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コラム・ニュース一覧
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COLUMN/コラム2017.09.09
40オトコの恋愛事情
ローカル新聞に人生相談コラム「Dan in Real Life」を連載中の中年男ダンは、文章の中では物分かりの良い男なのに、現実世界では変化を嫌うカタブツ。三人の娘ジェーン、カーラ、リリーの中には色気づいている子も出始めているというのに、毎年の慣例を守って彼女たちを引き連れロードアイランドの両親の家へと向かうのだった。それもそのはず、彼は四年前に妻と死別して以来、人生の時計を止めてしまっていたのだ。 そんなダンだったが、書店で偶然出会った女性に久しぶりのときめきを感じてしまう。マリーと名乗る女性の方も「つきあい始めたボーイフレンドがいる」と言いながら同じことを感じている様子だった。しかしトラブル発生。遅れて到着した弟ミッチが連れてきた新しいガールフレンドこそが、そのマリーだったのだ。。 気まずくなったふたりは、書店の出会いを無かったことにしようと決めたものの、家族のイベントはことごとく微妙な感じに。おまけに更なるトラブルが降りかかる。ダンに好意を持っていた「ブタ顔」の幼馴染ルーシーが見違えるような美女になって現れたのだ。まんざらでもない様子のダンと、そんな態度に嫉妬するマリーの緊張関係は最高潮に達してしまう…。 スティーブ・カレルのキャリアにとって、07年の主演作『40オトコの恋愛事情』は大きな役割を果たした作品だ。というのも、彼はその2年前に『40歳の童貞男』のキモメン役でブレイクしたばかり。同じ年には主演テレビドラマ『ザ・オフィス』(05〜13年)も始まって高視聴率をゲットしてはいたけど、そこで演じたマイケルはセクハラ、モラハラお構いなしの最低上司というキャラだった。つまりスティーブ・カレルは既にスターではあったけど、この時点では<イっちゃった変人>専門俳優と思われていたのだ。 カレルは、子育てに励む等身大の中年を演じたこの作品での好演があったからこそ、『ラブ・アゲイン』(11年)や『アレクサンダーの、ヒドクて、ヒサンで、サイテー、サイアクな日』(14年)といった家族ドラマ、シリアスな『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15年)といった作品に出演できるようになったのだ。 監督と脚本を務めたピーター・ヘッジスは、ヒュー・グラント主演の『アバウト・ア・ボーイ』(02年、脚本のみ)やケイティー・ホームズ主演の隠れた傑作『エイプリルの七面鳥』(03年)などで知られる人物。本作のストーリー自体は、共同脚本家のピアース・ガードナーの個人的な体験を描いた半自伝作らしいけど、<人生の時計を止めていた男が、再び時計を動かす>といったテーマは、作曲家だった父親のヒット曲の印税で暮らす男を主人公に据えた前者、<毎年恒例の家族行事で事件が起きる>といったプロットは、感謝祭を題材にした後者との共通点を感じさせる。 またヒロインのマリー役にフランス人のジュリエット・ビノシュを配したキャスティングは明らかに晩年のルイ・マルが監督した『ダメージ』(92年)へのオマージュだろう。今でこそサバけた大人の女役を得意とするビノシュだが、『汚れた血』(86年)や『存在の耐えられない軽さ』(88年)といった初期の代表作では神経質な美少女を演じており、『ダメージ』でも謎めいた若い女に扮していた。ジェレミー・アイアンズ扮する主人公は、ただならぬ運命的な繋がりを感じた彼女と、息子の恋人として再会してしまう。『ダメージ』と『40オトコの恋愛事情』は物語構造が全く同じなのだ。 映画ファンは、ロマ・コメというジャンルの特性上、ダンとマリーの関係がバッド・エンドを迎えることはないだろうと思いながらも、愛の代償に全てを失ってしまう『ダメージ』の主人公のイメージが脳裏によぎって、物語の展開にハラハラしてしまうというわけだ。ビノシュから出演オファーにオッケーの返事をもらったとき、ヘッジスは「これで成功間違いなし」と会心の笑みを浮かべたに違いない。 キャスティングの話を続けよう。おそらく脚本の完成度が高かったことで、オーディションに将来有望な俳優が押し寄せたことが原因だと思うのだけど、今の時点から観ると『40オトコの恋愛事情』のキャスティングは信じられないくらい豪華だ。 たとえば生真面目な長女ジェーンを演じているアリソン・ピル。ヘッジスとは『エイプリルの七面鳥』でも仕事をしている彼女は、ラース・フォン・トリアーが脚本を手がけ、トマス・ヴィンターベアが監督した『ディア・ウェンディ』(04年)でジェイミー・ベルやマイケル・アンガラノ、マーク・ウェバー(『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(10年)でもリユニオンしている)といった当時期待の若手と共演。本作以降はテレビ局を舞台にしたドラマ『ニュースルーム』(12〜14年)で人気を博し、ジェシカ・チャスティン主演の『女神の見えざる手』(16年)でも重要な役を務めている実力派だ。 そしてトラブルメイカーの次女、カーラを演じたブリット・ロバートソン。当時16歳だった彼女は『シークレット・サークル』(11〜12年)や『アンダー・ザ・ドーム』(13〜14年)といったテレビドラマ出演を経て、ブラッド・バード監督のSF大作『トゥモローランド』(15年)では事実上の主演に抜擢。