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COLUMN/コラム2017.12.10
名匠トニー・スコットの本領発揮、痛快なスパイ映画の傑作『スパイ・ゲーム』を吹替えでもいかが?~12月字幕+吹替え3バージョン
カリフォルニア州ロサンゼルスにある460mの吊り橋、ヴィンセント・トーマス橋。ロサンゼルス港とサンペドロ地区を結ぶ最高高所は56mというこの橋からの眺めは、カリフォルニアらしいビーチ風景ではなく、港湾工業地帯の無機質なものとなっている。 2012年8月19日、この殺風景な橋から老齢の男性が飛び降り自殺を図った。老人の名はアンソニー・デビッド・スコット。『エイリアン』『ブレードランナー』などで知られるリドリー・スコット監督の実弟で、トニー・スコットという名前で世界的な大ヒットを連発した名監督だ。 トニーは1944年6月21日、3人兄弟の末っ子としてイングランドで生まれた。ロンドン王立美術大学を卒業したトニーは、画家として活動しつつBBCでドキュメンタリーを撮りたいと考えていたが、長兄のリドリーの薦めで劇映画監督を志す。リドリーの設立したCM制作会社RSA(リドリー・スコット・アソシエーツ)でCMの監督としてその実力を認められたトニーは、1983年に小説『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』にインスパイアされて、同じ吸血鬼映画である『ハンガー』で長編映画監督としてデビューを飾る。カトリーヌ・ドヌーヴ、デヴィッド・ボウイ、スーザン・サランドンという豪華スターが揃った『ハンガー』はカルト的な人気を誇る作品となったが、興行的には成功とは言い難い結果となってしまった。 再びCM業界へと戻ったトニーのもとに、2人の男が訪れる。『ハンガー』を評価したドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーだ。既存のハリウッド映画に飽き飽きしていたシンプソンとブラッカイマーは、まったく新しい映画を作れる監督を探していた。白羽の矢が立ったトニーは『トップガン』を監督。1981年に開局して大ムーブメントを巻き起こしていたMTVに倣い、映画をサントラのプロモーションビデオのように撮る斬新さと、細かなカット割りによる緊張感溢れるドッグファイトシーンが好評を博した。さらに主演のトム・クルーズは、本作によって世界的な大スターへの階段を駆け上がり、映画のサントラは爆発的な大ヒット。フライトジャケットのMA-1やレイバンのサングラスを着用したフォロワーが世界中に溢れるなど、これまでの映画とは異なるビジネス展開が発生するエポックメイキングな作品となった。 『トップガン』の大ヒットによって一役スター監督となったトニーだったが、その後の作品で『トップガン』を超える社会現象を巻き起こすような作品があったかというと微妙だ。シンプソンとブラッカイマーの出世作の続編『ビバリーヒルズ・コップ2』は前作を超えるヒットとはならなかったし、上り調子だったケビン・コスナーを主演に迎えた『リベンジ』も興行的には失敗となった。再びトム・クルーズとタッグを組んだ『デイズ・オブ・サンダー』はヒットしたものの、続くブルース・ウィリスの『ラスト・ボーイスカウト』は壊滅的な興行収入となってしまったのだ。 しかし『トゥルー・ロマンス』では痛快なバイオレンス・ラブ・ロマンスとして非情に高い評価を獲得し、盟友デンゼル・ワシントンと初タッグを組んだ『クリムゾン・タイド』は緊迫感溢れる潜水艦映画として大ヒットを記録した。ロバート・デ・ニーロとウェズリー・スナイプスが共演したストーカーサスペンスの『ザ・ファン』は奮わなかったが、『インデペンデンス・デイ』や『メン・イン・ブラック』で面白黒人枠でスターになったウィル・スミスをシリアスな役に挑戦した『エネミー・オブ・アメリカ』は興行的にも批評的にも成功を収め、再び売れっ子監督に返り咲いたトニーが2001年に監督したのが、この『スパイ・ゲーム』となる。 1991年。伝説のCIA工作員であるネイサン・ミュアー(ロバート・レッドフォード)は、この日をもってCIAを円満退職することとなっていた。しかし早朝から長年の友人であるCIA香港支局長のダンカン(デヴィッド・ヘミングス)からの電話で起こされることに。ダンカンからの情報は、ミュアーの愛弟子の工作員であるトム・ビジョップ(ブラッド・ピット)が、中国の蘇州刑務所での作戦中に拘束されたというものであった。しかもビジョップは中国で行われる別の作戦を途中離脱して、許可なく蘇州刑務所に潜入していたのだった。しかも折り悪く米中通商会談の直前ということもあり、アメリカ政府はビジョップ見殺しもやむなしの方向に流れていた。 CIA内では、何故ビジョップが職場放棄をしてまで蘇州刑務所に潜入したかを確認するため、ミュアーの上司であるフォルジャー(ラリー・ブリッグマン)とチャールズ・ハーカー(スティーヴン・ディレイン)らがミュアーを呼び出し、彼が知るビジョップの実像のヒアリングを開始する。そこでミュアーはビジョップと初めて出会ったベトナム戦争末期の暗殺作戦の話を語り始める。それはミュアーとビジョップの師弟関係と、CIA内でも誰も知らなかった様々な新事実が浮かび上がる15年に渡る長大な物語であった。そしてミュアーは決別していた愛弟子ビジョップを救うべく、ヒアリングの休憩時間の間をぬって、長年の工作員生活で培った手練手管を使っての救出作戦を策謀する。しかしビジョップ処刑までのタイムリミットはすでに20時間を切っていた……。 本作はロバート・レッドフォードとブラッド・ピットという新旧超絶ハンサム俳優の共演で話題となった映画なのだが、ただのハンサム俳優ではない二人の演技力が極限まで引き出された作品と言える。二人が演じたミュアーとビジョップの師弟関係の描き方が見事で、物語が進むにつれて二人の絆と確執が観る者の共感を呼ぶものとなっている。レッドフォードにとっては、僅かなチャンスを決して逃さないプロフェッショナリズムに徹しながらも熱い感情を内に秘めるミュアー役は、キャリアの後半の中でも傑出したキャラクターとなっている。筆者はこの作品から遡ること25年前に出演した『コンドル』でレッドフォードが演じた若きCIAエージェントのその後の姿がミュアーであると勝手に想像して楽しんだりしている。もちろんトンパチで生意気な天才エージェントのビジョップを演じたピットも素晴らしい。 トニーの演出も冴えまくり、トニーお得意の激しいカットの切り替えが過去と現在が入り混じる展開の中で効果を発揮。スパイアクションでありながら発生する激しい銃撃戦や、予想外の度を超えた大爆発も実にトニー映画らしい。また綿密に張られた伏線が、クライマックスで一気に回収される痛快な展開と、感動的でありながら決してしみったれた形で終わらない爽やかなラストは必見の作品となっている。 さて、本作はVHSやDVDなどのメディアに収録されたバージョンとテレビ東京の木曜ロードショーで放映されたバージョン、そしてフジテレビのプレミアステージで放映されたバージョンの3つのバージョンの日本語吹替え版が存在している。メディアバージョンはレッドフォード役と言えばこの人、野沢那智が担当し、ピット役は定番の山寺宏一が担当。そしてテレ東バージョンではテレ東・テレ朝のピット役の定番声優・森川智之と、レッドフォード役には広川太一郎が担当したりなんかしちゃったりしている。フジテレビバージョンのピット役は、日テレ・フジ版のブラピ定番声優の堀内賢雄が担当し、レッドフォード役には磯部勉という意外なキャスティングがされているのだが、これがまた望外にハマっている(広川版に近い感じ)。 何と今回はザ・シネマでこの3バージョンがすべて放送されるので、それぞれのバージョンを聴き比べて、名人たちの吹替えの妙を楽しんで頂きたい(筆者は原語版も含めて、テレ東版が一番のお気に入りです)。■
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COLUMN/コラム2015.10.17
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年11月】にしこ
南部の田舎町。産業もさびれていて街の男性はほとんど鉄道員という汗臭~い街で下宿屋の娘アルバは男たちのマドンナ的存在。しかし、鉄道員たちにちやほやされても、資産家の熟年男性から高価なプレゼントをされてもどこか冷めているアルバ。そんな時、ニューオリンズからオーウェンという都会的な男がやってくる。彼は鉄道会社がやとったリストラ査定人で、町の男たちと違い、アルバに対してそっけない。ちやほやされる事に慣れているアルバは彼の態度に怒り心頭ながらもやはり心惹かれていき… という始まりなのですが、この物語、2人の恋を阻む障害がありまして。メロドラマですから。 ①良い生活をしたいがために、アルバを金持ちと結婚させたがっているアルバ母。②こんな町で終わってたまるか!という上昇志向を持ちならがらも、町を出たことがない為になかなか行動できないアルバのふわふわ感。③どんな状況だってちやほやされたい!というアルバの悲しい女の性。 こう並べると「アルバ、だめな子!」という感じですが、演じるナタリー・ウッドのコケティッシュさが炸裂!!男性だったら「自分のものにしたい!」という征服欲を感じるタイプです。どハマり役です。 対するアルバが恋するオーウェンを演じる、ロバート・レッドフォード。『明日に向って撃て!』の数年前に出演した本作が初の主演級の役との事ですが、超魅力的なナタリー・ウッドが想いを寄せる相手として完璧な王子様っぷり。 美男美女のが悲恋を演じるなんてこんなに観ていて楽しいものはありません。おまけ的になってしまいますが、ナタリー・ウッドの衣装がとってもオシャレで、さびれた町とアルバというキャラクターとのちぐはぐ感を印象づけています。 タイトルは『雨のニューオリンズ』ですが、ほとんどニューオリンズは出てきません。あしからず。 COPYRIGHT © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2013.10.18
「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイド最終回【デザイナー編】
長年モードの世界に身を置かれ、その歴史を見てこられた田口淑子さんに再び解説して頂きます。映画本編の華麗なるファッションの世界のエッセンスがちりばめられた必読ガイドです!! ■ライフスタイルを提案するラルフ・ローレン ラルフ・ローレンのメンズコレクションはミラノで開催されていた。「アルマーニ」や「グッチ」、際立つラグジュアリーブランドが多いミラノメンズの中でも、ラルフ・ローレンの演出は異色だった。門扉をくぐったところからすでに会場の演出は始まっていて、日常とは違う空間が出現する。玄関まで点々とキャンドルが灯され、前庭には布製のソファが点在。黒服のギャルソンが、銀のトレーでウエルカムシャンパンをサービスしてくれる。部屋の壁にはいくつもの肖像写真が飾られ、いたるところが花でいっぱい。客席の椅子も、カーテンも、全てがニューイングランドスタイル。「ギャッツビーの邸宅ようだ」と、私と同じ感想をもった、取材するジャーナリストはきっと多かったことと思う。 「華麗なるギャッツビー」はジャズエイジのアメリカ、ロングアイランドが舞台。女たちのドレスは、ラッフルやフレアのある典型的なフェミニンタイプ。シフォンやデシンの薄い布地にはビーズやフリンジがあしらわれ、キャップ型ヘッドドレス、オーストリッチのストール、シームのある絹のストッキングと、どれもが装飾的でデカダンなスタイルだ。 そしてギャツビーの衣裳はラルフ・ローレンがデザインしている。この映画を観る時は、三つ揃いのスーツの、衿のVゾーンに注目してほしい。シャツ、ネクタイ、ジャケット、三つのアイテムの色の配分とデイテールの遊び心の表現が、着る人によって微妙な違いを見せているのだ。この時代のスーツは今も古くなっていないどころか、アメリカントラッドのお手本の最高峰として、おしゃれ好きな男たちにとっては必見の、永遠の映画なのである。ジュエリーはカルティエが担当した。今年、ミウッチャ・プラダがレディス、ブルックス ブラザーズがメンズ、ジュエリーをティファニーが担当したリメーク版が公開されて話題になった。2つの作品を比較してみると、映画の制作年度である1974年当時と2012年の、それぞれの時代性が、‘20年代のファッションに、複層的に投影されているのがわかってきて興味深い。 ■アートとモードを融合させた石岡瑛子 「ドラキュラ」は石岡瑛子が衣装と美術を担当。冒頭の15世紀、まだ吸血鬼になる前のトランシルバニアの王ドラキュラが戦で装着する甲冑は、流線型の造形が未来的。衣裳というよりはもはやアート作品と言えるだろう。やがて舞台は400年後、19世紀末のロンドンに移る。ウイノナ・ライダー演ずる、ドラキュラが恋したミナのドレスは、いかにも貞淑な良家の子女風の控えめな色とデザイン。男たちの服装も時代考証にほぼ忠実に、フロックコートやシルクハットを再現している。石岡瑛子ならではのアート性を遺憾なく発揮したのが、ミナの友人ルーシーの「死のウエディングドレス」だ。純白のレースの、エリザベスカラーと、長くトレーンを引くヘッドドレスのボリューム感が息をのむほど美しく、「ドラキュラ」が1992年度のアカデミー賞、衣裳デザイン賞を受賞したのも大いにうなづける。 ■女優の衣装を革新した人、イデス・ヘッド 「泥棒成金」のグレース・ケリーの衣装デザインはイデス・ヘッド。彼女は「裏窓」以来の、ヒッチコックのお気に入りで常連スタッフ。オードリー・ヘプバーンの「ローマの休日」や、サブリナパンツが今も若い女性の定番ボトムスになっている、「麗しのサブリナ」の衣裳も彼女の手による。グレース・ケリーのクールビューティを最大限に引き出す、ゴテゴテと飾り立てない衣裳のシンプルさは、当時革命的だったろうと思う。イデスの写真を見ると、もし彼女が今生きていたらコムデギャルソンやヨウジヤマモトの前衛的なクリエーションに共感したに違いないと思わせる、知的で職人的な雰囲気の人だ。 ■トム・フォードの完璧な美学 トム・フォードの初監督作品、「シングルマン」。トムの経歴をたどると、1990年「グッチ」のデザイナーに就任。どちらかというとコンサバティブなハイクラスのマダム御用達だったブランドを、一躍世界のラグジュアリーファッションの筆頭ブランドに変革した立役者だ。その後、自分のブランド「トム・フォード」を設立し、ビジネスの規模を拡大するのが第一のテーマではなく、トム自身の美学のもと、真のラグジュアリーとは何かを追求し続けている。 「シングルマン」でコリン・ファース演ずる大学教授ジョージの隙のないワードローブ。スーツ、シャツ、ナイトガウン。アクセサリーでは、左手小指の指輪、靴、ブリーフケース、眼鏡。全てがトム・フォードならでは完成度だ。トムが自分のブランドで目指していることは、この映画で彼が表現したかったこととぴったりと重なっている。ジョージが着る何気ない白いシャツが、なぜこれほど存在感を持ち、ジョージの個性を表現し、視覚的な美しさを讃えているのか、その答えを映画を見ながら一考してみていただきたい。「シングルマン」はここ数年の映画の中で、最もファッション性が高く表現された作品と言えるだろう。 ■ ■ ■ 【特集「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイド】 10月特集「映画はファッションの教科書!」は10/17(木)-20(日) 【再放送】 10/28(月)-31(木)の日程で 下記11作品でお送りします! ドラキュラ(1992)ロミオとジュリエット(1968)陽のあたる場所英国王のスピーチグロリア(1980)華麗なるギャツビー(1974)ドリームガールズサタデー・ナイト・フィーバーラブソングができるまでシングルマン泥棒成金 コラムで予習、映画本編で答え合わせ!!映画を教科書にして、ご自身の着こなしに取り入れてみてはいかがでしょうか?■
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COLUMN/コラム2013.10.11
「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイドその2【年代別編】
第2弾は「映画で知る1920年代-1980年代」と題し、特集作品に登場するファッションの時代背景を取り上げます。解説して下さるのは、モード誌「ミスターハイファッション」、「ハイファッション」の編集長を務められ、現在もモード界の第一線で活躍される田口淑子さんです。特集作品を既にご覧になった事がある方もない方も、読んで頂いた後に本編を確認したくなること請け合いの必読コラムです!! ファッションも、音楽も、建築物もそれぞれ時代を映す鏡。だが一つの時代を総合的に再現できるのは映像にしかない力だ。私は例えば、小津や成瀬の映画を時々ふっと見たくなるのだが、熱心に筋書きを追うより、ゆったりした気分でスクリーンの中の昭和30年代が見たいというのが本音で、日比谷や銀座、月島の景色や風俗に、今は消えてしまった当時の姿を見て、ちょっとした感慨に浸るのだ。名作と言われる映画を、そんな方角から見てみるのも一興だろうと思う。 ■『華麗なるギャツビー(1974)』 『華麗なるギャツビー(1974)』は二つの世界大戦の狭間、世界恐慌の1920年代が舞台。アメリカでは禁酒法が施行され、法の網の目を潜って、一代で莫大な財をなすギャツビーのような謎めいた人物が大勢いたのだろう。パーティシーンでは、女はチャールストンルック、男はタキシードで華やかさを競っている。彼らは、享楽的で贅沢な暮らしをしていてもどこか地に足がついていない。内面的な充足のないゆがみ。そんな悲哀感がこの映画には通底している。ロバート・レッドフォードが演ずるギャッツビーの眼はいつも何かを隠蔽しているように見える。あの冷たい眼が、自分の暮らしが虚像であることの不安を象徴しているように思えてならない。 ■『英国王のスピーチ』 『英国王のスピーチ』(30年代が舞台)は、エリザベス女王の父君、ヨーク公ことジョージ6世が王位を継承するまでの物語。ギャッツビーの邸宅の真新しい華麗さとは真逆な、英国人特有の価値観が全編に現れている。 先祖代々伝わる家具やタピストリーや銀器を、骨董品としてしまい込むのではなく日々の生活に活用していて、一見するとここが大英帝国の宮殿?と怪訝になるほど質素で堅実だ。だが映画が進むにつれて、古い箱形のソファーや、色あせた絨毯がとても美しい価値のあるものに思えてくる。ほぼ同じ時代を描いた「華麗なるギャッツビー」と、比較して見てみることを是非お勧めしたい。ところでヨーク公の兄君、この映画では複葉機に乗って颯爽と登場するウインザー公は、メンズ誌で「あなたが最もダンディだと思う歴史上の人物は?」とアンケートする時、今でも日本のデザイナーから真っ先に名前が挙がるファッションアイコンである。(ほかにケーリー・グラント、ジャン・コクトー、ハンフリー・ボガード、白洲次郎らの名前が上位に挙がる)シンプソン夫人と一緒の、アーガイルのセーターにニッカーボッカのゴルフウエアや、パーティでのタキシード姿が、モデルよりもはるかに格好よくて、アーカイブで借りた写真を何度も繰り返し掲載してきた。 ■『サタデー・ナイト・フィーバー』 『サタデー・ナイト・フィーバー』は70年代のニューヨーク、ブルックリンが舞台。この映画の見所は、一大ブームを起こしたダンスシーンのほかに、19歳のトニーとその仲間たちの丹念でリアルな生活感の描写だ。ジョンの部屋の壁にはアル・パチーノとファラ・フォーセットとロッキーとブルース・リーのポスター。毎朝時間をかけて髪を決めるドライヤーがアップで写る。ディスコに繰り出す時に彼らが着ているアクリルのチープなシャツとごわごわした革ジャン。4センチヒールのカットブーツ。裾広がりのパンタロン。圧巻はコンテストの衣裳の、いかにも“吊るし”の白いスーツと黒のシャツの盛装だ。ここは70年代当時、貧しくてよそ者には危険な黒人と移民の街。当時の靴屋や洋品店のショーウインドーがわびしくも時代を感じさせて懐かしい。「川を一つはさんで、こことマンハッタンは全てが違うのよ」という、ジョンのダンスのパートナー、ステファニーの向上心に溢れる台詞が印象的だ。ブルックリンは、1990年代頃から、若いアーチストやファッションデザイナーが移り住んで、アトリエやブティックやギャラリーが並び、今ではニューヨークで最もおしゃれなエリアの一つになった。そんな街の歴史と変遷を知るのにも、映画ほどふさわしいメディアはない。 ■ ■ ■ 【特集「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイド】は最終回「デザイナー編」へと続きます。次回の更新は10月16日を予定しております。最終回も、ファッションのプロである田口淑子さんに引き続き、映画とファッションの「深い関係」を解説していただきます。乞うご期待下さい! そして、10月特集「映画はファッションの教科書!」は10/17(木)-20(日) 【再放送】 10/28(月)-31(木)の日程で 下記11作品でお送りします!ドラキュラ(1992)ロミオとジュリエット(1968)陽のあたる場所英国王のスピーチグロリア(1980)華麗なるギャツビー(1974)ドリームガールズサタデー・ナイト・フィーバーラブソングができるまでシングルマン泥棒成金 ぜひ映画本編でも、数々のファッションをお楽しみ下さいませ!■
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COLUMN/コラム2013.10.01
「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイドその1
年に一度の映画界最大の式典といえばアカデミー賞授賞式。その年最高の映画が決まるとともに、その時を代表するセレブ達のトップが決まる授賞式でもある祭典でもある。そこで注目したいのは、そのときどきを刻む衣装。授賞式当日のセレブ達のきらびやかなドレスもそうだけど、最優秀衣装デザイン賞を受賞した作品は、有名デザイナーがデザインした衣装がズラリ。 たとえば、古くは1956年の『泥棒成金』は、『ローマの休日』などの衣装デザインを担当したハリウッド映画衣裳デザインの第一人者であったイデス・ヘッドが担当(彼女は衣装デザイン賞を8回も受賞している)。衣装をポイントにして映画を観ると、その時代のトレンドや、描かれた時代の再解釈、そしてデザイナーの本気が見えてくる。 忘れられないのが、1977年の大ヒット作『サタデー・ナイト・フィーバー』のような作品。この映画で出てきた衣装は70年代アメリカの若者達のトレンドが浮き彫りになったことでも知られる。これは当時の流行のメインではなく、サブカルチャーの中で流行ったものだけど、それが後にメインになり、そして廃れ、また近年のヒップホップシーンにおいて再解釈されていることを考えると、その影響力は計り知れないことがわかるだろう。 同様の作品としては2006年のノミネート作『ドリームガールズ』も60年代アメリカのR&B界のファッションシーンが映し出されているが、これまた流行は一巡して、今観ても新しい衣装に見えるから不思議。また、時代ものの映画はストーリーもさることながら、コスプレならではの華麗な衣装から観た方が、よほど親しみやすいというもの。 オリビア・ハッセー・ブームを巻き起こした1968年の受賞作『ロミオとジュリエット』なんて、衣装の魅力がジュリエットの可憐な美しさを引き立ててるし、2010年のノミネート作『英国王のスピーチ』も今ほどオープンではなかった戦前の英国王室の荘厳さを、宮殿や社交界のシーンで実感できる。 そういった中でも特筆すべきは、石岡瑛子にオスカーをもたらした1992年の『ドラキュラ』は必見作。以後の彼女が手がけた「ザ・セル」やこちらもアカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされた「白雪姫と鏡の女王」にも観られる、西洋のゴシック様式と日本の着物や甲冑からモチーフを得たデザインの原点ともいえる衣装の数々が目にできるのだから。 そして忘れてはならないのは、有名デザイナーたちによる衣装! 今年リメイク版が公開された1974年の受賞作『華麗なるギャツビー』は、ラルフ・ローレンが衣装デザインを担当。1920年代アメリカン上流社会を舞台にしたこの作品は、いかに上流社会の人々の優雅さを表現するかで、我々がよく知るラルフ・ローレンが貢献していたというだけで、興味がわくところ(ちなみにリメイク版はブルックス・ブラザーズとプラダが担当した)。 有名デザイナーが担当してオスカーを得た作品でいえば、当時既にファッション界のカリスマであったエマニュエル・ウンガロが担当した1980年の『グロリア』あたりもチェックを。 また、受賞こそ逃したが、元グッチ、イヴ・サンローランのクリエイティブ・ディレクターで現代ファッション界を代表するトム・フォードが監督と衣装デザインを担当した2009年の『シングルマン』は、ファッション・デザイナーのセンスで描かれた映画だけに、おしゃれ好きの人のマスト・リスト。「これが衣装デザイン賞を逃すなんて、どうかしてるよアカデミー! だって、トム・フォードだよ?」と、授賞式当時は現地マスコミの間でもヤジが飛んだほど。彼が常に提案しているトラッドとセクシーの見事な融合を、一編の映像にまとめた希有な作品だ。映画に詳しくない人も、たくさんは観ていないという人も、衣装から観ると映画、そしてアカデミー賞が楽しく見えてくる。ちょっと視点を変えてみてはいかが?■ ■ ■【特集「映画はファッションの教科書!」を3倍楽しむための必読ガイド】は最終回「デザイナー編」へと続きます。次回の更新は10月16日を予定しております。最終回も、ファッションのプロである田口淑子さんに引き続き、映画とファッションの「深い関係」を解説していただきます。乞うご期待下さい!そして、10月特集「映画はファッションの教科書!」は10/17(木)-20(日) 【再放送】 10/28(月)-31(木)の日程で 下記11作品でお送りします! ドラキュラ(1992)ロミオとジュリエット(1968)陽のあたる場所英国王のスピーチグロリア(1980)華麗なるギャツビー(1974)ドリームガールズサタデー・ナイト・フィーバーラブソングができるまでシングルマン泥棒成金 ぜひ映画本編でも、数々のファッションをお楽しみ下さいませ!■
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COLUMN/コラム2013.05.25
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年6月】招きネコ
自分を捨てて上流階級の男と結婚した女への愛のため、貧しい境遇からのしあがり、彼女の元に舞い戻った男。愛に一途に生きる主人公ギャツビーを演じるのは、当時絶大な人気を誇ったロバート・レッドフォード。上下真っ白なタキシードを着ておかしくない完璧な美しさです。彼が愛した女デイジー役はミア・ファロー。彼女は、「レッドフォード様が命を賭けるほど魅力的に見えない」と当時このキャスティングは非難囂々でしたが、その容姿は今見ると1920年代のクラシカルなファッションがピッタリで他に代え難い美しさにあふれています。そして全編のファッションを担当したのが、ラルフ・ローレン。スポーティなサマーセーター、シャツ、ビシッと決めたスーツ、そしてラグジュアリーなドレスまで、完璧な美しさ。舞台となる白亜の邸宅、田園風景、クラシックカー、もう画面の隅々まで美しさに満ちあふれた映画。ストーリーの甘美さと共に、日常の殺伐とした現実から逃避して夢にひたってみてください。今年6月、レオ様主演のリメイクが劇場公開されますが、前でも後でもぜひ見比べて見て欲しい美しすぎる映画です。 The Great Gatsby™ & Copyright © 2013 by Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2012.09.21
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2012年10月】銀輪次郎
ロバート・レッドフォード、グレン・クローズ、ロバート・デュヴァル、キム・ベイシンガーら豪華スターたちが贈る感動の野球映画。35歳にして新人メジャーリーガーになった男ロイの波乱万丈物語。不屈のチャレンジ精神と雷の落ちた木から削りだしたバット『ワンダー・ボーイ』で活躍する主人公のロイ。野球の物語ながらサスペンス的な要素もあって、程よい緊張感を持つ本作は、野球ファンはもちろんのこと、どなたでも楽しめる作品です。ところどころ出てくる“奇跡”については、鑑賞後に「こんなことは起こりえない」やら「あんな展開はない」と色々ツッコミを入れて頂くのも一興。35歳のロイ役を当時48歳のレッドフォードが演じたことにも驚かされる野球映画の秀作!レッドフォードかっこいいぞ! Copyright © 1984 TriStar Pictures, Inc. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2012.01.01
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2012年1月】招きネコ
メリル・ストリープとロバート・レッドフォードがアフリカの大地を舞台に織りなす大人の恋愛ドラマ。女手ひとつで農場経営に励む気丈な男爵夫人と、自由を愛する冒険家というまさに2人ともハマリ役を演じます。この映画を一言でいうと「すべてが美しい」です。美男美女、素晴らしいサバンナの空撮、クラシカルなサファリ・ファッション、ジョン・バリーの音楽。そして、忘れられないのは女人禁制のクラブでメリル・ストリープが映画史上女性がもっともかっこよくウィスキーを飲むシーン。こうありたいもの・・・。 © 1985 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.