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COLUMN/コラム2015.10.30
憧れのウェディング・ベル
アメリカ西海岸の都市サンフランシスコ。腕利きシェフのトム(ジェイソン・シーゲル)と心理学者を志すバイオレット(エミリー・ブラント)は、大晦日のパーティでの運命的な出会いからちょうど1年後に婚約した。 だがバイオレットに中西部のミシガン大学から採用通知が来たために結婚式の日程は棚上げに。トムは、バイオレットのキャリアを優先して一緒にミシガンに移り住むものの、実績を積み重ねていく彼女とは対照的にシェフとしてのスキルを活かせる職場が見つからず落ち込んでいく。そしてその格差は、愛しあっていたはずのふたりの関係にも影響を及ぼしてしまうのだった…。 大抵のロマンティック・コメディでは、主人公のふたりが困難を乗り越えて互いの愛情を確かめるとすぐに結婚式のシーンに切り替わって大団円を迎えたりする。でも『憧れのウェディング・ベル』はそんな「お約束」を守らない。ふたりは婚約までしながら、そこから結婚式までなかなか辿り着けないのだから。 このユニークなストーリーを書いたのは、ジェイソン・シーゲルとニコラス・ストーラーの主演俳優・監督コンビだ。実生活でも親友同士であるふたりの盟友関係は今から14年前に遡る。始まりは『Undeclared』(01〜03)というテレビ番組だった。イケてない高校生の青春をリアルに描いて一部で絶賛されながら、視聴率不振で打ち切られた『フリークス学園』(99〜00)のクリエイター、ジャド・アパトーが「今度こそは」と立ち上げたこの大学コメディには、『フリークス学園』で発掘された21歳のシーゲルがジェイ・バルチェルやセス・ローゲンらとともにキャスティングされていた。このプロジェクトに脚本家として参加したのがストーラーだったのだ。 やはりこのドラマも視聴率は振るわずに打ち切られてしまったのだが、ストーリー作りの才能を認められたストーラーは、アパトーと共同でジム・キャリーの主演作『ディック&ジェーン 復讐は最高! 』(05年)の脚本を書いてハリウッド・デビューに成功する。この作品での仕事をキャリーに気に入られたストーラーは、引き続きキャリー主演作『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(08年)の脚本を担当。単なるノン・フィクションだった原作をコメディ・ドラマに仕立て直して大ヒットさせるという離れ業をやってのけた。 一方、シーゲルもシットコム『ママと恋に落ちるまで』(05〜14年)のマーシャル役でお茶の間の人気者となっていた。この頃には『40歳の童貞男』(05年)と『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(07年、シーゲルは主演のセス・ローゲンの友人役で出演した)の連続ヒットでハリウッドを代表する売れっ子プロデューサー兼監督となっていたアパトーの強い勧めもあり、シーゲルは映画進出を決意する。この時に彼がパートナーとしてあらためて声をかけたのがストーラーだったというわけだ。 記念すべきコンビ第一作は『寝取られ男のラブバカンス』(08年)。突然ガールフレンドに捨てられたシーゲル扮する主人公が、傷心旅行先のハワイで巻き起こす騒動を描いたこの作品は大ヒットを記録した。 以降もシーゲルとストーラーは、スウィフトの有名な風刺小説をモダンにリメイクしたSFX大作『ガリバー旅行記』(10年、主演はジャック・ブラックだがシーゲルも出演)、『寝取られ男』に登場するロックスター、アンガスをメインキャラに据えたロード・ムービー『伝説のロックスター再生計画!』(10年、シーゲルは原案のみ)、カーミットやミス・ピギーが登場する、マペット・ショーへの愛に溢れたミュージカル『ザ・マペッツ』(11年)、そしてシーゲルとキャメロン・ディアスが、SEXを撮影したビデオが誤ってネット上で拡散されてしまう夫婦に扮したエッチな『SEXテープ』(14年)といったヒット作を生み出し続けている。特筆すべきは、どれも気軽に楽しめるコメディ映画でありながら、似ている作品はひとつとしてないこと。シーゲルとストーラーは妥協を許さないアーティストなのだ。 そんな中でも『憧れのウェディング・ベル』はビターで大人びたタッチの異色作である。ヒロインに『ガリバー旅行記』でシーゲルと既に共演していたエミリー・ブラントを起用したのは、ストーラーとシーゲルが気心のしれたメンツで映画作りに集中したかったからだろう。 本作でふたりが力を注いで描いているのは「アメリカの正式な結婚式」の面倒くささだ。アメリカというとノリがいい国に思えるかもしれないけどトンデモない! 日本の場合、一般的な婚約期間はせいぜい半年程度だけど、アメリカでは1年半くらいはザラだ。その長い間、新婦とメイド・オブ・オナー(花嫁付添人のリーダー、通常は新婦の一番の親友が就任)は工夫を凝らした結婚式のプランを延々と練り上げる。そして遂に訪れた結婚式の前夜には豪華な晩餐会を開き、二次会は新郎側と新婦側に分かれて「独身さよならパーティ」を夜通し開催する。そして翌朝、ヨレヨレになりながら本番へとなだれ込むのだ。 日本でも劇場公開されたクリステン・ウィグの主演作『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11年、この作品もプロデュースはジャド・アパトーだ)は、社会性が欠如しているにもかかわらず、親友からメイド・オブ・オナーを頼まれてしまった女子の苦闘を描いたものだった。また日本でもヒットした『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09年)や『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』(12年)は、独身さよならパーティではしゃぎすぎて結婚式開催に赤信号を灯してしまう付添人たちを描いたコメディだ。結婚式にトラブルと笑いはつきものなのである。 でも『憧れのウェディング・ベル』の場合、主人公のふたりは晩餐会にすらなかなか辿り着けない。原題(The Five-Year Engagement)通り、婚約期間は五年にも及んでしまう。ひとつのトラブルが何とか収まったと思ったら、別の予期せぬトラブルが起きて結婚自体が仕切り直しになってしまうからだ。その間に結婚式をすっ飛ばして「デキ婚」をしたトムの同僚アレックス(今をときめくクリス・プラット!)とバイオレットの姉のスージー(アリソン・ブリー)のカップルが、どんどんハッピーになっていく姿が並行して描かれることによって、シニカルさはレッドゾーンに突入する。 もちろんロマンティック・コメディなので、主人公のふたりはラストぎりぎりになって最高の結婚式へと超特急で向かっていく。でもそこで語られるのは「結婚する心の準備とは自分の抱える問題を解決することではない。その問題をふたりで分ちあえるほど相手を信頼できているかどうかだ」という、男女の仲について悟りきった者だけが放てるメッセージだ。師匠のジャド・アパトーが45歳のときに撮った苦いファミリー・ドラマ『40歳からの家族ケーカク』(12年、シーゲルはスポーツ・ジムのインストラクター役で出演している)の境地に、シーゲルは弱冠32歳で辿り着いてしまったのかもしれない。 そのシーゲルは、クロエ・セヴィニーやミシェル・トラクテンバーグ、リンジー・ローハン、ミシェル・ウィリアムズといった華麗なガールフレンド歴を経て、現在は写真家のアレクシス・ミクスターと交際中。今度こそゴールイン間近と噂されている。はたして彼がどんな工夫を凝らした結婚式を挙げるのか、それとも式をすっ飛ばすのか、固唾を飲んで見守っていきたい。 Artwork © 2012 Universal Studios. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2015.10.30
バチェロレッテ -あの子が結婚するなんて!
