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COLUMN/コラム2016.03.15
セックス依存症のクリスティーナ・リッチが拉致される監禁映画かと思いきや、実は、ブルースで歌い上げる魂を揺さぶる南部賛歌〜『ブラック・スネーク・モーン』〜
アメリカ深南部のミシシッピー州メンフィス。男とみれば見境なくセックスする奔放な少女レイ(クリスティーナ・リッチ)はトラブルに遭い、血まみれで路上に置き去りにされてしまう。彼女の命を救ったのは初老の黒人農夫ラザルス(サミュエル・L・ジャクソン)だった。だが彼はレイの素性を知ると、「お前から悪魔を追い払ってやる。それこそ神がワシに下された使命なのだ!」と語りだし、彼女を鎖で縛りつけるのだった …。 サミュエル・L・ジャクソンとクリスティーナ・リッチの共演作である、この『ブラック・スネーク・モーン』。序盤のストーリーだけを文字にすると、まるで『悪魔のいけにえ』のような米南部への偏見ムキ出しの70年代B級映画みたいだ。でもその後の展開は全く違う。ストーリーは寧ろ南部賛歌へと向かっていく。というのも、本作の監督クレイグ・ブリュワーはメンフィス出身であり、やはりこの街を舞台にした『ハッスル&フロウ』(05年)で長編デビューした男だから。 『ハッスル&フロウ』は、ピンプ(娼婦の元締め)をしていた男が突如ラッパーになることを決意して、友人や娼婦たちを巻き込んでデモテープを製作する姿を描いた異色のドラマだった。その背景にはむせかえるような南部の自然があり、あらゆる意味で「濃い」住民たち、そしてキリスト教会の存在があった。 地元の人気ラップグループ、スリーシックス・マフィアが製作した劇中曲「It's Hard Out Here for a Pimp」はアカデミー楽曲賞をラップ・ナンバーとして初めて受賞。そしてこの曲をパフォームした主演のテレンス・ハワードとタラジ・P・ヘンソンは10年後にテレビドラマ『エンパイア~成功の代償』(15年〜)でリユニオンし、まるでその後の二人のような人気ラッパーとその妻を演じて全米に大ブームを巻き起こしている。そう、クレイグ・ブリュワーがいなかったら『エンパイア~成功の代償』は存在しなかったのだ(それを『エンパイア』の製作陣も理解しているのか、ブリュワーは第2シーズンで監督に招かれている) そんなヒップホップ度が高い映画で世に出ながら、続く『ブラック・スネーク・モーン』ではブリュワーが表立ってヒップホップを語ることはない。その代わりに大々的に取り上げているのはブルースだ。 ラザルスは、かつて凄腕ブルースマンでありながら、妻を弟に奪われたショックでギターを弾くことを止めていた。しかしレイが過去の辛い体験からセックス依存症に陥っていたことを知ることで、生きていく限り自身の内面の闇と共存していくしかないことを悟る。そんなラザルスがレイの前で弾き語りしてみせる「ブラック・スネーク・モーン(黒い蛇の呻き)」は、癒しへの願望と苦痛の発露、欲望と畏れが一斉にドロリと押し寄せてくるようなナンバーだ。 この曲のオリジナルを唄ったのは、ブラインド・レモン・ジェファーソンという1893年生まれの盲目のブルースマンだ。ブラインド・メロンのバンド名の語源となった彼は1920年代に活躍した戦前ブルースの代表的存在だ。 加えて本作では、「ブルースとは一種類しかない、それは男と女の愛だ」「ブルースはハートから始まる」などと黒人の老人が延々と語るインタヴュー映像が物語に挟み込まれている。その老人こそ、やはり伝説的なブルースマンのサンハウスだったりする。 1902年にミシシッピー州で生まれたサンハウスは、チャーリー・パットンが創始したデルタ・ブルースを継承し、広めた人物。ディープな声と、ギターを叩きつけるような荒々しい演奏がトレードマークだ。60年代ロックに多大な影響を与えたロバート・ジョンソンとマディ・ウォーターズは彼の弟子にあたる。 1942年の録音を最後に音楽シーンから姿を消してしまっていたサンハウスだが、それはミュージシャンを引退してニューヨークで一労働者として働いていたから。1964年に熱心なファンによって生存が確認され、再び活躍するようになった。インタヴュー映像はその復活後に撮られたものだ。本作は、サンハウスが説く「ブルース論」をドラマ化した映画であるとも言えるだろう。 かつて人気ブルースマンだったのに今は農夫というラザルスのキャラクターは、ロック・ファンには奇妙に感じられるかもしれない。しかし活動の基盤がクローズドな黒人コミュニティである以上、音楽一本で食べていくのは並大抵のことではない。サンハウスもそうだったし、もっと後の世代でもR.L.バーンサイドのように半農半ブルースマンの生活を送っていた者は多い。バーンサイドが音楽に専念出来るようになったのは、65歳のときにドキュメンタリー映画『Deep Blues: A Musical Pilgrimage to the Crossroads』(91年)でデルタ・ブルースのスタイルを守り続けている存在としてクローズアップされて以降のことだ。 『ブラック・スネーク・モーン』におけるラザルスの演奏スタイルは、このR.L.バーンサイドを参考にしている。劇中、酒場でジャクソンがバックバンドを従えて「アリス・メイ」という曲を演奏して客を大いに沸かせるシーンがあるのだが、「アリス・メイ」はバーンサイドの代表曲であり、バックバンドもこの映画の撮影開始直前に亡くなっていたバーンサイドのサイドマンたちなのだ。 不倫や煩悩、犯罪といった人間のダークサイドを歌うブルースは、日本では反キリスト教的な音楽として捉えられることが多い。だが実際にはこうした音楽を愛する南部の人々は、熱心なキリスト教信者でもある。彼らにとっては、ダークサイドも聖なるもの、永遠なるものを求める気持ちも生きる上で欠かせないものなのだ。ブルースで生きる力を取り戻したレイが歌う曲がゴスペル・ソング「This Little Light of Mine」であることがそれを証明している。 そのレイを演じるクリスティーナ・リッチは、この作品の翌年に少女マンガのような『ペネロピ』(08年)に主演しているとはとても信じがたい捨て身の熱演を披露。対するサミュエル・L・ジャクソンも得意の説教調のセリフ回しや狂気を帯びた表情はもちろん、本作のために習得したというギターの腕も素晴らしい。個人的には『アンブレイカブル』(00年)と並ぶジャクソンのベスト・アクトだと思う。またレイの恋人に扮したジャスティン・ティンバーレイクの脆さを感じさせる演技も見ものだ。 本作を発表後のクレイグ・ブリュワーは、残念ながらその特異な才能を全面的に活かせているとは言い難い。2011年には『フットルース 夢に向かって』を監督しているが、これはケヴィン・ベーコンのブレイク作『フットルース』(84年)のリメイク作。舞台を中西部から南部に変えたことや、脇役で出演していたマイルズ・テラーにブレイク・ポイントを与えるなど見所はそれなりにあるものの、やはりオリジナル脚本でないと内面が矛盾だらけのキャラクターが織りなす特濃ドラマは作れないようだ。 そんなブリュワーが暖めている企画に、チャーリー・プライドの伝記映画がある。プライドはミシシッピー州生まれの黒人でありながら、子どもの時からカントリー音楽に親しみ、黒人リーグの野球選手として活躍後に、カントリー・シンガーとしての活動を開始して人種の壁を乗り越えて遂には大スターになった人物。主演には盟友テレンス・ハワードを予定しているそうで、ブリュワー曰く、「ヒップホップ、ブルース、カントリーが揃うことでメンフィス三部作が完結する」のだそう。いつの日か、その構想が実現することを期待したいものだ。■ COPYRIGHT © 2016 BY PARAMOUNT VANTAGE, A DIVISION OF PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2015.10.27
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年11月】おふとん
サミュエル・L・ジャクソン演じる孤独なブルース・マンのラズとクリスティナ・リッチ演じるSEX依存症の少女レイ。身も心も傷だらけのレイを救うためラズがとった手段は、鎖と監禁だった。 『バッファロー'66』で魅せた、突然冴えない中年男のところにやってきて、がっつりハートをつかむ少女役のリッチが再び!9年越しでも、その小悪魔っぷりは健在です。『モンスター』でもシャーリーズ・セロンを夢中にさせていましたね。 ちなみに『ブラック・スネーク・モーン』とは「黒い蛇のうめき声」という意味。うめき方すら知らない傷を負った人々はどうやって救済されていくのか。救済とはなにか。うなるブルースの音色も心地よい。 COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT VANTAGE, A DIVISION OF PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2015.10.05
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年11月】おふとん
サミュエル・L・ジャクソン演じる孤独なブルース・マンのラズとクリスティナ・リッチ演じるSEX依存症の少女レイ。身も心も傷だらけのレイを救うためラズがとった手段は、鎖と監禁だった。 『バッファロー'66』で魅せた、突然冴えない中年男のところにやってきて、がっつりハートをつかむ少女役のリッチが再び!9年越しでも、その小悪魔っぷりは健在です。『モンスター』でもシャーリーズ・セロンを夢中にさせていましたね。 ちなみに『ブラック・スネーク・モーン』とは「黒い蛇のうめき声」という意味。うめき方すら知らない傷を負った人々はどうやって救済されていくのか。救済とはなにか。うなるブルースの音色も心地よい。■ COPYRIGHT © 2015 BY PARAMOUNT VANTAGE, A DIVISION OF PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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COLUMN/コラム2015.09.29
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2015年10月】キャロル
『ペリカン文書』、『依頼人』のベストセラー作家ジョン・グリシャムの処女作を映画化。人種差別問題の絡んだ事件を通して正義を問う法廷ドラマ。サミュエル・L・ジャクソン、ケヴィン・スペイシーら実力派俳優に囲まれながらも、当時まだ若手だったマシュー・マコノヒーが負けず劣らずその実力を発揮。本作が出世作となり、一躍スターダムに躍り出た。近年“演技派”としてめざましい活躍のマシューだが、本作を観るとやっぱり彼は昔から実力演技派だったのだなと思わざるを得ない。特に最後のスピーチ!あれは演技じゃなく、マジでマシューの言葉なんじゃないかとさえ思わせるほど心揺さぶられる。今キャストを見てみるとその豪華な顔ぶれに驚くのだが、ドナルド・サザーランド、クリス・クーパーらの名バイプレイも見逃せない!ぜひ10月のザ・シネマでご覧ください。 © 1996 Warner Brothers Productions, Ltd. and Regency Entertainment (USA), Inc. in the U.S. only. © 1996 Warner Brothers Productions, Ltd. and Monarchy Enterprises S.a.r.l. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2013.11.29
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2013年12月】うず潮
ひょんなことからが瞬間移動能力に気付いたデヴィッド(ヘイデン・クリステンセン)。成人した彼は、その能力を駆使してリッチな生活を送っていた。しかし、瞬間移動能力者“通称ジャンパー”を抹殺する謎の組織がデヴィッドを追い詰める!監督は『ボーン・アイデンティティー』のダグ・リーマン。ローマのコロッセオやエジプトのスフィンクスなど世界各国で撮影し、最新VFXを駆使した謎の組織とのSFバトルは圧巻です!さらに東京銀座界隈でも撮影され、都内を走り回るカーアクションも必見。また、ザ・シネマでは、特殊能力者主人公にした『ジャンパー』『PUSH 光と闇の能力者』『バタフライ・エフェクト』を【超能力者たち】と題して12月に特集放送しています。こちらもぜひご覧ください! © 2008 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2013.07.27
2013年8月のシネマ・ソムリエ
■8月3日『ミレニアムドラゴン・タトゥーの女』 スティーグ・ラーソンの世界的なベストセラー小説「ミレニアム」3部作の第1作を映画化。原作者の母国スウェーデンなど3ヵ国合作によるオリジナル版である。大財閥一族の少女が40年前に失踪した怪事件。社会や人間の闇に切り込みながら、その解明に挑むジャーナリストと異形の女性天才ハッカー、リスベットの姿を描き出す。リスベットの人物像を強調したハリウッド・リメイク版(11)よりも謎解きのパートが充実。手がかりの写真や暗号の解析場面など、随所に魅惑のサスペンスが宿っている。 ■8月10日『さよなら子供たち』 『死刑台のエレベーター』の名匠ルイ・マルが、ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した後期の秀作。1944年、ナチス占領下のフランスを舞台にした自伝的な物語である。 主人公は親元を離れ、カトリック系寄宿学校に疎開してきたジュリアン。12歳になっても寝小便の癖が抜けない彼は、偽名を使って転入してきたユダヤ人少年と出会う。あえて劇的な起伏を抑えた詩情豊かな映像世界は、終盤に急展開を迎える。子供の目線にこだわった友情の尊さ、そして戦争の不条理に胸締めつけられずにいられない。 ■8月17日『ブラック・スネーク・モーン』 米国南部を舞台に、妻に捨てられた黒人の元ブルースマンとセックス依存症の若い白人女性の交流を描く異色作。S・L・ジャクソン、C・リッチが衝撃的な役柄に挑んだ。主人公が半狂乱のヒロインを極太の鎖で監禁する場面など、序盤から驚愕シーンが続出。その半面、ブルース音楽や信仰を題材に、愛の喪失と再生を描いた寓話でもある。 ジャクソンが渋い歌声を聴かせ、リッチが血まみれシーンやヌードも辞さない熱演を披露。傷だらけの男女の“魂の叫び”を体現した、彼らの渾身の演技に圧倒される。 ■8月24日『さよなら、僕らの夏』 米国の新人監督J・A・エステスが発表した青春映画である。いじめっ子への復讐のためにボートでの川下りを計画した少年少女5人が、思わぬ悲劇を招き寄せてしまう。 主人公たちが直面するのは、友人の“死”というこのうえなく痛切な現実。夏の陽光きらめくオレゴン州のノスタルジックな情景とのコントラストが鮮烈な印象を残す。 思春期の子供たちの無邪気さと背中合わせの残酷さを、緊迫感をこめて繊細かつリアルに描出。一日の出来事の中に、その劇的な感情の移ろいを刻み込んだ演出が見事だ。 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』© Yellow Bird Millennium Rights AB, Nordisk Film, Sveriges Television AB, Film I Väst 2009 『さよなら子供たち』© 1987 Nouvelles Editions de Films 『ブラック・スネーク・モーン』COPYRIGHT © 2013 BY PARAMOUNT VANTAGE, A DIVISION OF PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 『さよなら、僕らの夏』©2004 Whitewater films
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COLUMN/コラム2012.08.02
【タランティーノ的L.A.案内】第3回:若き日のタランティーノ
■サウスベイとサウスセントラル QTが育ったサウスベイは、ロサンゼルス空港の南に位置し、幾つかのビーチタウンや、高級住宅地のパロス・バーデスなども含む、中間所得者層以上の多い地域。一方、東に隣接するサウスセントラルは、低所得者層が多く、治安の悪い地域として知られます。幼い頃から、映画の影響か、アウトロー指向が強く、危ない地域に対する憧れが強かったというQT。自宅の或るサウスベイから、近隣のサウスセントラルにもよく足をのばしていたそうで、3年程通ったサウスベイの私立校を毛嫌いし、治安の悪い地域にある公立校への転校をせがんだという話もあるほど。サウスベイとサウスセントラル、全く違う二つの地区ですが、QTを語る上では、地理以上に密接な関係にあるのです。 そんな二つの地域に散らばったロケ地(跡)を幾つか続けてご紹介。 まずは、「パルプ・フィクション」の冒頭と最後に登場し、パンプキンとハニー・バニーが強盗を企てたHawthorne Grill。前回ご紹介したグーギースタイルのレストランでしたが、残念ながら、その面影はありません。 こちらは、「ジャッキー・ブラウン」で、主人公行きつけの地元のバーという設定で登場したCockatoo Inn。実はここ、マフィアのアンドリュー・ロココが1946年にオープンし、全盛期にはジョン・F・ケネディを始め、セレブや各界の著名人が宿泊する社交場として名を馳せる一方で、裏社会との結びつきも強かったとか。それでも一世を風靡したこの場所に、地元の人も愛着があるのでしょう、綺麗な全国チェーンのホテルに生まれ変わった今でも、色あせた看板とオウムだけは残されています。 さて、同じく「ジャッキー・ブラウン」で、マックス・チェリーの店として使われた保釈保証業者の店も、真新しいビルへと変貌。 が、ここで終わらないのがQTマニア!よーく見てください。本編10分51秒あたりで後ろに見えるビル、これは今もあるカーソン市庁舎なのです。画面右、木に遮られつつも”City Hall”の文字が小さく見えますよね? かつては世界一大きかったモール、デル・アモ・ファッション・センター。「ジャッキー・ブラウン」で、フードコートやデパートの試着室など、お金の受け渡 しの舞台となったところです。ところでこの映画の時代設定、いつなんでしょう。製作された1997年には既に世界一の座から陥落していた訳ですが、わざわざキャプションまでつけて紹介しちゃう気合いの入れっぷり。少年時代にここの映画館に通ったQTのちょっとしたプライドでしょうか。 ■本日のランチ 本企画恒例?のランチ、今回は「ジャッキー・ブラウン」から。車のトランクへ隠れるのを渋るクリス・タッカーに、サミュエル・L・ジャクソンがご褒美としてちらつかせるのがRoscoe’s House of Chicken and Wafflesです。台詞のみでの登場ですが、ここは見逃せないQTポイント!弾丸トークのクリス・タッカーをも黙らせてしまうRoscoe’sは、その名の通り、チキンとワッフルを一緒に出す南部スタイルのレストラン、というより食堂。ロス内に数店舗を構え、オバマ大統領がサプライズで遊説の途中に立ち寄ったり、スヌープ・ドッグも贔屓にしたり、たくさんのファンがいます。 ハリウッドにもあるのですが、ここはQT映画にふさわしいサウスセントラル店をチョイス。駐車場でFワードを連呼しているお姉さんの横をすり抜け店内へ。ガードマンがいるという事実に安心感を覚えるべきなのか、逆に不安を覚えるべきなのか・・・。 前置きはこの辺にして、目玉のフライドチキンとワッフルのセットを早速注文。オデール(サミュエル・L・ジャクソン)的にはグレイビーソースも欠かせないらしいですが、カロリー激高メニューにこれ以上のカロリーはちょっと・・・ということで、今回は無し。 ほどなく料理が登場。どーん。何てシンプル。熱々のチキンは衣がカリカリ、味が中までしみ込み、バターをたっぷり塗込んでシロップをかけたワッフルと、意外にも絶妙なマッチ。どちらも主役なのですが、敢えて言うなら、お汁粉に塩昆布がついてくるような感覚でしょうか。 これまた名物のオレンジジュース、レモネード、フルーツパンチが三層になった欲張りなドリンクは、チキンとバターにまみれた胃袋を少しだけ爽やかにしてくれます。 ■QTの原点 さて、一年分くらいの鶏肉を食した後は、いよいよ若きQTの足跡を探しに。サウスベイのこの辺りは、トーランスを中心に日系人がとても多い地域。自動車企業を始め、多くの日本企業がアメリカ本社を構え、日系のスーパーから病院、学校まで、アメリカにいながら日本のような生活も可能なのです。QTが時代劇ファンになったのも、もしかすると、育った環境が少なからず影響していたのかもしれません。 ※こちらが母校のFleming中学校。 ※そしてNarbonne高校。 この辺りはさらっと。何せ学校嫌いのQTですから。 やがて、ある夏QTは、地元劇団のトーランス・シアター・カンパニーに加入し、なんとカップルスワッピングがテーマの劇で、いきなり主役を獲得。 ※トーランスのアダルト劇場Pussycat Theater跡地 しばらくこの劇団で活動を続けた後、15歳でついに高校をドロップアウト。今はなきトーランスのアダルト劇場Pussycat Theaterで案内係の仕事を始めるのです。 そして時は流れ、QT22歳の時、人生の転機が訪れます。 本企画の締めは、やっぱりここしかありません。レンタルビデオ店Video Archives、の跡地です。QTといえばビデオ屋、ビデオ屋といえばQT。ここで並外れた映画知識を活かして働いた5年間、ロジャー・エイヴァリーなど、情熱を共有できるオタク仲間と出会ったことで、青年QTの創作意欲に火がつきます。そこから苦節10年、ついにレザボア・ドッグスでデビューを果たしたQTのその後の活躍は皆さんもご存知の通り。 現在は跡形もなくなったVideo Archivesですが、世界一有名なビデオ店の跡地を訪れるファンは今でも多いはず。新作「ジャンゴ 繋がれざる者」の公開を控えるQTの映画道は、まだまだ続きます。きっとこれからも、一映画ファンとして、私たちを楽しませる映画を作り続けてくれることでしょう。■
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COLUMN/コラム2012.07.25
【タランティーノ的L.A.案内】第2回:トイレとグーギーと二番館
さて、クイズです。 こちらの交差点、どのタランティーノ(QT) 映画で登場したかお分かりですか?これで分かった貴方はかなりのQTマニア! 思い浮かべてください、らしくないピンクの箱を持ったマーセルスを。 もうお分かりですね。「パルプ・フィクション」で、無事に自宅から父の形見の時計を回収したブッチ(ブルース・ウィリス)が、運悪くマーセルス(ヴィング・レイムス)に遭遇してしまう交差点です。 ■パサデナ 交差点のすったもんだから、遡ること十数時間。ブッチは、ボクシングの八百長試合で約束を破ったことからマーセルスに追われる身となります。その試合の会場となったのが、こちらのレイモンド・シアター。現在は、オリジナルの外観や一部の内装を維持する形で、マンションへと生まれ変わっています。レイモンド・シアターがあるパサデナは、こうした重厚な建物が似合うLA郊外の街。閑静な高級住宅地として知られ、古い街並や文化的なスポットの多い所としても有名です。 ■ダウンタウンLA さて、そんなパサデナとはガラリと雰囲気の違うダウンタウンLAへ。「ジャッキー・ブラウン」で、サミュエル・L・ジャクソンとロバート・デ・ニーロが待ち合わせに利用したのが、こちらのストリップバー。 到着してみたものの、何やら不穏な空気を感じ、車内からの撮影のみで退散。それもそのはず、気づけばここは、ダウンタウンのスキッド・ロウと呼ばれる地区から僅か1ブロックほど。リトル・トーキョーにも隣接するスキッド・ロウは、治安の悪いダウンタウンLAの中でも、極めて犯罪率の高いスラム街。ドラッグ売買にギャング、売春、まさに映画さながらの光景が現実に起こりうる一画なのです。 そんな危険度MAXなスキッド・ロウのど真ん中を通り抜け、辿り着いたのがダウンタウンのすぐ西にある、パークプラザホテル。1925年に建てられた由緒あるビルは現在、結婚式などのイベント会場や、撮影のロケーションとして利用されています。担当の方の話では、最近は「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」、「ドライブ」、近日公開予定の「Gangster Squad(原題)」などで使用、ほぼ毎週のように映画やテレビ、CM、ミュージックビデオなどの撮影が入っているそうです。今では衰退してしまったこの一帯に、似つかわしくないほどの荘厳さを湛える建物。目指すは・・・・ そう、男子トイレです!「レザボア・ドッグス」で、Mr.オレンジが警官と遭遇したという芝居の再現シーンで使われたトイレは、外装に負けないほどの風格を映画当時そのままに留めていました。 ■今日のランチ ダウンタウンから一旦ザ・シネマオフィス近辺まで戻り、本日のランチ。今回は、QTが時々執筆のため訪れるというサンセット通り沿いのタイレストランへ。日が落ちると色とりどりのネオンが輝くToi on Sunsetの店内は、西洋・東洋ごった煮のヒッピー風味で、昼間でもインパクト十分。「パルプ・フィクション」特等席でユマ・サーマンに見つめられながら食事をしつつ、セス・ローゲン似の店員とお話。QTは時々来店するそうで、店内には「レザボア・ドッグス」と「パルプ・フィクション」の直筆サイン入りポスターも。場所柄、QT以外にも沢山の映画関係者や音楽関係者が来店するらしく、最近では、アメリカで封切りされたばかりの「Savages(原題)」を監督したオリバー・ストーンや、新ジェイソン・ボーンのジェレミー・レナーが訪れたそう。 そんな話で盛り上がる中、丁度テイクアウトで来店した女性をセスが紹介してくれました。なんと彼女は、QT製作総指揮の「ヘルライド」に端役で出演し、三部作が予定される同作第2弾にも出演するとのこと!何と嬉しいハプニング。今は同じ通りのアパレルショップのマネージャーも兼業するという彼女。そんな役者の卵にいろんな場所で出会えるのもロサンゼルスならではなのです。 ■グーギー建築とQT 1950年代〜1960年代、ここロスを中心にグーギー建築というスタイルが流行しました。その名も、サンセット通りにかつてあったGoogiesというカフェから来ています。車社会ならではともいえるグーギー建築は、大きな屋根や窓、派手なネオンなど、道路からも目に付きやすい形が特徴。ロスを訪れた人なら大抵目にする、ロス空港真ん中のUFOのような建物もグーギー建築です。 そんな古き良き時代のロスを象徴するグーギーをQTが放っておくはずがありません。当時すでに衰退していたグーギー建築を見事に再現したのが、「パルプ・フィクション」でした。同作のプロダクションデザイナーのDavid Wascoと、セットデコレーターのSandy Reynolds-Wascoによれば、ユマ・サーマンとジョン・トラボルタがダンスを披露したダイナー、ジャック・ラビット・スリムは、Googiesを設計したジョン・ロートナーらのデザインをモデルにしたそう。また、現代のビバリーヒルズで不思議な存在感を放つこのガソリンスタンドも、ジャック・ラビット・スリムに影響を与えた一つです。 そして、もう一つロスのグーギー建築と言えば、こちらのジョニーズ・コーヒー・ショップ。「ブギー・ナイツ」や「アメリカン・ヒストリーX」など沢山の映画のロケ地として知られます。もちろんQTの映画にも登場。「レザボア・ドッグス」で、Mr.オレンジが同僚の刑事と待ち合わせをするレストランが、このコーヒーショップでした。お店は残念ながら2000年に閉店し、今は荒れ果てた様子なのが寂しいところです。 ■QTが捧げる映画愛 ジョニーズから少し東に行ったところに、QTに縁の深い二番館、ニュー・ビバリー・シネマがあります。まるで映画の中から出て来たような佇まいの同館は、「イングロリアス・バスターズ」で映写技師を演じるメラニー・ロランが、役作りのために映写の練習を行い、最終試験として「レザボア・ドッグス」を映写したという逸話も残る、QTファンにはたまらない映画館。 実はこの映画館、リバイバル作品の二本立てスタイルを長年守り続けていましたが、時代の波には逆らえず、一時は廃業の危機に。そこに馳せ参じたのが、二番館やサブカル映画で育ち、今は超リッチになった我らがQT。「レザボア・ドッグス」の深夜上映にキャストを連れて参加して以来、同館のオーナーと親交があったQTは、2007年、 ここを土地ごと買い取ったのです。QTが破産しない限りは安泰となった同館は、これまで通りの2本立てや深夜上映を行い、時にはQT所有のフィルムプリントを上映するなど、映画好きのための場所であり続けています。映画館を買い取り、自分の35ミリプリントを上映する──まさに映画オタクにとって究極の夢を、QTはここで実現したのではないでしょうか。 さて次回は、さらに南に下り、いよいよQTの原点となった場所を巡ります。▼参考資料ニュー・ビバリー・シネマ:Vanity Fairブロググーギー建築:「パルプ・フィクション」DVD特典映像(David Wasco、Sandy Reynolds-Wascoインタビュー)
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COLUMN/コラム2011.11.01
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2011年11月】THEシネマン
名優対決です。シカゴ警察の東地区一と言われる交渉人(サミュエル・L・ジャクソン)が汚職に絡む殺人の濡れ衣を着せられ、人質をとってビルに篭城。仕事柄、当然彼は事件に対する警察の動きを熟知。さらに西地区一と評判の交渉人(ケヴィン・スペイシー)を窓口役に指名して・・・。設定自体が面白い。この設定が出来た時点で“勝ち”なのに、交渉人を演じ合うのが演技派2人だから面白くない訳ない。是非!! © 1998 Monarchy Enterprises S.a.r.l. in all other territories.