三さんが紹介。クラシック映画の敷居の高さを取り払う様々な予備知識で、本編が120%楽しくなる。
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COLUMN/コラム2016.09.14
俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク
70年代後半のサンディエゴ。ローカルテレビ局のキャスター、ロン・バーガンディーは仲間の野郎どもと和気あいあいとニュース番組を作って、我が世の春を謳歌していた。だが才能と野心に満ちた女性レポーター、ヴェロニカが入社したことで状況は一変する。自分たちの無能ぶりがバレそうになったロンは、「このままでは俺たちの立つ瀬がない!」と、彼女にいやがらせをして追い出そうとするが、逆にキャスターの座を失う羽目に。果たしてロンはかつての栄光を取り戻すことが出来るのだろうか? 『俺たちニュースキャスター』は、老舗お笑い番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』で、90年代後半にエースとして活躍していたウィル・フェレル(主演&脚本)と、ヘッドライター(脚本家グループのリーダーで番組のかじ取り役)だったアダム・マッケイ(監督&脚本)のコンビが、番組卒業後に取り組んだ本格的な映画進出作だった。フェレルとマッケイは本作のアイディアを、ネットワーク局で最初のアンカー・ウーマンになったジェシカ・サヴィッチの自伝を読んでひらめいたという。70年代のサヴィッチは、ローカル局でキャスターを務めていたのだが、当時のテレビ局は超マッチョな世界で、ネットワーク局のアンカー・ウーマンになる夢を語ると笑われたというのだ。 そんな本に感銘を受けたのなら、普通は女性を主役にするところだろうけど(事実この本をベースに、96年にミシェル・ファイファー主演で『アンカー・ウーマン』という映画が作られている)、流石『SNL』でトップになる奴らは発想のレベルが違う。敢えて<才能ある女子をバカにするマッチョな性差別主義者>の方を主人公にして、それをフェレルが演じるというアイディアを思いついたのだ。 こうして最低で最高の迷キャラクター、ロン・バーガンディーが誕生した。まるでバート・レイノルズのようなワイルドな口ヒゲを蓄え、真っ赤なスーツに身を包んだロンは、未だに一度もリバイバルしたことがない70年代後半のイカれたセンスを体現したかのような男。しかもキャスターとしての才能はゼロで、見当外れの言動を繰り返し、興に乗るとフルートを吹きまくるのだ! 『SNL』の大先輩マイク・マイヤーズが扮した60年代の化身、オースティン・パワーズが、実はオシャレなのと比べるとマジでダサすぎる。でもこれが逆にウケた。イイところがひとつもないのに何故か憎めないロンになりきることで、フェレルはダサさを突き抜けたクールなコメディ・スターになったのである。 全くの私見だが、フェレルはこうしたキャラ造形術をベン・スティラーから学んだのではないだろうか。コメディ番組の5分間のスケッチと、上映時間が90分以上にも及ぶコメディ映画は同じお笑いでも全くの別モノだ。いくら笑いのコンセプトが良くても、その裏に人間性が感じられないと映画の観客は飽きてしまう。マイヤーズほどの天才コメディアンが、『オースティン・パワーズ』以降ヒット作を生み出せなかった理由もそこにある。 『SNL』在籍時に『オースティン・パワーズ』に脇役でゲスト出演したフェレルは、こうした問題点に気づいたのだろう。別の手本を探すようになり、その結果スティラーと共演した『ズーランダー』の中にヒントを見出したのだ。あの作品の<栄光の頂点に君臨して得意顔だった主人公が、才能が無いのがバレてドン底まで落ち、そこから何とか這い上がろうと頑張る>という基本プロットは、『タラデガ・ナイト オーバルの狼』(06年)や『俺たちフィギュアスケーター』(07年)といった以降のフェレル主演作の多くに共通するものだ。 前作から9年の歳月を経て、『俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』で、フェレルがロン・バーガンディーを再び演じた理由のひとつは、ここいらでこの路線の集大成的な作品を作りたいとフェレルとマッケイが考えたからに違いない。 今作の舞台は1979年のニューヨーク。前作のラストでヴェロニカと共同でネットワーク局のアンカーマンに就任したロンが、ひとりクビになってしまうところから物語は始まる。失意の日々を送る彼のもとに、新規開局する24時間ニュースチャンネル、GNNからキャスター就任の誘いが舞い込む。 喜んだロンは、サンディエゴ時代の仲間を集めて番組に臨むが、担当の時間帯は午前2時から5時という、誰も観ていない時間帯だった。だがメゲないロンは「視聴者が聞くべきことを伝えるのではなく、彼らが聞きたいことを伝えるんだ」と政治的に偏向したニュースを放映したり、カーチェイスの中継を延々行うことで記録的な高視聴率を獲得していく。 GNNという名前自体は、1980年に開局したCNNのパロディだけど、むしろ本作の笑いの対象はフォックス・ニュースの方に向けられている。1996年に開局したフォックス・ニュースは、国際的な問題(視聴者が聞くべきこと)を多く報道するリベラル色が強いCNNに対し、保守的なアメリカ人のプライドをくすぐるような内容(彼らが聞きたいこと)を意識的に報道。リベラル派を「アンチ・アメリカ」とディスり、大統領選では共和党候補を熱烈に支持することで、あっという間にナンバーワン・ニュース局にのし上がった。フェレルとマッケイは、そのコンセプトを知性ゼロのロンが考えついたことにすることによって、強烈な批判を浴びせているのだ。 一見アホなギャグを追求し続けてきたかに見えるフェレルとマッケイだが、実はかなりのリベラル派。政治的なメッセージは、刑事アクション『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(10年)あたりから表面化しはじめ、政治そのものを描いた『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員! 』(12年)で一層深まった。『史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』も作品としてはあくまでその延長線上にある。 ちなみに本作の後、マッケイは初めてフェレル主演作ではない映画を監督したのだが、その作品こそが、リーマン・ショックの裏側を描いて評論家にも絶賛された『マネー・ショート 華麗なる大逆転 』(15年)だったりする。アカデミー賞脚色賞を獲得した同作のプロトタイプは『史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』にあるのだ。 また本作はある種の同窓会映画でもある。第一作で、挙動不審なお天気キャスターを怪演したスティーブ・カレルや、モテ男の屋外レポーターを演じたポール・ラッドは、当時はまだスターと言える存在では無かった。プロデューサーを務めたジャド・アパトーに至っては殆ど仕事が無い状態。しかし『ニュースキャスター』で手応えを感じた彼らは『40歳の童貞男』の製作へとなだれ込んでいった。その後の活躍はここに書くまでもないだろう。そんな彼らが本作でフェレルとマッケイのもとに帰ってきた。全編にパーティ・ムードが漂っているのはそのためだ。 こうしたパーティ・ムードにさらに輪をかけているのが大量のカメオ出演だ。ざっと紹介するだけでも、ハリソン・フォード、ドレイク、サシャ・バロン・コーエン、カニエ・ウエスト、ティナ・フェイ、エイミー・ポーラー、ジム・キャリー、マリオン・コティヤール、ウィル・スミス、リーアム・ニースン、ジョン・C・ライリー、キルスティン・ダンスト、そして第一作にも顔出ししたヴィンス・ヴォーンが登場する。映画ファンなら、誰がどのシーンに出るのかを固唾を飲みながら観るのも一興だろう…まあ、その固唾は笑いで吐き出してしまうだろうけど。 © 2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved.