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COLUMN/コラム2016.08.16
モンスター上司
「アメリカでは自分は自分、人は人」 これは和製ミュージカル映画としてカルト的な人気を誇る『君も出世ができる』で、アメリカ帰りの合理主義者に扮した雪村いづみが歌う「アメリカでは」という挿入曲の歌詞の一節だ。1964年公開作なので、今から半世紀以上も前の映画だけど、日本人がアメリカ企業について思い浮かべるイメージはあまり変わっていないんじゃないかと思う。 ところが、そんな幻想を粉々に打ち砕くコメディ映画がアメリカには存在する。『モンスター上司』がそれだ。テレビコメディで活躍していたマイケル・マーコウィッツが草稿を書き、『BONES』の精神科医ランス・スイーツ博士役で知られる俳優ジョン・フランシス・デイリーとジョナサン・ゴールドスタインのコンビが仕上げた同作の脚本(アメリカの映画界ではよくリレー形式で脚本が書かれる)は、ブラックリスト(映画化が決まっていない脚本で有望と目されているもの)として扱われ、各社が争奪戦を繰り広げたそうだ。では、その内容はというと…。 主人公はニック(ジェイソン・ベイトマン)とデール(チャーリー・デイ)とカート(ジェイソン・サダイキス)の三十代男子3人。親友同士の彼らは、立場はちがってもヒドい上司に悩まされているという共通点があった。金融業界で働くニックの上司デビッド(ケヴィン・スペイシー)は、朝6時から深夜まで部下をこき使うパワハラ野郎。しかも妻の浮気をやたらと疑うサイコ的な性格を持つヤバい男だった。歯科助手のデールの上司の歯科医ジュリア(ジェニファー・アニストン)は、デールに婚約者がいながらセクハラ攻撃をしかけてくる色情狂。職場で始終迫られ、デールの忍耐は限界に達していた。化学薬品会社の経理マンを務めるカートは、ドラッグ中毒の社長の息子ボビー(コリン・ファレル)が直上司なことに手を焼いていた。それでも社長がいい人だったから耐えていたものの、彼の急死によってボビーが社長に。リストラや環境廃棄物の第三世界への投棄を推し進めるのを目の当たりにして、怒りのゲージが振り切れてしまう。 かくして追いつめられた3人は、場末のバーでムショ帰りの謎めいた男ディーン(ジェイミー・フォックス)の指導を受け、互いの上司を暗殺する計画に乗り出すのだった。そのためには敵の弱点を掴むのが大事と、3人は上司たちの留守中に家宅侵入するものの、それだけで罪の意識を覚えてしまい計画をうち切ろうとする。ところが、デビッドの部屋にボビーのスマホを置き忘れたことが原因で、妻の浮気を疑うデビッドが、ボビーを射殺するという事件が勃発してしまう。現場の近くにいた3人は警察にマークされはじめ、殺人を考えていただけで殺人容疑で逮捕されるという絶対絶命のピンチに陥ってしまう! 今作の監督を任されたのはセス・ゴードン。超名門イェール大学を卒業したあと、国連のケニア支援プロジェクトに従事。そこからドキュメンタリー映画のプロデューサー兼監督に転じ、そこでの演出の腕が見込まれてヴィンス・ヴォーンとリース・ウィザースプーン共演のクリスマス映画『フォー・クリスマス』(08年)で長編映画デビュー。いきなり1億ドル以上のメガヒットを記録してしまったという変わり種監督だ。 この監督の人選で分かる通り、当初はヴィンス・ヴォーンやオーウェン・ウィルソンらがキャスティングの候補にのぼっていたらしい。しかし最終的には中堅俳優で固める布陣に落ち着いた。このキャスティングこそが、本作成功の最大のファクターになったと思う。主人公がスター俳優すぎると、職場でのイジメにリアリティがなくなってしまうからだ。 その点、本作のジェイソン・ベイトマン、チャーリー・デイ、ジェイソン・サダイキスのトリオは絶妙なところを突いていると思う。ベイトマンについては他作品の記事で、何回か書いているので、ここでは残り2名について書いておこう。チャーリー・デイとジェイソン・サダイキスはドリュー・バリモアとジャスティン・ロングが共演したロマンティック・コメディ『遠距離恋愛 彼女の決断』(10年)でロングの友人役として共演しており、そこでのコンビネーションが認められて本作で再共演することになったと思われる。 デイは76年生まれ。アメリカでは、2005年から放映が開始され、今も続いている人気シットコム『It's Always Sunny in Philadelphia』の主演俳優兼脚本家として知られている。映画俳優としては、怪獣の撃退方法を偶然発見する科学者に扮した『パシフィック・リム』(13年)でのコミカルな演技が記憶に新しい。 ジェイソン・サダイキスは75年生まれ。セカンド・シティやアップ・シチズン・ブリゲイドといったコメディ劇団を経て、03年に『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』のライターに採用。05年からパフォーマーとして出演するようになり、13年の卒業まで8シーズンにわたって活躍し続けた。09年からはセス・マクファーレンが手がけるアニメシリーズ『The Cleveland Show』(09〜13年)にも声優として出演。『SNL』は基本的に出演者にはテレビ番組の掛け持ちを許されないので、これは異例のことだ。 コメディアンとしてはアイディア一発で笑わすというより、巧みな演技で笑わせるタイプのため映画進出も早く、『SNL』のレギュラー昇格直後にデヴィッド・ウェイン監督の『幸せになるための10のバイブル』(07年)に出演。前述の『遠距離恋愛 彼女の決断』を経て、ファレリー兄弟の『ホール・パス/帰ってきた夢の独身生活<1週間限定>』(11年)ではオーウェン・ウィルソンとダブル主演を果たした。そして本作やウィル・フェレル主演作『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』(12年)を経て、本作でも共演しているジェニファー・アニストンとリユニオンして、堂々主演を務めた『なんちゃって家族』(13年)が大ヒット。名実ともにスター俳優となった。 アニメ『アングリーバード』(16年)では主人公レッドの声を務めたほか、『栄光のランナー/1936ベルリン』(16年)といったシリアス物から、レベッカ・ホール共演の『Tumbledown』(15年)やゲイリー・マーシャルの遺作『Mother's Day』(16年)といったロマンティック・コメディまで幅広く出演している。本作を含めて、特別イケメンというわけでもないのにモテ男を演じることが意外と多いのは、私生活の反映なのかもしれない。サダイキスのパートナーは、テレビドラマ『Dr.HOUSE』や『トロン: レガシー』(10年)で知られる美人女優オリヴィア・ワイルドなのだから。 そんな実力はあるけど、まだ「知る人ぞ知る」状態の彼らをイジメまくるのが、『アメリカン・ビューティー』(99年)でアカデミー主演男優賞を獲得し、近年は『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(13年〜)で悪の大統領フランシス・アンダーウッド役で知られるケヴィン・スペイシー、国民的人気を誇ったテレビ・シットコム『フレンズ』(94〜04年)のレイチェル役でブレイクし、以後もロマンティック・コメディ界の頂点に君臨し続ける鉄人ジェニファー・アニストン、そして『ヒットマンズ・レクイエム』(08年)でゴールデン・グローブ賞をゲットし、超大作『トータル・リコール』(12年)からオフビートな『ロブスター』(15年)まで幅広い活躍を続けるコリン・ファレルといったスター俳優たちだ。この「格差」があるからこそ、イジメが実感を持って伝わってくるのだ。 というわけで、主人公3人がこの「格差」をどのようにひっくり返すのかを、ワクワクしながら観て欲しい。 © New Line Productions, Inc.
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COLUMN/コラム2016.09.09
泥棒は幸せのはじまり
生真面目なサラリーマンのサンディは、無駄使いを一切していないにも関わらず、ある日突然クレジットカードが限度額に達して使えなくなってしまう。どうやら個人情報を盗まれていたらしい。おまけに彼の名を騙った犯罪が多発。このままでは会社からクビにされてしまう! 焦ったサンディは、容疑者である詐欺師を、警察に引き渡すためにデンバーからはるばるフロリダへと向かうのだが……。 『泥棒は幸せのはじまり』は、個人IDの盗難をテーマにした今どきのコメディだ。主人公のサンディを演じるのは、ジェイソン・ベイトマン。つい最近スターになったように思える彼だけど、そのキャリアはとても長い。何しろ最初のブレイク作が、あの伝説的なテレビドラマ『大草原の小さな家』なのだから。 当時11歳だったベイトマンが登場したのは、81年から翌年にかけての最終シーズンで、インガルス家の養子になるジェイムスを演じた彼は、アイドル的人気を博した。ところがその後が続かなかった。大人になっても童顔のままだったことも災いして、90年代には早くも“あの人は今”状態になってしまったのだ。 だが捨てる神あれば拾う神あり。やはり元子役ということで過去に苦労していたことがある映画監督ロン・ハワードに助けられ、彼が製作総指揮を手掛けたテレビコメディ『ブル~ス一家は大暴走! 』(03年〜)に抜擢。奇人変人揃いの登場人物の中で、唯一マトモな主人公マイケルを演じて大復活を遂げたのだった。 ドラマは、視聴率低迷によって06年に打ち切りになったものの、カルト的な人気を背景に13年にネットフリックスで新シーズンが製作されるなど、今も継続中だ。ちなみにこのドラマで彼の息子役を演じたことをきっかけにブレイクしたのがマイケル・セラである。 ここからベイトマンの活躍が始まる。このドラマにゲスト出演していたベン・スティラーからコメディ・センスを認められて、『スタスキー&ハッチ』や『ドッジボール』(ともに04年)、『ハニーVS.ダーリン 2年目の駆け引き』(06年)『南の島のリゾート式恋愛セラピー』(09年)といったスティラーやヴィンス・ヴォーンの主演作に相次いで出演し、フラットパック準メンバーとなったのだ。 加えて、大人になりきれない中年男を演じて絶賛された『JUNO/ジュノ』(07年)や、ケヴィン・スペイシーやジェニファー・アニストンを従えて堂々主演を務めた『モンスター上司』(11年)がヒットしたことで、40代にしてコメディ・スターの地位を獲得したのだった。その後も監督も兼務した『バッドガイ 反抗期の中年男』(13年)や、『モンスター上司2』(14年)といった作品に主演。最近では、メガヒット・アニメ『ズートピア』(16年)でキツネのニックの声を担当したことが記憶に新しい。 『泥棒は幸せのはじまり』は、前述の『モンスター上司』の監督セス・ゴードンとのコンビによる第二弾だった。本来は無関係にも関わらず、トラブルに巻き込まれる小心者キャラは、ベイトマンが得意とするもので、今作でも次々起きる災難を前にして、死んだ目で呆然と佇む演技で笑わせてくれる。 但し、ベイトマンは、本作の脚本を最初に読んだ時、「このままで大丈夫か」と危機感を抱いたそうだ。無理もない、トラブルメイカーを連れた主人公が、約束の日までに家に帰ってこれるかどうかでハラハラさせる本作のプロットは、あのコメディ界のレジェンド、ジョン・ヒューズが監督と脚本を手がけ、スティーヴ・マーティンとジョン・キャンディが共演した大傑作『大災難P.T.A.』(87年)にあまりにも似ていたからだ。 それだけならまだしも、この作品を事実上リメイクしたコメディが10年に公開され、既に大ヒットを記録していたのだ。その映画こそが、ロバート・ダウニー・ジュニアとザック・ガリフィアナキスが共演した『デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜』だった。『泥棒は幸せのはじまり』との類似点はそれだけではなかった。『デュー・デート』の監督トッド・フィリップスは、『ハングオーバー! 』三部作(09〜13年)で知られるヒットメイカーだが、元々ドキュメンタリー畑の出身だった。対する『泥棒は幸せのはじまり』の監督セス・ゴードンもドキュメンタリー出身であり、脚本家のクレイグ・メイジンに至っては、『ハングオーバー! 』の第二作と第三作の脚本家でもあった。そのため詐欺師のキャラクターは完全にザック・ガリフィアナキスを意識して書かれていた。そう、このまま作ったら、そっくりになってしまうのだ。 危機感を抱きながらベイトマンは、偶然あるコメディ映画を観たことで、打開策を思いついた。その映画のタイトルは『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11年)。、詐欺師のキャラを男から女に変更して、同作でヨゴレ系ギャグを一手に引き受けるメイガン役を好演していたメリッサ・マッカーシーに演じさせればいい!こうしてキャラの立ちまくった女詐欺師ダイアナが誕生したのだった。 マッカーシーは元々『ギルモア・ガールズ』(00〜07年、今年11月にNetflixで復活)や『サマンサ Who?』(07〜09年)といったテレビドラマで、主人公の気のいい友人役を演じて人気を博していた脇役女優で、『ブライズメイズ』のメイガンのような破壊的で不穏なオチ担当のキャラを演じたことはそれまで無かった。 しかしこの挑戦は、彼女にアカデミー助演女優賞ノミネートをもたらし、新たなキャリアを切り開いた。『ブライズメイズ』以降のマッカーシーは、同作の監督ポール・フェイグとの二人三脚で、コップ・アクション『デンジャラス・バディ』(13年)や『007』へのオマージュに満ちたスパイ・アクション『SPY/スパイ』(15年)、そしてオール・フィメール・キャストが話題を呼んだ『ゴースト・バスターズ』(16年)といったアクション・コメディ作でヒットを飛ばし続けている。また夫でもあるコメディ俳優ベン・ファルコーンがメガホンを取った『タミー/Tammy』(14年)では脚本にも挑戦するなど、クリエイターとしての才能も発揮している。 そんなマッカーシーは本作で、悪気は無いけど、最悪のタイミングでトラブルを巻き起こすダイアナを熱演。一見、極悪そうなキャラクターの奥底に善人の素顔を覗かせるあたり、つくづく演技が巧い人だなと感心させられる。 ちなみに彼女は、『ハングオーバー!!! 最後の反省会』にも特別出演している。そこで彼女は、ザック・ガリフィアナキス扮するトラブルメイカー、アランと最終的に結ばれる女子を演じているのだが、おそらくこれは『デュー・デート』と『泥棒は幸せのはじまり』が似ていることから思いついたストーリーのはず。本作は『ハングオーバー』シリーズの結末に逆影響を与えていることになる。 散々『デュー・デート』との類似ばかり語ってしまったけど、最後に本作ならではの要素を紹介しておこう。それはダイアナが犯した別の詐欺が原因で、彼女とサンディが賞金稼ぎに追われるというサスペンス的な展開だ。しかも追っ手を演じるのは、ラッパーのT.I.とウィル・フェレル主演作『俺たちサボテン・アミーゴ』(12年)でヒロインを演じていた美女ジェネシス・ロドリゲス、そして『ターミネイター2』のT-1000役で映画史に名を残すロバート・パトリックという豪華な面々! そんなわけで、笑いと涙とカー・アクション全部盛りのエンタメ作を楽しんでほしい。 © 2013 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2016.09.14
俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク
70年代後半のサンディエゴ。ローカルテレビ局のキャスター、ロン・バーガンディーは仲間の野郎どもと和気あいあいとニュース番組を作って、我が世の春を謳歌していた。だが才能と野心に満ちた女性レポーター、ヴェロニカが入社したことで状況は一変する。自分たちの無能ぶりがバレそうになったロンは、「このままでは俺たちの立つ瀬がない!」と、彼女にいやがらせをして追い出そうとするが、逆にキャスターの座を失う羽目に。果たしてロンはかつての栄光を取り戻すことが出来るのだろうか? 『俺たちニュースキャスター』は、老舗お笑い番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』で、90年代後半にエースとして活躍していたウィル・フェレル(主演&脚本)と、ヘッドライター(脚本家グループのリーダーで番組のかじ取り役)だったアダム・マッケイ(監督&脚本)のコンビが、番組卒業後に取り組んだ本格的な映画進出作だった。フェレルとマッケイは本作のアイディアを、ネットワーク局で最初のアンカー・ウーマンになったジェシカ・サヴィッチの自伝を読んでひらめいたという。70年代のサヴィッチは、ローカル局でキャスターを務めていたのだが、当時のテレビ局は超マッチョな世界で、ネットワーク局のアンカー・ウーマンになる夢を語ると笑われたというのだ。 そんな本に感銘を受けたのなら、普通は女性を主役にするところだろうけど(事実この本をベースに、96年にミシェル・ファイファー主演で『アンカー・ウーマン』という映画が作られている)、流石『SNL』でトップになる奴らは発想のレベルが違う。敢えて<才能ある女子をバカにするマッチョな性差別主義者>の方を主人公にして、それをフェレルが演じるというアイディアを思いついたのだ。 こうして最低で最高の迷キャラクター、ロン・バーガンディーが誕生した。まるでバート・レイノルズのようなワイルドな口ヒゲを蓄え、真っ赤なスーツに身を包んだロンは、未だに一度もリバイバルしたことがない70年代後半のイカれたセンスを体現したかのような男。しかもキャスターとしての才能はゼロで、見当外れの言動を繰り返し、興に乗るとフルートを吹きまくるのだ! 『SNL』の大先輩マイク・マイヤーズが扮した60年代の化身、オースティン・パワーズが、実はオシャレなのと比べるとマジでダサすぎる。でもこれが逆にウケた。イイところがひとつもないのに何故か憎めないロンになりきることで、フェレルはダサさを突き抜けたクールなコメディ・スターになったのである。 全くの私見だが、フェレルはこうしたキャラ造形術をベン・スティラーから学んだのではないだろうか。コメディ番組の5分間のスケッチと、上映時間が90分以上にも及ぶコメディ映画は同じお笑いでも全くの別モノだ。いくら笑いのコンセプトが良くても、その裏に人間性が感じられないと映画の観客は飽きてしまう。マイヤーズほどの天才コメディアンが、『オースティン・パワーズ』以降ヒット作を生み出せなかった理由もそこにある。 『SNL』在籍時に『オースティン・パワーズ』に脇役でゲスト出演したフェレルは、こうした問題点に気づいたのだろう。別の手本を探すようになり、その結果スティラーと共演した『ズーランダー』の中にヒントを見出したのだ。あの作品の<栄光の頂点に君臨して得意顔だった主人公が、才能が無いのがバレてドン底まで落ち、そこから何とか這い上がろうと頑張る>という基本プロットは、『タラデガ・ナイト オーバルの狼』(06年)や『俺たちフィギュアスケーター』(07年)といった以降のフェレル主演作の多くに共通するものだ。 前作から9年の歳月を経て、『俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』で、フェレルがロン・バーガンディーを再び演じた理由のひとつは、ここいらでこの路線の集大成的な作品を作りたいとフェレルとマッケイが考えたからに違いない。 今作の舞台は1979年のニューヨーク。前作のラストでヴェロニカと共同でネットワーク局のアンカーマンに就任したロンが、ひとりクビになってしまうところから物語は始まる。失意の日々を送る彼のもとに、新規開局する24時間ニュースチャンネル、GNNからキャスター就任の誘いが舞い込む。 喜んだロンは、サンディエゴ時代の仲間を集めて番組に臨むが、担当の時間帯は午前2時から5時という、誰も観ていない時間帯だった。だがメゲないロンは「視聴者が聞くべきことを伝えるのではなく、彼らが聞きたいことを伝えるんだ」と政治的に偏向したニュースを放映したり、カーチェイスの中継を延々行うことで記録的な高視聴率を獲得していく。 GNNという名前自体は、1980年に開局したCNNのパロディだけど、むしろ本作の笑いの対象はフォックス・ニュースの方に向けられている。1996年に開局したフォックス・ニュースは、国際的な問題(視聴者が聞くべきこと)を多く報道するリベラル色が強いCNNに対し、保守的なアメリカ人のプライドをくすぐるような内容(彼らが聞きたいこと)を意識的に報道。リベラル派を「アンチ・アメリカ」とディスり、大統領選では共和党候補を熱烈に支持することで、あっという間にナンバーワン・ニュース局にのし上がった。フェレルとマッケイは、そのコンセプトを知性ゼロのロンが考えついたことにすることによって、強烈な批判を浴びせているのだ。 一見アホなギャグを追求し続けてきたかに見えるフェレルとマッケイだが、実はかなりのリベラル派。政治的なメッセージは、刑事アクション『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(10年)あたりから表面化しはじめ、政治そのものを描いた『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員! 』(12年)で一層深まった。『史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』も作品としてはあくまでその延長線上にある。 ちなみに本作の後、マッケイは初めてフェレル主演作ではない映画を監督したのだが、その作品こそが、リーマン・ショックの裏側を描いて評論家にも絶賛された『マネー・ショート 華麗なる大逆転 』(15年)だったりする。アカデミー賞脚色賞を獲得した同作のプロトタイプは『史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』にあるのだ。 また本作はある種の同窓会映画でもある。第一作で、挙動不審なお天気キャスターを怪演したスティーブ・カレルや、モテ男の屋外レポーターを演じたポール・ラッドは、当時はまだスターと言える存在では無かった。プロデューサーを務めたジャド・アパトーに至っては殆ど仕事が無い状態。しかし『ニュースキャスター』で手応えを感じた彼らは『40歳の童貞男』の製作へとなだれ込んでいった。その後の活躍はここに書くまでもないだろう。そんな彼らが本作でフェレルとマッケイのもとに帰ってきた。全編にパーティ・ムードが漂っているのはそのためだ。 こうしたパーティ・ムードにさらに輪をかけているのが大量のカメオ出演だ。ざっと紹介するだけでも、ハリソン・フォード、ドレイク、サシャ・バロン・コーエン、カニエ・ウエスト、ティナ・フェイ、エイミー・ポーラー、ジム・キャリー、マリオン・コティヤール、ウィル・スミス、リーアム・ニースン、ジョン・C・ライリー、キルスティン・ダンスト、そして第一作にも顔出ししたヴィンス・ヴォーンが登場する。映画ファンなら、誰がどのシーンに出るのかを固唾を飲みながら観るのも一興だろう…まあ、その固唾は笑いで吐き出してしまうだろうけど。 © 2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2016.10.02
俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!
米国南東部のノースカロライナ州。カム・ブレイディ(ウィル・フェレル)は、5期目の当選が確実視される民主党下院議員。その人気をもってすれば、副大統領も夢ではないと言われていた…女癖が災いしてセックス・スキャンダルを巻き起こすまでは。 彼を支援してきた大企業モッチ・グローバル社のオーナー、モッチ兄弟は、このカムの破廉恥行為に激怒。代わりに地元の名士の次男坊ではあるけど出来が悪いことで有名なマーティ・ハギンス(ザック・ガリフィアナキス)を共和党候補として担ぎだす。かくしてバカ対バカによる、史上最低の選挙戦が開始されることになったのだった。 だがモッチ兄弟の真の狙いは、州内に、中国人が時給50セントで働く<米国内中国>を認める法案を通すことにあった。はたしてボンヤリしているにもほどがある二人は、モッチ兄弟の黒い野望を食い止めることが出来るのだろうか…。 2012年に全米公開されて大ヒットを記録した『俺たちスーパーポリティシャン!目指せ下院議員』で描かれる選挙戦は、コメディ映画だから当然なんだけど笑っちゃうほど最低のものだ。大物議員であるはずのカムは、具体的な政策は一切語らず、「アメリカ! キリスト! 自由!」「強いアメリカが復活する!」と連呼するばかり。マーティがパグを飼っているのを知ると「中国の犬を飼っているから、アイツは共産主義者だ」、ヒゲを生やしているのを見ると「アイツはアルカイダの仲間だ」とディスりまくる。 対するマーティも、カムが小学生のときに作った架空の国家レインボーランドを描いた童話をネタに「外国を愛する奴はアメリカから出ていけ!」と口撃し、自分の妻と浮気をしたカムをライフルで撃って支持率を急上昇させるのだから最低だ。 でもこうした光景って、どこかで見た記憶はないだろうか? そう、あらゆる演説が相手を貶めることに費やされた2016年の米国大統領選挙である。「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン(アメリカを再び偉大にする)」というあまりに漠然としたキャッチフレーズのもと、「メキシコとの国境に塀を作る(しかも費用はメキシコ持ち)」という実現不可能な公約を掲げ、「ヒラリー・クリントンがISISを作った」「オバマはアメリカで生まれていない」という嘘を公然と主張したドナルド・トランプと、カム&マーティは生き写しのようではないか。本作は、未来の大統領選を予言した戦慄すべきSF映画でもあるのだ。 だがこの<予言>は決してまぐれ当たりしたものではない。というのも、本作に関わったスタッフや俳優は政治への造詣が深い奴らばかりなのだから。 たとえば監督のジェイ・ローチ。『オースティン・パワーズ』と『ミート・ザ・ペアレンツ』の両シリーズで有名な男だけど、08年に撮ったテレビ映画『リカウント』は00年の大統領選におけるフロリダ州の投票集計について描いたシリアスな群像劇だった。 当時ジェブ・ブッシュが知事を務めていたフロリダ州では不可解な集計が各所で行われていて、もし正確に行われていたら共和党候補ジョージ・W・ブッシュ(ジェブの兄である)ではなく、民主党候補のアル・ゴアの方が大統領になっていたかもしれないと言われている。 ローチにとって『俺たちスーパーポリティシャン!』は、得意のコメディ映画ではあると同時に、『リカウント』続編としても見れる政治ドラマなのである。ちなみにローチの目下の最新作は、政府から赤狩りにあった実在の映画脚本家ダルトン・トランボの生涯を描いた伝記映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15年)だ。 原案のアダム・マッケイは『サタデー・ナイト・ライブ』のライター出身で、同時期に出演していたウィル・フェレルと二人三脚でキャリアを築いてきた監督兼脚本家だけど、リーマン・ショックを背景に置いた『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(10年)あたりから社会派の側面を見せはじめてきた。 本作を経て作り上げた監督作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15年)は、リーマン・ショックそのものを描いた濃厚な群像ドラマである。この作品でマッケイは庶民の生活を蔑ろにする金融資本、そしてそれをバックアップする政府への強い憤りを表明している。 そんなマッケイと長くコンビを組むウィル・フェレルも、かなりリベラルな思想の持ち主だ。自ら書き下ろし、ブロードウェイで上演した戯曲『You're Welcome America』では、『サタデー・ナイト・ライブ』時代から得意とするジョージ・W・ブッシュのモノマネをフル活用して、彼の失政を鋭く批判。またマッケイと共同で主宰するコメディ・サイト「Funny Or Die」では、これまでも性差別や同性愛嫌悪へのアンチを表明するビデオが数多く発表されており、2016年にはドラルド・トランプを茶化しまくった『The Art Of The Deal』(トランプを演じたのはジョニー・デップ!)が発表されている。 残るザック・ガリフィアナキスも一見何も考えていないように見えて、実は滅茶苦茶リベラルな男だ。なぜならガリフィアナキス家はノースカロライナ州で代々政治に関わっている一家として有名で(彼のおじさんは本当に下院議員だった)、『俺たちスーパーポリティシャン!』自体、彼の持ち込み企画なのだから。 つまり最高のコメディの作り手であると同時に、政治に多大な関心を持つ男たちが集まったからこそ、本作はとことん笑えるのと同時にぞっとさせる風刺劇に仕上がっているというわけだ。 最後に本作の悪役モッチ兄弟について触れておきたい。実は彼らにもモデルが存在する。石油や天然ガス関連の事業で天文学的な収益を上げる巨大企業コーク・インダストリーズのオーナー、コーク兄弟がそれだ。 日本で有名でないのは非上場企業だから。兄弟ふたりの資産を足すとビル・ゲイツのそれを上回るというトンデモない大富豪である彼らは、議員たちに多額の献金を行うことで、大企業への減税や環境汚染の規制緩和など行ってきた。 そんな彼らは近年、アメリカという国をより自分たちに有利なように作り変えるために、ある運動を影で後押ししていることでも知られている。政府のあらゆる規制や福祉政策を廃止し、政府の機能を最小限にする「ティー・パーティー運動」がそれだ。ティー・パーティー運動は、「お偉いさんだけがウマいことをやっている」と考えていた白人労働者階級を惹きつけ(実際は規制や福祉が無くなったら最も困るのは彼らなのだが)、一大ムーヴメントを起こし、特に共和党は半ば乗っ取られつつあるのが現状だ。もっともコーク兄弟にとっても、元々金持ちのためで他人の金では動かないトランプの登場は誤算だったようで、今回の選挙では積極的に共和党を応援してはいなかったようだが。 ちなみにモッチ兄弟の弟を演じているのがダン・エイクロイドなのは、彼がフェレルにとって『サタデー・ナイト・ライブ』の大先輩である以上に、『大逆転』(83年)の主演俳優のひとりだから。この作品でエイクロイド扮するエリート青年ウィンソープは、大富豪デューク兄弟によって、ホームレスの黒人青年バレンタイン(演じていたのは若き日のエディ・マーフィ)と立場を交換させられ、散々な目に遭う。当初ウィンソープはバレンタインを恨んでいたものの、終盤にデューク兄弟の陰謀を知ってバレンタインとタッグを組んで戦いを挑んでいく。つまり、エイクロイドの出演は、本作のクライマックスの展開を予言しているのだ。 TM & © Warner Bros. Entertainment Inc.
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COLUMN/コラム2016.11.15
アメリカン・サマー・ストーリー
その伝説は、人類が滅亡するはずだった1999年に始まった。「プロムまでに童貞を捨てようぜ!」そう誓い合ったジム、オズ、ケヴィン、フィンチの4人の高校生が本能と妄想の赴くまま珍騒動を繰り広げるティーン・コメディ『アメリカン・パイ』(以下、『アメパイ』)が公開されたのだ。 監督はこれがデビュー作のポール・ワイツ、脚本は新人のアダム・ハーツ、キャストはジェイソン・ビッグス、クリス・クライン、トーマス・イアン・ニコラス、エディ・ケイ・トーマスといったほぼ無名の若手ばかりだった。だが名もない才能は奇跡を起こした。映画は爆発的なヒットを記録したのだ。 ティーンを映画館に呼び寄せたのは、タイトルの由来でもある<悶々とするあまりナニをパイに突っ込む>を筆頭とする『ポーキーズ』(82年)真っ青な下ネタ・ギャグの数々だった。でも映画を見たティーンたちは、この映画の真の魅力が登場人物のキャラ造形にあることに気がついた。 主人公の4人や相手役の女子たちはもちろん、ショーン・ウィリアム・スコット扮する敵役スティフラーやベテラン・コメディアンのユージン・レヴィやジェニファー・クーリッジがそれぞれ演じたジムのパパ、スティフラーのママといった大人たちにまで至る描写の細やかさは、数あるティーン・コメディの中でも最高レベルのものだったのだ。 『アメパイ』は、公開当時やはり単なるエロコメという誤解を受けた『初体験リッジモント・ハイ』(82年)同様、リアルな心情を掬い取ったティーンエイジャー映画の傑作だったのである。そのことは『リッジモント・ハイ』の監督エイミー・ヘッカリングが『恋は負けない』(00年)でジェイソン・ビッグスとミーナ・スヴァーリのコンビを起用したことで証明されることになる。 そんな真の魅力を、キャストも無意識レベルで感じ取っていたことは、2年後の2001年に公開され、やはり大ヒットを記録した続編『アメリカン・サマー・ストーリー』で明らかになった。こちらはそれぞれの「初体験」から1年後、あまりいい目にあってなかった4人が「最高の夏休み」を過ごすべく湖畔のリゾート地へ向かうというものだったが、前作のキャストが一人も欠けることなく(ケヴィンの兄役として1分足らずのカメオ出演だったケイシー・アフレックすら再び顔を出す!)再集結しているのだ。 ストーリー的には、ジム役のジェイソン・ビッグスと前作では飛び道具的なキャラだったミシェル役のアリソン・ハニンガンがメインとなり、ふたりの絡みには前作になかった甘酸っぱさが漂っている。下ネタは前作以上にエスカレートしているにも関わらず、前作以上にウェルメイドな仕上がりなのは、ファレリー兄弟の愛弟子でもある監督J.B.ロジャースの功績かもしれない。 二作連続の大成功は、第一作の監督ポールとプロデューサーのクリスからなるワイツ兄弟を、『アバウト・ア・ボーイ』(02年)や『ニュームーン/トワイライト・サーガ 』(09年)などを撮るメジャー監督に押しあげた。ジェイソン・ビックスはウディ・アレン監督作『僕のニューヨークライフ』(03年)に、クリス・クラインはアクション大作『ローラーボール』(01年)に主演。また子役出身のイメージが強かったアリソン・ハニンガンはコメディエンヌとしての才能を開花させ、人気テレビドラマ『ママと恋に落ちるまで』(05〜13年)に出演し、お茶の間のスターになった。 中でも特筆すべきはショーン・ウィリアム・スコットの大躍進だろう。彼は圧倒的なスティフラー人気をバックに、『ゾルタン★星人』(00年)や『ぼくたちの奉仕活動』 (08年)といった他の映画でもスティフラー的キャラを演じ続け、演技というよりパーソナリティで売るスターになった。こうした出演作の中には、トッド・フィリップスの劇映画初監督作『ロード・トリップ』 (00年)がある。つまりあの『ハングオーバー!』三部作にも『アメパイ』の遺伝子が受け継がれているのだ。(※編成部注※トッド・フィリップスは「ハングオーバー」シリーズの監督を務めている) シリーズは、2003年に公開された『アメリカン・パイ3 ウェディング大作戦』で一旦完結した。ボブ・ディランの息子であるジェシー・ディランが監督を務めたこの作品には、クリス・クライン、ミーナ・スヴァーリ、タラ・リード、シャノン・エリザベスらが残念ながら不参加だったが ジムとミシェルの結婚式を題材にいつも以上の下ネタが炸裂。 特に、ゲイ・バーで踊り、エロいストリッパー相手のバチュラー・パーティーで大爆発。ついでに犬のウンコを喰って、老婆とセックスまでするスティフラーが大活躍が光る。かつての仲間たちはみんな社会に巣立っているのに、高校時代の栄光が忘れられずにで母校で職員として働いている哀愁っぷりもイイ。もちろん彼の天敵であるフィンチやジムのパパも健在で、好サポートを見せてくれる。 単なる完結編にしてはあまりに大ヒットしてしまった結果を受けて、製作会社はスピンオフ作をDVDオリジナルで製作することを急遽決定。2005年には第4作 『アメリカン・パイ in バンド合宿』 (監督は『キャント・バイ・ミー・ラブ』(87年)で知られるスティーブ・ラッシュ)が発表された。スティフラーの弟マットが、第二作に登場したブラスバンド部のサマー・キャンプに乱入して騒動を巻き起こすというこの作品は、劇場未公開作でありながら驚異的なセールスを記録した。 その2年後には、スティフラーの従兄弟の高校生エリックが、大学の名物である全裸マラソン大会(嘘のような話だが、ミシガン大学が実際に行っている男女全裸マラソン大会をモデルにしている!)に参加する『アメリカン・パイ ハレンチマラソン大会』 (監督は『スリープオーバー』(04年)のジョー・ナスバウム) 、大学生になったエリックが友愛会ベータハウスに入会し、エリートのギークハウスと低次元の抗争を繰り広げる『アメリカン・パイ in ハレンチ課外授業』(監督:アンドリュー・ウォーラー)が立て続けに発表され、ハードな下ネタギャグが展開されたのだった。 対して2009年の第7作 『アメリカン・パイ in ハレンチ教科書』では舞台が高校に戻り、第一作に登場した幻のセックス指南本を巡るドタバタが描かれるなど、初期三部作への回帰が試みられている。ちなみにこれら全ての作品にはユージン・レヴィが顔を出しており、『アメパイ』シリーズの精神的支柱を務めていたことも記しておきたい。 こうした伝説の到達点となったのが、2012年に公開された『アメリカン・パイパイパイ!完結編 俺たちの同騒会』だ。監督と脚本を手がけたのは、初期三部作とは無関係のジョン・ハーウィッツ&ヘイデン・スクロスバーグのコンビ。だが彼らは、初期三部作では端役だったジョン・チョーの人気を確立したコメディ『Harold & Kumar』三部作(04〜11年)の監督兼脚本家でもあり、このシリーズにはエディ・ケイ・トーマスもレギュラー出演しているのだ。つまり2人は『アメパイ』のスピリットを受け継ぐ男たちなのだ。なので本作では初期三部作のオマージュが全編にわたって展開されている。 また製作総指揮という名の同窓会幹事を任されたジェイソン・ビックスとショーン・ウィリアム・スコットの呼びかけが実ったのか、第二作以来、実に11年ぶりにメインキャスト全員の再登場が実現している。この異常なほど出席率が高い同窓会の乱痴気騒ぎを前にしたなら、『アメパイ』の歴史を知るオールド・ファンはもはや歓喜の涙を流すしかないのだ。 © 2001 Universal Studios - All Rights Reserved
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COLUMN/コラム2016.12.09
テッド
1985年。友達がひとりもいない8歳の少年ジョンは、両親からクリスマスにテディ・ベアをプレゼントされて大喜び。(安直に)テッドと名づけたジョンはある晩、夜空の星にお祈りした。「テッドが言葉を喋れたら楽しいのに」 翌朝、ジョンはビックリした。テッドが「僕をハグして!」と話しながら抱きついてきたのだ。少年の祈りが起こした奇跡は全米に報じられ、取材が殺到して大騒動に! そんなオープニングから始まる『テッド』は、しかしその大騒動を描いた映画ではない。物語は一気に27年後の現代へとジャンプする。今ではテッドは街中で歩いたり話したりしていても誰も驚かない”過去のスター”状態で、マリファナとテレビが何より好きなボンクラ・クマでしかない。 35歳になったジョンもサラリーマンとして地味な毎日を送っていたが、彼の方には誇れるものがあった。美女のロリーと付き合っているのだ。ロリーの方もジョンにはぞっこんなのだが、子どもの頃から一緒のジョンとテッドの間には入り込めない。遂に「私とテッドどっちを取るの?」とジョンに選択を求めてしまう。結果、テッドはジョンと別に部屋を借りてスーパーで働く自立の道を強いられることになるものの、相変わらず二人は仲良しなのだった。 そんなある夜、テッドの興奮した声に誘われたジョンはロリーとの約束をすっぽかして、テッド宅で開かれていたパーティでワイルドな時間を過ごしてしまう。それが原因でロリーに愛想をつかされたジョンはテッドとも仲違い。「お前のせいで俺の人生はメチャクチャだ!」はたして3人は元通りの関係に戻れるのだろうか…。 『テッド』は、30代男とテディ・ベアの友情を描いた、ありえないコメディだ。脚本と監督、そしてテッドの声の三役を担当したのは、セス・マクファーレンという人物で、これがハリウッド・デビュー作となる。とはいえ、彼のキャリアはそれなりに長い。73年にコネチカット州で生まれたマクファーレンは、名門美大「ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン」卒業後に『原始家族フリントストーン』や『チキチキマシーン猛レース』で知られる名門ハンナ・バーべラ・プロダクションに入社。アニメーターとしてキャリアのスタートを切っている。 そんな彼が飛躍を遂げたのは99年のこと。フォックステレビのコメディ番組「MADtv」で手掛けたアニメパートが局の上層部に認められ、自身が製作、監督、脚本、原画、声を務めるアニメシリーズ『ファミリー・ガイ』の放映を開始することになったのだ。これが大ヒットしたため、05年から『American Dad! 』、09年から『The Cleveland Show』もスタート。一時は3本のアニメをフォックステレビで放映する”ミスター・フォックス”として君臨していた(現在も2本が放映中)。 これだけならマイク・ジャッジやトレイ・パーカー&マット・ストーンといった才人たちが他にもいるのだけれど、マクファーレンのユニークなところはレトロ志向を併せ持っていること。彼は、フランク・シナトラをはじめとするジャズ・ヴォーカリストを偏愛しているのだ。その愛がこうじてジャズ・シンガーとしても活動を開始。フルバンドをバックにスウィングの名曲を歌いまくった11年のアルバム『Music Is Better Than Words』はグラミー賞のベスト・トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバムにノミネートされた。13年にはクリスマス・ソングを歌った『Holiday For Swing』、15年にも『No One Ever Tells You』も発表している。『テッド』は、テレビアニメとジャズ・ヴォーカルという不思議すぎる二刀流で活躍していたマクファーレンが、満を侍して発表したハリウッド・デビュー作なのだ。 彼は当初この作品をアニメとして構想していたそうだが、実写が可能になるまでCG技術の発展を待とうと考え直したらしい。その判断は正しかった。薄汚れたクマのぬいぐるみが、現実世界で毒舌を吐いたりマリファナ吸ったりセックスしたり(なぜかする!)している姿はそれだけで最高におかしい。ムーヴは完全にオッさんのそれだけど、元々テディ・ベアなので微妙に可愛いらしいという、バランス感も絶妙だ。 ジョンとの友情物語は、ジャド・アパトーが確立させたロマンチック・コメディの物語構造を男同士の友情に当てはめた”ブロマンス映画”からの影響大ではあるけれど、人間とぬいぐるみに当てはめたことで”少年はテディ・ベアと別れて大人の男になれるのか?”という新たな意味合いを物語に与えている。 主人公ジョン役は、アクション・スターのイメージが強いものの、『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』や『デート & ナイト』でコメディもイケることを証明していたマーク・ウォルバーグ(本作以降は『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』『パパVS新しいパパ』など、コメディ作はウォルバーグのキャリアにとって重要な柱となる)。またロリー役には、『ファミリー・ガイ』の声優としてマクファーレンと13年間も仕事をしてきたミラ・クニスが扮している。 ノラ・ジョーンズやライアン・レイノルズといったスターが本人役で登場するシーンも見どころではあるけど、それ以上にあのサム・ジョーンズが本人役で登場してストーリー上重要な役割を果たすことが本作最大のチェック・ポイントだろう。そもそもジョンがロリーとの約束をすっぽかしてテッドのパーティに行ってしまった理由こそ、「いま家でパーティを開いているんだけど、サム・ジョーンズが来ているんだ!」とテッドに言われたからなのだ。 ここで「サム・ジョーンズって誰?」という疑問が浮かんでくるかもしれない。答えは「あの『フラッシュ・ゴードン』の主演俳優」である。『フラッシュ・ゴードン』はもともと新聞に連載されていたスペースオペラ漫画で、あの『スター・ウォーズ』にも影響を与えたとされる古典作だった。80年には『スター・ウォーズ』人気に便乗する形で実写映画化されている。ところが古臭いストーリー(無理もない、原作が書かれたのは第2次大戦前なのだから)とチャチなSFXが災いして興行的に大失敗。主演に抜擢されたサム・ジョーンズはこれっきりで過去の人になり、今ではクイーンが担当したサントラ以外は話題にすらのぼらない黒歴史映画になってしまっている。 なのにジョンは子どもの時に観て以来、『フラッシュ・ゴードン』こそが史上最高の映画と信じて疑わない。だからパーティでサム・ジョーンズに会うと大興奮してしまう。これ以降の展開が笑える。映画のBGMはクイーンのサントラばかりになり、ジョーンズ本人が大暴れするのだ! 三十男のくせにテディ・ベアとツルみ、『フラッシュ・ゴードン』を愛してやまないジョンは確かに滑稽である。だが、もしそれらをもう少し格好良さそうなもの、たとえばアクション・フィギュアや『スター・ウォーズ』に置き換えたらどうだろう? 笑えないという人は多いのではないか? 子ども時代の大好きなものへの依存を未だに止められない人間は、皆ジョンと同類なのである。映画を観た者はそんな真実をマクファーレンからそっと教えられ、爆笑しながらも(心の中の)頬に涙が伝っていることに気がつくのである。 ちなみに映画の舞台は、マクファーレンが大学時代を過ごし、ウォルバーグの故郷でもある街ボストン。水族館やボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークといった実在の場所でのロケ撮影が、この破天荒なコメディにリアリティを与えている。 © 2012 Universal City Studios
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COLUMN/コラム2017.01.09
ラブ・アゲイン
平凡な日常に満足しきっていた44歳の中年サラリーマン、キャル・ウィーバー(スティーブ・カレル)に、突然人生の危機が訪れた。25年間連れ添った妻のエミリー(ジュリアン・ムーア)から離婚を切り出されたのだ。理由は彼女と職場の同僚デヴィッド(ケヴィン・ベーコン)の浮気。 ショックが冷めやらない中、家を出てひとり暮らしをすることになったキャルは、夜な夜なバーに繰り出すようになったものの、口から出るのは恨み言や泣き言ばかり。ドン底状態のそんな彼に、ある夜救いの手が差し伸べられた。「男らしさを取り戻す勇気を与えよう!」 言葉の主は、同じくバーの常連でありながら、毎晩異なる美女をお持ち帰りする若きプレイボーイ、ジェイコブ(ライアン・ゴズリング)だった。これまでエミリーとしか付き合ったことが無いキャルは尻込みしてしまうが、「彼女をもう一回振り向かるチャンスだ」と言われ、ジェイコブへの弟子入りを決意する。彼の厳しい指導のもとファッション・センスやトーク術を磨いたキャルは、努力が実ってイケてる中年プレイボーイへと変身を遂げるのだった。 しかしある日を境にジェイコブはバーに姿を見せないようになってしまう。彼は弁護士を目指す真面目女子のハンナ(エマ・ストーン)と真剣な恋に落ちていたのだ。そう、エミリーと出会った頃のキャルのように。 一方、キャルの13歳になる息子ロビー(ジョナ・ボボ)は、ベビーシッターとして家に訪れる17歳の女子高生ジェシカ(アナリー・ティプトン)に熱を上げていた。しかしジェシカには片思いの相手がいた。それは何とキャル。それぞれの恋はヒートアップしていき、ロビーと妹モリー(ジョーイ・キング)が企画したキャルとエミリーの仲直りパーティで大爆発するのだった……。 『ラブ・アゲイン』(11年)は原題『Crazy, Stupid, Love.』の通り、イカれてバカげた恋愛を描いた群像コメディだ。監督を務めたのはグレン・フィカーラとジョン・レクアのコンビ。もともと彼らは『キャッツ&ドッグス』(01年)、『バッド・サンタ』(03年)、リチャード・リンクレイター監督作『がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン』(05年)といったコメディの脚本を手がけてきたチームで、監督としてはジム・キャリーとユアン・マクレガーがカップルに扮して話題を呼んだ『フィリップ、きみを愛してる!』(09年)でデビューしたばかりだった。本作以降もウィル・スミス主演作『フォーカス』(15年)では脚本を兼務している。 本来は脚本家の二人が本作で監督に専念しているのは、脚本が彼らも唸るクオリティだからだ。脚本を手がけたのはダン・フォーゲルマンという人物なのだが、その彼のキャリアが凄い。脚本チームに参加したピクサー・アニメ『カーズ』(06年)であのジョン・ラセターに才能を認められ、再建期のディズニーアニメ『ボルト』(08年)、『塔の上のラプンツェル』(10年)の脚本を一手に引き受けていた才人なのだ。しかし大人向けのコメディを作りたいという欲望を抑えることができずに製作の予定もないまま影で執筆していたのが『ラブ・アゲイン』だったというわけだ。 本作の見どころは、四十代(キャルとエミリー)、二十代(ジェイコブとハンナ)、十代(ロビーとジェシカ)という異なる世代の恋愛が鮮やかに書き分けられる一方、それらが思いもかけぬ形で繋がっていることが終盤で明かされるトリッキーな展開にある。ヒントはそこかしこに転がっているので、未見の映画ファンは謎解きにチャレンジしてみるのも一興だろう。 ちなみにフィカーラとレクア、フォーゲルマンの3人は昨年テレビドラマ『This Is Us』(16年〜)でリユニオン(フォーゲルマンがクリエイター兼脚本、ほかの二人がプロデュース&監督)。本作同様、複数のカップルのドラマを平行して描いていたと思ったら、途中からそれぞれが暮らす時代が異なっていたことが明らかになる驚愕の展開で絶賛を巻き起こしている。こうしたトリッキーな仕掛けのルーツは『ラブ・アゲイン』にあるのだ。 本作の脚本執筆にあたって、フォーゲルマンは当初からキャル役をある俳優を想定して書いていたという。それがスティーブ・カレルである。カレルが当時出演していたテレビコメディ『ザ・オフィス』(05〜13年)で演じていた最低上司マイケルの<善人バージョン>こそキャルなのだ。『ザ・オフィス』そのままにダサかった彼が、洗練された男に大変身するところに本作の面白さがある。 対する妻メアリーを演じるのはジュリアン・ムーア。カレルより2つ年上の60年生まれなので、撮影時は五十代に突入していたはずなのだが、全くそうは見えない美魔女ぶり。キャル言うところの「セクシーとキュートが混じった存在」を演じきっている。 今年のアカデミー賞で本命視されているミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(16年)でハリウッド随一のゴールデン・カップルになったライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの初共演作としても本作は記憶されるべきだろう。本作で相性の良さが買われた二人はまず『L.A. ギャング ストーリー』(13年)で再共演を果たしている。 1940年代から50年代にかけてのロサンゼルスを舞台にLA市警とギャングの戦いを描いたこのクライム・ドラマで、ふたりは警察官とギャングの情婦という立場にありながら恋に落ちるカップルを熱演。レトロなコスチュームの着こなしも評価された。これを見込まれて三度目の共演を果たしたのが、舞台が現代のロサンゼルスでありながら何処かレトロなムードが漂う『ラ・ラ・ランド』なのだ。『ラブ・アゲイン』を観た者なら、歌い踊るふたりに、『ダーティ・ダンシング』の主題歌「タイム・オブ・マイ・ライフ」を踊る本作のシーンがフラッシュバックして思わずニヤリとすることだろう。 またブレイク前のアナリー・ティプトンとジョーイ・キングが出演していることも、今では貴重である。ティプトンはもともとリアリティ番組『America's Next Top Model』で世に出たファッション・モデルで、メインキャストを務めたのは本作がはじめて。しかし明後日の方向に暴走を繰り広げるジェシカ役を見事に演じきり、新世代コメディエンヌとして注目されるようになった。以降も『ダムゼル・イン・ディストレス バイオレットの青春セラピー』(11年)、『ウォーム・ボディーズ』(13年)で脇でキラリと輝くキャラを好演。出会い系アプリを題材にした今どきのコメディ『きみといた2日間』(14年)ではマイルズ・テラーの相手役を堂々と務めている。 ジョーイ・キングは、児童文学のベストセラー「ビーザスといたずらラモーナ」の映画化作『ラモーナのおきて』(10年)で主演に抜擢されたスーパー子役。「ダークナイト」三部作の最終作『ダークナイト ライジング』(12年)では一瞬の出演ながら物語の鍵を握るキャラを好演し、陶器人形を演じた『オズ はじまりの戦い』(13年)で共演したジェームズ・フランコとザック・ブラフから可愛がられており、ふたりの監督作の常連に。またティーン文学のベストセラーの映画化作『スターガール』の主演も決まるなど、次世代のエースとして期待されている。 つまり『ラブ・アゲイン』は、現在ではそれぞれ単独で主演を張る人気者が、一堂に会していた作品ということになる。だから本作が将来的に伝説のコメディ映画として語り継がれることになっても全然おかしなことではないのだ。 © Warner Bros. Entertainment Inc.
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COLUMN/コラム2017.02.08
ベン・スティラー 人生は最悪だ!
ロサンゼルス。裕福なグリーンバーグ家では、雑事を代わりにやってくれるパーソナル・アシスタントを雇っていた。彼女の名はフローレンス。自分探しをしているうちに、大学にいた時間よりも大学を出てからの方が長くなってしまった女子だ。ある日、旅行中の犬の世話を頼まれた彼女は、家長フィリップの兄ロジャーと出会う。留守番を頼まれてニューヨークからやってきたという彼は、かつてはインディロック・バンドで活躍していたものの今は無職。精神病院から出てきたばかりで、気難しくてキレやすい中年男だった……。 『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』は、ノア・バームバックにとってとびっきりの異色作である。というのも、彼は生まれ育ったのはブルックリン。最終学歴もヴァッサー大学という生粋のニューヨーカーだからだ。 監督デビュー作は、ヴァッサーを卒業した後も学生街のアパートに居座る若者たちをヴィヴィッドに描いたコメディ『彼女と僕のいた場所』(95年)。26歳という若さでデビュー出来たのは、クエンティン・タランティーノの成功によって、ちょうどハリウッドが若い才能の青田刈りを行なっていた時期だからだ。 とはいえ、バームバックには才能があった。ジョシュ・ハミルトン、エリック・ストルツ、パーカー・ポージー、エリオット・グールドらが出演したこの作品は評論家筋に絶賛を博したのだから。ヴァッサー大学は一時期、新入生の歓迎会でこの作品を必ず上映していたという。 同作の成功後、バームバックは『Mr. Jealousy』(97年)と『Highball』(97年)を立て続けに発表する。しかしデビュー作ほどの評価は得られず、後者に至ってはプロデューサーとの対立によってクレジットも外された形でDVDスルーの憂き目に遭ってしまった。 この事件によってバームバックのキャリアは一旦終わったかに思われたが、彼はウェス・アンダーソン監督作『ライフ・アクアティック』(04年)の共同脚本家として再び脚光を浴び、アンダーソンのプロデュースのもと撮った『イカとクジラ』(05年)で映画監督としても復活したのだった。 80年代のニューヨークを舞台にした同作の主人公は、離婚した両親の家を行ったり来たりする生活を送る高校生ウォルト。バームバックの両親もこの頃に離婚しており、この映画は半自伝作だった。ウォルト役のジェシー・アイゼンバーグの好演も相まって、『イカとクジラ』はスマッシュ・ヒットを記録。バームバックはアメリカ映画界の最前線に返り咲いた。 続く『マーゴット・ウェディング』(07年)も半自伝作だ。妹の結婚式に出席するために実家を訪れる主人公マーゴットの神経質なキャラは、『イカとクジラ』の母親と全く一緒である。但し同作は、ウェルメイドな『イカとクジラ』とは異なり、明確なクライマックスが無く、主人公がラストに何の成長もしないという、アメリカ映画のルールを無視した実験的な作りがなされていた。 そこでのバームバックの冒険を支えていたのが、当時の妻で、主人公の妹役で出演もしていた女優のジェニファー・ジェイソン・リーだった。『初体験/リッジモント・ハイ』(82年、バームバックとの出会いには同作で共演したエリック・ストルツが関与していた可能性がある)以来、個性派女優として活躍を続ける彼女は、自ら監督と脚本もこなした『アニバーサリーの夜に』(01年)を発表したこともある才人である。『アニバーサリーの夜に』は、セットを一切使用せず、実際の家で起きた一夜の出来事をデジタルカメラでおさめた実験作だった。 また同作には、『初体験/リッジモント・ハイ』以来のリーの親友フィービー・ケイツが、夫のケヴィン・クラインと子ども二人を引き連れて久々に映画出演をしたことでも話題になったが、その子どものひとりこそ、後に『イカとクジラ』でジェシー・アイゼンバーグの弟役を演じたオーウェン・クラインなのだ。リーは『人生は最悪だ!』でもストーリー作りに関与しており、撮影は彼女の地元ロサンゼルスで行われている。彼女はそれほどまでに当時のバームバックに影響を与えていた。 同時にバームバックは、インディ映画界で勃興していた新しい流れからも影響を受けていた。それが<マンブル・コア>である。アンドリュー・ブジャルスキ、アーロン・カッツ、ジェイとマークのデュプラス兄弟といったこのムーヴメントを担う若い作家たちは、互いの作品に出演しあい、ヤマもオチもない日常をビデオカメラで切り取った超低予算映画をひっそりと、しかし大量に送り出していた。 ジョシュ・ハミルトンを通じてマンブル・コアの中心人物ジョー・スワンバーグと知り合ったバームバックは09年にスワンバーグ監督作『Alexander the Last』をプロデュースしており、『人生は最悪だ!』ではフローレンス役にマンブル・コア映画の代表的な女優だったグレタ・ガーウィグを抜擢している。『グリーンバーグ』は<中堅監督が敢えて挑んだ若い映画>だったのだ。 そんな作りでありながら、本作がコメディ映画としても成立しているのは邦題通り、ロジャーをミジメなシチュエーションだと最高におかしいベン・スティラーが演じているからだろう。スターである彼が低予算映画に出演したのは、生粋のニューヨーカーの彼がバームバックのセンスに共感したからだろう。事実、これ以降のスティラーは声優を務めたアニメ『マダガスカル3』(12年)の脚本家にバームバックを推薦し、エディ・マーフィとの共演作『ペントハウス』(11年)でも自分の役のセリフのリライトをバームバックに依頼するなど彼に全幅の信頼を置いている。『イカとクジラ』の終盤ウォルトが訪れるのは、スティラーの人気シリーズ『ナイト・ミュージアム』で一躍有名になったニューヨークの自然史博物館。スティラーもここには少年時代に何度となく訪れたという。 スティラーが演じるロジャーのモデルはだから当然バームバック本人だ。劇中で彼が自動車免許を持っていないことが執拗にギャグにされているのは、バームバックもロサンゼルスに引っ越して当初は免許がなくて苦労したから。20代の時にメジャーデビュー寸前まで行きながら無職という設定も、もし『イカとクジラ』を撮れなかったらこうなっていただろうという平行宇宙の自分なのだろう。 そんな冴えないロジャーにフローレンスはなぜか惹かれてしまう。ロジャーも彼女に心を奪われながら、「年齢が違いすぎる。僕の恋人になるのは十代の子どもを持つ疲れた中年女だ」と前に踏み出すことを拒もうとする。 映画はふたりに何かが起きる寸前に終わってしまうけど、僕らはその後に起きたことを知っている。ロジャー=バームバックとフローレンス=グレタは恋に落ちてしまったのだ。バームバックはグレタを連れてニューヨークへと戻り、喜びと疾走感に溢れたグレタ主演作『フランシス・ハ』(12年)を発表する。その翌年にバームバックはリーと離婚している。 その後もバームバックはニューヨークを拠点に、グレタやスティラーと組んで快作を発表し続けているけど、倦怠感と孤独の中から何かが生まれる瞬間をとらえた『人生は最悪だ!』は彼のフィルモグラフィに残る異色作としていつまでも残り続けることだろう。なお本作、終盤のパーティ・シーンにブレイク前のブリー・ラーソン、ジュノー・テンプル、デイヴ・フランコ、ゾーシャ・マメットらが出演しているので、目をこらして探してほしい。 © 2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2017.03.09
ウェインズ・ワールド
俳優のアレック・ボールドウィンが怪演するトランプ大統領や、ケイト・マッキノンとレスリー・ジョーンズのリメイク版『ゴーストバスターズ』への出演といった話題も手伝って、話題騒然のアメリカの老舗お笑い番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』。視聴率は過去22年間で最も高かったという。ということは、22年前の『SNL』はトンデモない人気番組だったということになるわけだけど、当時のレギュラー出演者を見たならその人気に納得できるかもしれない。 何しろアダム・サンドラー、クリス・ファーレイ、デヴィッド・スペード、ジャニーン・ガラファロ、モリー・シャノン、ティム・メドウズ、クリス・エリオットといった錚々たるメンツが毎週土曜の夜に生放送で新作スケッチを披露していたのだから。そんな中で堂々エースの座に君臨していたのがマイク・マイヤーズである。 63年にカナダで生まれた彼は十歳のときテレビCMに出演。その時母親役を演じたギルダ・ラトナーが『SNL』の立ち上げメンバーになったのを観たことで、将来SNLのレギュラーになることを決意したという『SNL』の申し子のような男だ。コメディ劇団セカンド・シティで活躍した後、89年にSNL入り。西ドイツ人のテレビ司会者ディーターといったキャラに扮して人気を博したが、何と言っても代表作はダナ・カーヴィ(55年生まれで、86年からSNL入りしていた)と演じたスケッチ「ウェインズ・ワールド」だろう。 セカンド・シティ時代からマイヤーズの持ちネタだったこのスケッチで彼とカーヴィが演じたのは、ケーブルテレビの回線を使って自宅から自分の番組をオンエアしているという設定のニート、ウェインとガース。このふたりが繰り出す<今>の空気に満ちたギャグの数々は、89年に披露されると同時に『SNL』を大人向けの退屈な番組と思っていたティーンの熱狂的な支持を獲得。『SNL』の人気回復の起爆剤になった。そして『SNL』のドン、ローン・マイケルズは「「ウェインズ・ワールド」をもっと長い間見ていたい!」との声に応えて映画化を決断。92年と93年に2本の映画として公開され大ヒットを記録したのだった。 そんな『ウェインズ・ワールド』、いま観ても十分フレッシュなのだけど、時代の空気を反映しすぎたために、今ではどこが面白いのか分からないところもチラホラある。そんなわけで、今回は『ウェインズ・ワールド』&『ウェインズ・ワールド2』を楽しむためのキーワードを書き出してみたい。 公共放送電波が届かない地域が多い広大な国アメリカでは早くからケーブルテレビが主流だった。おびただしいチャンネルの中には地域のお知らせを放映する公共チャンネルがあり、中には市民に時間貸しするチャンネルも存在していた。ウェインとガースはイリノイ州第二の都市オーロラの公共チャンネルが提供する、このサービスを利用して自分の番組をオンエアしているという設定だ。今で言うならポッドキャスト(但し地域限定の)みたいなものである。 「エクセレント!」ウェインとガースが会話の中で連発する「最高!」を意味する褒め言葉。当時のアメリカで流行語になった。ほかに二人が用いるスラングには「ベイブ(可愛い女の子)」「・・・NOT(さんざん喋ったあとに「・・・じゃない」と否定する」、「シュイーン!(これは映画を観れば分かる)」などがある。 ヘヴィメタルウェインとガースが好きな・・・というか、グランジ革命勃発以前(ニルヴァーナがメジャーデビューするのは91年のこと)の白人の若者がこぞって愛していた音楽。特にふたりが尊敬しているのはアリス・クーパーとエアロスミス。2組はそれぞれ『1』と『2』に本人役で登場する。ガースが劇中で着ているロックTシャツにも注目を! ペネロープ・スフィーリス『1』の監督。本作に起用された理由はロック・ドキュメンタリー『ザ・デクラインⅡ ザ・メタルイヤーズ』(88年)におけるコミカルな演出が評価されてのもの。但しマイヤーズとはウマが合わず『2』には参加せず。代わりにクリス・ファーレイとデヴィッド・スペード主演の『プロブレムでぶ/何でそうなるの?!』(96年)を監督している。 ロブ・ロウ『1』の悪役ベンジャミンを演じるイケメン俳優。80年代初頭に売り出された<ブラッドパック>の中ではマット・ディロンに次ぐ人気を誇り、『アウトサイダー』(83年)や『セント・エルモス・ファイアー』(85年)といった作品に出演。しかし89年に未成年の少女とのセックス・ビデオが流出してスターの座から転げ落ちてしまった。本作でコメディ・センスが認められて以降はテレビ中心にそれなりに安定したキャリアを築いている。 ヨゴレ系女優『1』でウェインのサイコな元カノ、ステイシーを演じたのはララ・フリン・ボイル。『ツイン・ピークス』でブレイクした若手スターだが、共演者だったカイル・マクラクランやジャック・ニコルソンとの恋愛で世間を騒がせていたトラブルメイカーでもあった。ステイシーの役はそんなパブリック・イメージを反映したものなのだ。『2』でそのポジションを担っているのが、スウェーデン娘ビョーゲンを演じたドリュー・バリモア。『E.T.』の天才子役だった彼女だがアルコールやドラッグに溺れてしまい、この当時は『ボディヒート』や『ガンクレイジー』といったB級作品にしか出演できない状態だった。彼女の復活は『スクリーム』や『ウェディング・シンガー』に出演する90年代半ばまで待たなければいけない。 『スパイ大作戦』ウェインとガースが作戦を遂行する際に必ずといっていいほど流れる曲は、66年から73年まで放映されていたテレビ番組『スパイ大作戦』のテーマ曲(作曲:ラロ・シフリン)。のちに『オースティン・パワーズ』を作ることになるマイク・マイヤーズがいかにスパイ物好きかがよく分かる。ちなみにトム・クルーズが『ミッション:インポッシブル』として映画化リメイクするのは96年のことだ。 『ラバーン&シャーリー』『1』でミルウォーキーに行ったウェインとガースが、ビール工場を見学するシーンは、ミルウォーキーを舞台にした人気コメディ番組『ラバーン&シャーリー』(76~83年)のタイトルバックのパロディ。クリエイターは昨年亡くなったゲイリー・マーシャル。主演したペニー・マーシャル(ゲイリーの妹)とシンディ・ウィリアムズはやはり同作にオマージュを捧げた『サム&キャット』(13〜14年)の1エピソードに揃って出演したりしている。 ロバート・パトリック『1』でウェインの車が警官に止められるシーンは、前年にメガヒットしたばかりの『ターミネイター2』のパロディ。しかも警官役を演じているのはそこで悪役T-1000役だったロバート・パトリック! そりゃウェインがビビるわけである。 「俺はお前のパペットじゃない!」喧嘩のシーンで、ガースがウェインに向けて放つ言葉。自分より8歳も年下のマイヤーズのビジョンに従って演技していたのだから、実際のカーヴィもそう言いたくなったことが何度もあったのではないだろうか。事実、『2』以降は『SNL』特番を除けばマイヤーズとカーヴィの共演作は存在しない。 クリス・ファーレイ『1』と『2』に異なる役ながら、連続出演しているハイテンションなデブは、90年から95年まで『SNL』にレギュラー出演していたクリス・ファーレイ。ローン・マイケルズはマイヤーズの次に彼の才能を買っており、番組卒業後にはマイケルズのプロデュースのもと、親友でもあったデヴィッド・スペードと組んで『クリス・ファーレイはトミー・ボーイ』(95)『プロブレムでぶ/何でそうなるの』(96)に主演した。日本人に育てられた忍者が、米国で活躍する『ビバリーヒルズ・ニンジャ』(97)では元アメフト部の運動神経を活かしたアクションを披露し、ボックスオフィスのナンバーワンを獲得。しかし97年、彼は自宅で死亡している姿で発見される。原因はコカインとモルヒネのオーバードーズ。死因もそうなら享年まで『SNL』の大先輩ジョン・ベルーシと同じ33歳だった。このため、彼が演じるはずだった『シュレック』の主人公の声はマイヤーズが担当することになったのだった。 ロック・オタク『2』にキモいロック・オタク役で登場するのは当時『SNL』のライター兼出演者だったロバート・スミゲルとボブ・オデンカーク。スミゲルは現在アダム・サンドラーの映画やコナン・オブライエン(彼も『SNL』のライターだった)の番組で活躍。オデンカークは『ブレイキング・バッド』(08〜13年)の弁護士ソウル・グッドマン役が評判を呼び、現在はスピンオフ作『ベター・コール・ソウル』で堂々主演を務めている。 ヴィレッジ・ピープル『2』で盗聴がバレて逃げ込んだウェインとガース一行が逃げ込んだ先は何とゲイ・クラブ。道路工事人、警官、バイカー、軍人の変装をしていたため、全員ゲイのディスコ・グループ、ヴィレッジ・ピープルのコスプレと間違えられて大ヒット曲「YMCA」を歌うことを強制されてしまう。「実際のヴィレッジ・ピープルで最もキャラが立っていたのはネイティブ・アメリカン・コスプレの人だったのに、いないのが残念だなあ」と思っていると、予想外の展開でそいつも現れる! ウェインストック『2』で故ジム・モリソンのお告げを受けたウェインが、地元オーロラで開こうとするロック・フェスは、1969年にニューヨーク州郊外で開催されたウッドストック・フェスティバルのパロディだ。奇しくも映画公開の翌年の94年には「ウッドストック94」が開催され、『2』と同様にエアロスミスが出演している。 『テルマ&ルイーズ』ウェインとガースが車ごと崖から転落するシーンは、リドリー・スコット監督による91年作『テルマ&ルイーズ』のパロディ。主演はスーザン・サランドンとジーナ・デイヴィス。ブラッド・ピットの出世作としても知られている クリストファー・ウォーケンとキム・ベイシンガー予算が増えたのか、『2』ではクリストファー・ウォーケンとキム・ベイシンガーという豪華なメンツが脇を固めている。今でこそコメディへの出演が多いウォーケンだけど、この時代はまだ『バットマン リターンズ』(92年)や『トゥルー・ロマンス』(93年)に出演していた頃。それだけにマイヤーズ&カーヴィとの絡みにはインパクトがあった。一方のベイシンガーも『ナインハーフ』(86年)から『L.A.コンフィデンシャル』(97年)に至る黄金期の真っ只中。自分のセクシーさをここまで相対化した演技の破壊力にはハンパないものがあった。 『ウェインズ・ワールド』と『ウェインズ・ワールド2』で、<今>を反映した笑いを極めてしまったマイク・マイヤーズは、<この先>にはもう何も無いことを痛感したはずだ。 『SNL』卒業後、映画に専念することになった彼はだから、いつまで経っても古くならないコメディを作ることに決めた。どうすれば古くならないのかって? それは既に古くなっている<過去>を題材にすることだ。 こうしてマイヤーズはあの『オースティン・パワーズ』(97)に乗り出していくのだけど、それはまたの機会に語ることにしたい。 & Copyright © 2017 by Paramount Pictures. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2018.03.01
ディザスター映画とパロディ映画、’70年代ハリウッドの2大ブームに乗っかった痛快ナンセンス・コメディ!『弾丸特急ジェット・バス』
‘60年代末から続くニューシネマを筆頭に、オカルト映画や動物パニック映画、SF映画、ディスコ映画などなど、次々と現れては消えるブームおよびムーブメントに沸いた’70年代のハリウッド業界。中でも特に強烈なインパクトを残したのがディザスター映画だ。ディザスターとはすなわち災害。地震や火災、洪水、ハリケーン、はたまたテロに事故に細菌感染など、あらゆる「災害」に見舞われた人々の決死のサバイバルを、大掛かりな特撮を駆使したスペクタクルな映像で描く。そのブームの原点は、旅客機ハイジャックを描いた『大空港』(’70)とされるが、しかしこれはスペクタクルよりも人間ドラマに重きを置くという点において、その後のジャンル作品群とは少しばかり趣が異なる。むしろ、豪華客船が真っ逆さまに転覆して沈没するパニック描写が度肝を抜いた『ポセイドン・アドベンチャー』(’72)こそ、’70年代ディザスター映画の原型でありブームの起爆剤だったと言えよう。 その後も、『タワーリング・インフェルノ』(’74)や『大地震』(’74)、『ヒンデンブルグ』(’75)などが大ヒットを記録し、『大空港』も『エアポート』シリーズとして人気コンテンツ化。スタジオ各社は手を変え品を変え様々な災害映画を世に送り出し、そのブームは映画界全体に波及していく。『ジョーズ』(’75)に代表される動物パニック映画群も、改めて振り返ればディザスター映画ブームに影響されている点が多々あるし、『オリエント急行殺人事件』(’74)に始まるアガサ・クリスティ映画シリーズも、新旧豪華オールスターを揃えたグランドホテル形式の採用という点において、ディザスター映画の人気に感化された部分はあったはずだ。 さらに、『大洪水』(’76)や『大火災』(’77)などディザスター物のテレビ映画も次々と登場し、ブームの影響はテレビ界にまでも及んだ。また、日本でも『日本沈没』(’73)や『東京湾炎上』(’74)、『新幹線大爆破』(’75)などが、ヨーロッパでも『カサンドラ・クロス』(’76)に『コンコルド』(’79)が作られた。スタジオ・システムの崩壊した’50年代半ば以降、衰退の一途をたどっていたハリウッド映画界は’70年代に華麗な復活を遂げる。その大きな原動力は一連のニューシネマ映画群だったわけだが、しかしその対極にあるようなディザスター映画群もまた、重要な一翼を担っていたことは否定できないだろう。 そんなディザスター映画ブームの真っただ中に誕生したのが、この『弾丸特急ジェットバス』(’76)。原子力エンジンで走行する巨大観光バスに爆弾が仕掛けられるという、まるで『新幹線大爆破』みたいなストーリーを軸に、当時のディザスター映画にありがちな設定の数々をパロったナンセンス・コメディだ。ディザスター映画のパロディといえば『フライングハイ』(’80)シリーズが有名だが、そのご先祖様みたいな映画だと言えよう。と、ここで思い出しておかねばならないのは、’70年代はディザスター映画ブームの時代であったと同時に、パロディ映画ブームが花開いた時代でもあったということだ。 それ以前にもユニバーサル・ホラーをネタにした『凹凸フランケンシュタインの巻』(’48)や『凹凸透明人間』(’51)、007シリーズをネタにした『007 カジノ・ロワイヤル』(’67)などのパロディ映画がポツポツと作られてはいたし、イギリスでは「Carry On」シリーズという国民的な人気コメディ映画シリーズが様々なパロディにも挑戦していた(残念ながら日本公開されたのは、スパイ映画をネタにした’64年の『00H/その時一発』くらいのもの)が、あくまでも散発的に作られるだけだった。それを大きく変えたのが喜劇王メル・ブルックスである。 西部劇ネタの『ブレージングサドル』(’74)を皮切りに、ホラー映画ネタの『ヤング・フランケンシュタイン』(’74)、サイレント映画ネタの『サイレント・ムービー』(’76)、ヒッチコック映画ネタの『新サイコ』(’78)などを次々と大ヒットさせたメル・ブルックスは、言うなればパロディ映画を人気ジャンルとして確立させた立役者だった。この流れは’80年代の『フライングハイ』シリーズや『裸の銃を持つ男』シリーズへと受け継がれ、近年も『最終絶叫計画』シリーズなどのパロディ映画群に多大な影響を及ぼし続けている。 …とまあ、そんなわけで、要するにこの『弾丸特急ジェットバス』は、ディザスター映画ブームとパロディ映画ブーム、その2つのトレンドを見事に掛け合わせた、’70年代当時としては圧倒的にタイムリーな作品だったわけだ。 物語の主な舞台となるのは、全長50メートルで重量75トン、ボウリング場や室内プール、ラウンジ・バーなども備えた、最大で180名の乗客を収容できる巨大原子力バス「サイクロプス号」。原子力エネルギーが人類の輝かしい未来を開く!とばかりに、ニューヨークからデンバーまでの大陸横断運行を華々しく行うわけだが、原子力にエネルギー市場を奪われまいとする石油業界が妨害工作を仕掛けてくる。この辺りのストーリー設定は、3.11を経験した現在の我々日本人にとって、恐らく劇場公開時よりもリアルに感じられることだろう。座席の上から飛び出してくる救命具が放射能防護服というギャグも、少なくとも当時の観客にとっては荒唐無稽だったのかもしれないが、しかし今となっては笑うに笑えないネタだ。核戦争後の世界を描いたSFパニック映画『世界が燃えつきる日』(’77)もそうだが、昔は放射能汚染に対する危機意識が今よりもずっと薄かったのである。 閑話休題。石油業界の手先によって研究所を爆破され、肝心の運転手を失ってしまった「サイクロプス号」は、開発者の娘キティ(ストッカード・チャニング)の元恋人ダン(ジョセフ・ボローニャ)を代役として迎えることに。しかしこのダンという男、優秀なバス・ドライバーなのだが、なにかと血気盛んで暴走しやすい問題児。しかも、雪山のバス遭難事故で乗客を食べて生き延びたという汚名を着せられ、裁判では無罪を勝ち取ったものの職を追われたという過去がある。まあ、本人曰く、実際は座席やマットレスを料理して食っただけ、相棒の作ったスープに乗客の片足が入っていたのを知らずに食ったことはあるが、それくらいで責められる謂れはなどない!ってことらしいですが(笑)。 そんな曰く付きの人物をキャプテンに、これまた色々と訳ありな乗客たちを乗せてニューヨークを出発する「サイクロプス号」。ところが、またもや石油業界の差し向けたスパイがバスに時限爆弾を仕掛けており、危機また危機の災難に見舞われていくことになる。 巨大バスの車内という限定空間でグランドホテル形式のドラマが展開するのは、『エアポート』シリーズを始めとするディザスター映画の定番。ルース・ゴードン演じる家出婆さんは『大空港』のヘレン・ヘイズ、リン・レッドグレーヴ演じるセレブ・マダムは『エアポート’75』のグロリア・スワンソンのパロディだろう。「サイクロン号」にトラックが突っ込むのは『エアポート’75』、ジュースで水没したキッチン車両での救出劇は『ポセイドン・アドベンチャー』が元ネタ。そんな「ディザスター映画あるある」的なパロディを散りばめつつ、ナンセンスなビジュアル・ギャグのつるべ打ちで観客を楽しませる。ビール瓶の代わりに割れた(?)ミルクパックと折れた蝋燭で対決する乱闘シーンや、人数が多すぎて延々と終わらない乾杯シーンなど、クスっと笑える程度にバカバカしいギャグばかりなのがミソだ。 で、ディザスター映画の定番といえば華やかなオールスター・キャストなのだが、本作ではビッグネームが一人もいない代わりに、’70年代ハリウッド映画ではお馴染みの懐かしい名バイプレヤーたちがズラリと顔を揃える。オスカー俳優のホセ・ファーラーがいるじゃないか!なんて言われそうだが、名優ではあってもスターではなかったからね。そんな彼が演じるのが、石油業界の悪玉親分アイアンマン。「鉄の肺」と呼ばれる巨大人工呼吸器に入っているので、すなわちアイアンマンなのだそうだ。なんたる罰当たりなブラック・ジョーク(笑)。監督のジェームズ・フローリーは、『ザ・モンキーズ』(‘66~’68)の全エピソードを担当してエミー賞に輝き、『刑事コロンボ』シリーズや最近だと『グレイズ・アナトミー』にも参加するなど、主にテレビで活躍した人物。本作は基本的にアホ丸出しなコメディでありながら、しかし大規模なパニックやサスペンスの描写にも全く抜かりがない。なかなか痛快な仕上がりだ。 ちなみに、本作は後の『フライングハイ』と同じくパラマウント映画の製作。パラマウントといえばハリウッドを代表するメジャー・スタジオの一つだが、実はディザスター映画の代表的な作品の中にパラマウント作品は一つもない。ワーナーや20世紀フォックス、ユニバーサルは積極的に作っていたが、パラマウントはせいぜい『ハリケーン』(’79)くらいのもの。それとて、ディザスター映画と呼ぶには微妙なところだ。そんなブームと距離を置いていたパラマウントが、あえて本作や『フライングハイ』のようなパロディ映画を製作したという事実もまた興味深い。■ TM, ® & © 2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved.