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PROGRAM/放送作品
「映画のミカタ」スター・ウォーズ スペシャル
各界を代表する映画ファンが、映画の楽しみ方を語るインタビュー番組の特別版。出演は宇宙飛行士の野口聡一さん。
各界を代表する映画ファンが、映画の“味方”として映画の“見方”を語るインタビュー番組「映画のミカタ」。今回は『スター・ウォーズ』特別版として、宇宙飛行士の野口聡一さんが登場。SF映画の金字塔『スター・ウォーズ』シリーズのみどころを宇宙飛行士ならではの視点で語ります。
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COLUMN/コラム2016.04.09
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(3)
なかざわ:「キングスマン」と「コードネームU.N.C.L.E.」ですね。どちらも最高に面白かった。なので、「コードネームU.N.C.L.E.」がアメリカでは客が入らなかったというのは理解できない。 飯森:えっ、そうなんですか!? なかざわ:世界興行収入で製作費はペイできたけれど、アメリカ国内だけに限ると完全に不入りだったそうです。去年の暮れにロサンゼルスで、オリジナル版でイリヤ・クリアキン(注55)役をやっていたデヴィッド・マッカラム(注56)にインタビューしたんですけれど、彼は今回のリメイクについて、テレビで予告編を見るまで知らなかったらしいです。 飯森:えー!そんなこと仁義的にあっていいんですか!? なかざわ:そもそも、リメイクの話はかなり以前からあったそうで、一時期はタランティーノ(注57)がリメイク権を持っていたそうなんですけど、その頃は彼の耳にも話は入っていたそうです。まあ、それでも事前に試写で本編を見せてもらって、彼としては昔のテレビ版とはだいぶ違うけれど、これはこれでガイ・リッチー(注58)監督らしさが出ていて良かったとは言っていました。ただ、アメリカでは客が入らなかったので、当初計画されていた続編の話も、恐らく無理だろうねとは言っていましたね。 飯森:はぁ!? 全然アリでしたよね。是非とも続編をお願いしたい。 なかざわ:一番感動したのは「ガラスの部屋」(注59)の主題歌を使ったシーンですよ。今の日本だと恐らく“ヒロシのテーマ曲”(注60)と言ったほうが分かりやすいと思いますけれど。 飯森:あそこ超面白かった! なかざわ:あの「ヒロシです…」の大仰なくらいに甘いカンツォーネ(注61)のバラードをバックに、ハードなアクションが繰り広げられるというセンスの素晴らしさ。鳥肌もんです。 飯森:ハードなんだけどコミカルなシーンでね、笑いがこらえきれませんでしたよ。 なかざわ:そもそもサントラの選曲が凄い。エンニオ・モリコーネ(注62)にステルヴィオ・チプリアーニ(注63)まで使っている。でもって、「ガラスの部屋」の主題歌でしょ? 飯森:もしかしてあの曲って別の映画の主題歌だったんですか? なかざわ:そうです。レイモンド・ラブロック(注64)っていう、‘70年代初頭の日本でルノー・ヴェルレー(注65)やレナード・ホワイティング(注66)なんかと並んで、ティーン女子から熱狂的に愛されたイタリアのイケメン俳優が主演した恋愛映画で、当然ながら日本では大ヒットしました。ペッピーノ・ガリアルディ(注67)が歌った主題歌も、本編ではちょっとしか使われていないものの、こちらも日本では流行しましたね。 飯森:それは知らなかった!でも、ヒロシのテーマとして再浮上して日本なら全員知ってる状態になっていて良かったですよね。おかげで、あれがあのシーンで流れると日本人は爆笑できますから。 なかざわ:確かに(笑)。でもね、日本では当時映画も主題歌もヒットした。イタリアではどうだったか分からないけれど、現地でDVDソフト化されているので無名映画ではないはず。ただし、ペッピーノ・ガリアルディのベスト盤CDには、残念ながらこの曲は入っていない。ということは、彼の代表作とは認められていない。そういう、アメリカやイギリスなどではほぼ知られていないマニアックな名曲を、モリコーネやチプリアーニのイタリア映画音楽と一緒に使っている。それも堂々とフルコーラスで。その着眼点には脱帽します。 飯森:作品としてはアクション・コメディーですよね。 なかざわ:これは完全に’60年代のユーロ・スパイ・アクション、「007」の本流ではなく、当時イタリアやフランスや西ドイツなどで大量生産された亜流映画の路線を継承した作品だと思います。 飯森:でも、そこから換骨奪胎して、決して見た目までチープなB級パチ映画にはならないよう塩梅されていますね。 なかざわ:特に、僕が大好きなイタリア産スパイ映画のディック・マロイ・シリーズ(注68)を彷彿とさせる要素が強かったのはポイント高いですね。やはりイタリアはファッションやアートの国なので、あのシリーズはその辺を全く手抜きしていなくて、すごくお洒落でスタイリッシュだったんですよ。まあ、そういう意味で言うと、アメリカで作られた「007」亜流映画のマット・ヘルム・シリーズ(注69)とか、イギリスのヒュー・ドラモンド・シリーズ(注70)にも通じるものはあるかもしれない。ファッショナブルなアクション・コメディーという点はマット・ヘルム・シリーズも同様ですしね。僕はそういう「007」の二番煎じ的なスパイ映画が昔から大好きなんです。 雑食系映画ライター なかざわひでゆき 飯森:僕も、そこまでじゃないにしても、やはり’90年代の頃に’60年代のレトロおしゃれ映画が再評価されるブームに直撃されてますから、やはり憧れはあります。電撃フリント・シリーズ(注71)や「イタンブール」(注72)、「唇からナイフ」(注73)なんて当時は随分と持て囃されましたが、まぁ僕もその頃に人並み程度には憧れましたね。第1回で対談した「黄金の眼」なんて、この歳になって初見で見ちゃっても二十歳ごろの興奮が蘇ってきます。オシャレな文物に飢えていた若い頃のあの興奮が。 なかざわ:なので、「コードネームU.N.C.L.E.」は本当に嬉しかったですね。’60年代スパイ映画のビジュアルを忠実に再現しつつ、ちゃんと今現在のテクノロジーやスタイルを用いている。ファッションやインテリアも当時に限りなく近い。 飯森:レトロ趣味がたまらなく良いんだけど、服のサイジングなんかはアップデートしていますよね。それこそ、当時の洋服をそのまま今の俳優に着せたらコスプレ感が漂ってしまいますから。きちんと再構築することで、レトロ感が出過ぎないようバランスが考えられています。僕は「キングスマン」もレトロ趣味は薄めながら、「007」パロディ路線という点では一緒の快作だと思うんですよね。あっちも100点満点なほど大好きなんですが、中でも特に、アメリカの田舎のキリスト教原理主義(注74)教会での長回し大乱闘シーンですよ!あそこは数年に一度あるかないかの痛快さだったなぁ!お説教というかヘイトスピーチを差別用語たっぷり使いながら牧師レイシストがぶっていて、「ユダヤ人も黒人もゲイも中絶した女もみんな地獄に堕ちろ!」などとガナりたてている。当然我々アジア人もってことでしょ?信者どもも興奮して「そうだそうだ、ハレルヤー!」とヤンヤヤンヤやってるところに、ブリティッシュ・スーツとレジメンタル・タイでビシっと決めた英国スパイの文明人コリン・ファースが一人紛れ込んでいて、そんな連中を見て汚トイレのはみ出し下痢便か終電のフレッシュ・ゲロでも見るような顔をしながら、「聞くにたえんな!」という感じでやおら席を立つ。隣の席をどこうとしない狂信者のババアに「私はカソリックで、近頃はユダヤ系黒人の同性の恋人とのセックスを楽しんでいるのだよ。ちなみに彼は中絶医でもあってね。それではマダム、失礼しますよ。グッドアフタヌーン!」とか上品なイギリス英語で最高の捨て台詞を吐いて立ち去ろうとする。ババアが「この悪魔教徒め〜!」と詰め寄ってからは、コリン・ファースが狂信者どもをバッタバッタと殺して殺して殺しまくる!まぁ、見ていて大爆笑かつ胸のすく痛快さでね、「おっしゃ〜!こいつらみんなブチ殺せ!!」って溜飲下がりまくり! なかざわ:すごくシニカルなコメディーとして楽しめますよね。 飯森:ほとんどブラックですよ。下衆なユーモア・センスはさすがマシュー・ヴォーン監督(注75)だなと思いました。 なかざわ:やはり基本は「キック・アス」シリーズ(注76)と同じですよね。 飯森:この2作品が相次いで同時期に登場した理由は、もはやかつての「007」のような正統派スパイ映画はパロディーの対象になるような時代だということだと思うんです。そのような状況下で、本家本元としてはどうすべきなのか。その問に対する100点満点の真摯な解答が「スカイフォール」なんだろうと思います。そして、「キングスマン」や「コードネームU.N.C.L.E.」に続いて公開された「スペクター」が、今度はそれらと同じことに本気で取り組んでいる。つまり、パロディーではなく真面目に荒唐無稽をやっている。その辺が興味深いと思いますね。 なかざわ:でも振り返ってみると、「ドクター・ノオ」(注77)に始まる初期「007」が作り出した’60年代スパイ映画ブームの最中に、アメリカでも先ほど述べたマット・ヘルム・シリーズや電撃フリント・シリーズのような柳の下のドジョウが続々と作られたわけですが、それらの作品も結局は「007」のパロディーなんですよね。要は、「007」の荒唐無稽な部分を思い切りデフォルメしてカリカチュアして、徹底的にエンターテインメント方向に振り切っている。そう考えると、「007」以外で「007」のようなことをやろうとすると、パロディーにするしかないのかもしれません。パロディー的な要素を排して大真面目にスパイを描こうとすると、それこそジョン・ル・カレ(注78)みたいにならざるを得ない。なので、「007」シリーズというのは、なかなか真似のできない唯一無二の存在と言えるかもしれません。 飯森:いずれにしても、こうしたスパイ映画が立て続けに量産される時代というのは、’60年代以降久しくなかったように思います。まだまだ今後も出てきそうですし、楽しみですよね。 なかざわ:スパイ映画ファンとしては素直に嬉しいです。 注55:オリジナルのテレビ版「0011 ナポレオン・ソロ」および映画「コードネームU.N.C.L.E.」に出てくるソ連スパイ。注56:1933年生まれ。イギリスの俳優。映画「大脱走」(’63)などで注目され、ドラマ「0011 ナポレオン・ソロ」(‘64~’68)で大ブレイク。毎週大型トラック1台分のファンレターが届いたと言われる。現在は人気ドラマ「NCIS~ネイビー犯罪捜査班」(‘03~)に出演中。注57:クエンティン・タランティーノ。1963年生まれ。アメリカの映画監督。注58:1968年生まれ。イギリスの映画監督。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(’98)や「スナッチ」(’00)で注目され、「シャーロック・ホームズ」(’09)シリーズを大ヒットさせた。マドンナの元夫としても知られる。注59:1969年制作。イタリア映画。孤独な美青年と大学生カップルの三角関係を描く。セルジオ・カポーニャ監督。注60:お笑い芸人ヒロシが自身のネタのBGMに使用して有名になった。注61:イタリアの流行歌の呼称注62:1928年生まれ。イタリアの映画音楽作曲家。「荒野の用心棒」(’64)を皮切りにマカロニ・ウエスタンの音楽で有名になり、ハリウッドをはじめ世界各国の映画に音楽スコアを提供。’07年にアカデミー名誉賞を、「ヘイトフル・エイト」(’16)でアカデミー作曲賞を獲得。注63:1937年生まれ。イタリアの映画音楽作曲家。マカロニ・ウエスタンからホラー、アクション、ラブロマンスまで幅広いジャンルの映画を手がけ、’60~’70年代に引っ張りだこだった。代表作「ベニスの愛」(’70)は日本を含む世界中のアーティストにカバーされている。注64:1950年生まれ。イタリアの俳優。主演作「ガラスの部屋」が日本で大ヒットし、アイドル俳優として熱狂的なファンを獲得した。父親がイギリスであるため英語にも堪能で、「屋根の上のバイオリン弾き」(’71)にも出演。注65:1945年生まれ。フランスの俳優。「個人教授」(’68)で年上の女性と恋に落ちる美少年を演じ、特に日本で大ブレイク。「愛ふたたび」(’71)などの日本映画にも主演した。注66:1950年生まれ。イギリスの俳優。「ロミオとジュリエット」(’68)のロミオ役で注目され、中でも日本では若い女性から圧倒的な支持を得た。注67:1940年生まれ。イタリアの歌手。’60年代からイタリア国内で数多くのヒット曲をリリース。日本では「ガラスの部屋」がオリコン・チャートで上位に入るヒットとなった。注68:コードネーム077のCIAスパイ、ディック・マロイ(リチャード・ハリソン)を主人公にしたイタリア産スパイ映画シリーズ。「077/地獄のカクテル」(’65)、「077/連続危機」(’65)、「077/地獄の挑戦状」(’66)の3本が作られている。注69:表向きは女たらしのファッション・フォトグラファーの凄腕スパイ、マット・ヘルム(ディーン・マーティン)の活躍を描く。「サイレンサー/沈黙部隊」(’66)、「サイレンサー第2弾/殺人部隊」(’66)など通算4本が作られた。注70:ダンディな保険調査員ヒュー・ドラモンド(リチャード・ジョンソン)が国際的犯罪者の陰謀を阻止する。「キッスは殺しのサイン」(’66)と「電撃!スパイ作戦」(’69)の2本が作られた。注71:女好きの遊び人スパイ、デレク・フリント(ジェームズ・コバーン)が国際犯罪組織を相手に戦う。「電撃フリントGO!GO作戦」(’66)と「電撃フリント・アタック作戦」(’67)の2本が作られた。注72:1966年制作。アメリカ映画。シルヴァ・コシナ、ホルスト・ブッフホルツ主演。トルコのチンピラがCIA美人エージェントとコンビを凸凹組んで行方不明の原子物理学者の行方を探す。アントニオ・イサシ監督。注73:1966年制作。イギリス映画。ミケランジェロ・アントニオーニのミューズであったモニカ・ヴィッティが、アントニオーニ映画とは正反対のお軽い「007」二番煎じスパイ映画で、謎の淑女スパイ、モデスティ・ブレイズ役をお洒落かつキュートに好演。ジョセフ・ロージー監督。注74:聖書に記されている内容を真実として絶対視し、進化論や中絶などを一切認めないキリスト教徒のこと。注75:1971年生まれ。イギリスの映画監督。「キック・アス」(’10)の大成功で脚光を浴び、「X-MEN: ファースト・ジェネレーション」(’11)などをヒットさせている。注76:ひ弱なオタク少年が覆面スーパーヒーローとして活躍する。「キック・アス」と「キック・アス/ジャスティス・フォーエバー」(’13)の2本が作られている。注77:1962年制作。イギリス・アメリカ映画。「007」シリーズの記念すべき1作目。テレンス・ヤング監督。注78:1931年生まれ。イギリスの作家。スパイ小説の大家として知られ、「寒い国から帰ってきたスパイ」、「ロシア・ハウス」、「ナイロビの蜂」などの代表作はいずれも映画化されている。 次ページ >> エンターテインメントだからといって、必ずしもジェイソン・ステイサムである必要はない(飯森) 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
スター・ウォーズ ガイド~3つのフォースに迫る!~ サウンド編
「スター・ウォーズ」の凄さ(=フォース)を、3つのテーマに分けて紹介する特別番組
「スター・ウォーズ」が持つ3つの力(ストーリー、デザイン、サウンド)に、映画をこよなく愛するモデル・タレントのドーキンズ英里奈が迫る特別対談番組。対談相手は「スター・ウォーズ」全作の宣伝を担当され、ジョージ・ルーカス監督から全幅の信頼を寄せられている元20世紀フォックスの名宣伝部長・古澤利夫氏!この番組を見れば「スターウォーズ」をより深く、楽しめる事間違いなし。
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COLUMN/コラム2016.04.16
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(4)
飯森:さて、ここからはざっくばらんにと申しますか、最終回ですので洋画チャンネルに今後要望することなどを忌憚なく提言としてお聞かせいただければ。もしかすると、あれは出来ない、これも出来ないという話になっちゃうかもしれませんが(笑)。 なかざわ:逆に、今の一般視聴者が洋画チャンネルに求めているものって何でしょうかね? 僕なんか完全にマニアなので少数意見にしかならないと思うんですが。 飯森:よく視聴率って問題になりますよね。恐らく、多くの方が視聴率というものに対してあまり良いイメージを持っていないと思うんですけど。どんなにいい映画を放送しても、視聴率が低いということは見られていないということであり、求められていないということを意味します。逆に、視聴率が取れているというのはニーズが満たされている証拠ですよね。だから、視聴率狙いというのは決して悪いことではない。ただ、視聴率を取れる映画というとほぼ決まっていて、うちの場合ですとアクション映画だけなんですよ。せいぜい遡って’70年代くらいまでの。圧倒的に数字を持っているのはジェイソン・ステイサム(注79)とスティーブン・セガール(注80)の二強。あとはスタローンとかシュワルツェネッガーですね。そういうものさえ放送していれば視聴率は取れてしまいます。チャンネルの収入は視聴率にかかっている部分もかなり大きいので、収益を上げようとするとそういう映画は欠かせない。でも同時に、本当にそれが視聴者が求めているものなの?満足してもらえてるのか?という疑問も頭をもたげてくるわけです。 なかざわ:もっと潜在的なポテンシャルのあるターゲット層もいるかもしれませんよ? 飯森:僕もステイサムはヘアスタイルを真似るぐらいリスペクトしてますから(笑)、ステイサム映画やセガール映画を低級とか低俗とか思う気持ちは微塵もない。むしろ、そういうことを言っては娯楽映画を見下す映画ブルジョワたちには反感を覚えるぐらいで、いつか革命起こして打倒してやるぞと思っている闘争的映画プロレタリアなんですが(笑)、それでもステイサム映画などの視聴率が取れる映画イコールみんなが本当に愛している映画、というわけではないんじゃないの!?とも疑っているんです。おそらく、ステイサムは“安心感”じゃないですかね。美味い店を開拓するのは、不味いリスクもあるし何より億劫ですけど、いつも行くファミレス全国チェーンのメニューなら、どれ頼んでも大ハズレはないだろ、的な発想。 ザ・シネマ編成 飯森盛良「あなたのハートには、何が残りましたか? それではみなさん、また会いましょうね、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。」 なかざわ:暇つぶしに丁度いいということもある。ザ・シネマさんだと中高年の男性視聴者が多いですよね? だいたい人間ってみんなそうだと思うんですが、年を取ってくると小難しい映画は見たくなくなるんですよ。ただでさえ日常や社会の煩わしさに追われて、仕事だなんだと1日疲れきって家に帰ってテレビをつけたとき、さらに疲れるような映画は御免被りたいと思ってしまう。 飯森:良いこと仰った!それこそが善良なる勤労映画プロレタリアートの心情です!僕も商売柄なかなか本音をカミングアウトしづらいんですが、ここだけの話「勘弁してくれよ…難解なアートフィルムなんて見たくねえよ!」というのが、公人としてでなく私人としての偽らざる本心です(笑)。それに比べたらステイサムは本当に一億倍好きですよ。そういうレベルの奴がやっているチャンネルなんだということで、逆に信頼していただきたい(笑)。 なかざわ:年をとるとそれこそステイサムやセガールのように、勧善懲悪でドンパチがあって、綺麗なオネエちゃんが出てきて、大して実のある中身ではないかもしれないけど、楽しく1時間半ないし2時間を過ごせました。あー面白かった!という映画を求めるようになっていきますよね。 飯森:高校・大学の頃は小難しい映画を見てめんどくさい議論を人に吹っ掛けるのがオシャレで知的でカッコイイと思っていましたし、映画ファンの端くれとして退屈でも我慢して勉強する義務があるとも思っていましたけど、今はとてもじゃないけどそんな余裕はない。あれは良くも悪くも“若さ”でしたね。今や僕はまごうかたなき中年のオッサンですから、ひたすらエンターテインメントを希求切望してやまない。しがない疲れたサラリーマンのこの俺のことを腹の底から楽しませてくれ!と。でも、エンターテインメントだからといって必ずしもステイサムである必要はないんじゃないかとも思ったりもします。様々な選択肢を用意していかねばとは思っています。 なかざわ:視聴率という分かりやすい数字だけを拠り所にして、偏ったジャンルの映画ばかりを提供していくと、どんどんと尻すぼみになっていくと思いますよ。結果的に自分で自分の首を絞めることになってしまう。チャンネルの将来的な展望を考えても、多種多様な選択肢を提示していくことは必要不可欠だと思います。 飯森:まさにそれが深夜帯に放送している「シネマ解放区」(注81)です。未ソフト化映画とか激レア映画とか、いろいろと提供することで尻すぼみを回避しようと努力していて、そこの枠で映画好きな方々とのコミュニケーションはちゃんと取れていると思うんですよ。「ザ・キープ」(注82)をやるといえば大喜びしてくれる人はいますし、野沢那智版「ゴッドファーザー」三部作(注83)も反響が大きかった。でも、そこまで映画が大好きで詳しいわけじゃない、という視聴者の方が、実は圧倒的多数なんです。コア層というのは文字どおりコアですからね、決してマスじゃない。そうしたマス層にザ・シネマを便利に使ってもらおうとすると、現状どうしてもステイサムやセガールだらけになっちゃう。こうした悩みは、どこのチャンネルも抱えていると思いますよ。実に難しい! なかざわ:まさにジレンマですね。理想としては、そういう方々にも幅広い選択肢を認知してもらえればいいんでしょうけど。 注79:1967年生まれ。イギリスの俳優。代表作は「トランスポーター」(’02)シリーズ、「アドレナリン」(’06)、「エクスペンダブルズ」(’10)シリーズなど。注80:1952年生まれ。アメリカの俳優。日本で武道を学んだ親日家としても知られる。代表作は「刑事ニコ/法の死角」(’88)、「沈黙の戦艦」(’92)、「暴走特急」(’95)など。主演作の多くに「沈黙の~」という邦題が付けられる。注81:激レアなお宝映画や懐かしの日本語吹き替え、エロティック映画などを放送するザ・シネマの平日深夜枠。注82:1983年制作。アメリカ映画。東欧の古城に幽閉された悪霊をナチス軍が解放してしまう。熱烈なファンの多い作品だが、現在はソフト化などされていない。完成版に不満を持つマイケル・マン監督の意向だとされる。注83:ニューヨークのマフィア、コルレオーネ・ファミリーの軌跡を描くフランシス・フォード・コッポラ監督作品。「ゴッドファーザー」(’72)、「ゴッドファーザー PARTⅡ」(’74)、「ゴッドファーザー PARTⅢ」(’90)の3本が作られた。声優の野沢那智がアル・パチーノの声を担当した日本語吹替えバージョンが人気。 次ページ >> かつてのように人々がハリウッド映画だからといって興味を持たないような状況になってしまっている。(飯森) 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
(吹)シャドー・チェイサー
家族を救う制限時間は24時間!“新スーパーマン”ヘンリー・カヴィル&ブルース・ウィリス競演作
『マン・オブ・スティール』で新スーパーマンを演じた若手注目俳優ヘンリー・カヴィルが、ブルース・ウィリスやシガーニー・ウィーヴァーらベテランと競演。スペイン・マドリード市街でのカーチェイスが迫力満点。
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COLUMN/コラム2016.04.20
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(5)
飯森:それをどうやるのかですよ。洋画と邦画の興行収入が逆転し邦高洋低と言われるようになって久しい今の日本では、洋画でも「アナ雪」のようなとんでもないモンスター・ヒットがたまに出る一方で、その他大勢が埋もれてしまい、かつてのように人々がハリウッド映画だからといって興味を持たないような状況になってしまっている。その現状からひっくり返していかないと、安パイ的なアクション映画依存からの脱却、脱ステイサム、脱セガールはできないでしょう。新しいことや未知のこと、世界のことに興味関心を持ってもらえないとね。 なかざわ:でも、映画の影響力が薄れているのは日本だけの問題ではないですけれどね。アメリカでもそうですよ。ロサンゼルスの街を車で飛ばせば一目瞭然ですが、ビルボード(注84)の大半がテレビドラマです。映画の看板は一部のエンターテインメント超大作だけで、それ以外はショッピングモールの壁にポスターが貼ってあればいいくらいのもの。ハリウッドのお膝元がそんな状況ですからね。 飯森:僕は個人的にはアメリカの映画とドラマを無理に区別する意味はないという考えなので、どっちが流行っていてもいいとは思うんですけれど、どっちかは常に流行っていてほしい。だけどどっちも流行ってない。今の日本では外国映画だけじゃなくて海外ドラマもそれほど注目はされていませんよね? 昔のように、日本で普通に暮らしているだけでそのドラマを知っちゃってる、見ちゃってるというほど世間一般大衆に広くは受容されてはいない気がする。ネット配信で選択肢は飛躍的に増大したけど、作品数ばかり増えてブームが起きない。 なかざわ:確かに一昔前の「24-TWENTY FOUR-」(注85)や「LOST」(注86)ほどの勢いはないかもしれません。 飯森:そのどちらにも当時ハマりましたし、僕はさらに前の「ビバリーヒルズほにゃらら白書」(注87)世代で、キャラの設定年齢と同学年なので当時は周りも全員ハマっていた。その前が「ツイン・ピークス」(注88)でその前は「エアーウルフ」(注89)とか「Aチーム」(注90)とか「ナイトライダー」(注91)を毎週見てた。まさに海ドラで育ってきた世代です。僕より上の人だとそれこそ「0011ナポレオン・ソロ」(注92)とかでしょ?さらにその前の’50年代のテレビ黎明期には国産コンテンツ不足で供給が追いつかないんで海外ドラマが盛んに輸入されていた。戦後日本人はそれらを浴びるように見ることによって、自由主義陣営の価値観を他の西側諸国と共有している国民になることができた。さきほどの「キングスマン」なんか良い例で、異民族異人種に対して公然と差別発言をするようなレイシストは、映画の中では最低の悪役として扱われるんだよ、それは議論の余地もなく悪だからねと。それが先進国の常識ってもんでしょ? アメリカ人に聞いてもイギリス人に聞いても、フランス人でもドイツ人でも、少数の変な人はさておき大多数のマトモな人なら必ずそう答えるであろう、戦後民主主義社会のモラル、自由世界の常識、映画やドラマが描く正義というものを、海外コンテンツを通じて、我々の親も、我々自身も、子供の頃からエンタメを通じ学んできた。単一民族社会だと思い込んでいる国産コンテンツにはそういう観点のメッセージ性は薄い。それが今では、映画を見る人も海外ドラマを見る人もごく一部というような状況になっちゃって、どんどん国産ドメスティック寄りになっているけど、オイオイ大丈夫なのか!?とつい心配になっちゃうんですよね。 なかざわ:それを言ったら、アメリカ人こそドメスティックな映画やドラマしか見ないですけどね(笑)。 飯森:だからトランプさんが人気なのか!まぁそれは冗談として(笑)、アメリカは世界の中心ですからそれでもいいんですよ。多民族移民社会ですからバカ娯楽作であってもそういうメッセージ性は強い。ただ、東の果ての小国の島国に暮らす我々日本国民が、国際スタンダードみたいなものに興味を示す、それが常に気がかりで仕方ない、俺って周りから浮いてないかどうか心配だ、という、かつてのような多少コンプレックスの入り混じった心理状態って、むしろ健全なことだと僕は思うんですよね。“ほどよきコンプレックス”ってのは在ると思いますよ。 なかざわ:僕なんかはまさに外国の映画、外国の音楽、外国のドラマにどっぷりと浸かって影響を受けてきた人間ですけれど、その一方でこれは外へ行ってみて初めて分かることなんですが、これだけ外国文化を貪欲に吸収してきた国というのは世界的に見ても希なんですよ。 飯森:かつてはねえ。 なかざわ:そういう意味では、日本も普通の国になっちゃったという風には思いますね。 飯森:日本はそもそもが普通の国ではないので、意識的に貪欲に吸収するぐらいで丁度いいんです。まず島国で孤立している。それだけならイギリスもニュージーランドも条件は同じですが、単一民族社会というのは勘違いにせよ確かに異民族は少ないし、何より、言語的に他と似たところが全く無い極めて特異な“孤立言語”を国語にしていることが決定的に普通とは違う。フランス人は似てるイタリア語をある程度は解る、だから習得するのも簡単だ、北欧がみんな英語ペラペラなのもそういうこと、ピンクと赤とオレンジの差ぐらいしか違わないからね、みたいな親戚言語が、日本語には存在しない。話者は1億2500万人くらいしかいなくて、その人口すら今後どんどん少子化で減っていく。ほっといたら言葉の壁で外の考え方なんて入ってこない。それなのにアンテナを外向きに張らずに今後やっていけるの!?と。世界の常識なんて知るか、俺は俺独自のルールで動くんだ、悪いか!というのは、北朝鮮とかISとかと同じ考え方ですけど、あんまりそっち系にはなっていってほしくないんだよな…。もっとも、日本の市場がドメスティックなコンテンツばかりになったとしても、ハリウッド映画と比べても全く遜色がない。いやむしろハリウッドより上!娯楽としても上だしメッセージ性も強いし、ということなんであれば、好きなだけ鎖国してガラパゴス列島に引き篭もったっていいかもしれない。栄光ある孤立というか、ソロ充でね。でも、そうじゃないでしょ? なかざわ:まあ、全くダメですね(笑)。百歩譲って、日本のユーザーが親しみを感じない外国コンテンツよりも自国コンテンツを選ぶのは、選択の自由です。でもね、日本は肝心の作り手が外国の優れた作品から積極的に学んでいるようには思えない。もちろん、全員がそうだとは言いません。でも、自己満足でしかない代物も多い。それが全体のクオリティーを下げている。そういう作品ばかり見せられる日本の観客の“見る目”も劣化してしまっている。そこが今の問題だと思います。 飯森:まさにそこですよ!駄作が生まれるのは作り手の恥、彼らの能力の問題で、防ぎようがないし我々の知ったことでもないんですが、それのヒットを許してしまったら観客の質の問題、民度の問題、我々自身の恥になりますから、その事態だけは防ぎたいですよね。もちろん日本映画でも良いものや大傑作はありますよ?わざわざ言うまでもありません、当然です。でもその一方で、これぞまさしく「どうしてこうなった!?」としか言いようがない、それがその形で完成しちゃってる現実が信じられない、眼球が破裂し頭部が爆発しちゃいそうになる作品も、割と多いですよね。アーク《聖櫃》か! ここまでヒドいのはアメリカ映画では見た覚えがほとんどない級の駄作に、年に何本も出会う気がする。つまらないとかを通り越し、破綻・崩壊しちゃってる。良いものはあるが、極端に悪いものが極端に多すぎることが問題です。まともなチェック機能が働いてるのか!?と。なぜ、誰が、この状態でよしとしてしまったのか?これでいいかどうかどういう検証をしたのか?作ってる途中で改良や見直しはできなかったのか?と不思議で仕方ないものに、割かしよく遭遇する気がする(笑)。 なかざわ:これでオッケーだと思ったんだ!?っていうね。それこそ最近話題になった、人気コミックを実写化した、とある邦画とかですよね。あれなんかでは、この程度でいいだろう、というような作り手たちの意識すら透けて見えた気がします。 飯森:はて?漫画原作なんて今時いっぱいありますから、どの作品のことを仰られているのか僕にはさ〜っぱり見当もつきませんが(笑)。 なかざわ:エッ、普通この流れで逃げます!? わざとらしくトボけないでくださいよ(笑)。あれには僕も悪い意味で本当に度肝を抜かれました。怖いもの見たさで見に行った人も多いとは思いますが、それにしたって不健全な現象だと思いますよ。 飯森:まぁ、作り手さんにしてみれば努力もしてるだろうし、制作上の仕組みの問題のせいもあるんだろうと気の毒にも思いますけどね。優秀な人材はいるのに、その人が我を通せない。そのせいで本意ではないような作品に仕上がってしまうという。クリエーターのこだわり=良い意味での“ワガママ”が通らないと物作りはダメですよ。クリエイティブなんてどこかからはチームプレイじゃなく個人技になっていかないと本当はおかしいんですから。僕はなかざわさんの仰る業界人の不勉強ということ以上に、そういう構造的な問題や、メンタリティーや国民性、つまり悪い意味で「和を以て貴しとなす」という、ノーと言いづらい、我を通しづらい日本社会の同調圧力とかが原因じゃないのかと推測します。とはいえ「だから仕方ないよねえ…」と同情ばかりもしていられなくて、それが海外でも公開されるとなると…。 なかざわ:まさに、国辱もの(笑)。 飯森:例えばの話、仮にその日本の某人気コミックなるものが、お隣の韓国でも大人気だったりしちゃったりすると仮定します。あくまで仮の話ですよ(笑)? ならば当然、韓国人も「お、日本人があれを実写化したんだったら見てみるか」と思うでしょ?でも我々としては「いや〜ん、見ないで〜♥」って感じじゃないですか。もうまいっちんぐですよ。だって相手はあの韓国ですよ!? 韓国といえば、我々が嫉妬と羨望の入り混じった目で見せつけられている、とてつもない傑作を年に何本も生み出している映画先進国なわけじゃないですか。ついここ最近だけでも「コンフェッション/友の告白」(注93)とか「インサイダーズ/内部者たち」(注94)とか、生涯ベスト級の圧倒的な傑作を余裕で量産できちゃう。そんな国でその仮の映画が「ほっほう、これが日本映画界が放った噂の勝負作ですか、どれ、拝見しましょうか」と腕組んで足組んで見られちゃう、そして「…フッ、勝ったな!」と彼らをして勝ち誇らせちゃうというのは…実にまいっちんぐです。悔しすぎます!我々日本人には100年以上にわたってアジアの最先進国で一等国だというメンツがある。それが1ラウンドKO負けサンドバッグ状態みたいな負け方は、できればしたくないんですけどねぇ…。 なかざわ:いや、僕だって基本的には日本映画は好きですから。だからこそ、現状に対して言いたくなってしまうんです。なんとか頑張ってくれと。取材で各国を歩いていると確かに日本映画ファンは沢山います。でもね、彼らが影響を受けた監督、大好きな映画って、殆どが何十年も前の人や作品なんです。せいぜい北野武(注95)くらいですよ。存命なのは。 飯森:三池崇史(注96)さんとかはどうなんです? なかざわ:三池さんや園子温(注97)さんは、あくまでもカルトの領域を出ません。確かに熱狂的なファンはいるけれど、黒澤明(注98)や小津安二郎(注99)や溝口健二(注100)ほどの知名度はありませんし、市川崑(注101)や成瀬巳喜男(注102)らと並び称されているわけでもありません。 飯森:是枝裕和(注103)さんとかも、たとえばアッバス・キアロスタミ(注104)くらいには尊敬されているのかもしれないけれど、そういう芸術家みたいな人はどこの国にもいますしね。芸術作品やちょっと良い佳作良品を作っている人ならいますが、世界が常に新作を待ち望んでいる、世界がひれ伏すクラスの娯楽作家というのを、日本の映画界にも望みたいところです。 なかざわ:だから、日本映画の伝統云々を言う前に、そうした現実を日本の映画人は真摯に受け止めなくちゃいけないと思います。過去の栄光にすがっているようじゃダメですよ。 飯森:いやはや、深い対談になってまいりました!でも、これ今後の洋画チャンネルに期待することって話からはかなりズレてますよね。さすがにちょっと戻しましょうか(笑)。 注84:街中に掲げられた巨大広告看板のこと。注85:凄腕捜査官ジャック・バウアーがテロの脅威と戦うアメリカのテレビドラマ。’01年~’14年まで9シーズンが制作され、番外編のテレビ映画も作られた。注86:旅客機事故で謎の無人島に不時着した人々のサバイバルを描くアメリカのテレビドラマ。’04年~’10年まで放送された。注87:1990年から始まった「ビバリーヒルズ高校白書」。住所である「Beverly Hills, 90210」が元のタイトルだが、日本で勝手に「高校白書」と名付けたことで主人公たちが高校を卒業し大学に進学すると「ビバリーヒルズ青春白書」と途中改題した。2000年まで続き、’90年代を象徴する映像作品となった。注88:田舎町での女子高生死体遺棄事件を、デイヴィッド・リンチ監督が不条理かつシュールに描き、カルト的人気を博したアメリカのテレビドラマ。’90年~’91年まで放送され、映画版も作られた。注89:テレビドラマ「超音速攻撃ヘリ エアーウルフ」のこと。日本では’86年~’87年まで日本テレビで放送され、幾つかの長尺テレビムービー版が金曜ロードショーで放映された。注90:テレビドラマ「特攻野郎Aチーム」のこと。日本では’85年~’88年までテレビ朝日で放送され、何話かは日曜洋画劇場で放映された。注91:ドライバーのマイケル・ナイトが愛車兼相棒の人工知能搭載スーパーカー“ナイト2000”に乗って悪と戦う。日本では’87年~’88年までテレビ朝日で放送され、幾つかの長尺テレビムービー版が日曜洋画劇場で放映された。注92:日本では’66年~’70年まで日本テレビで放送されたテレビドラマで、映画「コードネーム U.N.C.L.E.」のオリジナル。注93:2014年制作。韓国映画。チソン、チュ・ジフン、イ・グァンス出演。誰も被害者が出ずに金だけ手に入るはずの自作自演保険金詐欺を企み、悲惨な被害を出してしまった友人グループが、のっぴきならない立場に追い込まれていく。イ・ドユン監督。注94:2015制作。韓国映画。イ・ビョンホン、チョ・スンウ出演。政界の汚れ仕事を担ってきたが裏切られ消されそうになるチンピラが、検事と組んで韓国政界最上層部に戦いを挑む。ウ・ミンホ監督。注95:1947年生まれ。日本のお笑い芸人、俳優、映画監督。監督としての代表作は「その男、凶暴につき」(’89)、「ソナチネ」(’93)、「菊次郎の夏」(’99)など。世界的な人気と知名度も高い。注96:1960年生まれ。日本の映画監督。代表作は「殺し屋1」(’01)や「ゼブラーマン」(’04)、「13人の刺客」(’10)など。クエンティン・タランティーノら各国の映画監督に多大な影響を与えている。注97:1961年生まれ。日本の映画監督。代表作は「愛のむきだし」(’08)、「冷たい熱帯魚」(’11)、「地獄でなぜ悪い」(’13)など。海外の映画祭でも数多く受賞している。注98:1910年生まれ。日本の映画監督。映画史上最も重要な映像作家であり、日本が世界に誇る巨匠中の巨匠。代表作は「羅生門」(’50)、「七人の侍」(’54)、「隠し砦の三悪人」(’58)、「用心棒」(’61)、「椿三十郎」(’61)、「影武者」(’80)などなど。スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスなど多くの映画監督が影響を受けた。1998年死去。注99:1903年生まれ。日本の映画監督。代表作「東京物語」(’53)は世界各国でたびたび不朽の名作リストの上位にランクされるなど、海外での人気と評価が圧倒的に高い。ヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュなど、小津に影響を受けた映画監督も数多い。1963年死去。注100:1898年生まれ。日本の映画監督。「西鶴一代女」(’52)と「雨月物語」(’53)、「山椒大夫」(’54)が3年連続でヴェネチア映画祭で受賞。「雨月物語」はアカデミー賞の衣装部門にもノミネートされた。ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーなど、ヨーロッパの映画監督に影響を与えた。1956年死去。注101:1915年生まれ。日本の映画監督。アカデミー外国語映画賞候補になった「ビルマの竪琴」(’56)を筆頭に、「野火」(’59)や「東京オリンピック」(’65)、「細雪」(’83)などが海外で映画賞を獲得して高い評価を得た。日本では「犬神家の一族」(’76)に始まる金田一耕助シリーズでも有名。2008年死去。注102:1905年生まれ。日本の映画監督。代表作は「めし」(’51)、「浮雲」(’55)、「流れる」(’56)、「女が階段を上る時」(’60)など。女性映画の名手として知られ、ダニエル・シュミットやレオス・カラックスなどヨーロッパの映画監督に影響を与えている。1969年生まれ。注103:1962年生まれ。日本の映画監督。処女作「幻の光」(’95)が海外の映画祭などでも注目され、「誰も知らない」(’04)や「そして父になる」(’13)が国際的にも高い評価を得ている。注104:1940年生まれ。イランの映画監督。「桜桃の味」(’97)でカンヌ映画祭グランプリを受賞。 次ページ >> 今は業界全体が努力をして工夫を凝らさなくてはいけないでしょうね。(なかざわ) 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
シネマの中へ 「北北西に進路を取れ」
長塚京三の案内で、クラシック映画を楽しむためのポイントを予習する、5分間の解説番組
毎週土曜あさ10時の「赤坂シネマ座」。この枠で取り上げる、映画史に残る名作たちの魅力を、俳優・長塚京三さんが紹介。クラシック映画の敷居の高さを取り払う様々な予備知識で、本編が120%楽しくなる。
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COLUMN/コラム2016.04.27
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(6)
飯森:僕の立場から言うと、とりあえず邦画は人に任せるんで、やはり世界の優れたコンテンツを日本の消費者にも見てもらわなくてはいけない。我々の感性を世界標準の感性とこれらも一致させ続けていかなくてはならない。そのために、なんとかして洋画の市場を活性化させたいと思っています。ハリウッドの俳優が日本へやってきて、成田空港に黒山の人だかりができる。それってすごく健全なことだったと思うんですよ。 なかざわ:まあ、今だってワン・ダイレクション(注105)とかジャスティン・ビーバー(注106)が来日すれば大フィーバーになりますけれどね。映画の場合は、いまだにトム・クルーズ(注107)とかジョニー・デップ(注108)辺りで止まっている。そもそも、ハリウッド自体が彼ら以降の世代のスーパースターを生み出せないでいるんですよ。第二のトム・クルーズとか、第二のブラッド・ピット(注109)とか呼ばれるスターは数え切れないほど出てきましたけど、みんな人気短命で終わっていますから。 飯森:それでも、かつてはトム・クルーズほどの俳優じゃなくても、来日すれば話題になっていたと思うんですよね。 なかざわ:ちょうど先日、ハリウッドを拠点に活動している日本人の若手女優さんにインタビューしたんですね。いろいろと諸事情あって名前は出しませんけれど。彼女は最初から日本ではなくハリウッドを目指して外へ出ていった。そこで、今の日本の若者は内向きで外国に出て行かないと言われていますが、それについてどう思いますか?という質問をぶつけてみたんですよ。そうしたら、開口一番に「それって嘘だと思います」って答えが返ってきた。若い人を知らない大人が勝手に言っているだけだと。外へ出て行っている若者は沢山いますよ、と言うんですね。それはそうかもしれないと思いました。大人が若者の生の声を聞いていないだけなんじゃないかと。そう考えると、日本人に受け入れられる外国スターというのも、消費者の声にちゃんと耳を傾ければ、もしかすると新たに生み出せるかもしれません。 飯森:なるほど。実は意外に若い世代はドメスティック志向ではないのかもしれませんね。そうだとしたら少し安心だ。ただ、もう一つ大きな問題があると僕は感じていて、昔って、媒体の数が限られていましたでしょ?昭和の頃には今のネット媒体が一つも存在しない訳ですから、効率的に宣伝もできたでしょうし、その少数の媒体がそれぞれ今よりずっと影響力もあっただろうと思うんですよ。配給会社の宣伝マンがそうした限られた宣伝媒体に対していろいろなアプローチで仕込みをしていて、あるハリウッド大作が来る、ある大物外タレが来日するとなると、多くの媒体・多くのメディアが一斉にそれを報じていた。そもそもコンテンツを流すウインドウ自体が映画館とテレビ、せいぜい後にレンタルビデオぐらいしかなかった上に、そのように宣伝媒体の数も少ないのだから、情報発信で“選択と集中”が可能だった。それならばブームは起せるし、国民的関心も集められる。ただ、今の時代は媒体が複雑多岐に渡ってしまっているため、宣伝の足並みが揃わない。ウインドウも映画館からレンタル、ウチのような有料テレビ、ネット配信、無料BSや普通の地上波テレビと分散していて、同じハリウッド大作がその順番で「ついに登場!」のていで各ウインドウに何度も何度も出現する。お客さんも、映画館原理主義派、レンタル派、ウチみたいなCSにどっぷり派、ネット配信派、地上波だけで満足派、無料BSも見てる派に分裂している。これでは大きなうねりやブームは起きづらい。兵力分散や兵力の逐次投入、つまり“小出しにする”というのは愚策中の愚だと言われていて、戦いでそれをやった方は確実に負けるとされている。勝つためには“選択と集中”が不可欠な訳ですが、不本意ながらもメディアの多様化で結果として兵力の逐次投入みたいな格好に今の業界はなってしまっている。作品を流している我々ウインドウ側も、それを告知してくれる宣伝媒体側も、メディアの垣根を越えて大同団結して、まとめて海外コンテンツの大きなうねりを生み出すことができればいいんですけどねぇ。一社一社が各個にスタンドプレイでいくら頑張っても各個撃破されるだけ。撃破というか、自滅ですね。各個自滅。 なかざわ:昔は物事がシンプルだったから良かったんですよ。今は業界全体が努力をして工夫を凝らさなくてはいけないでしょうね。 飯森:そろそろ洋画も巻き返しを図らないとヤバい時が来たように思いますね。洋画専門チャンネルにしても、競合他社同士がお互いが良きライバルとして切磋琢磨することで、まずはCS全体を盛り上げていくことが大切だろうと思います。なんかCSで面白いことやっているな、映画ファンとしては注目しとかないと、と世間に思ってもらえるようにしなくては。今、自分たちはその段階にいると見ています。なので、うちとしては例えば、昭和のお宝吹き替え尊重路線だったりとか、激レア映画の発掘だったりとか、コアな洋画ファンに喜んでもらえるような企画は今後も続けていきたいと思っています。これだけネットを含めたメディアが増えたにも関わらず、いまだに見ることのできない映画は沢山ありますし。 なかざわ:それは是非ともお願いしたいところですね。それこそ、’80年代に一大旋風を巻き起こしたキャノン・フィルム(注110)の映画なんかも、今では全く見れなくなってしまった作品が多いですから。「ハンナ・セネシュ」(注111)とか「黄昏のブルックリン・ブリッジ」(注112)とか。それと、’70~’80年代に日本で劇場公開ないしビデオ発売されたイタリア産娯楽映画も、うもれてしまっている作品が本当に多い。「マリーナの甘い生活」(注113)とか「キャロルは真夜中に殺される」(注114)とか、もう一度見たいですもん。イタリア版DVDには英語の字幕すら付いていないので(笑)。 飯森:そして、マスの方たちに圧倒的にウケる新たな方策というものは引き続き宿題となっちゃいましたが、「俺のしかばねを乗り越えて行け!」じゃありませんけど、大きすぎるステイサムとセガールの存在を乗り越え、裾野を今一度大きく広げ直して、洋画そのものをリブートしなければいけませんね。「いや〜映画って、本っ当にいいものですね!」という、あの幸福にもう一回帰り着くためにはどうすればいいのか。そこに次の10年は挑戦していきます! なかざわ:…と、いったあたりですかね。いやはや、半年続けてきたこの対談連載も、とうとう終わってしまいましたね、お疲れ様でした。 飯森:なかざわさんの方こそお疲れ様でしたよ!いやマジで。僕はただくっちゃべっていただけですが、毎回このボリュームを原稿に書き起こしていたなかざわさんは堪ったもんじゃない!ただ、おかげさまで、自分で言うのもナンですけれど、非常に評判も良く反響も大変ありましたので、今回は10周年記念ということでやったんですが、アニバーサリーとかとは関係なしに、なかざわさんとはまた間を置かず近々にこの場でトークをさせていただきたいと思ってます。 なかざわ:是非そうしましょうよ!「続・男たちのシネマ愛」といった形でね。 飯森:それでは皆さん、また会いましょうね。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。 (終) 注105:イギリス出身の男性アイドルグループ。’10年にデビューし、世界中のティーン女子の間で爆発的なブームを巻き起こした。注106:1994年生まれ。カナダ出身の男性アイドル歌手。’08年にデビューし、これまでに1500万枚以上のアルバムを売り上げている。ビリーヴァーと呼ばれる熱狂的ファンが世界中にいる一方、たびたびトラブルを起こす問題児としても有名。注107:1962年生まれ。アメリカの俳優。「トップ・ガン」(’86)でブレイクし、その後も「レインマン」(’88)や「ミッション・インポッシブル」(’96)、「ラスト・サムライ」(’03)などのヒットを出している。注108:1963年生まれ。アメリカの俳優。「シザーハンズ」(’90)でブレイクし、「ギルバート・グレイプ」(’93)や「エド・ウッド」(‘94)などで活躍。「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」(’03)のジャック・スパロウ役でも有名。注109:1963年生まれ。アメリカの俳優。「テルマ&ルイーズ」(’91)で注目され、「トゥルー・ロマンス」(’93)や「セブン」(’95)でブレイク。ブラピの愛称でも親しまれる。注110:アメリカの独立系映画会社。’79年に社長就任したイスラエル人の映画監督メナハム・ゴーランと従兄弟ヨーラム・グローバスのもと、チャック・ノリス主演のB級アクションから、ロマン・ポランスキーやジョン・カサヴェテスなど巨匠の芸術映画まで、数え切れないほどの作品を世に送り出した。’89年にゴーランが辞任してから急速に衰退。注111:1988年制作。アメリカ映画。ナチスドイツと戦った女性パルチザン、ハンナ・セネシュの実話を描く。マルーシュカ・デートメルス主演、メナハム・ゴーラン監督。注112:1983年制作。アメリカ映画。ニューヨークのブルックリンを舞台にした大人のラブロマンス。エリオット・グールド主演、メナハム・ゴーラン監督。注113:1989年制作。イタリア映画。自由奔放なセクシー美女マリーナの華麗なる男性遍歴を軸に、「甘い生活」(’60)などフェリーニ映画へオマージュを捧げた作品。キャロル・アルト主演、カルロ・ヴァンツィーナ監督。注114:1986年制作。イタリア映画。殺人鬼に狙われた女性心理学者を描く猟奇サスペンス。ララ・ウェンデル主演、ランベルト・バーヴァ監督。 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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PROGRAM/放送作品
シネマの中へ 「タワーリング・インフェルノ」
長塚京三の案内で、クラシック映画を楽しむためのポイントを予習する、5分間の解説番組
毎週土曜あさ10時の「赤坂シネマ座」。この枠で取り上げる、映画史に残る名作たちの魅力を、俳優・長塚京三さんが紹介。クラシック映画の敷居の高さを取り払う様々な予備知識で、本編が120%楽しくなる。
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COLUMN/コラム2016.02.15
男たちのシネマ愛④愛すべき、キラキラ★ソフィアたん(4)
なかざわ:ちなみに、これは全く個人的な感想なんですが、「ロスト~」は映画ライターとして非常に興味深い見所がありまして。まずはCM撮影で日本人監督の長い演技指導を、通訳がバッサリと一言で説明してしまうシーン。意訳しすぎ!っていう(笑)。 飯森:あそこは僕も爆笑しました。ウイスキーのCMで、ディレクターが「もっと感情を込めて!これ、サントリーの最上位のブランドなんだから、高級感を込めつつ、かつ、親友と再会した時のような、思いのこもった懐かしい口調(?)で、商品名を万感こめて言って」とか何とか無理難題を言って、熱っぽく指示を出しているのに、一言「もっとゆっくり言ってください」と通訳されちゃう。ビル・マーレイも「えっ、それだけ?彼は絶対もっと何か言ってたでしょ!」と当惑する。「高級感+懐かしい友と再会した時の感じ」は、確かに早口じゃダメにせよ、単に機械的にスローに言うだけでは表現できないでしょ! なかざわ:ああいう事態って、外タレの来日インタビューの現場において、さすがによくあるとまでは言いませんし、あそこまで大胆に端折る通訳さんもまずいませんけど、でも似たようなことはあるよね!とニンマリさせられました。私は多少なりとも英語が理解できるので、肝心な部分が省略されても外タレ本人のコメントから拾えますが、記者が全員英語が分かるわけではない。中にはだいぶ意訳してしまう通訳さんがいるんですよ。それでもせめてコメントの主旨が伝わればいいと思うのですが、省略しすぎたせいで発言内容の辻褄が合わなくなることもありますし、中には発音を聞き間違えて誤訳しているケースもあります。 飯森:僕も“記者会見あるある”だなと思いました。昔は来日記者会見にもよく行っていましたから。でも今の僕は、困ったことに、ああいう事態に当事者として巻き込まれちゃってるんですよ。まぁ、この CMディレクターさんみたいに偉くはないけど、僕もザ・シネマの様々な物作りをする上で、立場上は指示を出さないといけない側の人間じゃないですか。で、やはり「高級感を込めて」とか「親友と再会した感情を込めて」とか、そういった細かい感情のニュアンス指示は出しますよ。たとえや形容詞をあれこれ使い、映画のシーンやキャラを例に出して、どうにか細かいニュアンスまで相手に伝えようと長く話しちゃう。長い中のどこか一箇所でいいからピンときて、物を作る上で理解の鍵にしてくれたらと。しかしですねえ、15分も話したことが一言で済まされてしまう(笑)。そういう人が実際たまにいるんですよ!たとえば、「オシャレ」でも様々なニュアンスの「オシャレ」があるじゃないですか?「ブリングリング」のような今どきの若者っぽいオシャレさなのか、「ヴァージン・スーサイズ」のような’70年代っぽいレトロなオシャレさなのか。レトロと言ってもソフィアたん系か、それともタランティーノっぽいのがいいのか。その微妙な違いを伝えんがために15分も喋りまくって「そういうオシャレ感をもっとプラスして」と指示しているのに、「一言で言うともっとオシャレにってことですね!」で済まされちゃうと、「大丈夫かなぁ?」と心配になってくる。で、案の定、上がってきたものを見ると「そっちのオシャレじゃなくてこっちのオシャレだって説明したじゃんかよ!」みたいな齟齬が、よく生じる。一言で言えることなら15分も話してないって! なかざわ:日本語同士なのにロスト・イン・トランスレーションですか(笑)。 飯森:だから今回見直してみたら我がことのように共感できた。やたらめったら「一言で言うと」って話を単純化したがるのはよくない。それって「細かいことはどうでもいい」と言ってるのと同じですから。少なくとも、ウイスキーのCMとか映画チャンネルとかで、人と一緒に情感を視覚化するような表現の仕事においては、細かいことこそが重要なので大変よくない。いわんや通訳も。無口な通訳なんて、職場放棄ですよそれ。とにかく、そんなような、似たような経験のある人は、あそこでは笑えると思います。ただ、公開当時の僕には幸か不幸かまだそういう愉快な人生経験が足りなかったので、そこでは笑えず、全編東京ロケという点だけが唯一この映画の引きの部分だった。 なかざわ:その東京ロケの描写というのも、そこを日常の生活の場として暮らしている我々とはちょっと違う視点ですよね。確かに東京ではあるんだけれど、僕らの知っている東京とは印象が異なる。あれって、ホテルの窓から東京の表層だけを眺める異邦人の肌感覚なんですよ。取材で頻繁に海外を訪れる僕としても、それはすごく良くわかる。たとえばロサンゼルスには数え切れないほど行っていますが、僕の知っているロサンゼルスと、そこに住んでいる人のロサンゼルスは違うはずです。だから、公開当時あの作品に出てくる東京や日本人の描写に違和感を覚えた人も多かったと思うんですが、似たような経験をしている僕から見れば、逆に極めて正確だと思うんです。そもそも、生活習慣も考え方も違う外国人の見る日本が奇妙に見えるのも仕方がない。 飯森:監督自身も、短期間ではあるけど実際に日本に滞在していた経験があるらしいので、決して嘘臭い描写は無いんですよね。たとえば、「47RONIN」【注42】のように無茶苦茶な勘違いや間違いはない。逆に、そうした異邦人の感じるアウェイ感をちゃんと捉えている点は地味に凄いと思います。 あと、僕は長いこと日本のドラマやお笑い番組を全く見ていないんですけれど、この作品で「Matthew’s Best Hit TV」【注43】っていう日本のバラエティー番組が出てくるじゃないですか。そこにハリウッド俳優がゲストで出演するわけですけど、日本のお笑い文化を理解していないから、「これのどこが面白いの?」とキョトンとしてしまう。あれは普段バラエティーを見ない僕としては激しく同意しましたね。“日本のお笑いあるある”。 なかざわ:日本人では飯森さんくらいかもしれませんよ、そこで共感したの(笑)。 飯森:よく日本人で「アメリカのコメディーはつまらない」と言ってる人がいますが、それって単に「所変われば品変わる」ってだけの話で、相手からも同じことを逆に言われているんですよ。優劣じゃないってことですね。 あと面白いなと思ったのは、劇中でハリウッド俳優に付いて回る日本企業の担当者が、広告代理店の社員を紹介するシーン。スターは5~6人の日本人から次々と名刺を渡されて挨拶をするのだけれど、あれって日本人的にはよく見る光景ですよね。でも、よくよく考えると意味がなくて、無駄な習慣というか、はっきりと困った悪習だったりする。 なかざわ:ああいう、現場に直接関係のない人をズラズラと連れてくるのって、僕の知る限りでは日本特有の光景ですよ。たとえば、日本だとタレント1人につき事務所の関係者や広告代理店、スポンサー企業など、なんでこんなにいるの!?ってくらい大勢の人間が金魚のフンみたいについてくる。まあ、タレントの知名度によって人数も変わりますが。あんな光景、海外では見たことないですよ。それこそ、ハリウッドのベテラン大物俳優さんだって、自分で車を運転して1人で取材現場にぶらりとやってくることもありますし。基本的にマネジャーすら付いてこない。とあるエミー賞【注44】の主演女優賞を取ったこともある有名な女優さんなんか、取材が終わって会場ビルの玄関前に一人でタクシーを待っていましたから。「あれ!?何やっているの?」って聞いたら「車を修理に出しているから今日はタクシーなのよ。ガードマンに電話で呼んでもらったから、もうすぐ来るはず。車がないって不便よねえ」だって(笑)。 飯森:それ超カッコいい!自立してるというか大人というか。いや、僕もあの日本式の無駄な光景を見ていると「ガキの使いじゃあるまいし…」っていつも思いますよ。なんなんですかねあれは?これに限っては優劣の問題かもしれませんね。アメリカは良くて日本の悪い面。当ザ・シネマでは、ゾロゾロと連れ立って詣でるのは絶対厳禁にしている。だから今日のこの取材だって、いつも僕が独りぼっちで単身フラリと東京ニュース通信社さんにお邪魔してるぐらいです(笑)。そもそも相手に失礼じゃないですか。現場で何をするわけでもない随員から次々と名刺を貰ったって迷惑なだけですよ。 なかざわ:しかも、その人たちと今後何かしらの関わりがあるのかといったら、ほとんどないですからね。形式だけの習慣はやめて貰えますか?って思います。 飯森:本当にあんたの顔と名前も覚えなきゃいけないの?限りあるオジサンの記憶力を無駄遣いさせないでよ!と。でも、あの光景を普通のことだと思っている大方の日本人は、普通にスルーしてしまったシーンかもしれない。いや、あそこ笑うところですから!恐らくソフィアたんは日本滞在中に実際そういうことがあって衝撃を受けたからこそ、あのシーンを脚本で書いたんだろうと思います。だから、この作品は我々日本人が気付かない日本独特の不条理を描いたコメディーとしても楽しめるんです。 ソフィアたんの映画って、お高くとまっているようでいて結構お茶目なんですよね。「SOMEWHERE」でも、主人公が次の映画で老けメイクが必要だというので、石膏を使ってマスクの型どりをすることになる。で、顔中に石膏を塗られるんだけど、その鼻の穴だけ開いて喋れない状態のまま、カメラはずーっと主人公の顔だけを撮り続けるんです。聴こえてくるのはスーコースーコー鼻息だけ。あそこはなんとも間抜けで笑える。「長えよ!」って。 なかざわ:子供の頃から慣れ親しんだハリウッド業界の、実は間抜けで笑える裏側というのを随所でさらっと描くのも彼女の映画の面白さかもしれません。 飯森:そういう絶妙なギャグセンスも彼女にはありますね。ある面ではコメディーなんです。 なかざわ:だから、特定のカテゴライズが出来ない監督ですよね。 飯森:いわゆるハリウッド・メジャー【注45】とは違う点だと思います。ラブコメとか、アクションとか、お決まりの型にはまらないところが。ジャンル・ムービーじゃないんですよね。 <注42>2013年制作、アメリカ映画。日本の「忠臣蔵」を独自に解釈して映像化したものの、もはや日本ですらない無国籍な風景や美術デザイン、衣装デザインなどが失笑を買った。 <注43>2001年~2002年に放送された音楽バラエティー番組。藤井隆の扮するキャラクター、マシュー南が司会を務める。<注44>テレビ番組などに関する様々な業績を称える賞で、1949年より毎年開催されている。世界のテレビ業界で最も権威があり、テレビ版アカデミー賞とも呼ばれる。 <注45>ワーナー・ブラザーズや20世紀フォックスなどハリウッドの大手映画会社、およびそこで作られる映画作品のこと。 次ページ>> 「マリー・アントワネット」 『ヴァージン・スーサイズ』©1999 by Paramount Classics, a division of Paramount Pictures, All Rights Reserved『ロスト・イン・トランスレーション』©2003, Focus Features all rights reserved『マリー・アントワネット(2006)』©2005 I Want Candy LLC.『SOMEWHERE』© 2010 - Somewhere LLC『ブリングリング』© 2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved