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COLUMN/コラム2014.06.03
映画の中のリゾートガイド
■『マンマ・ミーア!』 『マンマ・ミーア!』は、伝説のポップグループABBAの大ヒットナンバーでつづられた、最高にハートフルなミュージカル映画!結婚式を目前に控えた20歳の娘・ソフィと、メリル・ストリープ演じる母親のドナ、そして父親を名乗る3人の男性が繰り広げる騒動を描いた作品です。 舞台は、ギリシャの架空の小島・カロカイリ島。撮影の多くはエーゲ海に浮かぶ美しいリゾート地・スコペロス島で行われました。澄み切った海と白い砂、松やオリーブの木にいだかれたこの美しい島は、隠れ家的なリゾートとして、世界中の人々に愛されている場所。ソフィや婚約者のスカイたちが砂浜で激しく踊るシーン、ドナの親友・ターニャと島の若者のダンスシーンなど、美しい海辺の場面が撮られたのは、島の西側にあるカスタニビーチ。透明な海に浮かぶ印象的な桟橋は、撮影時に特別に作られたということです。ギリシャの青い空と海、そしてさんさんと降り注ぐ明るい太陽の下で繰り広げられる名シーンの数々は、見ているだけでハッピーな気分になれること請け合いです! ※『マンマ・ミーア!』桟橋シーン ※スコペロス島の風景 ▼「スコペロス島」プチ情報スコペロス島は、エーゲ海北西部のスポラデス諸島にあるギリシャの島。スコペロスはギリシャ語で「岩」の意味だが、肥沃な土地で緑も多く、アーモンドの産地として知られている。島内には350もの教会が点在している。 ▼アクセス方法日本からは、ヨーロッパの都市を経由してアテネへ向かい、国内線でスキアトス島へ。スキアトス島からスコペロス島へは船で1時間。(ほかに、ヨーロッパの都市からスキアトス島への直行便もある)ギリシャ中央に位置する港町・ヴォロスからスコペロス島へは船で2時間ほど。 ■『食べて、祈って、恋をして』 『食べて、祈って、恋をして』は、ジャーナリストとして活躍するヒロインが、離婚と失恋の後に、自分を見つめ直すために出かけた旅の日々を描いた作品です。 おいしい料理を堪能したイタリア、ヨガと瞑想に励んだインド…そしてジュリア・ロバーツ演じる主人公のリズが旅の最後に訪れたのが、「神々の島」と呼ばれるインドネシアのバリ島。彼女が過ごしたのが、バリ島の文化の中心地でもある山あいのリゾート地・ウブドです。ウブドでは稲作が盛んで、あちこちで青々とした美しいライステラス(棚田)を見ることができます。さらにはジュリアが颯爽と自転車で通り抜けるヤシの林、野生の猿が200匹も生息するという自然保護区「モンキーフォレスト」など、あふれる豊かな自然が人々を癒してくれるんです。パワフルなウブドの生活を肌で感じたければ、村のランドマーク、お土産や雑貨が揃う「パサール・ウブド」もはずせません! 見ているだけでリゾート地・バリ島の空気を満喫出来る、オススメの一本です! ※『食べて、祈って、恋をして』美しいライステラスシーン ※バリ島 ▼「ウブド」プチ情報ウブドは、バリ島中部にある古くからのリゾート地であり、バリ文化の中心地。ガムラン、バリ舞踊、バリ絵画、木彫り、石彫り、銀細工など、あらゆるバリの芸能・芸術を堪能出来る。豊かな自然でも知られ、素朴な田園風景や渓谷も大きな魅力。 ▼アクセス方法日本からはバリ島・デンパサール国際空港へ。空港から車で1時間。南部のリゾートエリアのクタまで車で1時間。さらにヌサドゥアから車で1時間半。 ■『黒いオルフェ』 『黒いオルフェ』は、ギリシャ神話の悲劇「オルフェウス伝説」を、現代のブラジルによみがえらせ、カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた名作です。舞台は、今年2014年、サッカーワールドカップが開催される情熱の街・ブラジルのリオデジャネイロ。作品では、この地で行われる世界最大の真夏の祭典・リオのカーニバルを軸での出来事が描かれています。 カーニバルは世界各地で行われていますが、その中でリオのカーニバルはもっとも熱狂的といわれています。年に一回、2月から3月上旬、土曜日から火曜日にかけての4日間にわたって繰り広げられるこのカーニバルには、世界中から観光客が押し寄せます。お目当ては、ほかでは体験できないダイナミックな音楽とリズム、そして華やかな衣装であふれるパレード!この作品では、随所に実際のカーニバルの映像が使われ、サンバのリズムに合わせて歌い、踊る人々の熱気がスクリーンから伝わってきます。地球の裏側で行われる華麗なカーニバルの気分を楽しむにはもってこいの映画です。 ※『黒いオルフェ』リオのカーニバルシーン ※リオのカーニバル ▼「リオデジャネイロ」プチ情報リオ・デ・ジャネイロは、サン・パウロに次ぐブラジル第二の都市。華やかなカーニバル、ビーチリゾート、世界三大美港のひとつと言われるグアナバラ湾の景観などで知られる観光地。2014年のサッカーワールドカップ、2016年の夏季オリンピックの開催地にも選ばれた。 ▼アクセス方法日本からはアメリカやカナダ、ヨーロッパの都市を経由してリオデジャネイロ国際空港へ。所要時間は25〜30時間ほど。 ■『マレーナ』 『マレーナ』は、第二次大戦中のシチリア島を舞台に、悲劇的な運命をたどる女性・マレーナの生き様を、彼女に恋する少年の目を通して描いた人間ドラマです。撮影の多くが行われたのは、地中海のリゾート・シチリア島にあるシラクーサ。美しいリゾート地として知られると同時に、3000年以上の歴史を持つ古都の魅力も持ち合わせています。随所に見られるギリシャ・ローマ時代の遺跡の多くは、2005年、世界遺産にも登録されました。シラクーサは、大きな橋をはさんで、新市街と旧市街のオルティージャに分かれています。オルティージャは、町の発祥の地といわれ、石造りの建物が立ち並ぶ風情あふれる場所です。オルティージャの中心にあるのが、街のシンボル・ドゥオーモ広場です。バロック様式の荘厳なドゥオーモが見下ろすこの広場は、少年がモニカ・ベルッチ演じるマレーナの思い出を心に刻み付ける印象的な場所として登場します。ゆったりとした時間が流れるロマンチックなリゾート・シラクーサを、作品を通じて味わってみては? ※『マレーナ』のワンシーン ※シラクーサ ドゥオーモ広場 ▼「シラクーサ」プチ情報シラクーサは、イタリアのシチリア島南東部に位置する都市。古代ギリシャ時代にアテネと共に繁栄を誇ったと言われ、数学者アルキメデスの生地でもある。太宰治の『走れメロス』の舞台としても知られる。ギリシャ・ローマ時代の遺跡が数多く残り、世界遺産にも認定された。 ▼アクセス方法日本からはローマ、ミラノ経由でシチリア島のカターニャ空港へ。空港からシラクーサへはバスで1時間20分ほど。 ■『フレンチ・キス(1995)』 『フレンチ・キス(1995)』は、旅先で恋に落ちた婚約者を追いかけて、フランスをめぐるアメリカ人女性を描いたロマンチック・コメディです。メグ・ライアン演じる主人公・ケイトが、詐欺師のリュックと一緒に婚約者を追いかけた先は、南仏のカンヌ。国際映画祭が開催される街としても世界的に知られています。カンヌをふくむ地中海に面した一帯は「コート・ダジュール」=「紺碧海岸」と呼ばれ、その名の通り、紺碧の海に明るい太陽がふりそそぐ、ヨーロッパ随一のリゾート地!ケイトが大騒動を巻き起こすのが、カンヌの中心にそびえ立つセレブ御用達の豪華なリゾートホテル、インターコンチネンタル・カールトン・カンヌ。映画祭の開催期間中は著名な映画人がこぞって宿泊するとか。美しい建物とビーチ。その明るく開放的な空間が、ケイトとリュックの距離を急速に縮める大きな役割を果たしていると言えそうです。恋も実る憧れのリゾート、コート・ダジュール。あなたもぜひ一度、映画で体験してください。 ※『フレンチ・キス(1995)』様子を伺うメグ・ライアン ※コート・ダジュール ▼「カンヌ」プチ情報カンヌは、フランス南東部の地中海に面する都市のひとつ。もともとは小さな漁港だったが、今ではヨーロッパ有数のリゾート地として知られる。毎年5月のカンヌ国際映画祭の開催地として世界的に有名。 ▼アクセス方法日本からは、ヨーロッパの都市を経由してニース・コート・ダジュール国際空港へ。空港からカンヌへは車で1時間程度。 ■『太陽がいっぱい』 『太陽がいっぱい』は、アラン・ドロン演じる貧しい青年・トムが大富豪の放蕩息子・フィリップをねたんで犯罪を計画、彼になりすまして財産を奪おうと画策するサスペンス映画です。フィリップが住むというモンジベロは架空の町。撮影の多くは、ナポリ湾に浮かぶイスキア島で行われました。イスキア島は、青い海と輝く太陽、そしてリラックスを求める人々でにぎわう大人気のリゾート地です。この島に来たらはずせないのが、地中海の豊かな自然を満喫できるクルージング!トムとフィリップもヨットで美しい海へと繰り出しますが、眩しく明るい陽光と、その下で行われる恐ろしい犯罪が、見事な対比を生み出しています。魚市場の場面は、「ナポリを見て死ね」と言われるほど風光明媚な港町・ナポリで撮影されています。人々の活気と彩りに満ちた市場で、アラン・ドロンの持つ影と、憂いを帯びた美しさが際立つ名シーンが生まれました。スリリングな犯罪と一緒に味わう地中海の明るい大自然、いつもとひと味違うリゾート体験ができるのでは? ※『太陽がいっぱい』ヨットのワンシーン ※イスキア島 ▼「イスキア島」プチ情報イスキア島は、イタリア・ナポリ湾内で一番大きな島。火山活動で出来た島で、別名「緑の島」と呼ばれるほど自然が豊か。至る所にわく温泉でのんびりできるほか、ビーチも楽しめる人気のリゾート地。 ▼アクセス方法日本からは、ローマやミラノ経由でナポリ・カポディキーノ空港へ。ナポリ港からイスキア島へは高速船で50分ほど。 『マンマ・ミーア!』© 2008 Universal Studios. All Rights Reserved.『食べて、祈って、恋をして』© 2010 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.『黒いオルフェ』ORFEU NEGRO ©1959 Dispat Film. All Rights Reserved.『マレーナ』© 2000 Medusa Film spa—Roma『フレンチ・キス(1995)』FRENCH KISS ©1995 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved『太陽がいっぱい』© ROBERT ET RAYMOND HAKIM PRO. / Plaza Production International / Comstock Group
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COLUMN/コラム2014.01.01
2014年1月のシネマ・ソムリエ
■1月11日『ザ・ローリング・ストーンズ・ア・ライト』 ロック通の巨匠M・スコセッシと、ザ・ローリング・ストーンズのコラボレーションが実現。2006年、ニューヨークのビーコン・シアターで行われたライブの記録映画だ。 『JFK』のロバート・リチャードソンなど、ハリウッドの一流撮影監督が多数参加。カメラ18台を駆使した見事なカット割りの映像で、ストーンズの熱い演奏を見せる。 バディ・ガイ、ジャック・ホワイトらのゲストを迎えたステージは臨場感満点。セットリストが直前まで届かずに苛立つスコセッシの姿を捉えたオープニングにも注目を。 ■1月18日『ブルーベルベット』 ハンサムな大学生ジェフリーが野原で人間の片耳を拾う。好奇心に駆られ、事件の関係者であるクラブ歌手ドロシーの自宅に侵入した彼は、そこで異常な光景を目撃する。鬼才D・リンチの世界的な名声を揺るぎないものにしたフィルムノワール。のどかな田舎町に潜む倒錯的な暴力とセックスを描き、賛否両論の大反響を呼び起こした。「この世は不思議なところだ」という劇中セリフに象徴される映像世界は、猟奇的かつ淫靡でありながら優雅でもある。変態のサディストを怪演したD・ホッパーも強烈! ■1月25日『アクロス・ザ・ユニバース』 ビートルズ・ナンバー33曲をフィーチャーした青春ミュージカル。ベトナム反戦運動に揺れる1960年代の米国を舞台に、若者たちの恋と挫折をドラマチックに描き出す。監督は独創的な舞台演出家でもあるJ・テイモア。サイケな視覚効果が圧巻の「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」など、名曲の数々を巧みに物語に融合した。美形女優E・R・ウッドらのキャストが見事な歌声を披露。登場人物にルーシー、ジュードといったビートルズの歌詞にちなんだ名前が付けられているのも要チェック。 『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』©2007 by SHINE A LIGHT, LLC and GRAND ENTERTAINMENT (ROW) LLC. All rights reserved./『ブルーベルベット』BLUE VELVET © 1986 STUDIOCANAL IMAGE. All Rights Reserved/『アクロス・ザ・ユニバース』© 2007 Revolution Studios Distribution Company, LLC. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2014.02.07
『月刊エーカーズ』副編集長が紹介する、ハリウッドの名車たち
■72年型フォード・グラントリノ・ファストバック 昨年夏、ミシガン州デトロイト市の財政破綻が報じられた。デトロイトの周辺都市はアメリカの自動車メーカー、いわゆるビッグスリーとともに発展してきたが、自動車産業の斜陽化、製造工場の移転などにより衰退。デトロイト=モーターシティとして世界的に認識される一方で、80年代以降はダウンタウンのスラム化や犯罪率の高さなど、その治安の悪さでも広く知られるようになった。そんな“斜陽の街”と“人生の晩年”を重ね合わせたのがこの作品であり、主人公もデトロイトの華やかなりし時代を知る元フォードの従業員という設定で描かれている。そして、その主人公が大切にしている愛車として登場するのが、作品タイトルにもなっている72年型フォード・グラントリノ・ファストバックである。 作品を見ればすぐにわかることだが、ルーフからリアエンドへとなだらかな曲線を描くクーペボディこそがファストバックと呼ばれる形状である。敢えて車名の後にボディ形状を書いたのは、この72年型グラントリノにはこの他にも2ドア・ハードトップやステーションワゴンといったボディ形状が用意されていたからだが、作品中で主人公がグラントリノを眺めながら「美しい……」とつぶやくシーンは、やはりこの流麗なファストバックがそこにあってこそだと思う。 作品中、この車両の細かな仕様について描かれている部分はほとんど見当たらない。だが、街のギャングたちが羨望の眼差しで「コブラジェット」とつぶやくシーンから351cu.in.(※1)のコブラジェットV8エンジンを搭載していることだけはわかる。コブラジェットとは強制吸気システムに対するフォード固有の呼称で、簡単に言ってしまえばハイパフォーマンス・エンジンを意味する言葉。そして72年型グラントリノに用意された数種類のエンジンの中で、コブラジェット・エンジンは351が唯一だったのである。 ただ、前年の71年型グラントリノにはこれよりも断然パワーのある429cu.in.のコブラジェットV8が用意されていた。実は72年型というのは排ガス規制を先取りしてアメリカの自動車メーカーが一斉にエンジン出力を低下させ、多くのハイパフォーマンス・エンジンが内容を変えたり、その存在自体が消えたりしたモデルイヤーでもあった。429コブラジェットから351コブラジェットへと変化したのも、その影響と言っていいだろう。 60年代からビッグスリーが派手に繰り広げてきたエンジン出力競争、マッスルカーの時代が終焉を迎えたモデルイヤー。72年型の背景にあるそんな物寂しさもまた、この『グラン・トリノ』という作品に欠かせない演出に思えるのである。 ※1 cubic inches。近年はリットル表記も増えてきてはいるが、古くからアメリカ車のエンジン排気量はキュービックインチ=立方インチで表記されることが一般的。ちなみに351cu.in.は約5.7リットルで、429cu.in.は約7.0リットル。 ■67年型シェルビーGT500 伝説的な自動車泥棒を主役とした本作はリメイク作品であり、その元となった74年公開の『Gone in 60 seconds』(邦題は『バニシングIN60”』)も、以前から日本のアメリカ車ファンの間では語り草の作品だった。物語の準主役とも言えるのが最後の盗みのターゲットとなるエレノアだが、旧作ではイエローの73年型フォード・マスタング・マック1、そしてリメイクの本作では67年型シェルビーGT500となっている。 このシェルビーGT500は、ル・マン24時間などでも活躍したアメリカ人ドライバー、キャロル・シェルビー率いるシェルビー・アメリカンがフォード・マスタングをベースに製作、販売した車両。最高出力355hpを発揮する428cu.in.V8エンジンを搭載し、細部の仕様も通常のマスタングよりレーシーな内容で仕上げられている。だが、当時シェルビーは同じマスタングをベースとしながらも更にハードコアな内容のGT350もラインナップしており、それと比較するとエアコンやオートマチック・トランスミッションを選択できるなどGT500の方がよりストリートでの使用を考慮した内容となっていた。 そもそもGT350はレースでの使用を前提に開発されたモデルであり、GT350/GT500ともに現在言われるマッスルカーの代表的なモデルとして認識されているが、シェルビー・アメリカンが製作したスペシャル・モデルだけにその製造台数は少なく、この67年型GT500の製造台数は2000台程度、GT350はその半分程度でしかない。そうしたことから希少性が高く、特に2000年代に入ってからその価値は急騰。現在では10万ドルオーバーは当たり前で、その2倍、3倍する個体も珍しくなく、コレクターカーとしても代表的なモデルとなっている。そんなクルマがド派手なカーチェイスを繰り広げるのだから否が応にも注目は高まる訳で、この作品のエレノアにGT500をチョイスしたのは大正解だったと思う。 ■68年型ビュイック・スカイラーク 2011年の作品ながら、舞台は1979年のオハイオ。ストーリー的に目立つアメリカ車と言えば、ヒロインであるアリスの父のクルマである68年型ビュイック・スカイラークや、物語終盤で主人公たちの力になってくれる写真屋のダニーが乗る72年型ポンテアック・カタリナなどが挙げられるが、マニア的な視線で見ていると何気ないシーンに出てくるクルマたちが妙に気になる作品でもある。 特に物語中盤で出てくる中古車店のシーンでは初代フォード・マスタングやシボレー・エルカミーノなどが並び、フロント・ウィンドウに3299ドルという価格が書かれた68年型シボレー・カマロの姿があったと思ったら、通りの向こう側には68~69年型あたりのフォード・トリノが見えたり。さらに別のシーンでは71年型のトリノが横切っていったり、先述のアリスの父親が乗るスカイラークがAMCペーサーに突っ込んでいったり…。1979年の光景を描くにあたって自動車を非常に有効的に活用しているこの作品、アメリカ車のファンなら細部のディテールまで楽しめること請け合いだ。 ■71年型プリマス・バリアント スティーブン・スピルバーグの出世作となったこの作品。いまひとつ冴えないごく普通のサラリーマンが運転するクルマが、道中で追い抜いたトレーラー(50年代~60年代のピータービルド281)に執拗に追いかけられるというストーリーだが、ことクルマに関して言うならば、主人公の乗るクルマに71年型プリマス・バリアントをチョイスした点に尽きるだろう。 プリマスはクライスラー社のブランド。71年当時のクライスラーはインペリアル、クライスラー、ダッジ、プリマスと4ブランドを抱えていたが、そのうち最も大衆的な立ち位置にあったのがプリマスだった。そして71年型プリマスのラインナップで最も安い価格帯にあったのがコンパクトカーのバリアント。つまり敢えて最も大衆的なブランドの最もチープなモデルを起用することによって、主人公の“冴えなさ”と“普通”という部分をクルマで表現しているのだ。 当時ライバルメーカーが販売していた同等のクルマを挙げればシボレー・ノバ、フォード・マーベリックあたりになるだろうが、バリアントと比較すると、どちらも洗練され過ぎていて違う気がするのである。 ■63年型キャデラック・エルドラド・ビアリッツ 『激突』の主人公を表現しているのが71年型バリアントならば、この『48時間』はヤレた63年型キャデラック・エルドラド・ビアリッツが主人公を表現。巨大なボディのコンバーチブルは見るからに安っぽい水色でリペイントがなされており、無骨で野暮ったい白人の刑事という役柄に巧くマッチしている。 アメリカ人は伝統的にコンバーチブルを好む傾向にあり、60年代から70年代にかけては多くのモデルがボディバリエーションにコンバーチブルを設定していた。だが70年代に入って衝突時や転倒事故(ロールオーバー)時の乗員保護という観点からコンバーチブルは危険という声が高まり、76年型のキャデラック・エルドラドを最後にビッグスリー全てがコンバーチブルの製造を休止した。 アメリカ車にコンバーチブルが帰ってきたのは82年型のクライスラー・ルバロンからで、キャデラックでは84年型エルドラドから復活。そしてこの作品がアメリカで公開されたのは82年末のこと。そんな時代背景を踏まえて見れば、コンバーチブルを愛する主人公がまた少し違って見えるかもしれない。 ■73年型フォード・ファルコンXB 『マッドマックス』と言えば、主人公の最終兵器として登場したインターセプターに尽きるだろう。ベースは73年型フォード・ファルコンXBだが、フォードと言ってもアメリカではなくオーストラリア・フォードのモデルなので念のため。 だがそれでも、この映画が日本の自動車ファン、特にアメリカ車のファンに与えたインパクトは絶大だった。 真っ黒なボディ、不気味なフロントマスク、エンジンフードから頭を突き出したウェイアンドのブロワー(=スーパーチャージャー)。その姿に衝撃を受けて、アメリカ車に興味を持つようになったという人は想像以上に多い。 このインターセプターを実車で再現した例もオーストラリアを中心に世界各地で見られ、その影響は世界規模である。 ■67年型ポンテアックGTO 主人公の愛車として活躍するのは、いわゆる縦目4灯のフロントマスクが時代を感じさせる67年型のポンテアックGTO。年式を問わず日本での馴染みはいまひとつのGTOだが、アメリカでは現在に至るまで非常に高い人気を得ているモデルである。 このGTOがデビューしたのは64年で、安全性の問題から当時のゼネラルモーターズの規定ではミッドサイズには積めないことになっていた大排気量の高出力型エンジンを強引に搭載してデビューした。そんなことからマッスルカーの元祖的に語られることもあるが、そもそもマッスルカーという言葉自体が後の時代に生まれたもので、そこに明確な定義があるわけではなく、そのルーツも諸説あるのが実情だ。 ちなみに、このGTOの開発時にポンテアックの責任者の立場で会社に無理を押し通したのはジョン・Z・デロリアン。後の時代に独立し、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で広く知られるデロリアンことDMC12を生み出した人物である。 文/『月刊エーカーズ』副編集長 守屋明彦 『グラン・トリノ』©Matten Productions GmbH & Co. KG/『60セカンズ』©Touchstone Pictures/『SUPER 8/スーパーエイト』© 2013 PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved./『マッドマックス』© Crossroads International Finance Company, N.V./『トリプルX』2002 Revolution Studios Distribution Company, LLC. All Rights Reserved. ■ ■ ■ ■ ■ アメリカン・カーライフ・マガジン 月刊エーカーズ 3月号好評発売中! 【ベールを脱いだフルサイズ・ピックアップ、フォードF150】新型エスカレード登場!!■巻頭特集/2014年モデル・オール・カタログ【トラック、バン、SUV編】 ◆第2特集/現代的なFEELで愉しむクラシックモデル/'64シェベル・マリブ&'68コロネット◆シェビー・クラシックス/'67シボレー・シェベル・コンバーチブル◆ニューカー・インプレッション/'14シボレー・シルバラード&'14フォード・フィエスタ
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COLUMN/コラム2013.12.01
2013年12月のシネマ・ソムリエ
■12月7日『インファナル・アフェア』 ハリウッド映画『ディパーテッド』元ネタとなった香港ノワールの傑作。警察からマフィアへ、マフィアから警察へ送り込まれた潜入者2人がたどる壮絶な運命を描く。 麻薬捜査のさなかにモールス信号や携帯を用いたスパイ戦の息づまる緊迫感! 濃密な心理サスペンスと重層的な人間ドラマを融合した映像世界は極めて完成度が高い。 現題の「無間道」とは“終わりなき地獄”の意味で、複数の主要人物が意外な形で死亡する展開が衝撃的。その根底に流れる東洋的な死生観が深い余韻を生み出している。 ■12月14日『ドーベルマン』 ドーベルマン”の異名を持つ凶悪犯罪者、ヤン率いる武装グループがパリに出現。彼らに翻弄された警察は、血も涙もない極悪警視クリスチーニに一味の撲滅を委ねる。 数々のCMや音楽クリップを手がけてきたオランダ出身のヤン・クーネン監督が放ったバイオレンス映画。イカれた悪と悪の抗争劇が疾風怒濤の勢いで展開していく。 日本製アニメを愛する気鋭監督がコミック調の映像とテクノ音楽を融合。観る者の好き嫌いが極端に分かれる怪作だが、その猥雑でアンモラルな世界は一見の価値あり。 ■12月21日『ブラス!』 炭鉱閉鎖問題に揺れる英国ヨークシャー州の町を舞台にしたヒューマン・ドラマ。英国映画ブームさなかの1997年に日本公開され、多くの観客の涙を誘った感動作である。 生活苦にあえぎながらも、頑固な指揮者のもとで活動を続けるブラスバンド団員たちの心意気を描出。痛烈な社会風刺とともに、人間臭いユーモアが映画を活気づける。 実在のグライムソープ・コリアリー・バンドが、「ダニー・ボーイ」などの挿入曲の演奏を担当。2011年に他界したP・ポスルスウェイトの名演技も観る者の胸を打つ ■12月28日『ロスト・アイズ』 ギジェルモ・デル・トロが製作を務めた恐怖映画。視覚障害を患う女性が姉の自殺の真相を探るうちに、自らも危機に陥っていく過程をミステリー仕立てで描き出す。 『永遠のこどもたち』の女優B・ルエダが徐々に視力を失っていく主人公フリアを熱演。その周辺に謎の人影を暗躍させ、観る者の不安を増幅させる演出が実に巧妙だ。 主人公の限られた視界を表現した映像も秀逸で、スペイン製スリラーのレベルの高さを再認識させられる。『裏窓』などの古典映画への目配せも盛り込まれた一作だ。 『インファナル・アフェア』© 2002 Media Asia Films (BVI) Ltd.All Right Reserved. 『ドーベルマン』©1997 Noe Peoductions - La Chauve - Souris - France 3 Cinema. 『ブラス!』©Channel Four Television Corporation and Miramax Film Corp.1996 All Rights Reserved. 『ロスト・アイズ』© Rodar y Rodar Cine y Television, S.L / A3 Films, 2010