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COLUMN/コラム2019.07.25
主人公ラクエル・ウェルチの娘役(当時10歳の)ジョディ・フォスターにも注目!
『カンサス・シティの爆弾娘』(72年)は、ローラーダービーという70年代に流行ったスポーツのスター選手が主人公です。バンクのあるトラックをローラースケートで走り、敵チームの妨害をかわしてポイントを稼ぐゲームで、日本ではローラーゲームと呼ばれて、1972年頃、毎週TVで放送されて人気でした。日本のチーム名は「東京ボンバーズ」。キャプテンの佐々木ヨーコさんは大スターでした。 ローラーゲームは実はプロレスのようなものでした。つまりスポーツというよりショービジネス、筋書きがあるエンターテインメントでした。反則攻撃が売り物で、ベンチなどを使った凶器攻撃や、女の人同士が髪の毛を引っ張りあうキャットファイトに観客は熱狂しました。女性選手は体の線がはっきり見える服を着て、ちょっとエロチックな見世物の要素もありました。でも、本作が作られたころはアメリカ人も日本人も無邪気にこれが真剣勝負だと信じていて、それを前提にこの映画は作られています。 主演はラクエル・ウェルチ。あまりにも完璧なスタイルで60年代に世界中の男性をノックアウトしました。特に『恐竜100万年』(66年)での原始人ガールは衝撃で、『ショーシャンクの空に』にも出てきますね。こういうスタイルが良すぎる女性は、ゲイの男性からも人気があるんです。『カンサス・シティの爆弾娘』のシナリオを書いたバリー・サンドラーもそうでした。 サンドラーはUCLAの学生時代、とにかくラクエル・ウェルチが大好きで、彼女を主役にしたローラーゲームの映画が観たくて、自分で一所懸命シナリオを書いて、ラクエル・ウェルチさんの家まで持ってったんですよ。で、ウェルチさんが自分で映画会社に持ち込んで、映画化にこぎつけたんです。サンドラーはこれでハリウッド・デビューして、1982年に書いた『メーキング・ラブ』はハリウッドが始めて同性愛を真正面から描いた映画になりました。 僕が『カンサス・シティの爆弾娘』を観に行った理由は、ラクエル・ウェルチよりも、ジョディ・フォスターが出てるからなんですよ。ウェルチの娘役でね。僕はフォスターのファン世代なんです。そのころ、彼女が出ている映画は『タクシードライバー』から『ダウンタウン物語』、『白い家の少女』(すべて76年)まで片っ端から観てたので、『カンサス・シティの爆弾娘』にも子役で出ていると知って、名画座まで追っかけました。でも、ジョディは売れっ子になる数年前だから、ろくにアップもなかったですけどね(笑)。 この映画、ラクエル・ウェルチは「カンサス・シティの爆弾娘」と呼ばれているんですが、舞台はオレゴン州のポートランドなんですよね。いったんスターの座から落ちたヒロインが、どん底から再起していく、スポーツ物の定番です。共演はケヴィン・マッカーシー。『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56年)とか、昔の50年代のホラーSF映画によく出ていた俳優ですが、本作ではローラーゲームの大物プロモーター、W W Eのヴィンス・マクマホンみたいな経営者を演じていて、ヒロインと恋愛関係になります。監督がT V出身のジェロルド・フリードマンだからか、ちょっとメロドラマ風です。でも、ウェルチ様は権力のある男に屈することなく独りで闘う道を選びます。 ローラーダービーは70年代半ばには廃れましたが、21世紀に入ってから蘇りました。アメリカの女性たちが自主運営でリーグを作っていったのです。真剣勝負のスポーツとしてのローラーダービーを。それは『ローラーガールズ・ダイアリー』(09年)という映画になっていますから、この『カンサス・シティの爆弾娘』とぜひ、比べてみてください。■ (談/町山智浩) MORE★INFO.●ウェルチはスケート・シーンのほとんどを自身で演じた。その訓練中に右の手首を負傷したため6週間撮影が中断。その間ウェルチはブダペストへ飛んで、リチャード・バートン主演の『青ひげ』(72 年)にカメオ出演した。●全米のトップ・スケーターはもとより、日本(当時日本で人気絶大だった“東京ボンバーズ”)とオーストラリアのチームも撮影に招かれた。●TVドラマの監督だったジェロルド・フリードマンの劇場映画監督デビュー作。●撮影監督は当初ヴィルモス・ジグモンドが担当するはずだった。●K・Cをいじめるジャッキー・バーデット役ヘレナ・カリアニオテスがゴールデン・グローブの最優秀助演女優賞を受賞した。 © Warner Bros. Entertainment Inc.
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COLUMN/コラム2018.10.19
男たちのシネマ愛『モリー』2018年11月放送
映画ライターなかざわひでゆき×ザ・シネマ飯森盛良の対談シリーズ「男たちのシネマ愛」が今、初の音声ファイルとなって帰ってきた!今回熱く語るのは、名物特集「激レア映画、買い付けてきました」として調達してきた2018年11月の3作品。3本目は、ハートウォーミングな兄妹のドラマを、90年代末の美しすぎるLAを舞台に綴る感動作『モリー』。90'sリバイバルの今、このキラっキラ感にヤラれろ!うおっまぶしっ!!
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COLUMN/コラム2017.10.09
26世紀青年
2005年のある日。米軍勤務(といっても最前線で戦う兵士ではなく、軍事基地の資料室で受付係をしている)ジョー・バウアーズは、極秘の人体実験への参加を命じられる。その内容とは1年間の冷凍睡眠。「一般人は冷凍睡眠に耐えられるのか」を実証するために、最も平均的なスペックを持つジョーが選ばれたのだ。彼は渋々ながら、やはり平均的な女性リタ(但しその正体は起訴処分取り下げを条件に実験に応じた売春婦)とともに眠りについた。ところが実験の存在は忘れられてしまい、ふたりが目覚めたのは500年後のことだった。 そこでジョーが見たものは、ジャンクフードとTVとセックスにしか興味のない未来人とゴミの山。21世紀に入って、優秀な人間が子どもを作ることに慎重になった一方で、バカは相変わらず避妊せずにセックスして子どもをバンバン作ったことで<逆自然淘汰>が起こり、人類はバカばっかりになってしまっていたのだ。合衆国政府はタコベルに買収され、スターバックスは風俗チェーンに業態変更。テレビでは男がひたすら金玉を痛めつけられる「タマが痛い」が高視聴率を獲得し、尻だけがひたすら映し出される映画がアカデミー賞を独占していた。 そんな中、ジョーは不審人物として逮捕されてしまう。だが連れていかれた先は刑務所ではなくホワイトハウスだった。理由は逮捕時に受けたテストでの信じられない高得点。大統領は、深刻な食料危機の解決をジョーに命令する。しかし彼は26世紀では世界一の天才でも、あくまで普通の男にすぎないのだ……。 『26世紀青年』は、ピクサーが2008年に放った大ヒットアニメ『ウォーリー』を2年も先駆けて公開されたディストピアSFコメディだ。二作は、長い時空を超えてきた平凡な主人公にゴミの山、そして退化した未来人など設定の多くが共通している。しかし家族揃って見られる『ウォーリー』と比べると、未来人の醜悪さがこれでもかと言うほどリアルに描かれているため、毒は遥かに強烈だ。 監督と脚本を手掛けたのは、『サウスパーク』に多大な影響を与えた『ビーバス&バットヘッド』(93〜97年)や『キング・オブ・ザ・ヒル』(97〜10年)といったシニカルなアニメで知られる鬼才マイク・ジャッジ。脚本にはジャッジのアニメ作品に参加してきた右腕的存在のイータン・コーエンも参加している。 徹底的に普通の男ジョーを演じたのは、『キューティ・ブロンド』シリーズ(01〜03年)や『Gガール 破壊的な彼女』(06年)といった作品でのイイ人ぶりが印象に残るルーク・ウィルソン。リタ役に『SNL』出身で、ポール・トーマス・アンダーソンのパートナーとしても知られるコメディエンヌ、マヤ・ルドルフ、未来社会の弁護士フリート役に『ザスーラ』(05年)の宇宙飛行士役で注目されたばかりのダックス・シェパードが扮している。メガヒットとは言わないまでもスマッシュ・ヒットが期待出来そうなメンツだ。 ところが映画は2005年に完成したにもかかわらず、製作会社の20世紀フォックスは1年以上塩漬けに。翌年やっと公開を決めたものの、試写会を一切開催しなかったばかりか、予告編すら作らなかった。そして全米130スクリーンだけでひっそりと上映し、さっさと打ち切ってしまったのだった。『26世紀青年』は闇へと葬り去られたのだ。 製作会社のそんな不可解な対応に対し、マイク・ジャッジのファンから怒りと疑問の声があがった。やがてある噂がネット上を飛び交い出した。20世紀フォックスは、系列のFOXニュースに配慮して『26世紀青年』を実質お蔵入りにしたのではないか? FOXニュースは、CNNのライバル局として1996年に設立されたニュース専門チャンネルだ。中立的な報道を行なうCNNに対して、FOXニュースは、「彼らはリベラルに偏向している。我々こそが中立」と主張。アメリカ人に都合が良いニュースばかりをオンエアした。そしてアメリカ同時多発テロ事件を機にCNNを視聴率で逆転したのである。 そんな局にとって『26世紀青年』のどこが都合が悪いのか? それは映画で描かれる未来人たちの姿にある。昼からビールを飲みまくり、プロレスやストックカーレースが大好きな彼らは明らかに現代のプアホワイト(白人低所得者層、ホワイト・トラッシュとも呼ばれる)を戯画化したものだった。そしてFOXニュースのメインターゲットこそがそのプアホワイトだったのだ。 噂が本当なら、マイク・ジャッジは「FOXニュースばかり観るとバカになるよ」と主張する映画を、こともあろうに総本山で撮ってしまったことになる。当のジャッジはというと、インタビューで「シークレットで行った試写の結果がものすごく悪かったと製作会社から言われた」と発言している。個人的にはその可能性はゼロではないと思う。マイク・ジャッジとイータン・コーエンはそれぞれエクアドルとイスラエル生まれの移民なので、プアホワイトの知り合いはいないはずだ。だが観客の多くを占めるヨーロッパ系白人の場合、もし本人がそうでもなくても親戚の誰かがプアホワイトであってもおかしくない。彼らは未来どころではない醜悪な現在を再確認してゲンナリしてしまった可能性もある。もっとも事実は藪の中なのだけど。 『26世紀青年』はそんなわけで興行的に失敗に終わったものの、ジャッジはT.J.ミラーをスターにしたコメディ・ドラマ『シリコンバレー』(14年)を大成功させ、イータン・コーエンは『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(08年)や『メン・イン・ブラック3』(12年)の脚本を手がけたあと、ウィル・フェレルとケヴィン・ハートの共演作『ゲット・ハード/Get Hard』(15年)で監督デビュー。フェレルがシャーロック・ホームズに扮する『Holmes and Watson』(18年)でも監督と脚本を手がけるなど、いずれもアメリカン・コメディ界のキーパーソンになりつつある。 一方、アメリカ合衆国はというと、2009年にティーパーティー運動が勃興。初の黒人大統領となっていたバラク・オバマがアメリカ国籍を持っていないとか、イスラム教徒だというデマを撒き散らすようになった。彼らの裏付けのない主張には共和党主流派も批判的なほどだったが、やがて共和党はティーパーティー的な考えに飲み込まれていった。 その結果が、2016年大統領選における共和党候補ドナルド・トランプの勝利である。『26世紀青年』でテリー・クルーズが演じるバカの塊のような合衆国大統領コマーチョは元プロレスラーでポルノ俳優という設定だったが、トランプもプロレス団体WWEに参戦経験があり、ヌードビデオ「プレイボーイ・センターフォールド」に出演したことがある。プアホワイト好みのこうしたメディアに露出することによって、人気者になって大統領にまでなってしまった点においてトランプとコマーチョは瓜二つなのだ……いや、黒人のコマーチョは人種差別は行っていないようなのでトランプの方がヒドいかもしれない。 『26世紀青年』の原題は『Idiocracy(IdiotとDemocracyを合成した造語、バカ主義とでも言うべきか)』という。トランプが大統領選に当選した際にメディアは一斉に「アメリカはIdiocracyの国になってしまった」と嘆き、10年前の上映以来、久々に『26世紀青年』に注目が集まったのだった。しかも今回は「現在を予言した黙示録的映画」として。もっともマイク・ジャッジはインタビューでこう答えたようだ。「僕は預言者なんかじゃないよ。だって予言の時期を490年も外しちゃったんだからね」 © 2006 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2017.03.15
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年4月】うず潮
ブリジット・バルドー(BB)、マリリン・モンロー(MM)と並ぶセックスシンボル、クラウディア・カルディナーレ(CC)の主演で描く、年上美女と青年の美しくも切ない愛の物語。 兄の捨てた美女を弟が追い返すシーンから物語が動き出します。「兄貴ひどい!こんな美女を見捨てるなんて!」と思わず叫びたくなりますが、弟君であるジャック・ペランは彼女を見た瞬間、恋に落ちてしまいます。そして、二人の距離は近づいていき…背伸びをした年下男子と遊びからマジになってしまった年上美女の行方はいかに!男女共にそれぞれの視点で楽しめる作品です。 また、劇中で流れる楽曲にも注目で.す。当時のヒット曲『月影のナポリ』 をケンカのシーンで流したり、CCが踊るシーンでは、劇中にあるジュークボックスから映画の主題歌『鞄を持った女』をさりげなく流したりと、素敵な音楽がちリばめられていて、CCの魅力をより引き立てています。イタリア映画界の宝石クラウディア・カルディナーレ(CC)のキュートでコケティッシュな魅力が満載な1本。この機会を逃すと、今度はいつ見られるかわかりませんので是非! @TITANUS 1960
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COLUMN/コラム2017.02.18
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年3月】にしこ
気弱な国王(ジャン=ユーグ・アングラード)に代わり、政治の実権を握る母后カトリーヌ・ド・メディシス(イタリア、メディチ家からやってきた)の絶対的権力の元、娘のマルゴは新興勢力である新教徒ユグノー派のアンリ公と政略結婚させられるが、マルゴは結婚など意に介さず、新婚初夜に男を求め街へ繰り出す。そこでユグノー派の貴族ラ・モール伯爵(ヴァンサン・ペレーズ)と運命的に出会い、二人は激しく愛し合う。しかし、カトリックであるマルゴの母カトリーヌによるユグノー派の大弾圧「サン・バルテルミの虐殺」がすぐそこまで迫ってきていた… マルゴの周辺の男はみんなマルゴに夢中。史実にも「男を破滅させるたぐいの美しさだ」と言われたという記述が残るほどの美貌で、奔放に生きている様に見えますが、その実、政略結婚相手のアンリ公に愛情は全く示さないながらも、彼の命の危機を自らの危険を顧みずに助けたり、母であるカトリーヌ后に完全にいい様に操られている長兄の事も、心配し愛している、非常に情と懐の深い女性である事がよくわかる映画です。懸命に運命に抗おうとしながらも、どこか自分の生まれに諦めも抱えているという複雑な内面を、イザベル・アジャーニが演じ、唯一無二のマルゴにしている事も胸を打ちます。当時、イザベル・アジャーニ40歳。美しさ、天井知らず。 この映画のクライマックスである「サン・バルテルミの虐殺」も壮絶極まりますが、母后であるカトリーヌ・ド・メディシスの恐ろしさもこの映画の見どころの一つ。「絶対負けられない戦いがある!」という気迫で、ユグノー派を虐殺しまくる姿は、人間のそれではない様に感じるのであります。見応え抜群! © 1994 - PATHE PRODUCTION - FRANCE 2 CINEMA - DA FILMS - RCS PRODUZIONE TV SPA - NEF FILMPRODUKTION
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COLUMN/コラム2016.12.10
新世代アクションスター スティーヴ・オースティンに着目せよ!
長年アクション映画界を牽引してきたシルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーは、共に70歳前後。2人ともいまだ現役でヒット作を量産し続けているものの、アクション映画界は長らく第二のスタローン、第二のシュワルツェネッガーを生み出すことが出来ず、苦しんできた。しかしここ数年、スタローンの後継としてジェイソン・ステイサムが急成長。良質なアクション映画を送り出し続けている。また第二のシュワルツェネッガーと言うべきザ・ロックことドウェイン・ジョンソンも世界的な大ヒット作品を次々とリリース。両者とも世界的なアクションスターとしての地位を完全に確立している。そしてその2人の牙城を虎視眈々と狙う次世代アクションスターが、本稿の主役ストーン・コールド・スティーヴ・オースティンなのである。 スティーヴ・オースティンは1964年、テキサス州オースティンで産声を上げた。少年時代からアメリカン・フットボールに打ち込み、アメフトの奨学生としてノーステキサス大学に進学するほど将来を嘱望されたアスリートであった。しかし勉学に嫌気がさして突然大学を中退したオースティンは、子供の頃から憧れていたプロレスラーの道を目指す。当時テキサス州ダラスに在住していたイギリス人プロレスラーのクリス・アダムスのプロレス道場に入門したオースティンは、メキメキと頭角を現して1989年に本名のスティーヴ・ウィリアムスとしてプロデビューを飾る。この頃、所属団体のUSWAには同名のスティーヴ・ウィリアムス(殺人医師のニックネームで新日本プロレス、全日本プロレスで活躍)がいたため、地元オースティンにちなみリングネームをスティーヴ・オースティンとし、さらにヒール(悪役)に転向することで次第に人気を博していくことになる(後に改名し、本名もスティーヴ・オースティンとなる)。 1991年にはダスティ・ローデスにスカウトされてWCWに入団。1992年からは新日本プロレスに継続参戦するようになる。しかし1995年に怪我を理由にWCWを解雇されてしまい、インディ団体にスポット参戦。そこでの活躍を認められてWWF(現WWE)との契約を手にしたのだった。WWFでは最凶のタフ野郎、ストーン・コールド・スティーヴ・オースティンとして大ブレイク。1998年にはWWF世界ヘビー級王座を初戴冠するなど、人気・実力ともにWWFの頂点に君臨するスーパースターとなっていく。特にオースティンがWWF経営者ファミリーのマクマホン一家や、スーパースターのザ・ロックと繰り広げる一連の抗争(アティテュード路線)は、WWEとオースティンの人気を不動のものとしていくことになる。この人気絶頂のオースティンは、ドン・ジョンソン主演の警察ドラマ『刑事ナッシュ・ブリッジス』に刑事ジェイク・ケイジ役で出演。後に繋がる俳優としての活動も開始している。 しかしザ・ロックやブロック・レスナーらの若手を推す会社の方針に反発したオースティンは、何度かWWEからの離脱と復帰を繰り返す。そして2005年に復帰した際は、プロレスラーとしてではなく、WWEの映画製作会社のWWEフィルムズ所属の俳優としての契約となったのだった。そのためこれ以降はプロレスラーとしての試合は無くなって大会にゲスト登場となることが多くなり、メインの活動は俳優業へとシフトしていく。ちなみに2007年には、共にヅラ疑惑のあったWWE会長のビンス・マクマホンと不動産王で次期アメリカ大統領のドナルド・トランプが、レッスルマニア23で激突。負けた方が髪を剃るという髪切りデスマッチとなり、その際髪を剃る役をスキンヘッドのオースティンが務めている。この抗争は、大の大人(しかも世界的な大金持ち)が意地とプライドと髪を賭けた戦いを繰り広げるという超絶大馬鹿勝負となり、記録的なペイ・パー・ビュー売り上げを記録することになる(トランプは本件でブルーカラー層への知名度を爆発的に拡大し、それが2016年の大統領選での躍進に繋がったとの分析もある)。また2009年にはWWEの殿堂入りを果たし、その際のスピーチでプロレスラーの引退を宣言。オースティンは本格的に俳優としての活動にシフトしていくことになる。 オースティンの映画俳優としての本格なデビューは、2005年にアダム・サンドラーがリメイクした『ロンゲスト・ヤード』だ。ビル・ゴールドバーグ、ボブ・サップ、ケビン・ナッシュらプロレスラー勢に交じってオースティンも看守役で出演している。そして2007年には、WWEフィルムズがライオンズゲート社と組んで制作した『監獄島』で映画初主演を務めている。2010年にはシルヴェスター・スタローン制作のオールスター映画『エクスペンダブルズ』に、極悪用心棒ペイン役で出演。スタローンをボコボコにし、元UFCヘビー級王者のランディ・クートゥアとガチンコ勝負を繰り広げるなど大活躍を見せた。 そしてこの年には『スティーヴ・オースティン ザ・ストレンジャー』にも出演。記憶を失った元FBI捜査官が、記憶を取り戻すために巨大な陰謀に立ち向かう本作は、オースティンにとっても演技力を試されるサスペンスフルな作品となっている。とはいえ、もちろんクライマックスは「待ってました!」と喝采をあげたくなる大暴れが待っているので安心してほしい。 そして2011年には『スティーヴ・オースティン 復讐者』と『スティーヴ・オースティン ノックアウト』をリリース(オースティン主演のビデオ映画の邦題には必ず“スティーヴ・オースティン”が付くので非常に分かりやすい)。『復讐者』は、敵のバイカー集団のボス役でダニー・トレホが登場。最後はオースティンとトレホがガムテープで片手同士を結び付けて殴り合いという、番長マンガのような展開が素晴らしい作品だ。『ノックアウト』はオースティン版『ベスト・キッド』と言うべき作品で、高校の用務員オースティン(ゴツすぎる)がイジメられっ子にボクシングを教え、州大会でイジメっ子と対決するという映画。オースティンらしい『復讐者』と、らしくない『ノックアウト』は、共にオースティンファンならおさえておくべき作品だろう。その他にも年に数本はオースティン出演作がリリースされており、どれも粒ぞろいの作品なのでザ・シネマで順次放映されることを期待したい。 俳優スティーヴ・オースティンの魅力は、もちろんシュワルツェネッガーのような巨大な肉体を武器に大味な殴り合いなどWWE時代を彷彿とさせるプロレス技を活用したアクションシーン。しかしオースティンの魅力はそれだけでなく、オースティン主演映画ではスタローン映画のように敵に捕まって拷問され、耐えて耐えて最後に大爆発という展開も多い。オースティンが完全無欠のフィジカルモンスターとして描かれるわけではないというギャップが、映画の中で非情に良いスパイスになっているのだ。 つまりオースティンこそは、スタローンとシュワルツェネッガーという二人のアクション映画の重鎮の魅力を併せ持つ、新時代のハイブリットアクションスターと言えるのだ。■ © 2010 BOXER AND THE KID PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2016.05.03
【DVD絶版】男子、厨房に入って散らかすシリーズ第1弾(2弾はあるのか!?) 『暗い日曜日』に出てくる“ビーフロール”ことルラードを作る!
「ザ・シネマSTAFFがもう一度どうしても見たかった激レア映画を買い付けてきました」特集で、ワタクシが激烈に推薦しております『暗い日曜日』。DVD絶版で鑑賞しづらい作品なのですが、これを買い付けてきてHDでザ・シネマでは放送します。 「暗い日曜日」という自殺ソング、これは実際にある曲なんですが、それに着想を得た物語です。この作品はサイトの解説もワタクシ自分で書きましたんで、まんまコピペしてきます。 「今もブダペストにあるレストラン、サボー。戦前、ユダヤ系の支配人サボーは父娘ほど歳の離れたウェイトレスのイロナと愛し合い、幸せな日々を送っていた。新たに雇ったピアニストのアンドラーシュにイロナが惚れたので、サボーは奪い合うより男2人で彼女をシェアする大人の関係を提案。だがその関係は次第にアンドラーシュの心を蝕み、ナチの脅威が迫ってハンガリーも右傾化し、社会が狂ってくる中、彼は、ある曲を作ってしまう。」 という物語でして、ザ・シネマ10周年記念対談の方ではさらに踏み込んだトークをしておりますんで、よろしければそちらも覗きに来てください。 さて、劇中でレストランのオーナーである主人公サボーさんが、ドイツから来た観光客のハンスに「ルラード」という料理の作り方について説明するくだりがあります。ハンスは「ビーフロール」と呼んでルラードをいたく気に入っているので、奴が非常に凹んでいる時に、親切なサボーさんは秘密のレシピを教えてやるのです。 「まず柔らかいヒレ肉を薄くスライスしてたたいておく。鍋にバターを溶かし、いい香りがしてきたらニンニクを入れる。丸ごとね。バターにニンニクの香りがついたら肉を入れてソテーする。中身は覚えているかい?ハンガリーのハムとチーズだ。薄くスライスしておく。だから一口切って食べると、舌に3つの味が広がる。その3つの全く違った味が、ふた口めで1つに溶け合うというわけだ」 ぐぬぅ!実に美味そうですなぁ!! 食えるもんなら食ってみたいが、日本でこれを食わせてくれるレストランがそうそう在る気がしない…。東京にはハンガリー・レストランが何件かありますが、本日(4/30)はゴールデン・ウィーク初日ってことで、こんな日には時間をかけて、ヘタの横好きで手ずから作ってみるとしましょうか。映画を見て美味そうな食い物を知り、そいつを食す、作る、ってのもまた、映画マニアの大いなる愉しみの1つなのであります。ではありませんか?俺だけか? このルラード、日本ではマイナーすぎるんで、レシピが全然見つかりません。「ルラード(Roulade)」自体は「巻いた物」って意味らしいので、ネットで検索するとチキンのやつとかいろいろと見つかるんですが(ロールケーキもRouladeと呼ばれてるようで、ヒットしちゃう)、上記のサボーさんの言っているようなルラード、ハンスが言う「ビーフロール」みたいなハンガリー料理のレシピが、これが容易に見つからないんだなぁ。なので、今回は海外のサイトを何カ所か参考にしました。特にパクリ元にしたのがココのブログ。 このメインぱくり元に加え、他のサイトと、サボーさんの前出のセリフと、あと本編映像を一時停止して何度も何度も観察する、ということで、劇中に近いルラードの再現を試みております。以下、当コーナー初となる、レシピです。 【材料(男のデタラメ料理なので分量は超適当)】 ニンニク レモン 赤いパプリカ ほうれん草のベイビーリーフ 生マッシュルーム エシャロット イタリアン・パセリ 牛ヒレステーキ肉 マンガリッツァ・ハム ハヴァティ・チーズ パルメザン・チーズ 生クリーム ニョッキ 白ワイン バルサミコ酢 チキン・スープ・ストック ディジョン・マスタード 【作り方】 ①まずマリネ液を作っておく。大きめのタッパーにレモン1個を絞り、バルサミコ同量を加え、そこに細かく刻んだニンニクを入れ、混ぜる。 ②牛ヒレステーキ肉をラップで包んで、ミートハンマーで均一に薄くなるまで叩く。できれば形よく長方形に整えたい。塩と挽きたての黒胡椒で両面をシーズニングする。 ③マリネ液に肉を漬け込む。少なくとも30分、できれば数時間、ニンニク風味の強さがお好みならば一晩、冷蔵庫に置いて両面をよくマリネする。 ④焼きナスと同じ要領で“焼きパプリカ”を作る。アルミホイルで二重に包んだレッド・パプリカを、ガスコンロに直に置いて直火で20分間焼く。5分おきにトングで少しずつ回転させていく。20分たったらホイルをめくり、真っ黒に炭化した皮を丁寧に剥がしていき(これが骨が折れる)、ヘタと種を取り除く。これを細切りにし、後で使う具材として横に取り置いておく。 ⑤十分にマリネされた肉をまな板に広げ、たっぷりのディジョン・マスタードを裏側(具を乗せる面)全面に塗る。 ⑥肉の上に具を乗せていく。ほうれん草のベイビーリーフ、マンガリッツァ・ハム、パプリカ細切り(最後の飾り用に少し残しておく)、ハヴァティ・チーズの順に。ヘリは2〜3cmほど具を乗せずに空けておく。最後にパルメザンをチーズおろしでふりかける。 ⑦肉をきつく巻いていく。こぼれた具も拾って肉巻きの中に押し込もう。まな板の上に閉じ目を下にして置き、ほつれないようタコ糸でしっかりと縛る。 ⑧オーヴン対応の中鍋を中火で熱し、大きなバターひとかたまりとオリーブ・オイル同量を入れ、バターが溶けて鍋に油がよく回ったら、潰したニンニク1かけを入れて香りを十分に引き出す。 ⑨その鍋に肉巻きを投入し、時おり回転させて全面に色がつき渡ったら、鍋ごと230℃に予熱したオーヴンに入れて20分間熱する。それと⑩で作るニョッキ用の湯をここらで大鍋で沸かし始めること。20分たったらオーヴンから鍋を出し、肉巻きを取り出してアルミホイルで包んでおき、ソースを作る間の10〜15分間冷ましておく(冷まさないと切り分けられない)。 ⑩その10〜15分間にソースを作り、ニョッキも茹でる。ニョッキは出来合いのものをパッケージの指示通りに茹でるだけ。ソースは、ソースパンでバターを溶かし、マッシュルームとエシャロットをソテーする。マッシュルームから水分が流れ出し、その水気が飛んで色が茶色くなりクタっとなってきたら、白ワイン1/4カップとチキン・スープ・ストック1/4カップを加え、分量が半分に減るまで煮詰めていく。最後に生クリーム1/4カップを加えてトロミが出るまでかき混ぜ、塩胡椒で味を整える。これでだいたい15分。 ⑪盛り付け。肉巻きのタコ糸を外して切り分ける。皿の真ん中にまずマッシュルーム・ソースを広げ、切り分けた肉巻きを置き、周囲に付け合わせのニョッキを盛り付けて、最後に彩りを加えるため、ニョッキの上にイタリアン・パセリを、肉巻きの上には残しておいたレッド・パプリカを飾る。 完成!実食!! こ、これはマジでシャレになってないですぞ!美味い!そして、食ったことのない味だ!まず、ニンニクを合計2カケも使ってますが、香りの主役は完全に焼きパプリカに持ってかれてる。口にするとパンチの効いたスモーキーフレーバーと、あの焼きナス的ビター感がまず広がります。次いで、レモン汁とバルサミコでマリネした牛肉の酸味の爽快サッパリ感が満ちていき、結構バターを使いまくってるにも関わらず意外としつこくはない。そして、マッシュルーム・クリームソースがこのワイルドな焼きパプリカの香りと攻撃的な酸味をマイルドにまとめ上げる、という絶妙な具合。こいつはイケる! と手前味噌ばかり言うのもさすがに恥ずかしいので、NEXTに活かすため、今回の反省点も記しておきましょう。まず、牛ヒレステーキ肉がウチの近所の肉屋に無かったので、実は今回は肩ロース肉を用いてる。安上がりに済んだけど、そりゃヒレよりかは多少硬い。ヒレ使っていれば、ナイフがスッと入るような柔らかさになったかもしれず、上品感がかなり増したでしょう。でも、それは大した問題ではない。次に、「ほうれん草のベイビーリーフ」なんて物は見たことも聞いたこともないので、冷蔵庫のサニーレタスで代用しました。さりとてこれも、だからといって大した問題ではない。 一番大きな問題は、ハヴァティ・チーズとマンガリッツァ・ハムです。この2つはTHE輸入食材!という感じなので値も張りました。ほぼ2000円近くがこれだけにかかってるんですが、費用対効果が薄すぎて、ハッキリ言って不経済。まずチーズ。元のレシピで2つ使えと指示されているうち、今回ハヴァティ・チーズが手に入らずパルメザン一種類だけでチャレンジしたんですが、焼き色を付けている時とその後のオーヴンで熱を入れる過程で、液状化したチーズが肉巻きからすっかり流れ出てしまうので、意味ねー!チーズの風味や、あのピザのような糸を引く感じが今回ほとんどありませんでした。 それとマンガリッツァですが、これもそんな生ハムみたいなものを内側に巻き込んだのでは、熱が入る過程で溶けて無くなっちゃって、食っていてどこにハム状のものがあるのか、サッパリわからないぐらいでした。 劇中のセリフでサボーさんは「舌に3つの味が広がる」と言っていました。チーズとハムと、そして牛肉のことですが、そのうちの2つがほとんど消えて無くなっちゃってるというのは、美味い不味いとは別の話として、失敗といえば大失敗でしょう! これを踏また上で、次に作る時には、まずチーズはハヴァティか、少なくとも「とろけるチーズ」的なものは必須で具材に加えるようにします。パルメザンだけでは不十分です。そしてハムは、マンガリッツァのような生ハム系ではなくて、ボンレスハムなどの熱が加わっても牛肉にも負けない食感がしっかりと残りそうなタイプのものを選ぶことにします。 にしても、一回目で失敗して、捲土重来を誓い、次回、雪辱戦!というのも、映画マニアのオッサンののん気な食道楽としては、なかなかに楽しみなものなのです。「おっ、あの時、軽く失敗したレシピに、今週末あたりもう一回トライしてみよう」ってスケジュールが土日の欄に書き加わるのは、毎日にちょっとした充実をもたらしてくれますぞ。■ LICENSED BY Global Screen GmbH 2016, ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2016.04.16
男たちのシネマ愛⑥愛すべき、クレイグ・ボンド。そして、愛すべき洋画の未来。(4)
飯森:さて、ここからはざっくばらんにと申しますか、最終回ですので洋画チャンネルに今後要望することなどを忌憚なく提言としてお聞かせいただければ。もしかすると、あれは出来ない、これも出来ないという話になっちゃうかもしれませんが(笑)。 なかざわ:逆に、今の一般視聴者が洋画チャンネルに求めているものって何でしょうかね? 僕なんか完全にマニアなので少数意見にしかならないと思うんですが。 飯森:よく視聴率って問題になりますよね。恐らく、多くの方が視聴率というものに対してあまり良いイメージを持っていないと思うんですけど。どんなにいい映画を放送しても、視聴率が低いということは見られていないということであり、求められていないということを意味します。逆に、視聴率が取れているというのはニーズが満たされている証拠ですよね。だから、視聴率狙いというのは決して悪いことではない。ただ、視聴率を取れる映画というとほぼ決まっていて、うちの場合ですとアクション映画だけなんですよ。せいぜい遡って’70年代くらいまでの。圧倒的に数字を持っているのはジェイソン・ステイサム(注79)とスティーブン・セガール(注80)の二強。あとはスタローンとかシュワルツェネッガーですね。そういうものさえ放送していれば視聴率は取れてしまいます。チャンネルの収入は視聴率にかかっている部分もかなり大きいので、収益を上げようとするとそういう映画は欠かせない。でも同時に、本当にそれが視聴者が求めているものなの?満足してもらえてるのか?という疑問も頭をもたげてくるわけです。 なかざわ:もっと潜在的なポテンシャルのあるターゲット層もいるかもしれませんよ? 飯森:僕もステイサムはヘアスタイルを真似るぐらいリスペクトしてますから(笑)、ステイサム映画やセガール映画を低級とか低俗とか思う気持ちは微塵もない。むしろ、そういうことを言っては娯楽映画を見下す映画ブルジョワたちには反感を覚えるぐらいで、いつか革命起こして打倒してやるぞと思っている闘争的映画プロレタリアなんですが(笑)、それでもステイサム映画などの視聴率が取れる映画イコールみんなが本当に愛している映画、というわけではないんじゃないの!?とも疑っているんです。おそらく、ステイサムは“安心感”じゃないですかね。美味い店を開拓するのは、不味いリスクもあるし何より億劫ですけど、いつも行くファミレス全国チェーンのメニューなら、どれ頼んでも大ハズレはないだろ、的な発想。 ザ・シネマ編成 飯森盛良「あなたのハートには、何が残りましたか? それではみなさん、また会いましょうね、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。」 なかざわ:暇つぶしに丁度いいということもある。ザ・シネマさんだと中高年の男性視聴者が多いですよね? だいたい人間ってみんなそうだと思うんですが、年を取ってくると小難しい映画は見たくなくなるんですよ。ただでさえ日常や社会の煩わしさに追われて、仕事だなんだと1日疲れきって家に帰ってテレビをつけたとき、さらに疲れるような映画は御免被りたいと思ってしまう。 飯森:良いこと仰った!それこそが善良なる勤労映画プロレタリアートの心情です!僕も商売柄なかなか本音をカミングアウトしづらいんですが、ここだけの話「勘弁してくれよ…難解なアートフィルムなんて見たくねえよ!」というのが、公人としてでなく私人としての偽らざる本心です(笑)。それに比べたらステイサムは本当に一億倍好きですよ。そういうレベルの奴がやっているチャンネルなんだということで、逆に信頼していただきたい(笑)。 なかざわ:年をとるとそれこそステイサムやセガールのように、勧善懲悪でドンパチがあって、綺麗なオネエちゃんが出てきて、大して実のある中身ではないかもしれないけど、楽しく1時間半ないし2時間を過ごせました。あー面白かった!という映画を求めるようになっていきますよね。 飯森:高校・大学の頃は小難しい映画を見てめんどくさい議論を人に吹っ掛けるのがオシャレで知的でカッコイイと思っていましたし、映画ファンの端くれとして退屈でも我慢して勉強する義務があるとも思っていましたけど、今はとてもじゃないけどそんな余裕はない。あれは良くも悪くも“若さ”でしたね。今や僕はまごうかたなき中年のオッサンですから、ひたすらエンターテインメントを希求切望してやまない。しがない疲れたサラリーマンのこの俺のことを腹の底から楽しませてくれ!と。でも、エンターテインメントだからといって必ずしもステイサムである必要はないんじゃないかとも思ったりもします。様々な選択肢を用意していかねばとは思っています。 なかざわ:視聴率という分かりやすい数字だけを拠り所にして、偏ったジャンルの映画ばかりを提供していくと、どんどんと尻すぼみになっていくと思いますよ。結果的に自分で自分の首を絞めることになってしまう。チャンネルの将来的な展望を考えても、多種多様な選択肢を提示していくことは必要不可欠だと思います。 飯森:まさにそれが深夜帯に放送している「シネマ解放区」(注81)です。未ソフト化映画とか激レア映画とか、いろいろと提供することで尻すぼみを回避しようと努力していて、そこの枠で映画好きな方々とのコミュニケーションはちゃんと取れていると思うんですよ。「ザ・キープ」(注82)をやるといえば大喜びしてくれる人はいますし、野沢那智版「ゴッドファーザー」三部作(注83)も反響が大きかった。でも、そこまで映画が大好きで詳しいわけじゃない、という視聴者の方が、実は圧倒的多数なんです。コア層というのは文字どおりコアですからね、決してマスじゃない。そうしたマス層にザ・シネマを便利に使ってもらおうとすると、現状どうしてもステイサムやセガールだらけになっちゃう。こうした悩みは、どこのチャンネルも抱えていると思いますよ。実に難しい! なかざわ:まさにジレンマですね。理想としては、そういう方々にも幅広い選択肢を認知してもらえればいいんでしょうけど。 注79:1967年生まれ。イギリスの俳優。代表作は「トランスポーター」(’02)シリーズ、「アドレナリン」(’06)、「エクスペンダブルズ」(’10)シリーズなど。注80:1952年生まれ。アメリカの俳優。日本で武道を学んだ親日家としても知られる。代表作は「刑事ニコ/法の死角」(’88)、「沈黙の戦艦」(’92)、「暴走特急」(’95)など。主演作の多くに「沈黙の~」という邦題が付けられる。注81:激レアなお宝映画や懐かしの日本語吹き替え、エロティック映画などを放送するザ・シネマの平日深夜枠。注82:1983年制作。アメリカ映画。東欧の古城に幽閉された悪霊をナチス軍が解放してしまう。熱烈なファンの多い作品だが、現在はソフト化などされていない。完成版に不満を持つマイケル・マン監督の意向だとされる。注83:ニューヨークのマフィア、コルレオーネ・ファミリーの軌跡を描くフランシス・フォード・コッポラ監督作品。「ゴッドファーザー」(’72)、「ゴッドファーザー PARTⅡ」(’74)、「ゴッドファーザー PARTⅢ」(’90)の3本が作られた。声優の野沢那智がアル・パチーノの声を担当した日本語吹替えバージョンが人気。 次ページ >> かつてのように人々がハリウッド映画だからといって興味を持たないような状況になってしまっている。(飯森) 『007/カジノ・ロワイヤル(2006)』CASINO ROYALE (2006) © 2006 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/慰めの報酬』QUANTUM OF SOLACE © 2008 DANJAQ, LLC, UNITED ARTISTS CORPORATION AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC.. All Rights Reserved. 『007/スカイフォール 』Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. Skyfall, 007 Gun Logo andrelated James Bond Trademarks © 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Skyfall, 007 and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2016.04.04
【DVD受注生産のみ】日本が格差社会となってしまった今ふたたび輝きを放つ、60年代のみずみずしい社会派ヒューマン・ドラマ〜『愛すれど心さびしく』〜
『愛すれど心さびしく』の方が響きも美しくスッキリとしているし、なによりもストーリーの核心を的確に捉えている。当時の配給会社担当者の優れたセンスが光るネーミングだ。 主人公は物静かな聾唖者の青年ジョン(アラン・アーキン)。彼は同じく聾唖者で知的障害を持つ親友スピロス(チャック・マッキャン)の後見人だが、たびたびトラブルを起こすことからスピロスは施設へ送られてしまう。唯一の親友と離れ離れになってしまったジョン。その孤独を察した担当医師の配慮によって、彼は施設からほど近い小さな町へ引っ越すこととなる。 古き良きアメリカの面影を今に残す、のどかで平和な田舎町ジェファーソン。だが、そこには人知れず悲しみや苦しみを抱える人々が暮らしている。ジョンが下宿することになったケリー一家は、父親が腰を痛めて働くことができなくなったため、家計の足しにと自宅の使わない部屋を貸出していた。高校生の長女ミック(ソンドラ・ロック)は音楽家を夢見ているが、家には楽器はおろかレコード・プレイヤーすら買う余裕もない。それでも頑張って勉強して、いつかは自分の夢を叶えたい。将来への希望を胸に抱く多感な年頃の少女。しかし、そんな彼女に貧困という残酷な現実が重くのしかかる。 ダイナーで夕食を取っていたジョンが知り合ったのは、酔って客に絡んでいる風来坊の男ブラント(ステイシー・キーチ)。元軍人である彼は除隊後に幾つもの職を転々とするも、どれも上手くいかずに自暴自棄となっていた。誰かに自分の話を聞いてもらいたい。ただそれだけなのに、人々は迷惑そうな顔をするだけで相手にもしない。 ダイナーを追い出されて怪我をしたブラント。それを見たジョンは、たまたま通りがかった黒人の医師コープランド(パーシー・ロドリゲス)に助けを求める。白人の治療はしないと頑なに突っぱねる彼を、ジョンはなんとか説得して応急処置を施してもらう。荒廃した黒人居住地区で小さな医院を営むコープランドは、貧困と差別に苦しむ同胞たちを献身的に支える一方、白人へ対しては静かに憎悪の目を向けていた。そんなある日、娘ポーシャ(シシリー・タイソン)の恋人が白人の若者グループに因縁をつけられ、相手を怪我させてしまう。逮捕された恋人を救うため父親に助けを求めるポーシャ。しかし、コープランドはそれを断る。黒人が白人と争えばどうなるのか、彼は痛いほどよく分かっていたからだ。しかし、それを理解できない娘は父親を激しく憎む。 貧困や人種差別など様々な社会問題を背景としながら、それらの障害によって人々の対立や誤解が生まれ、お互いの溝が深まっていく。今から50年近く前の1968年に作られた映画だが、その光景があまりにも現代の世相と似通っていることに少なからず驚かされるだろう。貧しさゆえ高校を中退せざるを得なくなったミック。もっと勉強したい、自分の可能性を試したい。そう涙ながらに訴える娘に、心を鬼にした母親が疲れきったように言う。“若い頃は誰だって夢を見るもの。でも、いずれは忘れてしまう”と。夢を見ることすら許されない貧困の現実。そのやるせない痛みは、今の観客の胸にも鋭く突き刺さるはずだ。 社会の理不尽に心を打ち砕かれ、言いようのない悲しみを抱えた人々。そんな彼らに、主人公ジョンは深い理解を示し、癒しと救いを与えていくことになる。貧しさにゆえに崩壊しかけたケリー一家、社会に馴染むことのできない不器用なブラント、人種差別が心の壁を作ってしまったコープランド親子。言葉を喋ることのできないジョンは、だからこそ彼らの悩みや問題の根幹を鋭い観察眼で見抜き、そっと優しく背中を押していく。人は誰もが孤独な存在。でも、お互いに心を開けば分かり合える。そう気づかせていく。なぜなら、そんな彼も本当は孤独だからだ。 ここからはネタバレになってしまうため、詳しくは述べない。ジョンを待ち受ける運命は哀しくもほろ苦いが、しかし同時にささやかな希望の余韻も残す。彼が人々に示してくれた優しさと思いやり。それは、2016年の今の我々にも必要なものだと言えよう。 そして、本作はその繊細かつ瑞々しい演出のタッチ、夏から秋へかけての季節の移り変わりを叙情的に捉えた美しい映像にも特筆すべきものがある。 監督はロバート・エリス・ミラー。’50年代から『うちのママは世界一』や『ルート66』などのテレビドラマを手がけてきた彼は、ジェーン・フォンダ主演のラブコメディ『水曜ならいいわ』(’66年)で劇場用映画デビュー。キアヌ・リーヴス主演の『スウィート・ノベンバー』(’01)としてリメイクされた『今宵限りの恋』(’68)を経て、本作のゴールデン・グローブ賞作品賞ノミネートで一躍評価されるようになった。 その後、ジェームズ・コバーン主演のコメディ『新ハスラー』(’80)やブルック・シールズ主演のアメコミ活劇『ブレンダ・スター』(’89)など、わりと多岐に渡るジャンルを手がけた人だが、やはり本作のような繊細で美しいドラマに本領を発揮する人だと言えよう。 その証拠とも言うべきが、この次に撮った『きんぽうげ』(’70)。こちらは兄妹のように育ったいとこ同士の男女を主人公に、それぞれが理想の恋人を見つけて4人で共同生活を始めるというお話。フリーセックスの花開く時代を物語るかのように、のびのびとした奔放な恋愛関係を繰り広げていく彼らだが、しかしそんな自由はいつまでも続かない。 嫉妬や束縛。ナイーブな若者たちが目覚めていく人間のどうしようもない性(さが)。楽しい共同生活はやがて終わりを迎え、彼らは人生のままならなさを通じて大人へと成長していく。このほろ苦さ。実はお互いに愛し合っていたのに…という、ある種の近親相姦を匂わせるいとこ同士の複雑な関係は若干余計に感じるが、しかしイギリスやスペイン、イタリア、スウェーデンなどヨーロッパ各国を舞台に、四季折々の美しい街や自然の風景を織り交ぜながら描かれる繊細なドラマは、さすがロバート・エリス・ミラーだと唸らされる。それだけに、後に『ブレンダ・スター』のような凡作を立て続けに撮ってキャリアを終わらせてしまったことが惜しまれる。 最後に素晴らしいキャストについても言及せねばなるまい。主人公ジョンを演じているのはアラン・アーキン。映画デビュー作『アメリカ上陸作戦』(’66)でいきなりアカデミー主演男優賞候補になった彼は、本作でも同賞にノミネート。近年は脇役として変わり者の爺さんなんかを演じており、『リトル・ミス・サンシャイン』(’06)でアカデミー助演男優賞を獲得したことも記憶に新しいだろう。どちらかというとアクの強い個性的な役者だが、本作では穏やかな心優しい青年を素朴な味わいで演じて観客の胸を揺さぶる。 一方、そんな彼と心を通わせる少女ミックを演じるソンドラ・ロックもまた魅力的だ。後に『ガントレット』(’77)や『ダーティファイター』(’78)などでヒロインを演じ、クリント・イーストウッドの公私に渡るパートナーとして活躍。別れる際にひと悶着したことでも話題となったが、そんな彼女も本作ではまだデビューしたての美少女。思春期特有の危うさや脆さを全身で体現しており、なんとも眩いばかりに初々しい。こちらもアカデミー賞の助演女優賞にノミネート。間違いなく彼女の代表作と呼んでいいだろう。■ TM & © Warner Bros. Entertainment Inc.
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NEWS/ニュース2015.11.10
甘酸っぱく清々しい感動作『マルガリータで乾杯を』。 公開記念して行われたトークショーイベントの様子を(ほぼ)全文レポート!!します!!
ゲストには、裸も辞さない体当たり演技が高い評価を獲得している女優の安藤玉恵さん、自らの経験を活かし、障がい者の性活動を支援するNPO法人ノアールの理事長を務めるくましのよしひこさん、そしてくましのさんの10年来の友人であり、ノアールの活動に共鳴するリリー・フランキーさんという豪華布陣が登場。その模様を、(ほぼ)全文レポートします!! ※ネタバレ有。映画の内容、結末についての記載があります。 司会:岩田和明(「映画秘宝」編集長/以降、司会)登壇者:安藤玉恵(以降、安藤)、くましのよしひこ(以降、くましの)、リリー・フランキー(以降、リリー) 司会:早速ですが、映画の感想からお聞かせください! リリー:本当に良い映画だから、「映画秘宝」なんかが取り上げるべきじゃないですよ。「キネマ旬報」しかダメ。 司会:場違いですいません(笑)。安藤さんはいかがでした? 安藤:すごく元気になりました。笑顔になれますよね。 リリー:あれ、「私は主人公と歯茎が似てる」って言わないとダメじゃない? 安藤:主人公のライラは笑うとすごい歯茎が出るんですけど、それが私とソックリなんですよ。でもそのことは黙っていようと思ってたんですが、さっきからずーっとリリーさんが「言え言え」って(笑)。 リリー:でもさ、本当に良い映画なんだよね。インド映画できっちりタブーを描きつつ、役者の演技も素晴らしいし。しかもさ、まさか同性愛の展開になるなんて思わないよね。 安藤:本当にそう。まさかって思った! リリー:それでいて家族の物語でもあってさ、ちょっと凄いよね。 司会:くましのさんはいかがでしたか。 くましの:実は僕、1年くらい前から本作の存在は知っていて、ずっと追いかけていたんです。それでようやく初めて観た時、自分が障がい者なんで、「どっかで気を抜いて主人公が障がい者じゃなくなる一瞬があるんじゃないか」と、アラを探す感じで観たんですよ。でもね、正直騙されましたね。 リリー:プロの障がい者が騙されたんだ。 くましの:そうなんですよ。主演の女優さんを調べたら、普通に健常者だったんですよ。 リリー:あの子、魅力あるよね。あとさ、主人公のように同じ脳性麻痺で車いすの人でも、くましのくんみたいにハッキリ喋れる人と、ライラみたいに滑舌が良くない人もいるよね。 くましの:脳性麻痺は2、3タイプあって、僕は体が固まっちゃうタイプなんです。ライラは上手く卵を割れないシーンがありましたけど、手が揺れちゃったり、言語障害が出たりするタイプなんでしょうね。 リリー:くましのくんの場合、卵は割れないけどTENGAのエッグは上手にできるでしょ。 くましの:封を開けるのがちょっと難しいんですけどね。 司会:TENGAといえばオナニーということで(笑)、ライラも冒頭でしてましたよね。安藤さんも劇団ポツドールの舞台でオナニーシーンを披露されていましたけど…。 安藤:いいんですよ、それは(笑)。 リリー:それでいえばさ、これまでのドラマや映画で描かれてきた障がい者像って、すごく聖人化されてたんだよね。あの人は性欲がない、あるはずがないみたいなさ、とても驕った見方の作品が作られてきた。くましのくんが「ノアール」って団体で活動しているのは、僕ら障がい者にだって性欲はあるしセックスだってしたいんだってことを訴えるために活動しているわけです。んで僕もそれに共鳴してお手伝いしているんですけど、彼らの基本的な欲求や尊厳を、ボランティアの人でさえ認めてないんですよ。性欲があるってことを知った途端、冷たくなったりするんです。だから障がい者の人たちは“天使”を演じなきゃいけないんです。そういう意味でこの映画は障がい者の性をしっかり描いていて、くましのくんの活動にすごく近いんだよね。…っていう話をしたかったんだけど、なぜか安藤玉恵のオナニー話になるというね。でもね、彼女のオナニーもすごいですよ。 安藤:あくまで舞台で、ですから(笑)。それにしても主演のカルキ・ケクランは体当たりの演技でしたね。男の人ともするし、同性の女の子ともしてますしね。 リリー:そうなんだよ!幼なじみの男の子とチューしたかと思えばバンドマンによろめいて、NYではかっこいい男ともしちゃうしさ。あの時なんてさ、全然ションベンしたくないのにわざとトイレ行って男にパンツ脱がさせてたもんね。 安藤: うそ~。ちゃんとおしっこしてたでしょ! リリー:いや、俺ずーっと耳すませて音聞いてたけど、まったくションベンの音しなかったもん。 安藤:じゃあトイレに行ったのは、誘ってたってこと? リリー:そうですよ。また良いパンツはいてましたもんね。 くましの:間違いなく勝負パンツでしたね、あれは。 安藤:じゃあ彼の家に勝負パンツで行ってたってこと? くましの:たぶん。 安藤:もうちょっとふたりとも純粋に観てくださいよ(笑)。まあでも、あの状況になったらしたくなりますよね。それはわかります。 ■全盲の人でも家族おぶって天ぷらバリバリ揚げてる人もいるし、そういう生活描写も本当のリアルに近いよね。(リリー) リリー:話は変わるけどさ、全盲のレズビアンの子もライラにしてもさ、いつもパキっとした色の洋服を着てるよね。やっぱ目立つ服着ていないと危ないってことなんだよね。くましのくんもいつも赤い服着てるもんね。 くましの:はい。車いすも赤です。 リリー:スティービー・ワンダーも目立つジャケット着てるもんね。あ、そういえばくましのくんは監督と主演の人と会ってるんだよね。 くましの:9月にあいち国際女性映画祭でお会いして。ご拶程度でしたけど、日本でこんな活動してますって伝えました。カルキさん、いい匂いでしたね~。 リリー:カルキさんって、フランス人だけどインド育ちなんでしょ。インドって今、世界で一番映画作ってる国ですよね。 安藤:最近のニュースだとあんまりいい話を聞きませんけど、そんな国がこういう映画を作るんだって、最初は信じられなかったです。 リリー:まあ、インド映画の9割が踊りまくってますもんね。この映画でも途中、いい感じのダンスミュージックがかかって、「あ、やっぱ踊るんだ」って思ったよね。踊りは外せないんだろうね。あとさ、劇中の曲もすごい良かったよね。 くましの:踊る場面が2つあるじゃないですか。家族で踊っているシーンと、全盲の女の子と踊るところと。で、その2回ともライラが膝かっくんってなるんですけど、あれは“脳性麻痺あるある”ですね。力がぐいぐいって抜けちゃうんですよ、ライラみたいなタイプの脳性麻痺って。見る人が見ると、ああいう描写で騙されちゃんうんです。 リリー:健常者は勝手に「障がいのある人は何にもできない」って思いがちだけど、意外とそんなことないんですよね。全盲の人でも家族おぶって天ぷらバリバリ揚げてる人もいるし、そういう生活描写も本当のリアルに近いよね。 くましの:僕個人のことで言えば、時間をかければ大体のことはできます。ただ時間がかかりすぎるってことがあって、自分で全部やろうとしたら1日が35時間くらいないと収まりきらなくなっちゃうんです。だからヘルパーさんを入れるんですね。ライラもNYにお母さんと一緒に行くじゃないですか。あれをもし彼女ひとりで全部やろうとしたら、きっと1日じゃ収まりきらなくなっちゃうと思います。 リリー:お母さんもお父さんも良い感じだよね。そして小太りの弟がまた効いているよね。あの小太りの弟がいるだけで、ものすごい家族感がでるもんね。 ■すごいなって思ったのは、嘘がないのと、足りないことがひとつもないことです。(安藤) 司会:安藤さんは女優としてライラをご覧になっていかがでしたか? 安藤:本当に感動しましたね。すごいなって思ったのは、嘘がないのと、足りないことがひとつもないことです。 司会:障がいのある役を演じられたことはありますか? 安藤:ありますね。山下敦弘監督の『松ヶ根乱射事件』です。 リリー:そういえばさ、くましのくんは編集前の違うバージョンも観てて、公開版とエンディングが違うんだよね。俺はさ、最初本編を観た後に『マルガリータで乾杯を!』って邦題見てさ。この邦題のつけ方、ふんわり感がハンパないですよね。まあでも、原題が『Margarita, With A Straw』だから、『ストローでマルガリータを』にはならないか。それにしても最近はウッディ・アレンの映画も全部『恋するバルセロナ』とかさ、観たいんだけどDVD取るのが恥ずかしいみたいなタイトルのつけ方じゃないですか。この映画のポスターにしたって、全然内容と違うしね。でもラストシーンを考えると、『マルガリータで乾杯を!』はしようがないか。 くましの:原題はトンチが効いてるっていうか、脳性麻痺で手が動かないからビールも何もストローじゃないと飲めないんですよ。しかも、ビールはストローで飲むとめちゃくちゃ酔いが回るんですよね。あとこれも“障がいあるある”なんですけど、アルコールが入ると言語障がいが軽くなるんですよ。普段ガチガチの言語障がいの子も、お酒を飲むとスラスラ喋れるんです。 リリー:飲むとションベン行きたくなるじゃない。でも、車いすで入れるトイレを併設してる飲み屋ってほぼないんだよね。だから、飲むとしたら便所チェックするよ。俺はラブドールのリリカっていうのが家にいて、車いすにリリカを乗せて友だちと会わせたりしてるからさ。リリカが来たことによって、くましのくんの生活がもっと分かるようになった。 安藤:真面目に聞いて良いのか分かんない(笑)。 リリー:あとラストシーンでさ、ライラが新しい髪型にして、「今日はデートなの」って言ってレストランでマルガリータを飲んでるんだけど、そこに誰が来たかは映してないじゃないですか。あれちょっとお客さんに誰が来ると思ったか、挙手で聞きたいです。考えられるのは幼なじみか、レズビアンの元恋人か、このふたりでもない誰かじゃないですか。で、そこに来るのが誰であって欲しいかって、お客さんそれぞれが考える一番のハッピーエンドなのかなって。 (会場のお客さんに手を上げてもらう) 司会:幼なじみだと思った人はおひとりですかね。意外と少ないですね。レズビアンのハヌムは3、4人…これも少ないですね。ではこのふたりでもない、第3の人だって方は…これもあんまりいないか。じゃあ、誰も来ないと思った人っています?あ、これが一番多いですね。実は、僕もそう思ったんですよね。でもたしかに、お客さんに委ねるようなラストになっていましたもんね。 くましの:可能性としていろいろあるよっていう感じでしたね。 リリー:あとさ、ライラは言い難いことを親に告白したり、自分が浮気したことを彼女に言ったりとかさ、一番人間が持ちにくい勇気を持ってたよね。 司会:安藤さんは、お母さんに女優になるって言った時はどうでしたか。 安藤:うちは映画のお母さんのように反対されることはなくて、逆に「裸になれないなら、女優になるのはやめなさい」って言われました。 リリー:そして、ポツドールでオナニーしたっていうね。 安藤:もういいよそれは!でも、映画のお母さんも結局は理解しようとしていたよね。最初はつっぱねてたけど。 リリー:あと、インドからNYに行く展開もいいよね。 安藤:NYに留学できるってことは、ライラは裕福なお家ですよね。 リリー:借金してでも留学させたいって感じじゃない?だって弟と相部屋だったよ。だからオナニーする時も背中向けてたもん。でも、ハヌムの方はお金持ちでしょうね。実家が金持ちの顔してる。それにしても、本当に良い映画だったな。今年観た中でベスト5に入りますよ。 司会:これまでのインド映画は歌と踊りばっかりでしたが、最近はこういったおしゃれな作品も数多く作られています。今、インド映画は本当に一番おもしろくて豊かだと思いますよ。 安藤:日本でもインド映画ってけっこう公開されてるんですか? 司会:やっていますね。東京国際映画祭でも公開しています。 リリー:でも日本で一番ヒットしたのは『ムトゥ 踊るマハラジャ』でしょ。江戸木純さんが2万円くらで買ってきて大ヒットした伝説の映画ですよね。俺もね、名古屋の街で踊りまくるっていうインド映画のポスター書いたことあるよ。インド人がドジャースに入団するっていう話。 司会:『ムトゥ〜』の後はたくさんのインド映画が日本に上陸しましたもんね。最近では『きっと、うまくいく』がヒットしました。 ■女性が主人公でストレートに障がい者の性を描いた作品って、おそらく本作が初めてではないでしょうか。(くましの) リリー:しかしさ、女性が観るような映画で、障がい者の当たり前の性欲求を作品にしてくれるっていうのはいいよね。くましのくんと俺がトークショーしてもさ、こんな香ばしい女子は来てくれないじゃないですか。だからこういう機会にさ、ポスターに騙されたとしてもですよ、障がい者の現実をこんな甘酸っぱい温かい映画にしてもらえるっていうことは、くましのくんの活動にも説得力をもたらしてくれることだと思います。 くましの:これまで男性の障がい者が主人公の映画はありましたけど、女性が主人公でストレートに障がい者の性を描いた作品って、おそらく本作が初めてではないでしょうか。 リリー:障がい者の人の苦労って感覚的に分かっても、知らないことがたくさんあるんですよね。最近だと『最強のふたり』とかもあって、障がいのある人をきちんと描いた作品はいいなって思いますよね。マイノリティの人が主人公になる映画はまだまだ続いていくだろうね。 司会:安藤さんはライラ役のオファーがきたら演じたいと思いますか? 安藤:いいんですか?歳がアレですけど(笑)。 リリー:『マルガリータで乾杯を!3』だったら年齢も間に合いますよ。晩年のライラとしてさ。 安藤:顔も似てるしね。歯茎がね。 リリー:あとさ、ライラがNYの大学で会った男の子とセックスするじゃない。あれ、初体験じゃなかったっぽいよね。 安藤:初体験じゃないでしょ。だって最初にデートしてたよね。あれ、でもその時はしてなかったのかな。 リリー:幼なじみの男性とはしてたのかな? くましの:うーん。どうすかね。 リリー:なんか初体験じゃないっぽい反応だったんだよね。 司会:ちょっと痛がってませんでした? 安藤:でもあの時はすでに女の子とは関係があるわけだから…。 リリー:ペニスバンドでしてたってこと?そうかな〜。別にアラを探しているわけじゃくて、「彼らの映ってない部分の生活はどんなんだろう」って想像させるのは、良い映画ってことですよね。 安藤:でも初めてとは思ってなかった。 司会:僕も初めてじゃないだろうなって思って観てました。 リリー:そうなのかなあ。俺は初めてだと思ってたからなあ。ショックだなあ。じゃああの幼なじみとやってたのかなあ。アイツと最初、濃厚なキスしてたしな。 くましの:その時も誘ったのはライラの方ですもんね。 リリー:でもあのふたりはしてないでしょう。なんかしてないと思う。だってあのふたりがするとしたら実家になるでしょ。 安藤:意外とできるんじゃない? リリー:まあ、誰がやったかやってないかなんて、本当に下衆の詮索ですけどね。 くましの:でもそれって、監督の術中にハマってるってことですね。 リリー:それにしてもこの映画って、ものすごいテンポで進んでいくじゃないですか。それなのに忙しく感じないっていうのは、出演者の濃密な存在感だと思うんですよ。だってさ、「え?レズ?」と思いきや「え?癌!?」ってなってさ、ジェットコースタームービーっていってもいいような展開なのに、本当に緩やかな空気が流れてる。やっぱり監督や出演者の濃度とか精度がすごいんだろうね。 安藤:ライラの表情がひとつひとつ、いちいちものすごいリアルなんですよね。ひとつ事件があると、彼女の心情ががすごい伝わってくるでしょ。だから話は忙しいけど、そう感じないのかなって思いました。 リリー:あとさ、最近エンドロールって延々長くて1曲じゃ終わらないじゃない。でもこの映画のエンドロールはさ、1曲目が終わって次の曲に移る時、ライラの声が入るじゃない。「1、2、3、4」ってさ。だから切り替わりがすごく自然なんだよね。とはいえね、あの「1、2、3、4」がピエール瀧の声じゃダメなんですよ。余韻がなくちゃ。本当に監督が隅々まで心を砕いている映画なんだなって気がしましたよ。 司会:2曲目の歌詞の内容も、映画とリンクしているんですよね。歌詞と映画の内容が全然合っていない、ただのタイアップ曲、みたいな映画も多いですからね。 リリー:あとさ、映画の中ではインドの母国語が一切なくて、英語しか喋らないんですよね、言語問題ってどうなってんだろうね。その時さ、ライラはもしかしてもらいっ子なのかなって思ったんですよ。肌の色も白いし。 司会:すいません…そろそろ終了のお時間になってしまいました…。 リリー:まだ良い話全然してないですよ。このまま帰ったら俺はバカだと思われますよ。せっかくバリアフリーじゃない会場にわざわざ登壇してくれたくましのくんの活動とも繋がりますからね、この映画は。 くましの:女性向けってことでは激オシです。 リリー:この映画を観た後、レズビアンのシーンが嫌だったって人は、何か偏見を持っているかもしれない。そして何より、障がいのある人をテーマに選んで、いろんな性のタブーを描いているってところが素晴らしいと思いますよ。くましのくんも今は人前だから真面目に喋ってますけど、本当はものすごいユーモアの持ち主なんですよ。知り合った時、くましのくんに「夢とかある?」って聞いたら「立ちバックですよね」って。そういうね、身を切ったギャグが言える人っていうのはおもしろい人ですよ。障がい者はギャグや下ネタを言わないって思うなんて、それこそ健常者の驕りだよね。よく乙武洋匡さんも「手も足も出ないや」とかって言うけど、それを素直に笑えない感覚こそ、一番の偏見ですよ。だってせっかくおもしろいこと言ってるのにさ。 くましの:でも最近、エロくなくなってきたって怒られたんですよ。 リリー:どういうこと? くましの:なんかエロオーラがないって。ショックでしたね。修行します。気合入れ直します。 リリー:それどうするの?気合入れるって言っても。 くましの:どうしますかね…。まずはTENGAのエッグあたりからならし運転します。 リリー:でもさ、こうやって基本的な、誰もが持っている欲求を、手が動かなくたって全盲の人だって持っているんだってことを、くましのくんやこの映画がちゃんと言っているっていうことですよ。しかもこの映画は障がい者に性欲があるってことを描いている上に、バイセクシャルだからね。 安藤:でも描かれ方がすごく自然だし、オシャレなんですよね。だから私、『アメリ』みたいだよって周りにすすめようと思って。 リリー:でも『アメリ』でグッとくる人って、もうけっこういい歳いっているでしょ。今だとなんて言えばいいんだろう。『好きっていいなよ。』とかかな。 司会:あ、でもこの映画は『アメリ』に携わっていた方が宣伝をしているんですよね。 リリー:これはでも「映画秘宝」が取り上げないのが一番良いですね。「映画秘宝」は映画界の“おくりびと”ですから。個人的には友だちがやっている活動に近いことだし、精神的な価値観のバリアフリーが同時多発的に起きていることが嬉しいですね。映画の中で出てくる、偏見を持ったコンテストの審査員みたいなヤツって、現実に本当にいるんだよね。すごくドラマ的に見えるけど、現実にいるんだよ。 安藤:私、あの人見て佐村河内さんを思い出しちゃった。ああいう胡散臭い感じ。 リリー:佐村河内さんが話題になった時は、みうらじゅんさんとこにすごい取材依頼がきたって。長髪サングラスだからさ。 安藤:あと私はトイレのシーンが大好きです。グッときました。あ、でも幼なじみとキスするところも良いですね。そう考えると体で感じちゃうシーンが多かったですね。全体的に性を描いているところは圧倒的に良かった。 リリー:障がいの有無に関係なく、女の人の性がかわいく描けてるよね。 安藤:そうなんですよ。本当にああいう反応するよねっていう感じで。 リリー:甘酸っぱいよね。だからやっぱり『アメリ』っぽいね。くましのくんはどんなシーンが良かった? くましの:この前ちょうどNYに行って来たこともあって、ライラがイエローキャブの行き交う横断歩道をサーッと疾走するシーンとかがいいなって思いました。 リリー:意外とくましのくんの電動車いすも早いんですよ。重いから安定感あって。 くましの:NYでもコレで疾走してきたんですけど、誰も振り向いてくれないんですよね。それくらいいろんな人がNYにはいて、障がい者なんてめずらしくもなんともない。だからちょっと寂しかったですね。チラ見すらされないんですよ。LEDとかチカチカさせても振り向いてもくれなかった。 リリー:次行くときは志茂田景樹みたいな、南国の鳥っぽい格好していけばいいんじゃない。逆に目立ってくれないと危ないしね。まあでも、障がい者であるかどうかってこともそうですけど、女性の性欲求が本当にチャーミングに描かれているんで、珍しいと思いますよ。本当に良い映画なんで観て欲しいなって思います。 安藤:ちゃんと性を描いているのに、すっごいすんなり入ってきました。 くましの:しかも途中から障がい者っぽくなくなるんですよ。自然な感じで。 リリー:圧倒的に人間ドラマなんですよね。親の反対があったり勉強との兼ね合いがあったりさ。映画の途中からは障がいがあるってことを忘れて人間ドラマとして観ちゃいますよね。俺もくましのくんと10年くらい知り合いだけど、障がいがあることを忘れてるっていうか。こんなにメールの返信が早い手の曲がった人はいませんよ。あとくましのくんて、屋外で撮影する時もちゃんと警察に撮影許可取るし、本当にちゃんとした友だちなんですよ。だから周りに紹介する時は“ちゃんとした友だち”って言ってますよ。 司会:それではそろそろお時間がきてしまいましたので…。 リリー:最後になんかお客さんとゲームでもしますか。まあ、もう話し足りないことはないんですけどね。終わり方がわかんないの。お客さん、なんか物をもらったら帰ってくれるかな。 くましの:あ、リリーさんにイラストを描いてもらった、僕がやっているNPO法人ノアールのシールがあるんで、それをプレゼントしますよ。 リリー:せっかくくましのんがくれるんですから皆さん、捨てるんだったら劇場からなるべく遠いところで捨ててくださいね。劇場の外で見るのが一番傷つくんで。こんな良い映画観てもあいつら何も心変わってないなって思うから。ちなみに俺が描いた絵は車いすに乗ったクマがちんこ勃ててるやつですから、財布に一番貼りやすいデザインですよ。<終了> 取材、文:小泉なつみ ■ ■ ■ ■ ■ いかがでしたでしょうか?作品の魅力を余すことなくお話し下さった安藤さん、くましのさん、リリーさんの作品への愛が伝わる1時間をご紹介させて頂きました!本作は現在劇場にて絶賛公開中です。一人でも多くの方に観て頂きたい素晴らしい一本です!(編成部) 10月24日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー■公式サイト:http://www.margarita.ayapro.ne.jp/■facebook:https://www.facebook.com/margaritadekanpaiwo/■twitter:https://twitter.com/margaritamovie (C) ALL RIGHTS RESERCED COPYRIGHT 2014 BY VIACOM 18 MEDIA PRIVATE LIMITED AND ISHAAN TALKES