ニューヨーク。リッチで美人のレーガンはある日、高校時代の同級生ベッキーから衝撃的な告白を受ける。「あたしプロポーズされたの!」 高校時代は学園の女王として君臨していた自分が、ボーイフレンドから結婚の話が一向に出てこなくてイライラしているというのに、なんでデブでブタ顔の彼女が先に結婚するの? 激しい動揺と傷ついたプライドを隠しながら、ベッキーのブライズメイズ(花嫁介添人)の代表として式の準備を進めるレーガンのもとに、かつての女王グループ仲間であるジェナとケイティが駆けつけた。 過去の栄光とうってかわって今では冴えない毎日を送る彼女たちは、結婚式前夜のバチェロレッテ・パーティー(独身さよならパーティ)で鬱憤が爆発。調子に乗りすぎてベッキーのウェディングドレスをビリビリに破ってしまう。はたしてレーガンたちは朝までにドレスを修理することが出来るのだろうか? 試練と狂乱の一夜が始まった! 『バチェロレッテ -あの子が結婚するなんて!』は女子の、女子による、女子のためのブラック・コメディである。原作である戯曲を書いたのは女性劇作家のレスリー・ヘッドランド。1981年生まれの彼女はティッシュ・スクール(ニューヨーク大学の芸術科)卒業後にワインスタイン・カンパニーの総帥ハーヴェイ・ワインスタインのアシスタントをしながら、キリスト教の「七つの大罪」をモチーフにしたコメディ戯曲を次々とオフ・ブロードウェイで上演。『バチェロレッテ』は「暴食」をモチーフにしたシリーズの一編だったが、コメディ界のスーパースター、ウィル・フェレルと彼の相棒の映画監督アダム・マッケイの目にとまって映画化が決定。ふたりのプロデュースのもと、ヘッドランドはいきなり映画監督兼脚本家としてデビューすることになったのだった。 セックス、ドラッグ何でもありのギャグと、プライドとトラウマが交錯するダイアローグの面白さは、さすがフェレルとマッケイが認めたクオリティ。かつ女子にしか書けない細やかさに満ちている。初演出でありながらカット割りが上手いことにも驚かされる。観客に見せるべきものが何なのかを本能的に掴んでいるのだろう。ヘッドランドは、今夏にやはりフェレルとマッケイのプロデュースで、ジェイソン・セダイキスとアリソン・ブリーが主演した監督第二作『Sleeping with Other People』の公開が決まっており、その活動には今後も要チェックだ。 舞台版では自ら出演もしていたヘッドランドだが、『バチェロレッテ』の映画化に際しては同世代の女優たちに演技を委ねている。そのキャスティングが絶妙だ。 まずメイン・キャラであるレーガンを演じているのはキルスティン・ダンスト。彼女の出演が決まった時点で、本作の成功は約束されたといっていい。というのも、キルスティンは、ティーンムービーに出演していた十代の頃、学園女王役を当たり役にしていたからだ。 ざっと思い出してみるだけでも、ジョー・ダンテのカルト作『スモール・ソルジャーズ』(99)、ウォーターゲート事件の裏側を描いた『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(99)、ソフィア・コッポラの長編デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』(99)、そして大ヒットしたチアリーディング・スポ根モノ『チアーズ!』(00)といった作品で彼女は学園女王を演じている。サム・ライミが監督した『スパイダーマン』三部作(02?07)で彼女が主人公のピーターにとって憧れの存在であるメアリー・ジェーンを演じていたのは、すでに学園女王のパブリック・イメージを得ていたからだ。 こうした作品でキルスティンが扮していた学園女王は、オタクやボンクラにも優しい女神のような性格だったけど、『バチェロレッテ』の彼女は正反対。あんなスウィートだった子がアラサーになったら、ささくれだった性格の女子に変貌してしまっているのだから、キルスティンを昔から知る観客はそのギャップに笑うしかない。そして笑うと同時に、時間の残酷な経過を否応なしに確認させられるのだ。こんな役を敢えて受けて立ったキルスティンの度量の大きさには拍手するしかない。 三人の中では一番普通人に近いジェナを演じているのがリジー・キャプランという配役にもうなずいてしまう。ジェームズ・フランコ、セス・ローゲン、ジェイソン・シーゲルといった未来のスター俳優を輩出した伝説的なテレビ学園ドラマ『フリークス学園』(99?00)でデビューを飾った彼女が初めて注目されたのは、やはり学園コメディの『ミーン・ガールズ』(04)だった。 そこでのリジーは、リンジー・ローハン扮する主人公の友人役で登場。アフリカから転校してきた何も知らないリンジーに学園女王軍団(演じているのは当時全く無名だったレイチェル・マクアダムスとアマンダ・セイフライド!)の打倒を吹き込むクセモノを快演していた。 その後、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)や『トゥルーブラッド』(08)といった作品に出演した彼女は本作をステップに、実在した性科学のパイオニアたちを描いた実録ドラマ『Masters of Sex』(13?)でブレイク。コメディでありながら国際問題を巻き起こした問題作『The Intereview』(14)ではフランコやローゲンとリユニオンを果たしている。 三人組の中で最もイッちゃっているケイティを演じているのは、オーストラリア出身のアイラ・フィッシャーだ。『ウエディング・クラッシャーズ』(05)での奔放な上院議員令嬢や、『お買いもの中毒な私!』(09)でのショッピング依存症の女子といった特殊なキャラほどイキイキする彼女は、実生活ではサーシャ・バロン=コーエン夫人である。なるほどコメディ・センスがハンパないわけだ。本作後も『華麗なるギャツビー』(13)や『グランド・イリュージョン』(13)などでその特異なセンスを見せつけている。 そんな美女トリオを出し抜いて最初に結婚するベッキーを演じているのが、レベル・ウィルソンであることにも注目したい。フィッシャーと同じくオーストラリア出身の彼女は、コメディエンヌとして母国で人気を獲得したあとにハリウッドに進出。その第一作『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン 』 (11)でクリステン・ウィグ扮する主人公のルームメイト役を好演して注目され、本作への出演となった。 決して美人とはいえず、体格のハンディ(?)を抱えながらも、ポジティブ思考と積極性を武器に、お高く止まった三人よりも男に不自由していないように見える彼女が演じているからこそ、ベティはこれほど血の通ったキャラクターにはなったのだと思う。レベルはこの作品での肉食キャラを本作以降も貫き通して、『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』 (13)や『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』 (14)で活躍。先日、自慢の喉を聴かせた大ヒット作『ピッチ・パーフェクト』(12)がようやく日本公開されたばかりだ。現在アメリカで大ヒット中の続編『Pitch Perfect 2』 (15)も年末には日本公開が予定されており、今後もスクリーンで暴れまくる彼女の姿を楽しめそうだ。 つい最近までは「男優と比べて女優は悲惨な目に遭っても笑えないからコメディには向いていない」なんてことが語られてきた。でもそれが真っ赤な嘘であることが『バチェロレッテ』を観れば分かるはず。紛うことない美女たちがバカをやりまくり、悲惨な一夜を体験する本作は、そういう意味ではコメディの新しい地平を切り開いた作品なのだ。 ©2012 Strategic Motion Ventures LLC
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COLUMN/コラム2015.06.03
女子の、女子による、女子のためのブラック・コメディ『バチェロレッテ -あの子が結婚するなんて!』を巡る女子たち
高校時代は学園の女王として君臨していた自分が、ボーイフレンドから結婚の話が一向に出てこなくてイライラしているというのに、なんでデブでブタ顔の彼女が先に結婚するの? 激しい動揺と傷ついたプライドを隠しながら、ベッキーのブライズメイズ(花嫁介添人)の代表として式の準備を進めるレーガンのもとに、かつての女王グループ仲間であるジェナとケイティが駆けつけた。 過去の栄光とうってかわって今では冴えない毎日を送る彼女たちは、結婚式前夜のバチェロレッテ・パーティー(独身さよならパーティ)で鬱憤が爆発。調子に乗りすぎてベッキーのウェディングドレスをビリビリに破ってしまう。はたしてレーガンたちは朝までにドレスを修理することが出来るのだろうか? 試練と狂乱の一夜が始まった! 『バチェロレッテ -あの子が結婚するなんて!』は女子の、女子による、女子のためのブラック・コメディである。原作である戯曲を書いたのは女性劇作家のレスリー・ヘッドランド。1981年生まれの彼女はティッシュ・スクール(ニューヨーク大学の芸術科)卒業後にワインスタイン・カンパニーの総帥ハーヴェイ・ワインスタインのアシスタントをしながら、キリスト教の「七つの大罪」をモチーフにしたコメディ戯曲を次々とオフ・ブロードウェイで上演。『バチェロレッテ』は「暴食」をモチーフにしたシリーズの一編だったが、コメディ界のスーパースター、ウィル・フェレルと彼の相棒の映画監督アダム・マッケイの目にとまって映画化が決定。ふたりのプロデュースのもと、ヘッドランドはいきなり映画監督兼脚本家としてデビューすることになったのだった。 セックス、ドラッグ何でもありのギャグと、プライドとトラウマが交錯するダイアローグの面白さは、さすがフェレルとマッケイが認めたクオリティ。かつ女子にしか書けない細やかさに満ちている。初演出でありながらカット割りが上手いことにも驚かされる。観客に見せるべきものが何なのかを本能的に掴んでいるのだろう。ヘッドランドは、今夏にやはりフェレルとマッケイのプロデュースで、ジェイソン・セダイキスとアリソン・ブリーが主演した監督第二作『Sleeping with Other People』の公開が決まっており、その活動には今後も要チェックだ。 舞台版では自ら出演もしていたヘッドランドだが、『バチェロレッテ』の映画化に際しては同世代の女優たちに演技を委ねている。そのキャスティングが絶妙だ。 まずメイン・キャラであるレーガンを演じているのはキルスティン・ダンスト。彼女の出演が決まった時点で、本作の成功は約束されたといっていい。というのも、キルスティンは、ティーンムービーに出演していた十代の頃、学園女王役を当たり役にしていたからだ。 ざっと思い出してみるだけでも、ジョー・ダンテのカルト作『スモール・ソルジャーズ』(99)、ウォーターゲート事件の裏側を描いた『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(99)、ソフィア・コッポラの長編デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』(99)、そして大ヒットしたチアリーディング・スポ根モノ『チアーズ!』(00)といった作品で彼女は学園女王を演じている。サム・ライミが監督した『スパイダーマン』三部作(02〜07)で彼女が主人公のピーターにとって憧れの存在であるメアリー・ジェーンを演じていたのは、すでに学園女王のパブリック・イメージを得ていたからだ。 こうした作品でキルスティンが扮していた学園女王は、オタクやボンクラにも優しい女神のような性格だったけど、『バチェロレッテ』の彼女は正反対。あんなスウィートだった子がアラサーになったら、ささくれだった性格の女子に変貌してしまっているのだから、キルスティンを昔から知る観客はそのギャップに笑うしかない。そして笑うと同時に、時間の残酷な経過を否応なしに確認させられるのだ。こんな役を敢えて受けて立ったキルスティンの度量の大きさには拍手するしかない。 三人の中では一番普通人に近いジェナを演じているのがリジー・キャプランという配役にもうなずいてしまう。ジェームズ・フランコ、セス・ローゲン、ジェイソン・シーゲルといった未来のスター俳優を輩出した伝説的なテレビ学園ドラマ『フリークス学園』(99〜00)でデビューを飾った彼女が初めて注目されたのは、やはり学園コメディの『ミーン・ガールズ』(04)だった。 そこでのリジーは、リンジー・ローハン扮する主人公の友人役で登場。アフリカから転校してきた何も知らないリンジーに学園女王軍団(演じているのは当時全く無名だったレイチェル・マクアダムスとアマンダ・セイフライド!)の打倒を吹き込むクセモノを快演していた。 その後、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)や『トゥルーブラッド』(08)といった作品に出演した彼女は本作をステップに、実在した性科学のパイオニアたちを描いた実録ドラマ『Masters of Sex』(13〜)でブレイク。コメディでありながら国際問題を巻き起こした問題作『The Intereview』(14)ではフランコやローゲンとリユニオンを果たしている。 三人組の中で最もイッちゃっているケイティを演じているのは、オーストラリア出身のアイラ・フィッシャーだ。『ウエディング・クラッシャーズ』(05)での奔放な上院議員令嬢や、『お買いもの中毒な私!』(09)でのショッピング依存症の女子といった特殊なキャラほどイキイキする彼女は、実生活ではサーシャ・バロン=コーエン夫人である。なるほどコメディ・センスがハンパないわけだ。本作後も『華麗なるギャツビー』(13)や『グランド・イリュージョン』(13)などでその特異なセンスを見せつけている。 そんな美女トリオを出し抜いて最初に結婚するベッキーを演じているのが、レベル・ウィルソンであることにも注目したい。フィッシャーと同じくオーストラリア出身の彼女は、コメディエンヌとして母国で人気を獲得したあとにハリウッドに進出。その第一作『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン 』 (11)でクリステン・ウィグ扮する主人公のルームメイト役を好演して注目され、本作への出演となった。 決して美人とはいえず、体格のハンディ(?)を抱えながらも、ポジティブ思考と積極性を武器に、お高く止まった三人よりも男に不自由していないように見える彼女が演じているからこそ、ベティはこれほど血の通ったキャラクターにはなったのだと思う。レベルはこの作品での肉食キャラを本作以降も貫き通して、『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』 (13)や『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』 (14)で活躍。先日、自慢の喉を聴かせた大ヒット作『ピッチ・パーフェクト』(12)がようやく日本公開されたばかりだ。現在アメリカで大ヒット中の続編『Pitch Perfect 2』 (15)も年末には日本公開が予定されており、今後もスクリーンで暴れまくる彼女の姿を楽しめそうだ。 つい最近までは「男優と比べて女優は悲惨な目に遭っても笑えないからコメディには向いていない」なんてことが語られてきた。でもそれが真っ赤な嘘であることが『バチェロレッテ』を観れば分かるはず。紛うことない美女たちがバカをやりまくり、悲惨な一夜を体験する本作は、そういう意味ではコメディの新しい地平を切り開いた作品なのだ。■ ©2012 Strategic Motion Ventures LLC
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COLUMN/コラム2015.05.04
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年6月】キャロル
仲良し4人グループの中で一番サエないあの子が結婚!残された3人は悔しさ全開、結婚式前日に大騒動を巻き起こす・・・というドタバタコメディ。シチュエーションは違えど誰でも一度は友人に嫉妬したり、比べたり、僻んだりした経験がありますよね?人ごとだと思ったそこのアナタにこそ捧げたい反面教師的な一品。何学歴もキャリアもルックスも完璧だけれど結婚できずにもがいているレーガンを演じるのはキルスティン・ダンスト。先日ザ・シネマで放送した『インタビュー・ウィズ・バンパイア』では何とも言えない瑞々しく妖しい天才的な演技を見せてくれましたが、本作では一転、若づくりに勤しむグヴィネス・パルトロウくらいアナタどーしちゃったの?という残念な落ちっぷり。でもまぁお高くハイソな彼女がガール・ネクスト・ドア的なポジションで逆に等身大の魅力を発揮しているともいえます。一方、太くてサエない日々を送っていたが超イケメン実業家の彼にプロポーズされ上り調子のベッキー演じるレベル・ウィルソン。彼女は本作では残念ながら披露しておりませんが歌マジ上手いわトーク面白いわで、今後メリッサ・マッカーシーと並んでぜひ注目していただきたいコメディ女優の一人。(ワタシの大好きなアナ・ケンドリック主演の『ピッチ・パーフェクト』でその歌声をご確認ください)対象的な“今旬”女優たちの織りなす騒動を是非見届けてやってください。 ©2012 Strategic Motion Ventures LLC
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COLUMN/コラム2014.12.26
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2014年1月】おふとん
古代ギリシャの神々&人間のバトルが描かれた本作。稀代のビジュアリスト、ターセム・シン監督が描く古代ギリシャはギンギラで、バチバチでゴリゴリ!『ザ・セル』『落下の王国』に続き、オスカーデザイナー石岡瑛子とタッグを組んだ3作目の本作。ターセム監督の壮大な世界観を、たおやかで力強い衣装によって、美しく残酷で崇高な表現へと押し上げています。畏怖の念と、大スペクタクルが絡み全身を包み、五感フル刺激されまくり!ラスト3秒、刮目せよ! ©2010 War of Gods,LLC. All Rights Reserved.
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NEWS/ニュース2014.08.01
現代の侍 藤岡弘、氏が語る本物のアクションスター道とは!?
ミーンミーン(セミ)ただでさえ暑い夏。もう勘弁してほしい…今日の最高気温は36度。アイスより自分のほうが早く溶けるのではないかと危惧しています。でもみんな思い出してほしい!死ぬほど暑いときに食べる死ぬほど熱いカレーを!!噴出す汗、しびれる舌…そして、食べ終わったあとの、あの爽快感!! ガチ・アクション祭りはもうね、カレーなんです!あっついときの、あっついカレー!CGなんかに頼らない俳優たちの体を張った熱演は、暑苦しいほど!暑い夏をさらにアツくするんです!! ザ・シネマでは劇場新作『オール・ユー・ニード・イズ・キル』や『エクスペンダブル3』、『バトルフロント』との公開記念連動特集、24時間アクション編成、アクションスター総選挙など、夏をアツく盛り上げてきました。あー、こんな強い男たちに守られたいわ…謎の組織に誘拐されればトム・クルーズ来てくれんじゃねえかなー。謎の組織落ちてねぇかなー。強くて、イケメンで、渋くて、男らしい…もう海外移住かな。。 いやいや、あれ、ちょっと待てよ?! 日本には、あの漢がいる!唯一無二の!そう、あの漢!! 藤岡 弘、!!! 藤岡氏といえば、俳優にして武道家であり、ハリウッド映画でも活躍し海外からも尊敬される、まさに現代の侍!スタントを使わず自らアクションをこなすアクション俳優として映画界を牽引してきた「ガチ」の漢であります。 今回は、特番『藤岡弘、ガチ・アクションスター道』収録後、藤岡氏にガチに取材。現代の侍だからこそ語れるアクションスター道とは!?ここに、そのアツき魂のメッセージを余すことなく紹介いたします。 「己の肉体と精神を磨き続け、絶えず備える」 Q:本日の収録を終えられた感想をお聞かせください。 A:僕も日本の俳優として今までスタントを使わずアクションをやってきましたから、今日、世界の本物のアクションスターたちについて番組で語り、非常に共鳴する部分が多いと改めて再確認しましたね。本物を体得した上で、実践で魅せる、すなわち演じるのではなく、成りきる!その緊張感や緊迫感の中でしか生まれない映像があるんです。おかげで僕自身、満身創痍でね、まるでサイボーグですよ。生死を彷徨ったこともあります。そう思うと、本物のアクションスターとして絶えず挑戦し続けているアメリカの俳優さんには、共感する部分があると強く感じました。本物の映像を見せようとしている向こうのアクションスターたちの生き様が、僕はすごく好きです。日本の若手の俳優さんたちも、ああいう影響を是非受けてほしいなあ。 Q:アクションスターにとって一番必要な条件とは? A:絶えず己の肉体と精神を磨き続け、絶えず備えることです。修行だと思って自分を極限まで鍛え、訓練し続ける。アメリカの俳優も日常生活の中で、ジムで鍛えたり、馬に乗ったり、実弾射撃をしたりしている。普段から遊びながら訓練しているんですよ。私も海外に行くとまず実弾射撃をしますし、海に潜ったり飛び込んだり、滝業をしたり、山の幸を求めて山に登って山菜を取ったりね。楽しみながら肉体を強化しているんです。それから人間的魅力も必要ですね。国際的視点も歴史的視点も兼ね備えた上で、五感をフル回転させながら、人間とは何ぞや!?と考えていかなければならない。精神や生き様、心のうちにある内面的なものまでも、肉体と同時に鍛えていく。その両面を兼ね備えることが、魅力のあるアクションスターになるためには必要だと思っています。だから私も、実践し身に着けたものを映像に表すという、そういう意識を絶えず持ち続けていますし、この歳でも日々訓練を重ね、自宅の道場でもいつも訓練しています。 「武の訓練によって身についた型が、身体の中に入っている」 Q:ガチアクション総選挙のスターの方たちと藤岡さんの共通点はどこでしょうか。 A:やはり普段の生活から訓練しているところでしょうか。実は本物の銃って、ものすごく重いんですよ。たとえ空砲でも、実弾と同じで反動がある。あれを受け止めるためには、腰の構えと中心がとれた足のつっぱりが必要不可欠なんです。無かったら簡単に吹っ飛ばされる。特に機関銃なんかは連射で反動がすさまじい。それを彼らはあの年で持ち応えられるということは、かなり訓練をしているんだろうということが、僕は分かるわけです。あの歳でもちゃんと備えているんだということを見せられると、日本にいて同じ様な歳になることを考えた時、ちょっと不安になりますよね。でも僕は十分耐えられます。それはやっぱり普段、訓練しているからです。たとえば日本刀振るのも、あれだけの重さを片手で長時間振ることができるかどうか。まさかりを振っている様なものですよ。それに耐えられるのは、やっぱり体の中心を取る訓練をしているからなんですよ。うちには何本も真剣がありますけど、それぞれに個性がありますから、斬るものによって刀を変えるわけです。だから、それらをいつも自分の身近にあるものとして、刀を自分の手足のごとく体の一部になるように絶えず触ったりして、訓練を重ねています。サッカー選手がいつもボールを遊びの様に触っているのと同じ感じですよ。体の中には武の訓練が、型が入っているから、いざ何者かに襲われて何かされても、すぐ体が回転して体が左右に動いて対応できるようになっている。普段の訓練、若い時に積んだものはずっと身についていて、いざとなった時に戦えるってことですね。 Q:ご自身が好きな海外のアクションスターは? A:いやー、みんな好きだけど、でもやっぱりシルヴェスター・スタローンだね。あの歳でもいろいろな挑戦をし続けて、気迫や気力がすごい!ミッキー・ロークにしても、あの歳の方たちががんばっていると、年齢じゃなくて、人生に立ち向かう姿勢が重要なんじゃないかなと思うんですよ。日本だとなんとなく「おさまっていこう」という感じになってしまう人が多いんじゃないかと思うけどね、それも分かる部分はあります。でも立ち向かう挑戦的な気力やパワー、エネルギーを感じさせてくれる俳優さんがどんどん増えるといいなと願っています。 「若者よ、もっと雄雄しくなれ!戦闘モードの危機感を持て! 」 Q:日本だとアクション俳優はいても、アクションスターが育っていない様に思うのですが? A:今の芸能界には、もっと面白くもっと視野広く楽しませる映画を提供しよう!という姿勢が足りないのではないかな。芸術作品にのみ集中しすぎているのではないかと思います。僕はもっと色々なものがあっていいと思うんですよ。そういう事に夢を持つ若い俳優さんがどんどん挑戦したくなるような、夢に向かいたくなるような、そういう現場を見せてもらえれば、もっと多く若者が映画界を目指すんじゃないですかね。僕としては、魅力ある映像界をもう一回再現してもらいたい。いろんな映像があっていいんだからさ。僕はそういうものを絶対に失ってほしくないと思っています。 Q:なぜ若手の俳優はアクションをしなくなったと思いますか? A:やっぱり時代のせいなのかなぁ。日本という国はあまりにも平和すぎて、甘えられる環境がありすぎて、危機感を感じられない気がします。世界はそんな甘くないですよ。現実は容赦がなく、本当に厳しい。だから若者には、もっと雄雄しくなってほしい。戦闘モードの危機感を持ってほしい。そして今の社会情勢をもっと意識してほしいと思いますね。さらには、人生に立ち向かう姿勢を持てるように、刺激的な場がもっと多くなってほしい。あれもダメ、これもダメと規制や押さえつけばかりではなくて、もっと楽しく、自由に己の個性を発揮できるような、そういう場を与えてあげたい。僕としても、のびのびと自己挑戦の旅を与えられるような、そういう魅力あるシチュエーションをもっともっと作ってあげたい。 「あの時の失敗は今日、活きている」 Q:今まで「こういうことが辛かった」「今の時代だったらできないだろうが、こんな危険なことがあった」というエピソードは? A:ビルからビルへと飛び移ったり、カースタントでジャンプしたりスピンしたり、バイク事故で30m吹っ飛んだり、馬が自分の上を全速力で飛び越えていったりとかね…。馬の事故のときは、自分が転がっている真上を、馬が越えて行った時、風を感じた。あとちょっとで死んでいたなと思うことは何度もありますよ。そういう危機を何度も越えてきたのだから、自分は相当運がいいなと思っています。でも、それらは次なる挑戦の時に必ず役に立ちます。その危機体験を体が覚えているんですよ。あの時の失敗は今日、活きている。 Q:恐怖を乗り越えるにはどうしたらいいんですか。 A:僕は、失敗して、怪我して、そういった苦渋を越えて、強くなりましたね。自分の心を強くするために、やっぱり武道というのは最強です。自分を追いつめて、追いつめて心が強化されていくんです。 Q:今後の藤岡さんのビジョンはありますか? A:同じ目的と共通の価値を共有する者同士が、俳優・スタッフ・監督、制作団体がすべての枠を超えて集まって、ものを作る。そういう現場が欲しい。そして、日本人としての誇りを持って海外にも立ち向かいたい。さらに日本映画も復興してもらいたい。それが私の願いですね。 ■ ■ ■ ■ ■ 見よ、この熱量!! これぞ本物の証!!!独特の視点で語る熱いアクション談義に、取材会中も常に圧倒されっぱなし。邪念ばかりの私、藤岡氏の言葉ひとつひとつに背筋が正される思いでした。特番『藤岡弘、ガチ・アクションスター道』でも、アクション俳優の体の張ったアクションの魅力を余すことなく紹介!番組でもハリウッド・スターについて語る藤岡氏の熱きメッセージは必見です! オンエア情報はこちら!ぜひぜひお見逃しなく!■
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COLUMN/コラム2014.06.29
2014年7月のシネマ・ソムリエ
■7月6日『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』 第二次世界大戦中のドイツで反ナチ運動を行ったミュンヘンの学生組織バラそのメンバーが当局に逮捕され、国家反逆罪で処刑されるまでを描く実録ドラマだ。 主人公は唯一の女性メンバーだったゾフィー・ショル。現存する尋問記録に基づき、彼女とゲシュタポの取調官との対話を再現した緊迫感みなぎるシークエンスが圧巻。 ベルリン国際映画祭で監督賞、女優賞を受賞。とりわけ迫りくる死の恐怖に震えながら、自らの良心と信念を貫き通すゾフィー役、ユリア・イェンチの演技が感動的だ。 ■7月13日『永遠のマリア・カラス』 1977年に53歳の若さで死去したマリア・カラス。この20世紀を代表する伝説のオペラ歌手の生誕80周年を記念し、彼女の謎めいた晩年の生き様に迫った人間ドラマだ。 かつての美声を失い、パリのアパルトマンで隠遁生活を送るカラス。旧知のプロモーターから新作映画の企画を持ち込まれた彼女のアーティストしての葛藤を描き出す。 事実に創作を織り交ぜて本作を完成させたF・ゼフィレッリ監督は、生前のカラスと親交があったオペラ演出家でもある。仏の名女優F・アルダンの入魂演技も見ものだ。 ■7月20日『ダウト〜あるカトリック学校で〜』 トニー賞とピュリッツァー賞に輝いた傑作舞台劇の映画化。カトリック学校を舞台に、具体的証拠のない“罪”をめぐって疑う者と疑われる者の闘いを描く心理劇である。 進歩的な思想を持つ神父が、学校内で黒人生徒に性的虐待を加えたとの疑惑が浮上。新米のシスターからその報告を受けた女性校長は、神父を厳しく問い質していく。 校長役のM・ストリープを中心とする主要キャスト4人全員がアカデミー賞候補に。人間の信念や弱さなどを多面的に体現した迫真のアンサンブルから目が離せない。 ■7月27日『リトル・ダンサー』 労働者階級の家庭で育った11歳の少年がバレエの虜になり、本格的にダンサーをめざしていく。サッチャー政権下の1980年代、炭鉱町を舞台にしたサクセスストーリーだ。 主人公ビリーがチュチュ姿の女の子たちに囲まれてレッスンを受けるシーンの微笑ましさ! 頑固な父親との対立と和解のエピソードも涙を誘う良質なドラマである。 『めぐりあう時間たち』のS・ダルドリー監督のデビュー作。T・レックスやザ・ジャムの曲に乗せ、ビリーがストリートで身を躍らせるダンス・シーンがすばらしい。 『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』©Jürgen Olczyk 『永遠のマリア・カラス』©2002 Medusa Film ‐ Cattleya ‐ Film and General Productions ‐ Galfin ‐ Alquimia Cinema ‐ MediaPro Pictures ‐ 『ダウト ?あるカトリック学校で?』© 2008 Miramax 『リトル・ダンサー』© Tiger Aspect Pictures Ltd. 2000 © 2000 Universal Studios. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2014.06.03
映画の中のリゾートガイド
■『マンマ・ミーア!』 『マンマ・ミーア!』は、伝説のポップグループABBAの大ヒットナンバーでつづられた、最高にハートフルなミュージカル映画!結婚式を目前に控えた20歳の娘・ソフィと、メリル・ストリープ演じる母親のドナ、そして父親を名乗る3人の男性が繰り広げる騒動を描いた作品です。 舞台は、ギリシャの架空の小島・カロカイリ島。撮影の多くはエーゲ海に浮かぶ美しいリゾート地・スコペロス島で行われました。澄み切った海と白い砂、松やオリーブの木にいだかれたこの美しい島は、隠れ家的なリゾートとして、世界中の人々に愛されている場所。ソフィや婚約者のスカイたちが砂浜で激しく踊るシーン、ドナの親友・ターニャと島の若者のダンスシーンなど、美しい海辺の場面が撮られたのは、島の西側にあるカスタニビーチ。透明な海に浮かぶ印象的な桟橋は、撮影時に特別に作られたということです。ギリシャの青い空と海、そしてさんさんと降り注ぐ明るい太陽の下で繰り広げられる名シーンの数々は、見ているだけでハッピーな気分になれること請け合いです! ※『マンマ・ミーア!』桟橋シーン ※スコペロス島の風景 ▼「スコペロス島」プチ情報スコペロス島は、エーゲ海北西部のスポラデス諸島にあるギリシャの島。スコペロスはギリシャ語で「岩」の意味だが、肥沃な土地で緑も多く、アーモンドの産地として知られている。島内には350もの教会が点在している。 ▼アクセス方法日本からは、ヨーロッパの都市を経由してアテネへ向かい、国内線でスキアトス島へ。スキアトス島からスコペロス島へは船で1時間。(ほかに、ヨーロッパの都市からスキアトス島への直行便もある)ギリシャ中央に位置する港町・ヴォロスからスコペロス島へは船で2時間ほど。 ■『食べて、祈って、恋をして』 『食べて、祈って、恋をして』は、ジャーナリストとして活躍するヒロインが、離婚と失恋の後に、自分を見つめ直すために出かけた旅の日々を描いた作品です。 おいしい料理を堪能したイタリア、ヨガと瞑想に励んだインド…そしてジュリア・ロバーツ演じる主人公のリズが旅の最後に訪れたのが、「神々の島」と呼ばれるインドネシアのバリ島。彼女が過ごしたのが、バリ島の文化の中心地でもある山あいのリゾート地・ウブドです。ウブドでは稲作が盛んで、あちこちで青々とした美しいライステラス(棚田)を見ることができます。さらにはジュリアが颯爽と自転車で通り抜けるヤシの林、野生の猿が200匹も生息するという自然保護区「モンキーフォレスト」など、あふれる豊かな自然が人々を癒してくれるんです。パワフルなウブドの生活を肌で感じたければ、村のランドマーク、お土産や雑貨が揃う「パサール・ウブド」もはずせません! 見ているだけでリゾート地・バリ島の空気を満喫出来る、オススメの一本です! ※『食べて、祈って、恋をして』美しいライステラスシーン ※バリ島 ▼「ウブド」プチ情報ウブドは、バリ島中部にある古くからのリゾート地であり、バリ文化の中心地。ガムラン、バリ舞踊、バリ絵画、木彫り、石彫り、銀細工など、あらゆるバリの芸能・芸術を堪能出来る。豊かな自然でも知られ、素朴な田園風景や渓谷も大きな魅力。 ▼アクセス方法日本からはバリ島・デンパサール国際空港へ。空港から車で1時間。南部のリゾートエリアのクタまで車で1時間。さらにヌサドゥアから車で1時間半。 ■『黒いオルフェ』 『黒いオルフェ』は、ギリシャ神話の悲劇「オルフェウス伝説」を、現代のブラジルによみがえらせ、カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた名作です。舞台は、今年2014年、サッカーワールドカップが開催される情熱の街・ブラジルのリオデジャネイロ。作品では、この地で行われる世界最大の真夏の祭典・リオのカーニバルを軸での出来事が描かれています。 カーニバルは世界各地で行われていますが、その中でリオのカーニバルはもっとも熱狂的といわれています。年に一回、2月から3月上旬、土曜日から火曜日にかけての4日間にわたって繰り広げられるこのカーニバルには、世界中から観光客が押し寄せます。お目当ては、ほかでは体験できないダイナミックな音楽とリズム、そして華やかな衣装であふれるパレード!この作品では、随所に実際のカーニバルの映像が使われ、サンバのリズムに合わせて歌い、踊る人々の熱気がスクリーンから伝わってきます。地球の裏側で行われる華麗なカーニバルの気分を楽しむにはもってこいの映画です。 ※『黒いオルフェ』リオのカーニバルシーン ※リオのカーニバル ▼「リオデジャネイロ」プチ情報リオ・デ・ジャネイロは、サン・パウロに次ぐブラジル第二の都市。華やかなカーニバル、ビーチリゾート、世界三大美港のひとつと言われるグアナバラ湾の景観などで知られる観光地。2014年のサッカーワールドカップ、2016年の夏季オリンピックの開催地にも選ばれた。 ▼アクセス方法日本からはアメリカやカナダ、ヨーロッパの都市を経由してリオデジャネイロ国際空港へ。所要時間は25〜30時間ほど。 ■『マレーナ』 『マレーナ』は、第二次大戦中のシチリア島を舞台に、悲劇的な運命をたどる女性・マレーナの生き様を、彼女に恋する少年の目を通して描いた人間ドラマです。撮影の多くが行われたのは、地中海のリゾート・シチリア島にあるシラクーサ。美しいリゾート地として知られると同時に、3000年以上の歴史を持つ古都の魅力も持ち合わせています。随所に見られるギリシャ・ローマ時代の遺跡の多くは、2005年、世界遺産にも登録されました。シラクーサは、大きな橋をはさんで、新市街と旧市街のオルティージャに分かれています。オルティージャは、町の発祥の地といわれ、石造りの建物が立ち並ぶ風情あふれる場所です。オルティージャの中心にあるのが、街のシンボル・ドゥオーモ広場です。バロック様式の荘厳なドゥオーモが見下ろすこの広場は、少年がモニカ・ベルッチ演じるマレーナの思い出を心に刻み付ける印象的な場所として登場します。ゆったりとした時間が流れるロマンチックなリゾート・シラクーサを、作品を通じて味わってみては? ※『マレーナ』のワンシーン ※シラクーサ ドゥオーモ広場 ▼「シラクーサ」プチ情報シラクーサは、イタリアのシチリア島南東部に位置する都市。古代ギリシャ時代にアテネと共に繁栄を誇ったと言われ、数学者アルキメデスの生地でもある。太宰治の『走れメロス』の舞台としても知られる。ギリシャ・ローマ時代の遺跡が数多く残り、世界遺産にも認定された。 ▼アクセス方法日本からはローマ、ミラノ経由でシチリア島のカターニャ空港へ。空港からシラクーサへはバスで1時間20分ほど。 ■『フレンチ・キス(1995)』 『フレンチ・キス(1995)』は、旅先で恋に落ちた婚約者を追いかけて、フランスをめぐるアメリカ人女性を描いたロマンチック・コメディです。メグ・ライアン演じる主人公・ケイトが、詐欺師のリュックと一緒に婚約者を追いかけた先は、南仏のカンヌ。国際映画祭が開催される街としても世界的に知られています。カンヌをふくむ地中海に面した一帯は「コート・ダジュール」=「紺碧海岸」と呼ばれ、その名の通り、紺碧の海に明るい太陽がふりそそぐ、ヨーロッパ随一のリゾート地!ケイトが大騒動を巻き起こすのが、カンヌの中心にそびえ立つセレブ御用達の豪華なリゾートホテル、インターコンチネンタル・カールトン・カンヌ。映画祭の開催期間中は著名な映画人がこぞって宿泊するとか。美しい建物とビーチ。その明るく開放的な空間が、ケイトとリュックの距離を急速に縮める大きな役割を果たしていると言えそうです。恋も実る憧れのリゾート、コート・ダジュール。あなたもぜひ一度、映画で体験してください。 ※『フレンチ・キス(1995)』様子を伺うメグ・ライアン ※コート・ダジュール ▼「カンヌ」プチ情報カンヌは、フランス南東部の地中海に面する都市のひとつ。もともとは小さな漁港だったが、今ではヨーロッパ有数のリゾート地として知られる。毎年5月のカンヌ国際映画祭の開催地として世界的に有名。 ▼アクセス方法日本からは、ヨーロッパの都市を経由してニース・コート・ダジュール国際空港へ。空港からカンヌへは車で1時間程度。 ■『太陽がいっぱい』 『太陽がいっぱい』は、アラン・ドロン演じる貧しい青年・トムが大富豪の放蕩息子・フィリップをねたんで犯罪を計画、彼になりすまして財産を奪おうと画策するサスペンス映画です。フィリップが住むというモンジベロは架空の町。撮影の多くは、ナポリ湾に浮かぶイスキア島で行われました。イスキア島は、青い海と輝く太陽、そしてリラックスを求める人々でにぎわう大人気のリゾート地です。この島に来たらはずせないのが、地中海の豊かな自然を満喫できるクルージング!トムとフィリップもヨットで美しい海へと繰り出しますが、眩しく明るい陽光と、その下で行われる恐ろしい犯罪が、見事な対比を生み出しています。魚市場の場面は、「ナポリを見て死ね」と言われるほど風光明媚な港町・ナポリで撮影されています。人々の活気と彩りに満ちた市場で、アラン・ドロンの持つ影と、憂いを帯びた美しさが際立つ名シーンが生まれました。スリリングな犯罪と一緒に味わう地中海の明るい大自然、いつもとひと味違うリゾート体験ができるのでは? ※『太陽がいっぱい』ヨットのワンシーン ※イスキア島 ▼「イスキア島」プチ情報イスキア島は、イタリア・ナポリ湾内で一番大きな島。火山活動で出来た島で、別名「緑の島」と呼ばれるほど自然が豊か。至る所にわく温泉でのんびりできるほか、ビーチも楽しめる人気のリゾート地。 ▼アクセス方法日本からは、ローマやミラノ経由でナポリ・カポディキーノ空港へ。ナポリ港からイスキア島へは高速船で50分ほど。 『マンマ・ミーア!』© 2008 Universal Studios. All Rights Reserved.『食べて、祈って、恋をして』© 2010 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.『黒いオルフェ』ORFEU NEGRO ©1959 Dispat Film. All Rights Reserved.『マレーナ』© 2000 Medusa Film spa—Roma『フレンチ・キス(1995)』FRENCH KISS ©1995 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved『太陽がいっぱい』© ROBERT ET RAYMOND HAKIM PRO. / Plaza Production International / Comstock Group
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COLUMN/コラム2014.05.10
「聖なる映画」から遠く離れて ― ポール・シュレイダーのピンキー・バイオレンス世界
スケベ心と野次馬根性に満ちた好き者ならばいざ知らず、原題がズバリ『HARDCORE』、邦題も『ハードコアの夜』(1979)と、いかにも煽情的でキワモノめいた題名につい思わず腰が引けて、さてどうしたものかと、いざこの作品を前にして見るのをためらってしまう人は、結構多いのではないだろうか。しかも監督がポール・シュレイダーだというのも、いまどきあまりピンとこないし…。 しかし、そういえば、待てよ、シュレイダーといえば、マーティン・スコセッシ監督と初めてコンビを組んで生み出した衝撃作『タクシードライバー』(1976)の脚本を手がけた人物であり、あの映画の中には、ロバート・デ・ニーロに初デートに誘われたものの、それが映画館で一緒にポルノ映画を鑑賞することだと知って、インテリ美女のシビル・シェパードが憤然とその場を立ち去っていく噴飯ものの場面があったっけ…、と思い出す映画ファンならば、きっとこの映画へ対する関心と興味が沸いてくるはずだ。 そう、この『ハードコアの夜』は、『タクシードライバー』と同様、ハリウッドの商業娯楽映画でありながら、シュレイダーの自伝的要素や生の肉声が随所にちりばめられたきわめてパーソナルな作品であり、スコセッシに代わってシュレイダー本人が自ら演出のメガホンを握って監督した、いわば『タクシードライバー』のパート2でもある(その後2人でまた監督・脚本家コンビを組んだ『救命士』(1999)は、さしずめパート3といったところか)。さらには、筋金入りの映画狂たるシュレイダー自身が公言している通り、あの巨匠ジョン・フォードの傑作西部劇『捜索者』(1956)を大胆不敵にも物語の骨格に借用して現代風に翻案するなど、さまざまな映画からの影響が随所に看て取れるハイブリッドな作品ともなっていて、映画ファンならばやはり見逃せない、なんとも興味深い一作に仕上がっているのだ。 映画は、アメリカ中西部ミシガン州の都市グランド・ラピッズに暮らす敬虔なプロテスタント信者の一家が、クリスマスで親戚一同、老若男女みな顔を揃え、賑やかに家族団欒を過ごす平和な家庭風景から幕を開ける。ところが翌朝、信者たちの若者集会に出席するためカリフォルニアへと旅立った十代の愛娘が、不意に失踪したとの知らせがジョージ・C・スコット扮する父親のもとに間もなく届き、その捜索に乗り出した彼は、それから数週間後、雇った私立探偵の案内で場末のポルノ映画館に足を運び、そこで思いも寄らぬ意外な光景と対面。いかがわしいブルーフィルムの中で淫らな痴態をさらけ出していたのは、ほかならぬ彼の可愛いひとり娘だった! 苦悶と絶望にあえぎながら悲痛な叫び声を上げたスコットは、しかしその後、決死の覚悟を決め、娘の居場所を突き止めて我が家に無事連れ帰るべく、彼にとってはまるで未知の異世界である風俗産業の危険でディープな猟奇地帯へ、自ら足を踏み入れていくこととなる…。 平和と安らぎに満ちた神聖な家庭風景から卑俗の極みたるポルノ映画の闇の世界へとメーターの針が一気に大きく揺れ動く、本作の何とも両極端な物語をざっと簡単に書き綴ってみたが、ここで最初に留意すべきなのは、この映画の舞台の出発点となるミシガン州グランド・ラピッズが、シュレイダー自身の生まれ故郷であるという点だろう。そして、スコット扮する主人公の一家は敬虔なプロテスタント信者の家庭と設定されているが、これもシュレイダーの家庭環境をそのまま劇中に再現したもの。シュレイダーの一家は、プロテスタントの中でもとりわけ厳格で禁欲的なオランダ・カルヴィン派を信奉し、この宗派は、飲酒や喫煙はおろか、映画やダンスも"世俗的な楽しみ"であるとして禁じていた。 1950~60年代のフランスのヌーヴェル・ヴァーグの登場に呼応する形で、アメリカでも1960~70年代、熱狂的な映画好きが嵩じて自ら映画作りに関わるようになる新しい世代の映画作家たちが台頭し、1946年生まれのシュレイダーは、4歳年上のスコセッシや、『愛のメモリー』(1976)でコンビを組んだ6歳年上のブライアン・デ・パルマらと同様、そんなシネフィル映画作家世代のひとりに属するわけだが、子供の頃から映画狂だったスコセッシなどとは異なり、シュレイダーは、前述の宗教的な戒律のため、なんと17歳になるまで映画を1本も見たことがなかった。 将来、聖職者となるべく厳しい宗教的修練を受けた家庭と教会の束縛から逃れようと、青年となってからようやく映画を見始めた彼は、やがてすっかりその魅力に取りつかれて人生が大きく急旋回。高名な映画批評家ポーリン・ケイル女史との運命的な出会いに啓示を受けてその弟子を目指すようになり、UCLAの映画学科に進んだ彼は、在学中から数々の映画評を執筆し、小津安二郎、ロベール・ブレッソン、カール・テホ・ドライヤーという3人の神聖な映画作家たちの超越的スタイルを論じた「聖なる映画」を修士論文として発表。また、アメリカにおけるフィルム・ノワール評価の火付け役となった「フィルム・ノワール注解」や、日本の東映ヤクザ映画を体系的に英語圏に紹介した「ヤクザ映画―入門」など、古今東西の映画を幅広く論じる一方で、私生活では同棲していた恋人と喧嘩して家を追い出され、昼間は酒に酔いつぶれて、車の中で寝泊まりしたり、オールナイトのポルノ映画館で一夜を明かしたりする、孤独でみじめなどん底生活を送る一時期もあったという。本来は聖なる世界を目指していたはずのシュレイダーの、そこからの離反と逃走、そして地獄への転落。ここで彼が自ら味わった孤独や疎外感をバネにシュレイダーが一気呵成に書き上げたのが、ほかならぬ『タクシードライバー』の映画脚本だった。 『タクシードライバー』のデ・ニーロ演じる主人公は、自分を取り巻く周囲の卑俗にまみれた汚い現実社会に吐き気や嫌悪感を催し、これを自らの手ですっかり一掃して洗い清め、その中から、街娼の少女たるジョディ・フォスターを清純な天使に勝手に見立てて救い出そうと、常軌を逸した暴力的行動にうってでる。そしてこの『ハードコアの夜』では、ポルノ映画の世界に身を落とした我が娘をその汚らわしい世界から奪還すべく、敬虔なカルヴィン教徒たるスコットが、薄汚い街路=ミーン・ストリートの中を必死で駆けずり回るのだ。 しかしまた、この映画でシュレイダーは、自らの父親をモデルに、聖なる世界を代表する父権主義的なスコットの主人公像を造型する一方、彼本人はむしろ、そこから逃走を図って映画の俗世界に身を投じる娘の側に、自らを深く投影させていたはずだ。シュレイダーのその自己分裂症的な傾向は、『タクシードライバー』のデ・ニーロが、「オレに向かって話してるのか?」と、鏡の中に映るもう一人の自分と、対話ならぬ奇妙な自問自答を繰り広げる、あのあまりにも有名な場面に既にくっきりと明示されていた。聖と俗、理想と現実の二項対立として、お互いに激しく反発し合いつつ、実は自分とは反対側にある世界に次第に魅力を覚えて微妙に惹かれ合う、アンビヴァレントな関係性。ここに、シュレイダーの映画世界が絶えず孕む、奇妙なジレンマと不思議な魅力の謎が潜んでいるように筆者には思われる。消息不明の娘の手掛かりを得るため、夜の風俗街の探訪に乗り出した『ハードコアの夜』の主人公スコットは、はじめのうちこそ、若い裸の女性を前にしても石部金吉的な堅物の姿勢を崩さなかったのが、やがてかつらに付け髭までしてポルノ映画のプロデューサーへとすっかり様変わりし、自ら俳優のオーディションをこなしていくあたりは、もう何ともおかしくて爆笑もの。一見高尚で気難しい芸術派の映画作家を気取ってはいるものの、なんだかんだ言って、やっぱりシュレイダーは下世話で卑俗な裏世界の話が大好きなのだ。彼がその後も、性の快楽を題材にした『アメリカン・ジゴロ』(1980)や『ボブ・クレイン 快楽を知ったTVスター』(2002)といった作品を撮り続け、目下のところの最新作たる『ザ・ハリウッド』(2013)では、「アメリカン・サイコ」の作家ブレット・イーストン・スミスのオリジナル脚本、そして主役陣にはあの全米お騒がせ女優のリンジー・ローハンと現役の人気ポルノ男優という異色の顔合わせによる官能的スリラーに挑んでいることも、そのことをよく物語っていると言えるだろう。 ところで、先にも軽く触れたように、シュレイダーはこの『タクシードライバー』と『ハードコアの夜』両者の作品の主人公に、コマンチ族にさらわれた姪を何とか見つけて連れ戻すべく、執念深くその居場所を探し続ける『捜索者』の主人公ジョン・ウェインの姿を重ね合わせている。と同時に、実はシュレイダーが、この『ハードコアの夜』の物語を考案するにあたって、必ずや大きな影響を受けたに違いないと筆者がにらむ、もう1本の映画がある。それは、ロバート・アルドリッチ監督の『ハッスル』(1975)。この映画の中にも、自分の愛娘をブルーフィルムの中に見出して苦悶する、哀れな父親の姿が登場する。演じるのはベン・ジョンソンで、『捜索者』にこそ出ていないが、彼もまたフォードの西部劇には欠かせない常連役者のひとりだった。ちなみにシュレイダーが、東映ヤクザ映画の研究成果を生かして、兄のレナードと2人で共作し、当時空前の高値でワーナーに買い上げられた『ザ・ヤクザ』の映画脚本は、当初アルドリッチが監督する予定となっていたが、企画の交渉段階で交代を余儀なくされ、結局シドニー・ポラックが監督を務めて1974年に映画化された。それ以前にもシュレイダーは、アルドリッチ監督の『キッスで殺せ』(1955)をフィルム・ノワールの精華たる傑作として高く評価していて、自らの監督作『アメリカン・ジゴロ』の中に、既によく知られたブレッソンの名作『スリ』(1959)からの借用以外に、この『キッスで殺せ』からも幾つかの場面をパクッている。 そしてまた、シュレイダーが、日本のヤクザ映画研究から汲み取った、このジャンル必須のお約束事というべきクライマックスの殴り込みシーンは、『ザ・ヤクザ』のみならず、『タクシードライバー』や本作などにしっかり転用されていることも、ここで言い添えておく必要があるだろう。あのクエンティン・タランティーノが偏愛するバイオレンス・アクションで、彼がかつて創設したカルト映画専門の配給会社にこの名を冠したことでも一部の映画ファンにはよく知られた、シュレイダー脚本、ジョン・フリン監督のカルト映画『ローリング・サンダー』(1977)も、やはりこの系譜に連なる1本。ヴェトナム帰還兵の主人公が、孤独や疎外感、苦難を味わった末、後半、その怒りを爆発させる展開は、これまた『タクシードライバー』の姉妹編的作品ではあるが、シュレイダーが当初書き上げた脚本に、後から別人の手が大幅に加えられており、彼はこれを自作とは認めていない。 シュレイダーが約50本にものぼる日本の東映ヤクザ映画をまとめて見て、先に述べた研究論文「ヤクザ映画―入門」を発表した際、そこに『網走番外地』や『緋牡丹博徒』シリーズが含まれていたことは、その文中に言及されていることからおそらく確かだろうが、はたして彼はその時、昨今海外でもすっかり人気の、石井輝男や鈴木則文らのいわゆる東映ピンキー・バイオレンス映画も目にしていたのだろうか? いずれにせよ、シュレイダーは既に1970年代、タランティーノらに先駆けて、映画史上に輝く古典的名作から、セクスプロイテーション映画や日本のヤクザ映画にいたるまで、古今東西のさまざまな映画ジャンルを独自に混ぜ合わせて、ハイブリッドで面白い映画世界を生み出していたことは、今日、もっと多くの映画ファンに知られて再評価されてもいいのではないだろうか。■ ©1978 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2014.03.31
映画の中のパリガイド
■『パリの恋人』 パリでファッションモデルになった女性の恋物語をオードリー・ヘプバーン主演で描くミュージカルロマンス。カルーゼル凱旋門、ルーブル美術館など名所を紹介するシーンは、当時のパリの雰囲気が味わえます。そして、ジバンシィの衣装に身を包んだオードリーが美しい!パリという舞台が、彼女の魅力をさらに引き出しています。また、パリの北・シャンティイ近くにあるシャトー・レーヌ・ブランシュをバックに、アステアとヘプバーンがダンスナンバー”He Loves and She Loves”を踊るシーンは、要チェックです。 ※『パリの恋人』ルーブル美術館でのワンシーン ※ルーブル美術館の夜景 ■『麗しのサブリナ』 大富豪の兄弟と美しく変身した女性が繰り広げるオードリー・ヘプバーン主演のラブロマンス。ヘプバーン演じる主人公のサブリナは失恋のキズを癒すため、パリの有名な料理学校へ留学します。その舞台となったのが、100年以上にわたりフランス料理の伝統と技術を世界中に伝えている料理学校「ル・コルドン・ブルー」です。この留学を終え、洗練された女性に成長したヘプバーンの姿は、思わず見とれてしまいますのでご注意を! ■『赤い風車』 パリのキャバレーで夜ごと踊り子たちを描き続ける画家アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックの過酷な運命を描いた伝記映画。舞台となったギャバレー「ムーラン・ルージュ」は、フランス語で「赤い風車」という意味で、赤い風車が印象的な実在するお店です。このキャバレーはパリで万国博覧会が開かれ、パリが世界の文化の中心となった1889年にモンマルトルで誕生しました。創業から100年以上たった今も営業を続けています。夜な夜な繰り広げられているフレンチ・カンカンなどの華麗なショーを、映画を通して是非お楽しみください! ※『赤い風車』ムーランルージュでのショーシーン ※『ムーラン・ルージュ』の赤い風車 ■『死刑台のエレベーター』 完全犯罪をくわだてた不倫関係にあるカップルが、欲望の果てに運命を狂わせていくサスペンス映画。殺人を犯した後にエレベーターに閉じ込められてしまった彼を探して、夜のシャンゼリゼ通りをジャンヌ・モロー演じる人妻・フロランスがさまよい歩きます。凱旋門からコンコルド広場へとのびる大通りとして美しい景観で有名ですが、そんなシャンゼリゼ通りの華やかさと対照的なフロランスの姿は、彼女の心の内を浮かび上がらせた名シーンです。 ※ジャンヌ・モロー演じる人妻・フロランス ※シャンゼリゼ通り ■『フレンチ・キス』 フランス美人と恋仲になってしまった婚約者を奪い返すべく、パリを訪れたアメリカ人女性を描いた、メグ・ライアン主演のロマンティック・コメディ。パリに着いた主人公が婚約者に会うために訪れたのが、シャンゼリゼ通りにある「ホテル・ジョルジュ・サンク」。この名の由来は、1928年の創業当時、フランスと良好な関係にあったイギリスの国王・ジョージ5世からとったそうです。現在は「フォーシーズンズホテル・ジョルジュ・サンク・パリ」と名前を変え、パリを訪れる誰もが一度は訪れたい憧れの豪華ホテルのひとつです。映画を通して、この豪華ホテルを訪れてみては? ※『フレンチ・キス』ホテルで途方に暮れるメグ・ライアン 『パリの恋人』TM & COPYRIGHT © 2014 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.『麗しのサブリナ』TM & Copyright © 2014 by Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.『赤い風車』©ITV plc (Granada International)『死刑台のエレベーター』© 1958 Nouvelles Editions de Films『フレンチ・キス』FRENCH KISS ©1995 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved