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PROGRAM/放送作品
女の都
[R15相当]フェデリコ・フェリーニ×マルチェロ・マストロヤンニの名コンビが贈る摩訶不思議コメディ!
女好きの色男を演じさせたら右に出る者はいないマルチェロ・マストロヤンニ扮するインテリ男がまさにはまり役!ウーマン・リブの国際大集会の会場に迷いこんだ中年の男が体験する女たちとの出来事を描く。
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COLUMN/コラム2015.11.30
男たちのシネマ愛①愛すべき、未DVD・ブルーレイ化作品(5)
なかざわ:次は「黄金の眼」の話題に移りましょうか。 飯森:これもルパンですよ。 なかざわ:言ってみればテロリストの話なんですけどね。金持ちから大金をふんだくって、権力の鼻をあかしてやることを信条にしている覆面ヒーロー。 飯森:とにかくおしゃれな音楽がひたすら鳴り響いて、おしゃれな車に乗って美女をはべらせながら盗むだけっていう、極めて無内容な映画なんだけれど、怪盗映画として後世に与えた影響は少なくないと思います。特に驚いたのは、「ルパン三世 カリオストロの城」(注28)がまんまパクっていること。「カリオストロの城」でクラリスに会うため塔をよじ登っていくシーン、ほら、三角屋根の上でライターを拾おうとして転げ落ちるシーン、あそこが「黄金の眼」と全く同じなんですよね。 なかざわ:その塔をよじ登っていくシーンは、ビースティ・ボーイズのミュージックビデオでもそのまま再現されていますよね。実はあの塔って、実際は地面に横たわっていて、そこで俳優が四つん這いになっているだけなんですよ。それを広角レンズを使って絶妙な位置から撮ることで、いかにも遠く下の方に崖があって海があるように見せている。しかも、ご丁寧にヘリコプターを映り込ませているので、カメラが高いところにいるような錯覚を起こさせているわけです。 飯森:そのへんがマリオ・バーヴァ監督(注29)の技ですよね。 なかざわ:そうです。カメラマン出身の監督なので、撮影のアイデアが豊富なんです。他にも、怪盗ディアボリックが犯罪組織の飛行機に乗るシーンがありますよね。飛行場でタラップを上ってプロペラ機に乗り込むわけですけど、実はこのプロペラ機というのが、切り抜いた絵なんです。切り抜きをカメラの一番手前に置いて、本物の俳優やタラップはその遠く向こう側に配置されている。つまり、遠近法を応用することで、切り抜いた飛行機の絵を本物に見立てているわけです。しかも、照明を当てる位置を計算しているため、飛行機はほとんどシルエット状態なので、細部がよく見えないから絵だと分かりにくい。 飯森:映像の魔術師と言われる人は結構いるけど、これこそまさに映像の魔術ですよね。 なかざわ:バーヴァの映画はどれもそうですけど、特にこの作品は、面白い映画をいかに安上がりにつくるかというアイデアが詰まっているんですよ。ディアボリックの秘密基地なんかも、一部を除いてほとんどがマットペイントですから。つまり、手書きの絵ですね。例えば、美女のエヴァが上っていく階段は本物だけど、その先の丸い通路はマットペイント。普通の廊下にイラストを貼っているだけです。 飯森:マットペイントって実物のように見える絵を背景に置くという技術ですけど、実写と見分けが付かないということで最も例に挙げられるのは「ダイ・ハード2」(注30)の空港ですよね。でも、「黄金の眼」のマットペイントも全く分からない。 なかざわ:バーヴァの父親は、イタリアで最初に特撮工房を作った人なんです。その父親から技術のノウハウを学んでしますし、彼自身もトリック撮影が大好きで研究熱心だったようですね。実際、ダリオ・アルジェント監督(注31)の「インフェルノ」(注32)をはじめ、バーヴァがノークレジットで特殊効果を手がけた作品は多い。そんな彼の技術の粋を集めた映画だと思います。「黄金の眼」は。 注28:1979年製作。ルパンが小国カリオストロの王女クラリスを救うために戦う。宮崎駿監督。注29:1914年生まれ。監督。代表作は「血ぬられた墓標」(’60)、「モデル連続殺人」(’64)など。イタリアン・ホラーの父とも呼ばれる。1980年死去。注30:1990年製作。マクレーン刑事が空港でテロに巻き込まれる。ブルース・ウィリス主演。注31:1940年生まれ。監督。代表作は「サスペリア」(’77)、「フェノミナ」(’85)など。イタリアン・ホラーの帝王。注32:1980年製作。ニューヨークの古いアパートに棲む魔女の恐怖を描く。リー・マクロスキー主演。 次ページ >> 誰の視点に立つかによって大きく解釈が変わる(飯森) 「スパニッシュ・アフェア」COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 「ザ・キープ」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「世界殺人公社」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「黄金の眼」COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 「くちづけ」TM, ® & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 「ウォーキング・トール」© 2015 by Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
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PROGRAM/放送作品
大惨事世界大戦
いかにも英国映画らしいブラックユーモアがピリリと効いた、ポリティカル・サスペンス風コメディ
地球をウォーゲームのボールとして弄ぶ世界政治家たちをシニカルに風刺。いかにもイギリスなブラックユーモアが炸裂する、冷戦終結直前の87年に制作されたポリティカル・サスペンス風コメディ。
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COLUMN/コラム2016.03.01
男たちのシネマ愛⑤愛すべき、極私的偏愛映画たち(1)
飯森:今回の企画は、その名もズバリ「ザ・シネマSTAFFがもう一度どうしても観たかった激レア映画を買い付けてきました」という特集です。これ以上の説明はなんも要らない(笑)。映画好きの皆さんであれば、多感な年頃に見て影響を受けた作品が、いつの間にか見ることが出来なくなってしまったという経験って、多かれ少なかれありますよね? ザ・シネマ編成部 飯森盛良 なかざわ:それはもう、数え切れないくらいありますよ! 飯森:それはザ・シネマのスタッフも同じでして、それだったら僕を含めて社内のそうした声を集めた上で、買い付けてきて放送してしまおうと考えたわけです。でもね、こういう企画って実は滅多にできないことなんですよ。いわゆるハリウッド・メジャー(注1)と呼ばれる映画会社は、各社ともテレビ向けに旧作を配給していますよね。放送権販売です。我々はそこから買っているわけですが、まとめて20本とか30本を幾らで、という感じでパッケージ購入しているわけです。何社かから買って、その中から、今月はこれ、来月はこれといった具合で小出しに組み合わせながら番組編成する。CSの洋画チャンネルを見ていて、同じ映画がライバル・チャンネルの間をたらい回しみたいに何度も放送されていることに気付かれた視聴者も多いと思うのですが、なぜなら同じ配給元からこのようなシステムで旧作をまとめ買いしているからなんです。パッケージ購入の際に配給元がライバル・チャンネルに売ったものと同じ作品を入れてくる場合もあれば、その作品が視聴率を取れることを我々が予めリサーチしていて、こちらから要望する場合もある。いずれにせよ、基本は配給元の“テーブル”の上に並べられている映画なんですよ。そういう作品は既に字幕も付いていますから、新たにこっちで作業をする必要はほとんどない。いつでもすぐに放送できるんです。 なかざわ:要するに即戦力ですね。 飯森:その一方で、例えば「おたくは’60年代にこういう映画を製作していましたよね、最近見かけなくなりましたが、あれを放送したいんですけれど…」、というような問い合わせ、つまり、“テーブル”に載ってない作品を出してきてくれと配給元にリクエストした場合、まず放送用テープの有無の確認から始めることになります。元はフィルムでも当然ながら放送用ビデオテープになっていないとテレビではかけられない。つぎに日本向けに日本語字幕版や日本語吹き替え版があるのかどうか。大昔に劇場公開したっきりの作品もあれば、VHSでリリースしたっきりで何十年も販売実績がない作品もある。全ては一から調べないとならないんです。それどころか、ハリウッド・メジャーならいいんですけど、インディペンデント系(注2)の作品だと、今どこが権利を持っているのか、どこと交渉すればいいのか、そこから調べなければならない。もちろん歴史上の全映画の権利元リストなんて存在するわけがない。それがいかに大変なことなのか、今回は身を持って実感しましたね。実現までにとにかく時間がかかった! なかざわ:そうした事情は映画ファンでもなかなか分かりませんからね。“テーブル”に載っていない作品の中にこそお宝が眠っていることが多いわけですけど、逆に、滅多に見ることが出来ないからこそ、お宝になってしまうとも言える。 飯森:そうなんです。“テーブル”の上に並んでいないと、わざわざ奥の方から出してきてもらわないといけない。 なかざわ:そうしたニッチなマーケットを掘り起こすために、アメリカではハリウッド・メジャーの映画各社がアーカイブ作品のオンデマンドDVDサービスを行っています。ワーナーやMGM、20世紀フォックス、ソニー・ピクチャーズなど、いずれも過去にDVD化されたことのある数々の作品とともに、VHSですら出したことのない貴重な作品も大量に放出しています。殆どがオリジナル・ネガ(注3)やインターポジ(注4)などからテレシネ(注5)しているので画質も良いですし。それらのラインアップの中から、ライセンスを借りてブルーレイ化しているインディペンデント系メーカー(注6)もあるくらいです。日本ではまず見られないだろうという作品が多いので、自分もよく利用していますよ。 雑食系映画ライター なかざわひでゆき 飯森:そりゃ、アメリカの場合は字幕や吹き替えを付ける必要がないですからね。ちなみにCSの日本映画系チャンネルさん各社がソフト化されたこともないような昔の貴重なお宝作品をよくテレビ初放送してたりするのも、そもそも日本語コンテンツだからだと思いますよ。具体的な金額までは申し上げませんが、字幕を付けるにはサラリーマンの月収くらい費用がかかります。字幕翻訳が残っていてその金額です。昔すぎて翻訳が残っておらず、新たに訳し直すところからだとその倍。5本、10本とそれにコストをかけられるか、それを12ヶ月やったらどうなるか、考えてみてください。さらに吹き替え新録ともなると年収くらいの費用がかかります。2011年に僕はウチのチャンネルでやった『ブレードランナー/ファイナル・カット』の新録吹き替え版(注7)をプロデュースしたことがあるんですが、あんなことは滅多にできることではない。あれ以来、ありがたいことに視聴者の皆さんにああいうことをもっとやれと期待されちゃってはいるんですけど、スンマセン、と(笑)。今の料金据え置きではそうしょっちゅうはやれない。昔、洋画番組をやられていて毎週吹き替え版を作って流していた民放さんとは、やっぱり資金力が違いますから。あれは映画の中に何発もCMをはさんで儲けていなければ無理です。でも、それやったら皆さん怒るでしょ?(笑) といったようなわけでして、日本で“テーブル”の上に並んでいないレアな外国映画を奥から出してきてもらって放送するのは、英語を母国語としているアメリカよりハードルが高いんです。ハードルというのは具体的にはコストがって意味です。“テーブル”の上のおなじみのタイトルならば、作品購入費以外のそうした追加コストが一切かからなくて済む。だから複数チャンネルの間を同じ映画がいつもグルグルグルグル回遊しているんですよ。まあ、それでも視聴率を取れてるんだから、別に悪いことではないとは思います。それって需要に対し我々がちゃんと供給できてるってことなので。 とはいえ、いくらコストがかからず視聴率も取れるからといって、同じような映画を何度も繰り返し放送するばかりでは映画ファンに失望されるということも、我々はよく理解しています。そもそも、こういう商売をしている本人がみんな商売抜きに映画好きですから、「そんなの面白くない!」という思いは同じなんです。なので、まあ、公私混同のきらいもありますけれど、まずは自分たちがなんとしてでも見たかった作品を探し出してきて放送し、さらに今後はみなさんからの要望にも耳を傾けながら続けていければと思っているんです。 なかざわ:でもですね、今回放送される作品の中で、「愛すれど心さびしく」だけは日本盤DVDが出ていますよね。 飯森:恐らくそれって、某レンタルチェーンさんがやられている、オンデマンドでDVDを焼いて届けてくれるというサービスですよね。確かにこの作品は仰る通り、そういう形で日本国内で観る手段は他に無くはありません。なのでお詫びの意味も込めて、そのうちテレビ吹き替え版も発掘して放送する予定です。これは文句なしに超貴重でしょ?そして「愛すれど心さびしく」以外の作品はもはや見ることができません。その中には今回ウチでもどうしてもコンディション良好とは言い難いSD素材しか手に入らなかったという作品もあります。HD化には相当なコストがかかるんです。古いSDテープが一応あるのに、それを捨てて新たにテレシネし放送用HDビデオテープを作り直すわけですから、それを数回しか放送しない我々チャンネル側の予算で負担することは、まぁ、なかなかできませんわな。作品の持ち主である配給元さんの方でそこは負担してもらうしかないんですが、配給元さんだってご商売ですし、採算の現実的なご判断は当然ありますよね。 注1:ワーナー・ブラザーズや20世紀フォックス、ソニー・ピクチャーズ、ユニバーサルなど、ハリウッドの大手映画会社の総称。注2:ハリウッド・メジャーではない中小様々な映画会社。注3:撮影フィルムを編集して作られたネガフィルムのこと。全ての映画はこれを元にプリントを重ねていく。注4:オリジナル・ネガからプリントされた中間素材用のポジフィルム。ここから、上映用フィルムを複製するためのインターネガが作成される。注5:フィルムに記録された映像をビデオに録画すること。これによりフィルムで撮られた映画をテレビで放送したりDVD等で再生できる。注6:前述のインディペンデント系映画会社とは異なり、ここではソフトメーカーのこと。代表的なメーカーとして、クライテリオンやキノ・ローバー、シャウト・ファクトリーなどが挙げられる。注7:2007年のリドリー・スコット監督による再編集・デジタル修復バージョン。この吹き替えを、ハリソン・フォードのフィックス声優である磯部勉を初めて起用して制作。ルトガー・ハウアーに谷口節、ショーン・ヤングに岡寛恵。 次ページ >> 愛すれど心さびしく 『愛すれど心さびしく』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『マジック・クリスチャン』COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『ラスト・ウェディング』©2016 by Silver Turtle Films. All rights reserved. 『ビザと美徳』©1997 Cedar Grove Productions. 『暗い日曜日』LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED
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PROGRAM/放送作品
(吹)スリーメン&ベビー[テレビ版]
子供にも家庭にも縁が無いリッチな独身男性3人組が、突然、赤ちゃんを育てることに!!
『スタートレック』のミスター・スポック役、レナード・ニモイが監督した、父親3人・母親不在という異色ファミリーのホーム・ドラマ。赤ちゃんの面倒を見ることになった独身男性が巻き込まれるドタバタを描く。
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COLUMN/コラム2016.03.05
男たちのシネマ愛⑤愛すべき、極私的偏愛映画たち(2)
なかざわ:では、まずはその「愛すれど心さびしく」(注8)から各作品の話をしていきましょうか。 飯森:これは1968年の映画ですけれど、あの時代の瑞々しい青春模様や市井の人々の物語が描かれている。と同時に、政治の匂いもする作品です。 なかざわ:ことさら政治を強調しているわけではないものの、物語の背景として当時の人種差別や貧困などの社会問題が暗い影を投げかけていますよね。そのような混沌とした社会の中で、憎しみや悲しみや疎外感を抱いている人々が出てくる。根本的な原因は他者への無関心やコミュニケーション不足なんですけれど。そんな彼らの心の傷を癒やし、人と人とをつなぐ橋渡し役として、ろうあ者である主人公が大きな役割を果たすわけです。 飯森:とはいえ、障がい者を描きたい作品ではない。つまり、主人公が必ずしもろうあ者だから成立する話ではないと思うんです。どういうことかというと、世の中には自分の考えばかりを声高に叫んだり、耳は聞こえても人の話なんか聞いちゃいなかったり、そこまでいかなくても日常の生活に追われて他人のことまで気が回らなかったりという人が沢山いる一方で、聞き役に徹する大人しい人たちっているじゃないですか。決して自分の意見を押し付けることなく、他者をしっかり観察して細やかな気づかいができるタイプ。この主人公もまさにそれで、耳が聞こえずしゃべれない分、自分の言い分を主張せず、他人の性格とか問題をよく観察していて、さりげない気配りができる。そういう優しい人って、ろうあ者じゃなくてもいると思うんですよ。穏やかであまり自己主張しない、誰の隣にでもいるであろう人。そういう誰かを描いた映画だと思うんです。そして、果たしてそういう人のことを逆に我々は考えてあげられたのだろうか?という問題が提起される。つまり、我々はその人に一方的に借りを作りっぱなしなんじゃないんですか?という問いをオチで強烈に突きつけてくるわけです。ここから先はネタバレになっていくのですが… ■ ■ ■この先ネタバレを含みます。■ ■ ■ …あのオチは唐突でしたよね? なかざわ:親友が死んでしまったという出来事が、ある種のきっかけとして描かれてはいましたけれど。 飯森:でも、それなら本来は、その親友が主人公の人生にとって欠くべからざる存在だという伏線としての描き方を映画はしなければいけませんよね。でも、ここではそれほど重要な存在としては描かれていない。観客があまり注目しなくてもいいサブプロット程度に描かれてる。ところが、親友が死んでしまったという事実を知らされた瞬間、彼はものすごく動揺して、突然自殺をしてしまう。あまりに唐突な展開すぎるので我々観客もものすごく動揺します。そして、彼に孤独や悲しみを癒やしてもらった人々は、果たして逆に彼の孤独や悲しみを理解してあげられていたのか。そういう重たい問いを見る者に突きつけるんです。決して不親切にしてたわけじゃないんですが。 なかざわ:誰でも少なからず身に覚えがある話ですよね。どうしても人間って自己中心的になってしまいますから。 飯森:僕なんかは自己中の中でも一番重症なタイプでいつも胴間声でわめき散らしている典型的クソ野郎なので、まさに自分が批判されているような気になりましたね。本当すいません(笑)。 なかざわ:あと、この作品は手話のシーンでいちいち説明を入れませんよね。ろうあ者同士が手話で話をするシーンでも、恐らく日本映画だったら字幕スーパーを入れたり、もしくは会話の内容を観客のために訳する第三者を登場させたりすると思うのですが、この作品では一切説明しない。あくまでも観客の想像力や読解力に任せている。そこは素晴らしいと思いました。 飯森:確かに説明過多な映画って観客をバカにしているとしか思えませんからね。あの時代はお客さんと作り手の共犯関係というか、この程度ほのめかせば分かる人は分かってくれるし、分からなくても意図は理解できるよねという、お互いに信頼し合える“大人のもの作り”が出来ていたと思うんですよ。それから、この映画のタイトルにある“心さびしく”というのは、もちろん主人公のことでもあるけれど、同時に時代を映し出す言葉でもある。例えば、当時は公民権法(注9)が成立したとはいえ、まだまだ黒人への差別が酷かった。なので、この作品にも理不尽な差別を受ける黒人であったり、白人を心の底から憎む黒人の知識人が出てきますよね。 なかざわ:あの頃の映画で「ある戦慄」(注10)ってありましたけど、あの作品にも白人に凄まじい憎しみを向ける黒人が出てきました。あと、ステイシー・キーチ(注11)が演じている流浪人は、仕事にあぶれた元軍人という設定でしたけど、そこにはベトナム戦争の影みたいなものも感じられます。 飯森:それと格差の問題ですよね。そういう暗い影が社会全体を覆っていて、その中で主人公は人々にささやかな癒やしを与えるわけですが、これは今だからこそ再び共感できるテーマになったと思うんですよ。ヘイトスピーチや格差、テロに戦争と、何かにつけてギスギスした今の世の中で、この主人公のように静かで心配りのできる人がいたらいいなと思うし、実際に、僕らのすぐ隣にいそうに思うんですよね。 注8:1968年制作、アメリカ映画。ロバート・エリス・ミラー監督、アラン・アーキン主演。注9:人種や宗教、性別などによる差別を禁止した法律。1964年に成立した。注10:1967年制作、アメリカ映画。様々な社会階級や職業、人種の人々が乗り合わせた地下鉄車両が、2人の無軌道な暴漢によって占拠されてしまう。危機に直面することで人間の偽善が暴かれていくという社会派ドラマ。ラリー・ピアース監督、トニー・ムサンテ主演。注11:1941年生まれ、アメリカの俳優。代表作は「ロイ・ビーン」(’72)、「ロング・ライダーズ」(’80)、「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」(’13)など。 次ページ >> マジック・クリスチャン 『愛すれど心さびしく』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『マジック・クリスチャン』COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『ラスト・ウェディング』©2016 by Silver Turtle Films. All rights reserved. 『ビザと美徳』©1997 Cedar Grove Productions. 『暗い日曜日』LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED
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PROGRAM/放送作品
エンドレス・ラブ
会えないほど、引き裂かれるほど思いは募る…、うら若きカップルの悲恋のラブストーリー
絶世の美女と評されたブルック・シールズ主演。監督は「ロミオとジュリエット」など古典劇映画やオペラの演出で有名なフランコ・ゼフィレッリ。ダイアナ・ロスとライオネル・リッチーが歌う主題歌が大ヒットした。
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COLUMN/コラム2016.03.10
男たちのシネマ愛⑤愛すべき、極私的偏愛映画たち(3)
なかざわ:次は「マジック・クリスチャン」(注12)の話をしましょう。 飯森:これは翌1969年の映画ですね。「愛すれど心さびしく」とは全く印象の異なる映画ですけれど、当時の政治の匂いがするという意味では根底に似たものがあると思います。 なかざわ:かなりふざけた映画ですけれどね(笑)。原作と脚本を手がけたのは、スタンリー・キューブリック(注13)の「博士の異常な愛情」(注14)の脚本でアカデミー賞候補になったテリー・サザーン(注15)。この人は「キャンディ」(注16)の原作も書いているんですけれど、ノリはほとんど一緒です。 飯森:あれもオシャレなだけでワケ分からない映画でしたよね。 なかざわ:そういう意味では作家の個性が出ていると言えるかもしれません。 飯森:ジョン・クリーズ(注17)とかモンティ・パイソン(注18)の連中が脚本に参加していますよね。 なかざわ:本編にはクレジットされていませんけれど、確かに参加しています。 飯森:だから、モンティ・パイソンのコントみたいなノリのエピソードが次々と出てくる。首尾一貫してストーリーを語るというよりは、そういったシュールな風刺ギャグの羅列で権威をおちょくる作品だと思います。 なかざわ:1969年という時代背景もあってか、資本主義や権威といったものを小バカにしているところはありますね。当時の学生運動(注19)みたいにアグレッシブに叫ぶのではなくて、権力の欺瞞や愚かさを嘲笑っているあたりが英国映画らしいなと思います。 飯森:僕は大学に通っていた頃、つまり’90年代後半なんですけれど、あの時代にすごく憧れていたんです。たまに若者で親の時代にむしろシンパシーを感じてしまう人っているじゃないですか。僕も、当時のリアルタイムな流行にはどうしても乗れなくてシラケていた。いま思い返すと’90年代こそ戦後最良のディケイドだったとしみじみ思いますけどね。冷戦に我々資本主義陣営が勝って9.11の前で、テロなんて遠い第三世界の出来事で、平和と豊かさを謳歌していた。バブルが崩壊してもそれは一時のもので、まさか東側が言ってた通りに、マネー資本主義が暴走して格差が構造化し固定化するなんて夢にも思わなかった。あんなに豊かな時代は戦後なかったと、当時もまた過ぎ去って歴史となった今なら客観的に分かる。でも、リアルタイムで当時を生きていた時は、そういう一歩引いた観察ができなかった。逆に、昔ってなんてカッコいいんだろう!と思っていたんです。中でも特に憧れたのが、’60年代末の数年間なんですよね。革命的で、理想に燃えてて、オシャレで。 なかざわ:僕もその時代に対して憧れる気持ちが強いんですけれど、それは自分自身が’68年生まれだということがあるんです。でも飯森さんはもっとお若いですよね。 飯森:僕はベトナム戦争が終わった年の’75年生まれですから、政治の季節が終わり、もう革命とか理想とかはどうでもいいやと。難しいことは分かんないけど楽しけりゃ何だっていいじゃんという、「モーレツからビューティフルへ」(注20)なんて言われたノンポリ時代の幕開け。今に続く時代の原点です。ちょっと、そういう考え方には個人的にカチンとくるものがあるので、あの時代にはそれほど魅力を感じない。僕が最も惹かれるのは’67年~’69年までの3年間。反戦運動(注21)や公民権運動(注22)、サイケデリック文化(注23)などが世界を席巻していた、まさしく政治の季節、革命と理想の時代ですね。その幕開けというのが、サマー・オブ・ラブ(注24)と呼ばれた1967年で、ピークが’69年夏のウッドストック(注25)だった。でも、同年のニクソン(注26)就任やマンソン・ファミリー事件(注27)、そして年末のオルタモント(注28)などで、’60年代とともに革命の夢は終わってしまう。そういう時代に対する憧憬が強かったこともあって、大学時代は手当たり次第に当時の映画を見たんですけれど、その一つが「マジック・クリスチャン」だったんです。さすがに40歳となった今では大学時代のような情熱はありませんが、その一方で、この時代の映画を見ると当時が懐かしいなと思うんですよね。 なかざわ:いやいや、40歳の人が懐かしむ時代じゃないと思いますけれど(笑)。 飯森:’60年代後半が懐かしいのではなくて、’60年代後半に憧れていた’90年代後半の自分が懐かしいんです。古着のベルボトムを履いて、長髪にして、下駄を履いて大学に行ってましたから。「ベトナム戦争反対!」とか意味不明なことを言って。湾岸戦争もとっくに終わっていた時代なのに(笑)。 なかざわ:完全に時代を間違えてたんですね(笑)。それにしても、この映画は不発弾的なギャグも多いように思います。 飯森:まあ、そもそもモンティ・パイソンのギャグって不発なのか、それともわざと笑うに笑えないのか分からないものが多いですけどね。爆笑するようなギャグじゃない。この作品もそういうところがある。 なかざわ:ハムレット(注29)がストリップを始めるシーンなんかも、確かに面白いんだけれど意味が分からない(笑)。恐らくシェイクスピアという演劇界の権威と、それを崇め奉る権威主義者をおちょくっているのかもしれませんが。 飯森:革命の時代と言われた当時、長いこと権力の座にふんぞり返ってきた連中を、革命側の視点から揶揄した作品であるということを念頭に入れないと、ちょっと分かりづらい映画ではあるかもしれませんね。あと、いろいろな有名人が意外なところに出てきたり、ビートルズ(注30)が音楽に絡んでいたりと、話題が尽きない作品でもありますね。主演はリンゴ・スター(注31)ですし。音楽はビートルズじゃないんでしたっけ? なかざわ:音楽はポール・マッカートニー(注32)の作曲で演奏はバッドフィンガー(注33)というロックバンドですね。それから、豪華客船マジック・クリスチャン号(注34)の乗客の中に、ジョン・レノン(注35)とヨーコ・オノ(注36)が混じっている。あくまでもソックリさんで本人たちじゃないんですけれど。 飯森:それは気付かなかった!にしても、ビートルズ解散直前に、リンゴの主演映画で、またずいぶんと見てる方がヒヤヒヤすることをしますね。ヨーコねたでイジるってのはあの時期ヤバいくないですか?あと、ロマン・ポランスキー(注37)とか、ラクエル・ウェルチ(注38)は本人がカメオ出演していますね。この時ポランスキーは例のマンソン・ファミリー事件に巻き込まれてしまうちょうど前後ごろじゃないかな…。そして、白黒の燕尾服着たウェイターかと思いきやドラキュラだったというオチのクリストファー・リー(注39)も(笑)。 なかざわ:リチャード・アッテンボロー(注40)もボートレースチームのコーチ役で出ていましたし。ストリップするハムレットは、天下の二枚目だったローレンス・ハーヴェイ(注41)。 飯森:よくぞこれだけ集めたという豪華キャスト。もう1人の主演は時代の顔ピーター・セラーズですしね。こんな変な意味不明のシュールな映画に、そうそうたる有名人が嬉々として集まるというのも、いかにも’69年らしい。 注12:1969年制作、イギリス映画。ジョゼフ・マクグレイス監督、ピーター・セラーズ主演。注13:1928年生まれ。イギリスの監督。代表作は「スパルタカス」(’60)、「2001年宇宙の旅」(’68)、「時計じかけのオレンジ」(’71)など。1999年死去。注14:1964年制作、アメリカ・イギリス合作。愚かな政治家や軍人によって米ソが核戦争の危機に直面する様を描いた風刺コメディ。スタンリー・キューブリック監督、ピーター・セラーズ主演。注15:1924年生まれ。アメリカの作家。映画やテレビの脚本家としても活躍。1995年死去。注16:1968年制作、アメリカ・イギリス・イタリア合作。小悪魔的美少女キャンディが出会う男たちを次々と振り回していく。クリスチャン・マルカン監督、エヴァ・オーリン主演。注17:1939年生まれ、イギリスの俳優・脚本家。喜劇集団モンティ・パイソンのメンバーとしても有名。注18:イギリスの喜劇集団。テレビシリーズ「空飛ぶモンティ・パイソン」(‘69~’74)で一世を風靡し、「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」(’74)などの映画もヒットさせている。注19:‘60年代後半は世界各国で左翼系学生によるデモ運動が活発化。日本では1968年の東大闘争が有名。注20:藤岡和賀夫による1970年の富士ゼロックスの広告コピー。60年代の高度経済成長期、“モーレツ社員”や“Oh!モーレツ”など、「モーレツ」を時代のキーワードに掲げて遮二無二働き、政治的にもアグレッシヴだった日本人の価値観の転換を予言し、流行語となった。注21:当時はベトナム戦争に反対する運動が世界中で広がった。注22:アフリカ系アメリカ人が人権の適用と人種差別の撤廃を求めて行なった大衆運動。’50~’60年代に活発だった。注23:‘60年代半ばから’70年代初頭にかけて、アメリカの西海岸を中心に世界へ広まったムーブメント。覚せい剤の効果による視覚や聴覚のイメージを、アートや音楽として表現する。注24:サンフランシスコで10万人におよぶヒッピーの若者が集会を開くなど、全米各地でヒッピー・カルチャーが最高潮に達した1967年夏のこと。注25:1969年8月15日から17日にかけて開催された野外コンサート。全米からヒッピーが結集し、グレイトフル・デッド、ジャニス・ジョプリン、ジェファーソン・エアプレイン、ジミ・ヘンドリックスなどサイケ・ロックのミュージシャンが大挙出演し、観客は雨で泥まみれになりながら、フリーセックスやマリファナでラブ&ピースを謳歌した。注26:第37代アメリカ合衆国大統領。1969年1月に就任。政権による盗聴などの違法活動が明るみとなったウォーターゲート事件で’74年に失脚した。注27:チャールズ・マンソン率いるヒッピーのカルト集団“ファミリー”が、1969年8月に、映画監督ロマン・ポランスキーの妻で妊娠8ヶ月だった女優シャロン・テートら5人の男女を無差別に惨殺した。注28:1969年12月6日に開催されたローリング・ストーンズ主催の野外コンサート。東のウッドストックに対抗する西のラブ&ピースなコンサートを目指したが、反体制へのこだわりから会場警備に暴走族を起用し、そのメンバーがストーンズの演奏の真っ最中に興奮した黒人観客を刺し殺した。これに事故死も含め4人もの死者を出し、ラブ&ピースの理想の挫折を印象付けた。世に“オルタモントの悲劇”と呼ばれる。注29:シェイクスピアの代表的な戯曲「ハムレット」の主人公。注30:イギリスのロックバンド。’60年代に世界中で大ブームを巻き起こし、ポピュラー音楽史上最も成功したグループとされる。1970年に解散。注31:1940年生まれ。イギリスのミュージシャンでビートルズの元メンバー。メンバーの中で最も映画出演に精力的で、本作以外にも「キャンディ」(’68)、「リストマニア」(’75)、「おかしなおかしな石器人」(’81)などに出演。注32:1942年生まれ。イギリスのミュージシャンでビートルズの元メンバー。ジョン・レノンと共に同バンドの楽曲の多くを作った。注33:1968年にデビューしたイギリスのロックバンド。当初はビートルズの弟分的な存在だった。84年解散。注34:劇中に出てくる架空の豪華客船。注35:1940年生まれ。イギリスのミュージシャンで元ビートルズのメンバー。’80年にファンに射殺された。注36:1933年生まれ。日本出身の芸術家でミュージシャン。1969年にジョン・レノンと結婚した。注37:1933年生まれ。ポーランドの映画監督。代表作は「ローズマリーの赤ちゃん」(‘68)、「テス」(’79)、「戦場のピアニスト」(’02)など。妻シャロン・テートをマンソン・ファミリーに惨殺された。注38:1940年生まれ。アメリカの女優。グラマラスな肉体で一世を風靡した。代表作は「恐竜100万年」(’66)、「マイラ」(’70)、「三銃士」(’73)など。注39:1922年生まれ。イギリスの俳優。ドラキュラ俳優として一世を風靡する。代表作は「吸血鬼ドラキュラ」(’58)、「007 黄金銃を持つ男」(’74)、「ロード・オブ・ザ・リング」(’01)、「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」(‘05)、「ホビット 思いがけない冒険」(’12)など。2015年死去。注40:1923年生まれ。イギリスの俳優・監督。俳優としての代表作は「大脱走」(’63)、「ジュラシック・パーク」(’93)など。監督としても「遠すぎた橋」(’77)や「ガンジー」(’82)などの名作を発表。2014年死去。注41:1928年生まれ。イギリスの俳優。代表作は「ロミオとジュリエット」(’54)、「年上の女」(’58)、「影なき狙撃者」(’62)など。1973年死去。 次ページ >> テイル・オブ・ワンダー 『愛すれど心さびしく』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『マジック・クリスチャン』COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『ラスト・ウェディング』©2016 by Silver Turtle Films. All rights reserved. 『ビザと美徳』©1997 Cedar Grove Productions. 『暗い日曜日』LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED
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PROGRAM/放送作品
カクテル
トム・クルーズが華麗なバーテンダーに!大都市NYで一攫千金を夢見る青年の愛と友情を描く青春劇
成功を夢見てニューヨークにやってきた青年が、挫折を経て「本当に手に入れるべきもの」を見つける青春映画。劇中、バーテンダーを演じたトム・クルーズが華々しいカクテルパフォーマンスを披露する。
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COLUMN/コラム2016.03.15
男たちのシネマ愛⑤愛すべき、極私的偏愛映画たち(4)
なかざわ:続いて「テイル・オブ・ワンダー」(注42)に移りましょう。 飯森:これまた思い入れの強い映画でしてね。最初に申し上げた、SDで素材に難あり、というのはこの映画のことで、これはお客さん以上に、この映画に思い入れがある担当の僕自身が一番残念です!モスフィルム(注43)さんは本作のHDテレシネをしていないんですが、ただ、それでも構わないから今回放送したかった。このまま「風と共に去りぬ」(注44)じゃないけれど「VHSと共に去りぬ」っていう映画にしてなるものか!と思うほど、強い思い入れがあるんです。僕は大学時代、日本屈指の新宿TSUTAYAを利用していて、もちろんVHS時代でしたが、そこにはロシア・東欧映画コーナーがあったんですよ。僕は大学でロシア・東欧が専攻だったので、そこでいろんな映画を借りて見ました。その中で最も気に入った作品がこの「テイル・オブ・ワンダー」だったんです。当時はロシアや東欧に対して愛着があったせいか、そうした映画を見ているとひいき目に評価してしまう傾向があった。ハリウッド映画には負けるかもしれないけれど、なかなかどうして頑張っているじゃないか!みたいな。今となっては、なんで観客の方からわざわざ歩み寄って甘く採点しなくちゃいけないのか意味が分かりませんけどね。金払ってんだから映画の方が俺にサービスしろよと(笑)。しかし、この映画はえこひいきするまでもなく完膚なきまでに面白くて、ソ連時代のロシアでこんなに凄い映画があったのかと衝撃を受けました。幼い姉と弟のきょうだい愛であったり、ファンタジックなストーリーであったり、感動を盛り上げる美しいテーマ音楽であったり、流麗なカメラワークであったりと、どれを取っても一級のエンターテインメントに仕上がっています。 なかざわ:さらわれた弟を探して姉が冒険の旅をするという話ですが、これってベースになっているのはアンデルセン(注45)の「雪の女王」(注46)ですよね。いうなればバリエーション的な作品。「雪の女王」の場合はきょうだいじゃなくて幼なじみでしたけど、さらわれた男の子を勇敢で意志の強い少女が探し出すという設定は同じ。「雪の女王」は1957年にロシアでアニメ化されていて、日本の宮崎駿監督(注47)にも影響を与えたとされています。 飯森:そもそもロシアという国自体も民話や昔話が名物ですよね。ロシア語ではСказка(スカースカ)と言いますが。ちなみにMärchen(メルヘン)はドイツ語。 なかざわ:実際、ロシアでファンタジー映画といえば殆どが民話を原作にしています。アレクサンドル・プトゥシコ(注48)監督の「石の花」(注49)とか。 飯森:プトゥシコだと「豪勇イリヤ 巨竜と魔王征服」(注50)というのもありました。日本でいうヤマトタケルみたいな民族の英雄譚で、エキストラにソ連軍も動員した大スペクタクルでした。ロシアの邪馬台国と言うべきキエフ・ルーシを舞台にしていて、我々にもおなじみの中世ヨーロッパとは明らかに違う武器防具、衣装、城郭が見られ、それを見ているだけでエキゾチックで全く飽きなかった。専攻だったから。大学で専攻するほど興味関心がないと…まぁ、ちょいキツい映画かもしれませんね。ストーリーは単なる昔話で桃太郎みたいな話ですから。あとは総合監督を務めた「妖婆・死棺の呪い」(注51)。こっちはカルト・ホラーとして日本でも一部で人気ですよね。女吸血鬼と思しきコサックの死せる娘が、やたらと美人でね。あと、ヒエロニムス・ボッシュ(注52)的な魑魅魍魎のイメージが、なんともケイオティックで凄まじかった!ケイオスの魔物が幽冥界から溢れ出てくるそこがクライマックスで、あのイメージは圧巻でした。 なかざわ:ただ、ロシアでは昔からファンタジー映画は子供向けのジャンルで、大人が観るものじゃないという偏見も強いんです。だから、確かにソ連時代からロシアでファンタジー映画はコンスタントに作られてきたけれど、その多くが見るからに子供向けです。しかし、この「テイル・オブ・ワンダー」は大人の鑑賞にも耐えうる作品に仕上がっている。そういう意味で、非常に珍しいなと思いますね。 飯森:日本でも「ロード・オブ・ザ・リング」(注53)シリーズなどを「絵空事を描いた映画なんて見ても時間の無駄。本当の人間を深く描いた、上質なドラマこそ見たい」とか言っちゃってる人って、結構いるじゃないですか。まあ個人の趣味なのでそれはそれでいいですよ。上質な人間ドラマは僕も当然良いと思いますから。でも、ファンタジー映画を下等で幼稚なものとして否定されちゃうと、「そぉれぇはぁどうかなぁ!」と、声を大にして反論したい。人間が頭の中でどれだけの空想や虚構を組み立てられるのか、そこがファンタジーの醍醐味ですよね。J・R・R・トールキン(注54)なんて凡人の千倍くらいは想像力があるんじゃないかと思えるような緻密さじゃないですか。それはもはや、一つの芸術ですよ。エルフ語なんていう言葉まで作っちゃうわけだから。しかも、デタラメじゃなくて、本職がオックスフォード大学の古言語の教授ですからね。それが架空の言語の文法体系を一つ作っちゃう。人間の想像力の素晴らしさ、限界のなさに圧倒される。それが、ファンタジー映画を見る意味でしょう。 なかざわ:イマジネーションの世界を楽しめるくらいの余裕というか、感受性みたいなものは大人になっても身につけておきたいですよね。 飯森:とにもかくにも、ロシアは立派なメルヘン大国。日本人だとグリム兄弟(注55)のドイツや、アンデルセンのデンマーク辺りを連想する人が多いかもしれませんけれど、僕が子供だった’70年代には左寄りの出版社がまだ多かったからなのか、「イワンのばか」(注56)などロシア民話の絵本が結構出ていました。実際、ドイツやデンマークに負けないくらい有名な民話が沢山あるんです。そんなおとぎ話大国ロシアの作ったファンタジー映画。ゴールデンタイムの目玉番組として放送しても恥ずかしくない、堂々たる娯楽大作だと思いますよ。画質が汚すぎて無理ですけど。 なかざわ:主役の女の子タチアナ・アクシュタ(注57)も可愛いですしね。彼女はちょうど当時のロシアで旬な女優さんだったんですよ。この作品の前に、現代ロシア版ロミオとジュリエットみたいな青春映画で高校生のヒロイン役を演じてブレイクしたんです。 飯森:え? 彼女って当時幾つだったんですか? 僕は12歳か13歳くらいかと思ったんですけど。 なかざわ:この作品の撮影当時で25歳くらいですよ。確か1957年の生まれですから。 飯森:えええええ!?…ちょっと言葉を失ってしまいました。大衝撃ですよ。ロリ顔とかいうレベルの話じゃないですね。でも、そう言われると成長してからのシーンで老けメイクみたいなものをしてませんよね。 なかざわ:髪型で演じ分けていますね。幼い頃は前髪を下げているけれど、成長してからはおでこを出している。それで大人っぽく見せているんですよね。とにかく、僕もこれはロシア産ファンタジー映画の入門編として見て欲しいと思いますね。 飯森:ちなみに監督はアレクサンドル・ミッタ(注58)。栗原小巻(注59)さんが出ていた「モスクワわが愛」(注60)とか「エア・パニック-地震空港大脱出-」(注61)などでも知られている。巨匠ではないかもしれないけれど、日本でも比較的知名度の高い監督だと思います。 なかざわ:ジャンルを問わずきちんと仕事をする職人監督ですね。 注42:1983年制作、ソビエト映画。アレクサンドル・ミッタ監督、タチアナ・アクシュタ主演。注43:1923年に創設された旧ソ連の映画スタジオで、日本で知られるソ連・ロシア映画の多くがここで制作された。注44:1939年制作、アメリカ映画。南北戦争を背景に、農園主の令嬢スカーレット・オハラと一匹狼の紳士レット・バトラーの波乱に富んだ恋愛を描く。アカデミー賞9部門受賞。ヴィクター・フレミング監督、ヴィヴィアン・リー主演。注45:ハンス・クリスチャン・アンデルセン。1805年生まれ。デンマークの童話作家。代表作は「人魚姫」「みにくいアヒルの子」「マッチ売りの少女」など。1875年死去。注46:1844年発表。雪の女王にさらわれた少年カイを探して、友達の少女ゲルダが旅をする。注47:1941年生まれ。日本のアニメ監督。代表作は「風の谷ナウシカ」(’84)、「となりのトトロ」(’88)、「魔女の宅急便」(’89)、「もののけ姫」(’97)など。注48:1900年生まれ、旧ソ連映画界を代表する、ストップモーション・アニメと特撮映画のクリエーター。1973年死去。注49:1946年制作、ソビエト映画。ロシアのウラル地方の民話を基にしている。ウラジーミル・ドルジニコフ主演。注50:1956年制作、ソビエト映画。ソ連初のシネマスコープ長編映画で、大量のエキストラや馬を動員したスペクタクル・シーンや、後に日本のキングギドラに影響を与えた巨竜の造形など見どころが多い。VHSリリース時のタイトルは「キング・ドラゴンの逆襲/魔竜大戦」。注51:1967年制作、ソビエト映画。神学生が魔女を退治したところ、後日、その魔女から臨終に立ち会うよう指名された神学生が、恐怖を味わう。ナタリーア・ヴァルレイ出演。注52:15世紀北方ルネサンスの画家。絵画史上は初期フランドル派に分類される。異様な怪物たちを細かく描き込んだ妖怪画を得意とする。注53:2001年制作、アメリカ・ニュージーランド合作。J・R・R・トールキン原作の「指輪物語」を映画化。ピーター・ジャクソン監督、イライジャ・ウッド主演。注54:1892年生まれ。イギリスの作家・詩人。代表作は「ホビットの冒険」と「指輪物語」。1973年死去。注55:19世紀ドイツの童話作家。兄ヤーコブは1785年生まれ、1863年死去。弟ヴィルヘルムは1786年生まれ、1859年死去。「グリム童話集」が世界的に有名。注56:1885年にロシアの作家レフ・トルストイが発表した民話。注57:1957年生まれ。ロシアの女優。代表作は「夢にも見てはいけない…」(‘81・日本未公開)と「テイル・オブ・ワンダー」(’83)。注58:1933年生まれ。ロシアの映画監督。ソビエト・日本の合作映画を幾つも手がけるなど、日本との縁も深い。注59:1945年生まれ。日本の女優。代表作は「忍ぶ川」(’72)、「サンダカン八番娼館 望郷」(’74)、「ひめゆりの塔」(’82)など。ロシアでの人気も高かった。注60:1974年制作、ソビエト・日本の合作。モスクワへ渡った日本人バレリーナと現地の青年芸術家とのロマンスを描く。アレクサンドル・ミッタ監督、栗原小巻主演。注61:1980年制作、ソビエト映画。旅客機パニックを描くロシア版「エアポート」シリーズ。アレクサンドル・ミッタ監督で、栗原小巻が特別ゲストとして出演。 次ページ >> ラスト・ウェディング 『愛すれど心さびしく』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc. 『マジック・クリスチャン』COPYRIGHT © 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『ラスト・ウェディング』©2016 by Silver Turtle Films. All rights reserved. 『ビザと美徳』©1997 Cedar Grove Productions. 『暗い日曜日』LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED