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COLUMN/コラム2015.10.30
ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン
中西部の地方都市に住むアニーは、起業に失敗して貯金もゼロの30代半ばの独身女子。楽しみと言えば幼馴染みのリリアンとバカ話をすることだけだった。そんなある日、リリアンから結婚することを告白された彼女は、ブライズメイズ(新婦介添人)の代表を頼まれて、喜んで引き受ける。でも不器用な彼女は失敗ばかり。加えて新郎の上司のセレブ妻でなんでも器用にやってのけるヘレンの存在が引き金となって、リリアンに先を越された寂しさと焦りが爆発。ブランチ・パーティをぶち壊して、ついにはリリアンと大喧嘩をしてしまう。はたして二人の友情は元通りになるのだろうか…。 結婚式の介添人が大騒動を引き起こすというプロットが、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』を彷彿とさせたため、“女版ハングオーバー!”との前評判の中、2011年に米国で公開されてメガヒットを記録したのが『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』である。でも見終わったあとで「『ハングオーバー! 』とそっくり」と感じる観客はまずいないはず。何て言うか、もっと痛くて切ないのだ。 ティーンの頃に思い描いた未来の可能性は年々閉ざされていく。その一方で同世代の友人たちは結婚して大人へのステップを上っていく。本作はあらゆる角度から追いつめられていくアニーの心理を執拗にほじくり返す。そこに男と女という違いは存在しない。三十代ボンクラというひとりの人間がただそこにいるだけである。バカの一つ覚えのように異性を「スイーツ」呼ばわりする男子も、この映画には魂の片割れを見いだして涙するかもしれない。コメディに冷淡なアカデミー賞で脚本賞にノミネートされたのも納得の完成度だ。 映画の発案者であり、主人公アニーを演じたのは「サタデー・ナイト・ライブ」史上最高の女性キャストとの呼び声高いコメディエンヌ、クリステン・ウィグ。彼女が、古くからの友人アニー・マモロと共同で書いた脚本を持ち込んだ先は、それまでも脇役として顔を出していた『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(07年)や『寝取られ男のラブ♂バカンス』(08年)といった映画の監督/プロデューサーだったジャド・アパトーだった。こうしたヒット作を通じて、男同士の友情をメインにした”ブロマンス映画”というジャンルを確立したアパトーは、その方程式を女子に応用したウィグの脚本を絶賛。テレビドラマ『フリークス学園』以来の盟友ポール・フェイグを監督に指名して映画を現実のものとしたのである。 コメディ映画としての本作の大きな特徴は、ギャグのボケをすべて女優がこなしているところにあるだろう。しかも生半可なギャグではなく、セックス、ゲロ、ウンコ絡みのギャグがふんだんに飛び出す過激なものだ。そんなコメディ映画はそれまでハリウッドには存在しなかった。「女性が悲惨な目に遭っても男のようには笑えない」という認識が世間では一般的だからである。普通の監督なら出演者の一部を男優に差し替えるところだろう。しかしポール・フェイグはウィグとともに「悲惨な目に遭っても笑える」最強の女性キャスト陣を選んだのである。 まずアニーの親友リリアンを演じたのはマヤ・ルドルフ。名曲「ラヴィング・ユー」で知られるミニー・リパートンの娘で、ポール・トーマス・アンダーソン夫人でもある彼女は、実生活ではロサンゼルスのコメディ劇団「グラウンドリングス」時代以来のクリステンの親友。だから映画内の二人の友情はとても真実味が感じられる。 劇中最も難しいキャラであるイヤミなヘレン役に指名されたのは、オーストラリア出身の正統派美女ローズ・バーンだ。それまで『トロイ』(04年)や『28週後…』(07年)といったシリアス映画に出演しながら、いまひとつパッとしなかった彼女は、アパトーのプロデュース作『伝説のロックスター再生計画!』(09年)でイカれたポップスター役を好演。コメディ・センスを全面開花させた本作以降は、『ネイバーズ』(14年)や『ANNIE/アニー』(14年)といった作品で活躍。コメディ界に欠かせない人材になっている。 同じオーストラリア出身でも、アニーのルームメイトの妹を演じたレベル・ウィルソンはこの時点ではアメリカでの知名度はゼロだった。だが強烈な存在感を本作で示した彼女は、『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』(12年)やパワフルな歌声も披露した『ピッチ・パーフェクト』(12年)、『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(14年)によってスターへの階段を駆け上っていった。年末に日本公開が予定されている『ピッチ・パーフェクト』(15年)は、すでに本国でメガヒットを記録しており、パート3の製作が早々と決定している。 こうした才人揃いの出演者の中でも最も観客の目を引いたのは、一番ヨゴレなメーガンを演じたメリッサ・マッカーシーだろう。それまでも『ギルモア・ガールズ』(00?07年)や『サマンサ Who?』(07?09年)といったテレビ・コメディの脇役として知られていたものの、まさか洗面室のシンクに跨って、苦痛に顔を歪めて便意と戦う!なんてギャグをやってのける人だとは誰も思わなかったはず。本作における爆発的な演技によってアカデミー助演女優賞にノミネートされた彼女は、特別出演したアパトー監督作『40歳からの家族ケーカク』(12年)や『ハングオーバー!!! 最後の反省会』(13年)でもシーンを一気にさらう怪演を披露。また当初は男の設定で脚本が書かれていたにも関わらず「男同士じゃありきたりだ」とのジェイソン・ベイトマンのアイディアによって、急遽彼の相棒役を務めることになったダブル主演作『泥棒は幸せのはじまり』(13年)は大ヒット。彼女が映画館に客を呼べるスターであることを証明した。 こうしたメリッサのスター化に伴って、監督ポール・フェイグとのコンビがレギュラー化した。サンドラ・ブロックと組んだ刑事コメディ『デンジャラス・バディ』(13年)、ジェイソン・ステイサムやジュード・ロウといった大スターを従えて主演を張ったスパイ・コメディ『SPY』(15年)は連続大ヒットを記録。後者ではローズ・バーンとのリユニオンを果たしている。 こうした作品によって一躍コメディ界のヒットメイカーとなったフェイグのもとに『ゴーストバスターズ』リメイク版の監督がオファーされたのは昨年のことだ。ビル・マーレイやダン・エイクロイド、ハロルド・ライミスといった80年代を代表する才能が集結していた傑作コメディを現代に蘇らせるには、一体どんなメンツが必要なのだろうか? 考えた末にポール・フェイグが声をかけた相手はクリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、そしてレベル・ウィルソンだった。ちなみに他のキャストは「サタデー・ナイト・ライブ」の現レギュラーであるケイト・マッキノンとレスリー・ジョーンズ、セシリー・ストロングといった面々。そう、全員女性なのだ。 このキャスティングはハリウッド中に大きな話題と物議を呼んだ。しかしフェイグは「面白いコメディアンを集めたら、たまたま女性ばかりだっただけだよ」と全く気にしていないようだ。映画は現在撮影中で来年夏に公開予定である。フェイグは決して奇をてらったわけではなく、このキャスティングに圧倒的な自信を持っているはず。それは、この『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』を観れば明らかだろう。 Artwork © 2012 Universal Studios. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2015.08.15
来夏公開! リメイク版『ゴーストバスターズ』の偉大なる前日談〜『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』〜
中西部の地方都市に住むアニーは、起業に失敗して貯金もゼロの30代半ばの独身女子。楽しみと言えば幼馴染みのリリアンとバカ話をすることだけだった。そんなある日、リリアンから結婚することを告白された彼女は、ブライズメイズ(新婦介添人)の代表を頼まれて、喜んで引き受ける。でも不器用な彼女は失敗ばかり。加えて新郎の上司のセレブ妻でなんでも器用にやってのけるヘレンの存在が引き金となって、リリアンに先を越された寂しさと焦りが爆発。ブランチ・パーティをぶち壊して、ついにはリリアンと大喧嘩をしてしまう。はたして二人の友情は元通りになるのだろうか…。 結婚式の介添人が大騒動を引き起こすというプロットが、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』を彷彿とさせたため、“女版ハングオーバー!”との前評判の中、2011年に米国で公開されてメガヒットを記録したのが『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』である。でも見終わったあとで「『ハングオーバー! 』とそっくり」と感じる観客はまずいないはず。何て言うか、もっと痛くて切ないのだ。 ティーンの頃に思い描いた未来の可能性は年々閉ざされていく。その一方で同世代の友人たちは結婚して大人へのステップを上っていく。本作はあらゆる角度から追いつめられていくアニーの心理を執拗にほじくり返す。そこに男と女という違いは存在しない。三十代ボンクラというひとりの人間がただそこにいるだけである。バカの一つ覚えのように異性を「スイーツ」呼ばわりする男子も、この映画には魂の片割れを見いだして涙するかもしれない。コメディに冷淡なアカデミー賞で脚本賞にノミネートされたのも納得の完成度だ。 映画の発案者であり、主人公アニーを演じたのは「サタデー・ナイト・ライブ」史上最高の女性キャストとの呼び声高いコメディエンヌ、クリステン・ウィグ。彼女が、古くからの友人アニー・マモロと共同で書いた脚本を持ち込んだ先は、それまでも脇役として顔を出していた『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(07年)や『寝取られ男のラブ♂バカンス』(08年)といった映画の監督/プロデューサーだったジャド・アパトーだった。こうしたヒット作を通じて、男同士の友情をメインにした”ブロマンス映画”というジャンルを確立したアパトーは、その方程式を女子に応用したウィグの脚本を絶賛。テレビドラマ『フリークス学園』以来の盟友ポール・フェイグを監督に指名して映画を現実のものとしたのである。 コメディ映画としての本作の大きな特徴は、ギャグのボケをすべて女優がこなしているところにあるだろう。しかも生半可なギャグではなく、セックス、ゲロ、ウンコ絡みのギャグがふんだんに飛び出す過激なものだ。そんなコメディ映画はそれまでハリウッドには存在しなかった。「女性が悲惨な目に遭っても男のようには笑えない」という認識が世間では一般的だからである。普通の監督なら出演者の一部を男優に差し替えるところだろう。しかしポール・フェイグはウィグとともに「悲惨な目に遭っても笑える」最強の女性キャスト陣を選んだのである。 まずアニーの親友リリアンを演じたのはマヤ・ルドルフ。名曲「ラヴィング・ユー」で知られるミニー・リパートンの娘で、ポール・トーマス・アンダーソン夫人でもある彼女は、実生活ではロサンゼルスのコメディ劇団「グラウンドリングス」時代以来のクリステンの親友。だから映画内の二人の友情はとても真実味が感じられる。 劇中最も難しいキャラであるイヤミなヘレン役に指名されたのは、オーストラリア出身の正統派美女ローズ・バーンだ。それまで『トロイ』(04年)や『28週後…』(07年)といったシリアス映画に出演しながら、いまひとつパッとしなかった彼女は、アパトーのプロデュース作『伝説のロックスター再生計画!』(09年)でイカれたポップスター役を好演。コメディ・センスを全面開花させた本作以降は、『ネイバーズ』(14年)や『ANNIE/アニー』(14年)といった作品で活躍。コメディ界に欠かせない人材になっている。 同じオーストラリア出身でも、アニーのルームメイトの妹を演じたレベル・ウィルソンはこの時点ではアメリカでの知名度はゼロだった。だが強烈な存在感を本作で示した彼女は、『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』(12年)やパワフルな歌声も披露した『ピッチ・パーフェクト』(12年)、『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(14年)によってスターへの階段を駆け上っていった。年末に日本公開が予定されている『ピッチ・パーフェクト』(15年)は、すでに本国でメガヒットを記録しており、パート3の製作が早々と決定している。 こうした才人揃いの出演者の中でも最も観客の目を引いたのは、一番ヨゴレなメーガンを演じたメリッサ・マッカーシーだろう。それまでも『ギルモア・ガールズ』(00〜07年)や『サマンサ Who?』(07〜09年)といったテレビ・コメディの脇役として知られていたものの、まさか洗面室のシンクに跨って、苦痛に顔を歪めて便意と戦う!なんてギャグをやってのける人だとは誰も思わなかったはず。本作における爆発的な演技によってアカデミー助演女優賞にノミネートされた彼女は、特別出演したアパトー監督作『40歳からの家族ケーカク』(12年)や『ハングオーバー!!! 最後の反省会』(13年)でもシーンを一気にさらう怪演を披露。また当初は男の設定で脚本が書かれていたにも関わらず「男同士じゃありきたりだ」とのジェイソン・ベイトマンのアイディアによって、急遽彼の相棒役を務めることになったダブル主演作『泥棒は幸せのはじまり』(13年)は大ヒット。彼女が映画館に客を呼べるスターであることを証明した。 こうしたメリッサのスター化に伴って、監督ポール・フェイグとのコンビがレギュラー化した。サンドラ・ブロックと組んだ刑事コメディ『デンジャラス・バディ』(13年)、ジェイソン・ステイサムやジュード・ロウといった大スターを従えて主演を張ったスパイ・コメディ『SPY』(15年)は連続大ヒットを記録。後者ではローズ・バーンとのリユニオンを果たしている。 こうした作品によって一躍コメディ界のヒットメイカーとなったフェイグのもとに『ゴーストバスターズ』リメイク版の監督がオファーされたのは昨年のことだ。ビル・マーレイやダン・エイクロイド、ハロルド・ライミスといった80年代を代表する才能が集結していた傑作コメディを現代に蘇らせるには、一体どんなメンツが必要なのだろうか? 考えた末にポール・フェイグが声をかけた相手はクリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、そしてレベル・ウィルソンだった。ちなみに他のキャストは「サタデー・ナイト・ライブ」の現レギュラーであるケイト・マッキノンとレスリー・ジョーンズ、セシリー・ストロングといった面々。そう、全員女性なのだ。 このキャスティングはハリウッド中に大きな話題と物議を呼んだ。しかしフェイグは「面白いコメディアンを集めたら、たまたま女性ばかりだっただけだよ」と全く気にしていないようだ。映画は現在撮影中で来年夏に公開予定である。フェイグは決して奇をてらったわけではなく、このキャスティングに圧倒的な自信を持っているはず。それは、この『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』を観れば明らかだろう。■ Artwork © 2012 Universal Studios. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2015.06.13
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年7月】おふとん
ザ・シネマで5ヵ月連続でお届けしている永遠の妖精オードリー・ヘプバーン特集。3ヵ月目は『昼下がりの情事』をお届けします。 本作ではプレイボーイの大人の男性に恋をしてしまい、一生懸命背伸びしてなんとか振り向かせようとするオードリーが本当にキュート!白ミンクのコート、20人の元カレ、男との同棲…全部ウソだけど子供だって思われたくないもん!くるくる変わる表情から目が離せません。 8月以降も『パリの恋人』『麗しのサブリナ』などオードリーの魅力あふれる作品を放送しますのでお見逃しなく! LOVE IN THE AFTERNOON © 1957 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC. AND WARNER BROS., INC.. All Rights Reserved
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COLUMN/コラム2015.03.18
ドイツにおけるサッカーの“起源”に迫り、このスポーツの精神と喜びをみずみずしく紡いだ珠玉作~『コッホ先生と僕らの革命』
2014年のサッカー界で最もインパクトを放った出来事のひとつは、何と言ってもブラジル・ワールドカップにおけるドイツ代表の優勝である。とりわけ準決勝で開催国を容赦ないほど圧倒し、7-1というありえないスコアで撃破した試合は、ブラジルのサポーターからすれば救いのないディザスター・ムービーのようだっただろう。同時にそれは世界中のサッカー・ファンが、ドイツの時代の到来を思い知らされた試合でもあった。 そんな誰もが知るヨーロッパの伝統的な強豪国であり、21世紀の先端をゆくドイツという国のサッカーの“起源”を描いたのが『コッホ先生と僕らの革命』だ。1846年にブラウンシュヴァイクに生まれ、父親の後を追うように教育者となったコンラート・コッホ。故郷の名門カタリネウム校の主任教師となった彼は、ドイツのスポーツ教育に初めてサッカーを導入し、のちにサッカーのルールブックを最初に出版した人物とされている。おそらく「そんな人の名前、聞いたことがない」という人がほとんどだろうが、それも当然。大のサッカー好きでバルセロナの熱烈なサポーターでもある主演俳優ダニエル・ブリュールも「まったく知らなかった」とインタビューで告白しているように、ドイツ国内でもあまり知られていない偉人らしい。 映画は1874年、イギリス留学から帰国したコッホがカタリネウム校に英語教師として赴任してくるところから始まる。当時のドイツ帝国の体育の授業では器械体操が重んじられ、生徒たちは頭の固い権威主義的な教師たちに抑圧されていた。リベラルな考え方を持つコッホは、生徒たちがイギリスを“野蛮な国”と誤解し、英語の授業にさっぱり身が入らないのを察して、彼らを体育館へと連れ出す。そこで自分が持ち込んだサッカーボールを蹴ってみるように指示したコッホは、シュート、パス、ディフェンス、アタックといった英語のサッカー用語を教えるという奇策に出る。かくして生徒たちは初めて触れたサッカーの面白さの虜になっていくが、コッホの指導方針を快く思わない守旧派が妨害工作を仕掛けてきて…。 実際のコッホは英語教師ではなく古典が専門だったらしく、いろいろ映画向けの“脚色”が施されているようだが、彼がチームプレーやフェアプレーをリスペクトするサッカーの精神を教育に応用したエピソードは事実に基づいているようだ。さらに本作は、いじめっ子、いじめられっ子という相容れない関係だった特権階級と労働者階級の生徒ふたりが、格差の壁を軽やかに乗り越えてサッカーの平等性を体現していく姿を描出。またコッホの指導によって自我に目覚めた生徒たちが、服従を強いる大人たちへのささやかな抵抗を見せるくだりは、このジャンルの傑作『いまを生きる』の名場面を思い起こさせたりもする。教育映画としても青春映画としても、そして師弟の絆を謳い上げた学園ドラマとしても、実にウェルメイドな仕上がりである。 それに何よりサッカーにまつわる描写がいちいちすばらしい。だだっ広い公園に即席のゴールポストを立てた生徒たちが、初めて屋外のピッチでサッカーに興じるシーンの素朴さ! そしてクライマックスでは、何とサッカーの母国イギリス・オックスフォードから遠征してきた少年チームとの初の“対外試合”が繰り広げられるのだ。この試合には通常のスポーツ映画とは異なり名誉もプライドも懸かっておらず、勝敗さえも問題にならない。戦術や駆け引きの類も一切ない。あるのはオフサイドという反則の説明だけで、ひたすらサッカーをプレーする喜びが牧歌的な風景の中にいきいきと紡がれていく。 ベルリンから視察にやってきた教育界のお偉いさんたちは、初めて目の当たりにするサッカーなるものをどう受けとめていいのかわからない。少年たちはそんなことお構いなしに無心でプレーを続け、ゴールを決めたり決められたりと一喜一憂。チビだがボールの扱いが抜群にうまいいじめられっ子が敵陣の右サイドをドリブル突破し、そこから送られたクロスを長身のいじめっ子がダイビングヘッドでシュートするシーンには、観ているこちらまで思わず身を乗り出しそうになってしまう。セバスチャン・グロブラー監督を始めとするスタッフは、よほどのサッカー好きなのだろう。非公式記録ながら名もなき少年たちが経験する“ドイツ史上初の失点”や“初のゴール”を、このうえなく丹念に映像化している。コッホ役のダニエル・ブリュールがちらりと垣間見せる、リフティングやドリブルのテクニックも見逃せない。 とかく筆者も含めたサッカー・ファンはやたら細かいシステム論などに気をとられがちだが、この映画はそこにサッカーというスポーツが存在することの幸福感をみずみずしく伝えてくれる。まさしく“心洗われる感動”に浸れる珠玉のサッカー映画なのであった。■ ©2011 DEUTSCHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION
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COLUMN/コラム2015.02.28
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年3月】おふとん
スティーヴン・キング原作の『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』を映像化したフランク・ダラボン監督が今度は「霧」を映像化。監督自ら新しい結末を制作し、キングから大絶賛されたとか。後味の悪い映画ランキングでいつも殿堂入りする本作。一度観たら忘れられず、なぜか人にオススメしたくなってしまいます。謎の霧に包まれたスーパーマーケットに立て篭もる主人公たち。ゾンビしかり、ショッピングモールに立て篭もったりするのとワクワクするのはなぜでしょう。 ©2007 The Weinstein Company.All rights reserved.
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COLUMN/コラム2013.12.18
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年1月】にしこ
説明不要、オススメ不要かもしれませんが「アンタッチャブル」です!! 禁酒法時代のシカゴ。悪事の限りを尽くし、シカゴの帝王であったアル・カポネを財務省から肝いりでやって来た調査官エリオット・ネスはなんとかして捕まえようと息巻いていますが、警察内部までカポネの息がかかっているため、当然空回り。意気消沈のネスの前に現れたのはショーン・コネリー演じる巡回警官のマローン。マローン「この年でパトロール警官だ」ネス「どうしてだ?」マローン「この腐りきった街で唯一汚れてない警官だからさ」。 二人がスカウトする警察学校の生徒、若きアンディ・ガルシアのはにかみ笑顔もキュート。そしてそして、見所はたくさんありますが、ロバート・デ・ニーロ演じるアル・カポネの笑ってしまうほど絵に描いた様な悪役ぶりが、いろいろな意味ですごいです。ヒーローの前に立ちはだかる壁→尊敬する師との出会い→成長→悪との対決。シンプルだっていいじゃない。勧善懲悪だっていいじゃない。だって「アンタッチャブル」だもの。観終わった後の爽快感はピカ一!!そして!!この名作がザ・シネマではなんと元日1月1日に放送です!!新年の幕開けにこれほど相応しい作品があるでしょうか!!ザ・シネマでは12/28-1/5の9日間、年末年始の特別編成でヒット作から良作まで渾身のラインナップでお送りします。どうぞお楽しみ下さい!! TM & Copyright © 2013 Paramount Pictures. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2013.11.29
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年12月】銀輪次郎
シアトルのナイトクラブを舞台にジェフ・ブリッジスと、その実兄であるボー・ブリッジスが映画の中でもジャズ・ピアニストの兄弟を演じる本作。人気に陰りの見えたピアニストの兄弟デュオにボーカルとして加わった女性シンガーをミシェル・ファイファーが演じます。物語の雰囲気や内容もさることながら、本作で特に注目をしたいのが、アカデミー主演女優賞にノミネートされた(惜しくも受賞はならず。)ミシェル・ファイファーの演技。とりわけ歌唱力がすごい!“The Look of Love”(恋の面影)の他、“My Funny Valentine"等のジャズスタンダード曲を全編にわたり披露してくれます。聞くところに寄れば、役が決まるまでは特に歌の練習はしておらず、役が決定してから毎日10時間の猛練習をしたとか。音楽担当がデイヴ・グルーシンというところも、小粋なジャズ・フュージョンが所々に聞こえて心地よい。音楽にも是非注目してご覧頂きたい作品です! © Copyright ITV plc (ITV Global Entertainment Ltd)
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COLUMN/コラム2012.06.27
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2012年7月】銀輪次郎
ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが豪華共演!「ゴッドファーザーPART II」の親子関係でもなく、「ヒート」の憎みあう敵同士でもない。本作では相性抜群のベテラン刑事を二人が熱演します。正直、デ・ニーロとアル・パチーノがここまで仲良くしている姿は見たことがなく、作品冒頭でお互いにニコニコしている姿は何だか不思議な気もします。とはいえ、やはり、この二人、いくつになってもすごい演技力。途中から、初めて見る仲良しの違和感も全く気にならなくなり、ぐいぐいと作品に引き込まれていきます。そして最後に用意される驚きの結末。作品の展開も小気味良く、二人の共演を安心して楽しめるオススメ作品です。 (C) 2007 RIGHTEOUS PRODUCTIONS, INC.
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COLUMN/コラム2011.08.02
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2011年8月】飯森盛良
この映画に吸血鬼は出てきませんが、劇中、挿話として語られる「死んだ兵隊さんティミー君のお話」って、実は、まさしく初期ヴァンパイアそのものなのです。これ、映画のメインパートより秀逸なトラウマ・エピソード!ヴァンパイアって、当初、18世紀頃には「歩く屍体」、ドラキュラというよりゾンビに近い存在と信じられてたのです。東欧の田舎である村人が死ぬ、埋葬する、なのに墓から蘇って近所をフラつく、訳もなく暴れ回ったりもする。彼はかつては愛する肉親/親しい隣人だったかもしれないけれど、今では別の何か、邪悪な存在になり果てちゃった…それが、初期の吸血鬼の姿でした。そう、まさにティミーなんです!ティミーを見て「大昔は吸血鬼ってこんなのだったんだ」と感じていただけたら幸いです。 TM & COPYRIGHT © 2011 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.