ピッチ・パーフェクト』シリーズの脚本家ケイ・キャノンが製作総指揮を務めたNetflixドラマ『ガールボス』(17年)にも主演するなど、将来を最も期待される若手女優のひとりになっている。 ダンの弟ミッチと妹アイリーン役を、本作後に『噂のアゲメンに恋をした! 』(07年)や『2日間で上手に彼女にナル方法』 (08年)と主演作が相次ぐことになるコメディアンのデイン・クックと、ベン・アフレックの監督デビュー作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(07年)でのホワイト・トラッシュ役でアカデミー助演女優賞にノミネートされるエイミー・ライアンがそれぞれ好演していることにも注目したいけど、元「豚顔」のルーシーを演じる女優のインパクトの前には霞むかもしれない。そう、今をときめくエミリー・ブラントなのだ。『プラダを着た悪魔』(06年)の脇役で注目されたばかりだからこそ、このチョイ役が可能だったと思うのだけど、登場人物の口から散々「ブタ顔」と言われていながら、現れたのが彼女だった時のインパクトはトンデモないものがある。マリーが嫉妬して気が動転してしまうのも無理はない美しさだ。 そんなマリーに自分の真意を伝えようと、ダンはギター弾き語りで「レット・マイ・ラブ・オープン・ザ・ドア」を歌う。 「僕は君の心の鍵を持っている/僕なら落ち込む君を止められるんだ/今日試してみようよ/道が開けるはずさ/僕の愛でドアを開けよう/君の心の」 ザ・フーのギタリスト、ピート・タウンゼントがソロとして80年に放ったこのヒット曲は、ジョン・キューザック脚本・主演の『ポイント・ブランク』(97年)、アダム・サンドラー主演作『Mr.ディーズ』 (02年)、ケヴィン・スミス監督作『世界で一番パパが好き! 』(04年)、ベン・スティラーとジェニファー・アニストンの共演作『ポリーmy love』(04年)といったコメディでも重要なシーンに使われている。 いずれも変化を避ける暮らしを続けてきた主人公の人生の転機を描いた作品であることに注目したい。扉を開けるのは実は主人公の心の方なのだ。もちろんその方程式が『40オトコの恋愛事情』にも当てはまることは、映画を観た者なら分かるはずだ。 ©2007 Disney Enterprises Inc. ALL RIGHTS RESERVED
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COLUMN/コラム2017.09.03
先史時代の人類にリアルに迫ったエポックメイキング『人類創世』〜09月14日(木) ほか
■立ち遅れていた「原始人もの」というジャンル 『人類創世』といえば2017年の現在、40歳代後半から上の世代にとって、かなり強い印象を与えられている作品かもしれない。「映画と出版とのミックスメディア展開」を武器に映画業界へと参入し、初の自社作品『犬神家の一族』(76)を大ヒットさせた角川書店が、その手法を活かして宣伝協力を図った洋画作品(配給は東映)だからだ。1981年の日本公開時には原作小説がカドカワノベルズ(新書)より刊行され、おそらく多くの者が、原作とセットで映画を記憶していると思う。 とりわけ文学ファンには、この原作の出版は歓喜をもって迎えられたことだろう。著者のJ・H・ロニー兄(1856〜1940)はベルギー出身のフランス人作家で、ジュール・ヴェルヌと並び「フランス空想科学小説の先駆者」ともいうべき重要人物だ。映画『人類創世』の原作である「火の戦争 “La Guerre du Feu”」は、そんな氏が1910年に発表した、先史時代の人類を科学的に考察した小説として知られている。物語の舞台は80,000年前、ネアンデルタール人の種族であるウラム族が、ある日、大事に守ってきた火を絶やしてしまう。彼らは自分自身で火を起こす方法を知らなかったため、ウラムの長は部族の若者3人を、火を取り戻す旅へと向かわせるーー。 物語はそんな3人が大陸を放浪し、恐ろしい猛獣や食人部族との遭遇といった困難を経て、やがて目的を果たすまでを克明に描いていく。日本では16年後の1926年(大正15年)に『十萬年前』という邦題で翻訳が出版されたが(佐々木孝丸 訳/資文堂 刊)、そんな歴史的な古典が、映画の連動企画とはいえ55年ぶりに新訳されたのである。 このように年季の入った著書だけに、じつは『人類創世』が「火の戦争」の初の映画化ではない。最初のバージョンは原作が発表されてから5年後の1915年、フランスの映画会社であるスカグルと、プロデューサー兼俳優のジョルジュ・デノーラによって製作されている(モノクロ/サイレント)。スカグル社は当時、文芸映画の成功によって意欲的に原作付き映画を量産していた時期で、そのうちの一本としてロニーの「火の戦争」があったのだ。ちなみに、このベル・エポック時代のサイレント版は以下のバーチャルミージアムサイト「都市環境歴史博物館」で抜粋場面を見ることができるので、文を展開させる都合上、まずはご覧になっていただきたい。 http://www.mheu.org/fr/feu/guerre-feu.htm この映像を見る限り、先ほどまで力説してきた「科学性の高い原作」からはかけ離れていると感じるかもしれない。このモノクロ版に登場するウラム族は、原始人コントのような獣の皮を着込み、戯画化された古代人のイメージを誇示している。映画表現の未熟だった当時からすれば精一杯の描写かもしれないが、それでもどこかステレオタイプすぎて、どこか滑稽に映ってしまうのは否めない。 ■二度目の映画化はミニマルに、そしてリアルに ーー監督ジャン・ジャック・アノーのこだわり この「火の戦争」を例に挙げるまでもなく、こういった文明以前の描写というのは、過去あまり真剣に取り組まれることがなかった。例外的に『2001年宇宙の旅』(68)が「人類の夜明け」という導入部のチャプターにおいて有史以前の祖先を迫真的に描いていたものの、基本的にはアニメの『原始家族フリントストーン』や『恐竜100万年』(66)、あるいは『おかしなおかしな石器人』(81)のように、いささかコミカルで陳腐な原始人像が充てがわれてきたのだ。 『人類創世』は、そんな状況を打ち破り、先史時代の人類の描写を一新させた、同ジャンルのエポックメイキングなのである。 監督は後に『薔薇の名前』(86)『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(97)で著名となるジャン=ジャック・アノー。彼は本作を出資者に売り込むさいのプレゼンで「この映画は『2001年宇宙の旅』における「人類の夜明け」の続きのようなものだ」と説き、「火の戦争」再映画化へのステップを踏んでいる。『2001年〜』を例に出さないと理解を得られない、それほどまでに前例の乏しいジャンルへの挑戦だったのだ。 さらにアノーは作品のリアリティを極めるため、原作にあった登場人物どうしの現代的な会話をオミットし、初歩的でシンプルな言語を本作に導入。それらをジェスチャーで表現するボディランゲージにすることで、あたかも文明以前の人類の会話に間近で接しているような、そんな視覚的な説得力を作品にもたらしている。 そのために専門スタッフとして本作に招かれたのが、映画『時計じかけのオレンジ』(71)の原作者で知られる作家のアンソニー・バージェスと、イギリスの動物学者デズモンド・モリスである。バージェスは先の『時計じかけ〜』において独自のスラング「ナッドサット語」を構築した手腕を発揮し、またモリスは動物行動学に基づき、ウラム族の言語と、彼らが敵対するワカブー族の言語を、この作品のために開発したのだ。 映画はこうした著名な作家や言語学者のサポートによる、アカデミックな下支えを施すことで、80,000年前の先祖たちの様子を、まるで過去に遡って見てきたかのように描き出している。 また、ウラム族をはじめとするネアンデルタール人の容姿にも細心の注意が払われ、極めて精度の高い特殊メイクが本作で用いられている。特に画期的だったのはフォームラテックスの使用で、ラバーしか使えず全身体毛に覆われた表現しかできなかった『2001年宇宙の旅』と違い、体毛を細かく配置できる特殊メイク用の新素材が導入された(本作は第55回米アカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞)。他にも広大な原始の世界を活写すべく、スコットランド、ケニア、カナダなどにロケ撮影を求めるなど、古代人の放浪の旅にふさわしい、悠然たるビジュアルを提供している。 こうしたアプローチが功を奏し、本作は言語を必要としない、映像から意味を導き出すミニマルな作劇によって、人類が学びや経験によって進化を得るパワフルなストーリーを描くことに成功したのだ。 ■公開後の余波、そしてロン・パールマンはこう語った。 しかし、そのミニマルな作りが、逆に内容への理解を妨げるのではないかと危惧された。そこで日本での公開時には、地球の誕生から人類が現代文明を築くまでを解説した、短編教育映画のようなアニメーションが独自につけられた(どのようなものだったかは、当時の劇場用パンフレットに画ごと掲載されている)。こうしたローカライズは今の感覚では考えられないが、そのため我が国では、この『人類創世』を本格的なサイエンス・ドキュメンタリーとして真剣に受け止めていた観客もいたようだ。 しかし、原作が書かれた時代から1世紀以上が経過し、再映画化がなされてから既に36年を経た現在。いまの先史時代研究の観点からは、不正確と思われる描写も散見される。同時代における火の重要性、存在しない種族や使用器具etcーー。もはやこのリアリティを標榜した『人類創世』でさえ、偏見に満ちた、ステレオタイプな先史時代のイメージを与えるという意見もある。 ただそれでも、この作品の価値は揺るぎない。描写の立ち遅れていたジャンルに変革を与えるべく、意欲的な作り手が深々と対象に切り込んだことで、この映画は他の追随を許さぬ孤高の存在となったのだ。 『人類創世』以後、監督のアノーは動物を相手とする撮影のノウハウや、自然を舞台とした演出のスキルを得たことから、野生の熊の生態をとらえた『子熊物語』(88)や、同じく野生の虎の兄弟たちを主役にした『トゥー・ブラザーズ』(04)などを手がけ、そのジャンルのトップクリエイターとなった。また俳優に関しても、例えばイバカ族のアイカを演じたレイ・ドーン・チョンは本作の後、スティーブン・スピルバーグの『カラーパープル』(85)や、今も絶大な人気を誇るアーノルド・シュワルツェネッガー主演のカルトアクション『コマンドー』(85)に出演するなど、80年代には著しい活躍を果たしている。 そしてなにより、ウラム族のアムーカを演じたロン・パールマンは『ロスト・チルドレン』(95)『エイリアン4』(97)といったジャン=ピエール・ジュネ監督の作品や『ヘルボーイ』(04)『パシフィック・リム』(13)などギレルモ・デル トロ監督作品の常連として顔を出し、今も名バイプレイヤーとして幅広く活躍している。筆者は『ヘルボーイ』の公開時、来日したパールマンにインタビューをする機会に恵まれたが、そのときに彼が放った言葉をもって結びとしよう。 「(ヘルボーイの)全身メイクが大変じゃないかって? キャリアの最初にオレが出た『人類創世』のときから、特殊メイクには泣かされっぱなしだよ(笑)」■ ©1981 Belstar / Stephan Films / Films A2 / Cine Trail (logo EUROPACORP)
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COLUMN/コラム2017.08.29
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年9月】飯森盛良
『エイリアン:コヴェナント』一足お先に見たが、「人間はどこから来たのか?人は何のため生まれてくるのか?」について語りたいシリーズであることがますます鮮明に。またリドスコ映画の同窓会の趣も。タイレル社長とロイバッティの関係、人体の腑分けに熱中するレクター博士の貴族趣味などが映画中に散りばめられ、さらに文学や音楽からの引用といい、「どんだけ深えんだ!」という豊潤な作品になった。しかーし!完全に『プロメテウス』の続編。『エイリアン』シリーズは見てなくても『プロメテウス』だけは見ておかないと話についていけない。ま、公開前にウチでは『エイリアン』シリーズも『プロメテウス』も全部やるんだけどな!■ © 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2017.08.29
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年9月】キャロル
マーシャル・アーティスト(武道俳優)といえば、ブルース・リー、チャック・ノリス、ジャン・クロード=ヴァン・ダムらのような空手やテコンドーの使い手が主流のハリウッド。その中でもひとり合気道をメインにしたミックス・マーシャル・アーツの信念を貫き、独自のスタイルを確立させたスティーヴン・セガールは、65才を過ぎた今も年数本に出演するペースで現役真っ盛りに活躍しています。不思議なことに、彼のキャリア最高傑作とも称される1992年の『沈黙の戦艦(原題:UNDER SIEGE)』が大ヒットして以降、日本に配給されるセガール作品にはことごとく『沈黙の○○』という邦題が付けられています。チョイ役の作品でも『沈黙~』の冠が堂々と付けられ、DVDのジャケ写ではまるで主役級の扱いなんてことも。そして何を隠そう、本作『沈黙のSHINGEKI/進撃』がまさにそれ。正直に申し上げて、セガールの登場シーンは殆どありません!ハッハー!実にザンネーン!なのですが、それでもキャストが地味に豪華(!)なところが救いのポイント。主演は『CSI:科学捜査班』でおなじみのジョージ・イーズ。新シリーズ『MACGYVER/マクガイバー』で主人公の相棒役に抜擢され、今後ブレイクの予感も!ヒロインには、『新ビバリーヒルズ青春白書』で一躍時のひととなったアナリン・マコード。スーパーボディの彼女が夜のプールでスッポンポン!お色気シーンは美しすぎて男女問わず必見です。そして極めつけは2016年公開『ドント・ブリーズ』で盲目の老人役が記憶に新しいスティーヴン・ラング。強面を活かした役が多い彼ですが、本作でも謎に包まれた男の独特の“怖さ”を、ベテラン俳優ならではの巧みな演技で魅せています。 セガール全開ムービーを期待するとガッカリなところがあるかもしれませんが(笑)、ブレイク必至のライジング・スターたちの好演を観るのもまた一興。9月のザ・シネマで是非お楽しみ下さい。■ (C) MMXIV AMJ Productions, LLC All Rights Reserved.
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COLUMN/コラム2017.08.29
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年9月】お殿
建設中の博物館で足を滑らせた失業中の広告マンのロベルトが、足組のようなものに落下し剥き出しの鉄の棒に頭が刺さってしまいます。棒を抜いたら出血多量で死にかねず、救助を呼んだものの動けません。まさに「ピンで刺された虫のよう」な男の姿に、マスコミは大騒ぎ、報道合戦が白熱します。就職活動では無視されまくったのに今は国中に注目されている!ロベルトはこのオイシイ状況を利用し金儲けをしようと考えます。家族のため、広告マンとしてのプライドのため、痛みに耐え脂汗流しながら交渉するロベルト。この作品、スペインのブラックコメディなのですが、中々シニカルなものになってます。ロベルトが失業を苦に自殺未遂したと勘違いし同情した多くの若者が、キリストよろしく磔にされたロベルトを聖者のように扱ったり、広告業界の面々がえげつない便乗商法を繰り広げたり。異常な事態に発展していく様は、ある意味見ていて笑えます。ロベルトは無事に助かるのか、そして大金を手に入れることができるのかというところですが…オチまでシニカル。監督は、『どつかれてアンダルシア(仮)』や『気狂いピエロの決闘』で知られる、スペイン、バスク地方出身のアレックス・デ・ラ・イグレシア。本作を彼は「自らの魂をお金にしなければいけない時、人はどのように尊厳を保つか」についての映画だと語っています。若者の失業率が50パーセントを超えると言われるまでの経済危機に陥っているスペインで、「お金」と「尊厳」というテーマが彼独自のスタイル:コメディとして描かれています。ブラックな笑いも存分に味わうことのできる本作ですが、ロベルトを思う家族の姿には思いがけず心がギュッーと締め付けられます。特に印象的なのは奥さんルイサの聖女っぷり。40後半でもスタイル抜群で美しさ健在のサルマ・ハエックが、夫に寄り添う献身的なルイサを好演しています。また、エスパーニャ・ディレクトのリポーター役のイグレシア作品常連女優カロリーナ・バングは2014年に監督と結婚。ザ・シネマで放送中の、ゴヤ賞8部門を受賞した『スガラムルディの魔女』にも出演しています。映画の原題は人生のきらめき、という意味の「La chispa de la vida」。実際にスペインのコカコーラのスローガンとして使用されました。ブラックな笑いの中に、人生で大切なものは何かを考えさせてくれるこの作品、ぜひご覧ください。■ ©Alfresco Enterprises y Trivision
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COLUMN/コラム2017.08.20
ガンダム+聖書+白鯨+ワーグナー=『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』〜08月05日(土)ほか
この8月ブラピの『フューリー』(14)を放送しますが、ここではそれとセットでご覧いただきたいロシア映画『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』をご紹介します。これ、『アルゴ』と『ライフ・オブ・パイ』が競った12年度アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされたほどの戦争映画の傑作です。 なぜセットで見るべきか?どちらもドイツ軍が誇るVI号戦車ティーゲルⅠが敵役として無双っぷりを見せつける戦車映画だから。西部戦線の米軍M4シャーマン中戦車と、東部戦線の通称ソ連軍(当時正式には「労農赤軍」と称していましたが)の“鬼戦車”ことТ-34中戦車。左右からドイツ目指して進撃するこの主人公たちの前に、当時最強の重戦車ティーゲルが立ちはだかる、というお話。8月5日には二本立ててやりますぞ! ティーゲル、「ティーガー」とも「タイガー」とも言いますがワタクシはガキの頃から「ティーゲル」と呼んでます。プラモ作りませんでした?ド直球に格好良いのでタミヤ1:35ティーゲルとハセガワ1:450大和は男の子はみんな作る。強い!格好良い!少年の憧れ! とは言え、「俺も戦車か大和に乗って戦争してー!」と思うかというと、大人に、マニアに、なればなるほど、絶対そうは思わないものです。文章写真映像を通じて無関心な人より戦場のグロい実態も知るからです。 で、ブラピの『フューリー』。これがグロいのなんの!これ見て「俺も戦争してー!」と思う奴いません。優れた戦争映画=優れた反戦映画で、グロを見れば見るほど反戦主義者になるという“プライペート・ライアンの法則”が見事にあてはまる、近年稀に見る傑作です。 ただ逆に、虎つながりという訳でもありませんが、“ライフ・オブ・パイ方式”というのもある。見るに耐えないグロすぎる絵ヅラ。聞くに耐えない悲惨すぎる話。そんなの生のまま出されても胃が受け付けないよ…。だから象徴ほのめかし暗示メタファーという節度のオブラートに包んで観客に提示する。それが“パイ方式”です。 『ホワイトタイガー』はそっち系。おとぎ話調の不思議な戦争メルヘンとなっております。ファンタジー風味が足されることで独特のほっこりマイルドな味わいとなり、見る者の心の深層にも、逆に、忘れられない夢みたく残りやすい。 お話は、「ホワイトタイガー」の異名をとる無敵のティーゲルⅠが東部戦線のタイガで(タイガーだけにね。ププ)霧に紛れ神出鬼没に現れては赤軍に大損害を与えている。ドイツ兵捕虜を尋問しても、実在しないとか単なる噂だとか、話には聞くが現物を見たことないとか、正体は白い悪魔なんだとか、あれはドイツ精神の具現化したものだとか、ほとんど都市伝説の域。実際に目の前に現れたとき写真に収めようとしても原因不明でシャッター切れない。オカルトか!? このホワイトタイガーに乗機を撃破され、全身に普通は死んでる級の大火傷を負った赤軍Т-34操縦士が、奇跡奇蹟の復活(英語レザレクション 露語バスクレセーニエ)を遂げ、驚異的回復を見せて戦線に復帰。記憶喪失で名無しの彼が主人公です。 「俺は戦車と話せる」と電波発言をし、ホワイトタイガーのことを評して「戦車には人が乗っているが、あいつは違う」とか「あいつはすでに死んでいる」とか、ヤバい人か預言者しか言わないようなイッちゃってることを口走り、しまいには“戦車の神”のお告げが聞こえるとも主張(お前は神の子か!)。「神は天空の玉座で壊れた戦車たちに囲まれ(紅の豚か!)、金色に輝くТ-34を駆る時には雷鳴が轟く」と、言った瞬間ほんとに落雷!という奇蹟まで起こす。上官がそんな彼を心配して「記憶喪失と言ったってご両親や妻子がいて心配してるかもしれんぞ」と言ってくれても、「いや、家族がいても死亡通知受け取ったはずなのでもういいです」と答える。まぁ、神の子に妻子はいないもんですけど、それくらいホワイトタイガーを仕留めることに執着していて、糧秣(ミリメシ)も摂らず、ただ噛むだけ。 ちなみにイエスは復活した時、自分が本当に復活したことを証明するため、弟子の前で物を喰って飲み込んでみせて、生身の肉体で復活したことを見せつけるのですが(ルカによる福音書24章41~43節)、この名無し主人公は仲間と食事を共にしない。飲み込まずに噛むだけ。キリストまがい、ってこと?こいつ生身の人間なのか!? それと、ホワイトタイガーと言いながら車体がグレーな点も気になるのですが、ところで、『白鯨』(1851)という米文学がありましたな。巨大すぎるホワイトくじらに足を喰いちぎられたエイハブ船長が、小さき復讐の鬼と化して体格差数百倍のホワイトくじら退治に取り憑かれるというお話です。半分狂ってる執念の男エイハブ船長という人間像の典型を生みました。実は『フューリー』車長ブラピ大兄もまた、その典型にモロあてはまる。 それと、全編ワーグナーの曲鳴りっぱなしで、これ『タンホイザー』ですが、『タンホイザー』であることには特に意味なさそう。単なる“ナチっぽさ”の記号としてワーグナーを引用しただけかと。ワーグナーってそういう音楽。ヒットラーがどハマりしてたせいでね。変なファン付くとアーティストが迷惑するな…。 余談ながら『エイリアン:コヴェナント』でも、冒頭とラストでワーグナーが流れますが、単なる“ナチっぽさ”の記号としても機能してますけど(ファスベンダーの“メンゲレの気持ち”表現演出として)、加えて、それがどの楽劇のどの曲なのかにちゃんと意味持たせてる。さすがリドスコ深っ!すでに、いつもの通り町山智浩さんがたまむすびでその点を解説済みですので、各自それは聴いといた方がいいと思います。 閑話休題。この映画には「ニュータイプっぽい」、「ガンダムっぽい」という感想が多いのですが、それ以外にも、聖書に『白鯨』にワーグナーと元ネタがいくつもある、やたら奥が深い映画なのです。 さて、最後に、ここから先、盛大にネタバレしますので、映画を見る前には読まないでくださいね。ただ、映画見終わっても「意味わっかんねー…」という人多いと思いますが、その場合多少のヒントにはなるかと。 名無し主人公のТ-34対ホワイトタイガーのニュータイプ同士の壮絶ガチ戦車戦は劇中2回あり、本作のクライマックスなのですが、引き分けで決着つかず、次がいきなりドイツ降伏のシーンに。おいおい宿命の対決はどうすんだ!? ベルリン市内でドイツ復員将兵の列を見物した足で、上官はジープ(ГАЗ-67Бではなく本当に米軍のウイリスジープ)を転がして名無し主人公のもとを訪ねます。郊外の夢のようにのどかで美しい田園風景に、なぜか1両だけポツンと、戦い終えて“陣中また閑あり”の風情でТ-34は停車している。主人公もなぜか一人きりで、仏のような顔付きで整備にいそしんでいる。上官が話しかけます、「戦争は終わった」と。お前この先どうすんだと聞きたげな感じ。すると名無しは遠い目をして「あいつを焼き払うまで戦争は終わりません」と返す。上官「あいつはいない。もういなくなった」、名無し「あいつは待ってる。20年でも50年でも100年でも待ち続け、また現れる。焼き払わねば!」と確信に満ちて答えます。上官が物を取りに一瞬ジープに戻ってから振り返ると、もうТ-34も主人公も姿が消えている…煙のように。実際に煙が一条あとにはたゆたっているばかり。エンジンの排気煙?戦車に乗って去ったの?にしてはエンジン音聞こえなかったぞ…昇天(英アセンション 露バズニセーニエ)か!?
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COLUMN/コラム2017.08.15
みんな大好きポルノをオンライン決算で見やすくしたアダルト業界のイノベーターに肉薄〜『ミドルメン/アダルト業界でネットを変えた男たち』〜8月17日(木)ほか
■冒頭にピーウィー・ハーマンも登場する 恐らく劇中に下半身ネタが満載されているのと、スター不在のせいで、日本では劇場未公開となった『ミドルメン/アダルト業界でネットを変えた男たち』を観ると、そんなインターネット創生期のカオスがひしひしと伝わって来る。時代はまさにソーシャルメディアが劇的に変化しようとしていた1997年。例えば、それ以前にポルノ映画を自宅で鑑賞しようと思ったら、レンタルビデオ店に足を運ぶか、(海外からこっそり持ち込むか@日本)、製作元から直接取り寄せるか、しかなかったはず。よくもまあ、そんな面倒臭いことができたもんだと思う。仕方がない。みんな大好きなんだから。映画の冒頭に誰だってポルノを観ながらオ○ニーするのが大好きというコーナーがちゃんと用意されているし。コーナーの最後を飾るのは、ポルノ映画館でオ○ニーしているのが見つかって逮捕され、社会復帰後、時代に関係なく特にアメリカでは絶対×の児童ポルノ所持で再逮捕されたオ×ニー大好きセレブ、コメディアンのピーウィー・ハーマンことポール・ルーベンスだ。 ■オンライン決算のパイオニアはアダルトだった? さてそこで、立ち上がった直後のネット上にポルノ画像専門のサイトを開設し、有料での閲覧を思いつくのが、物語の言わば発起人である元獣医のウェインと元科学者のバックの2人組。堅気の人生を送るのはそもそもかなり難しい享楽的ジャンキーの2人だったが、システムに精通していたバックが"オンライン・カード決済システム"をたったの15分でプログラミングしたことで、上がりは一気に100万ドル超え。このシステムのおかげで、地球上の男たちは誰にも知られず、何ら手を煩わせることなく、ワンクリックで視聴料を決済するだけで、各々が好みの女性(または男性)、好みのプレイにアクセスできるようになったわけだ。実話にインスパイアーされたという本作だが、アダルト産業に革命をもたらした男たちの成功と、必然的に訪れる挫折のプロセスを描く上で、どこまで事実を踏襲しているかは定かではない。しかし、"オンライン・カード決済システム"を最初に導入したのはアダルト産業だったとも言われていて、着眼点は下半身を見据えている分、ある意味鋭い。同時期に公開され、比較された『ソーシャル・ネットワーク』(10)のFacebookに匹敵するメディア革命を扱った野心作、という見方だってできそうだ。 ■『ソーシャル・ネットワーク』とはここが違う その『ソーシャル・ネットワーク』は、開発したシステムがセンセーショナルで想定外の巨額マネーを生んでしまったばっかりに、若者たちの人間関係がマネーゲームに取り込まれ、破綻していく様子を描いて、そこはかとない虚しさを漂わせていたのとは違い、『ミドルメン』はアダルトだけに裏社会もの。かなり血生臭い。ユーザーからの注文でオリジナル動画を製作しようと、ロシアン・マフィアが経営するストリップ・クラブに入り浸り、そこでマフィアとの契約を破って窮地に陥った2人組を助けるために、弁護士を介してこのカオスに加わることになる実業家、ジャックを主軸に、これ以降の物語は進んでいくことになる。 ■成功依存症に二日酔いはないってか? 最初はポルノになど関わりたくなかったジャックだったが、オンラインシステムの導入でビジネスが一気に巨大化した時、顧客とポルノ業者の間を取り持つ仲介業(=ミドルメン)を発案。それが大成功を収めたためにもはや後戻りできなくなる。本来は真面目で家族思いのジャックが、金と権力と女を手にした途端、何かに憑かれたように浮き足立っていく様は、終始喧噪の中で展開する物語の中で、妙に胸に突き刺さる部分。男として望むものをすべて手に入れた状態に依存し、それが異常であることに気づかないジャックは、モノローグの中でそんな自分をこう振り返る。「この依存症に二日酔いはないのが怖い」と。成功とは、現実に直面する不快な翌朝は決して訪れない、永遠に続くかに思われる祭のようなものかも知れないと、この独白からは想像できる。本作に製作者として関わり、ジャックのモデルとも言われているクリストファー・マリックなる人物が、虚実入り乱れた物語の中に注入した数少ない真実が、もしやコレなのではないだろうか? ■プロデューサーもアダルト業界も変わった! 因みに、『ミドルメン』に引き続き、同じジョージ・ギャロ監督と組んでセルマ・ブレア主演のクライムミステリー『Columbus Circle』(12)を製作する等、映画プロデューサーとしての人生も開拓してしまったマリックは、その傍らでしっかり仲介業は続けているとか。どうやら、祭は場所と形を変えてしぶとく続いているようだ。 ところで、アダルト産業はさらに状況が変化している。レンタルDVDは勿論、PCでのオンデマンド視聴も減少の一途を辿り、今やスマホでポルノを見るのが主流になって来ている。アダルトサイトの"Pornhub"によると、女性の視聴者が年々増加しているとか。思えば、こんなジェンダーフリーの時代に、『ミドルメン』で描かれるような女性は見せる側、男性は見る側という区分は、過ぎ去った前世紀の遺物になりつつあるのだ。 ■ルーク・ウィルソンが"下ぶくれ"過ぎ ジャック役のルーク・ウィルソンを見て、それがルーク・ウィルソンだと気づく人は少ないかも知れない。そうでもないか。だが、かつて、ウェス・アンダーソン監督の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)に兄のオーウェン・ウィルソンと出演し、ドリュー・バリモアやグウィネス・パルトロウと交際していた頃のイケメンぶりはどこへやらの"下ぶくれ顔"には、正直どん引きである。だからこそ、見方を変えれば巻き込まれ型のジャックを演じるのに、彼のヌーボーとしてつかみどころのないルックは効果てきめんだったとも言えるのだが。 ■76歳のロバート・フォスターが脇で渋い!! 地味だが脇役がけっこう充実している。ジャックにハイエナの如く付きまとう初老の弁護士、ハガティを演じるジェームズ・カーンを筆頭に、FBI捜査官役のケヴィン・ポラック、ギャング役のロバート・フォスター等は、各々1960年代から2000年代にかけて、長くハリウッド映画を支えてきたベテランたちだ。世代によって、記憶を刺激する顔は違ってくると思うが、特にアメリカン・ニュー・シネマの隠れた傑作『アメリカを斬る』(69)で、人種差別の実態を追求するTVカメラマンを演じて以来、76歳の今も現役バリバリのフォスターにシビレる人は多いはず。今現在、フォスターは『アメリカを斬る』から数えて79作目になる長編映画『What They Had』で怪優、マイケル・シャノンと共演中だ。これが日本では劇場未公開にならないことを願うばかりだ。日本にもコアなファンが多いマイケル・シャノンだから大丈夫だとは思うが。■ Middle Men © 2017 by Paramount Pictures. All rights reserved.
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COLUMN/コラム2017.08.03
おそロシア…実際にロシアで起きている事件をベースにした展開が散りばめられたサスペンスアクション〜『イヤー・オブ・ザ・スネーク 第四の帝国』〜8月24日(木)ほか
主に、熊が日常にいる光景や怪力の老婆といった通常我々の日常で目にすることは無いあり得ない風景、ウォッカによる泥酔者などロシアならではの牧歌的かつ非現実的な画像を指す。しかし“おそロシア”はそれだけでなく、原始的な暴力が身近にあるロシアの日常風景や、ロシアの最高権力者プーチン大統領のマッチョすぎるスナップなども“おそロシア”の代名詞となっている。そんな“おそロシア”を体現するかのごとき作品が、今回ご紹介する『イヤー・オブ・ザ・スネーク 第四の帝国』である。 1998年のロシア。高層アパートが突然の爆弾テロで崩壊する。それから13年後、ドイツ人ジャーナリストのポールは、亡父の友人であるアレクセイがロシアで発行するゴシップ誌『マッチ』のアドバイザーに就任してモスクワで働き始めた。ロシアンセレブのゴシップを追いかけながら享楽的なロシアのナイトライフを楽しむ日々を送るポールだったが、路上での殺人事件を目撃する。白昼堂々と射殺されたのは政府に批判的なジャーナリストのイジェンスキー。しかしこの暗殺はロシア中のメディアで、まるで無かったことのように扱われてしまう。ある日、『マッチ』の編集部にイジェンスキーの記事を売り込みに来て一蹴されたフリージャーナリストのカティヤに一目惚れしたポールは、カティアの気を引くために編集長に内密のままイジェンスキー暗殺の記事を『マッチ』に掲載する。カティヤに喜んでもらえると思っていたポールだったが、編集部の面々はポールと距離を置き始め、カティアとは連絡が取れない日々が続いてしまう。ある夜、久々にカティヤからの電話でパーティに誘われたポールはそこでカティヤと合流するが、カティヤを駅まで送っていった所で駅で爆弾テロが勃発。巻き込まれたポールは意識を失ってしまう。ポールが目を覚ました場所は、チェチェンの凶悪犯やテロリストを収監する刑務所。ポールはチェチェン独立派の起こしたテロの容疑者の一人として逮捕されてしまったのだった……。 映画の冒頭に「本作に登場する人物や出来事はすべてフィクションである」という断り書きから始まる本作。しかし本作のあらゆる所で、実際のロシアで起きている事件をベースにした展開が散りばめられている。 冒頭の爆弾テロは、明らかに1999年に発生したロシア高層アパート連続爆破事件だ。この事件は、1999年の晩夏の約2週間の間に、首都モスクワ、ロシア南部のロストフ州ヴォルゴドンスク、ダゲスタン共和国のブイナクスクの3都市5か所において発生した連続爆破テロ事件。合計295人の命が失われ、400人以上が負傷する大惨事となった。このテロ事件の直前に首相に就任したウラジーミル・プーチンは、この事件をチェチェン独立派武装勢力の犯行と断定。一週間後にチェチェン共和国に侵攻して、第二次チェチェン戦争が勃発することになる。しかしこの事件をめぐっては、肝心の“戦果”を上げたはずのチェチェン武装勢力の過激派指導者バサエフが関与を否定(旅客機撃墜事件や北オセチアの学校占拠事件など、他のテロについては犯行声明を出している)。元FSB(ロシア連邦保安庁)のエージェントであったアレクサンドル・リトビネンコは、この事件をチェチェン侵攻を成功させてプーチンを権力の座に押し上げようとするFSB側が仕組んだ偽装テロであることを告発(この告発の4年後にリトビネンコは暗殺される)するなど、現時点でも疑惑の多い事件であり、本作でもそれが物語のキーとなっている。 また白昼暗殺されるジャーナリストのイジェンスキーと、チェチェンに渡航して独立派を取材したというポールの父の設定は、女性ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤをベースとしているのは明白だ。ポリトコフスカヤはアメリカ生まれでロシア育ちで、アムネスティ・インターナショナルの世界人権報道賞などを受賞した世界的に評価されるジャーナリスト。タブロイド紙のノーヴァヤ・ガゼータにおいて、現地取材したチェチェン紛争の記事を執筆。さらにプーチンとFSBを告発する『プーチニズム 報道されないロシアの現実』を出版するなど、反ロシア帝国主義の急先鋒として活躍した。しかし2006年10月7日、モスクワ市内の自宅アパートのエレベーター内で射殺体で発見される。チェチェン人の犯人が逮捕されるが、さらに犯人への殺害指示を出したとしてモスクワ警察の警視ドミトリー・パブリュチェンコフが逮捕されるが、パブリュチェンコフを買収して犯行全体を指揮した人物はいまだに判明していない(ちなみに殺害された10月7日はポリトコフスカヤの誕生日であるが、プーチンの誕生日でもある)。本作でもポリトコフスカヤの人物像をイジェンスキーとポールの父という二人に分割して設定し、設定を二人に分けた意味合いも映画の中できちんと描かれているので注目してほしい。 本作はそんなロシアの“おそロシア”っぷりをこれでもかと見せ付ける115分のサスペンスアクション映画。こんな国で国家的な陰謀に巻き込まれるのは、ろくすっぽケンカすらしたことがなく、良い女を見ると声をかけずにはいられない女ったらしなドイツ人。なので、ロシア人スパイにはボコボコにされ、刑務所のチェチェンヤクザにも半殺しの目に遭いつつ、それでも必死の抵抗といくばくかの強運で何とか危機を乗り切っていく。本作を監督したデニス・ガンゼル(『メカニック:ワールド・ミッション』の監督!)自身が認めている通り、本作はシドニー・ポラック監督、ロバート・レッドフォード主演の『コンドル』(1975年)から多大なる影響を受けている作品だ。国家規模の陰謀に巻き込まれた個人が孤軍奮闘する『コンドル』との類似性は非常に多いが、本作の主人公ポールは『コンドル』のジョセフ・ターナーと異なり特に何か秀でた能力を持たず、ひたすら状況に流されるままにロシアをさまようので、ドイツ人という外国人が見たロシアという地獄めぐり感が強く、より絶望的な状況を映画を観る者と共有できる仕掛けになっている。 また本作の主人公がアーノルド・シュワルツェネッガーやブルース・ウィリスのようなマッチョなタフガイではなく、モーリッツ・ブライプトロイという気弱を絵に描いたような俳優が演じるのは大正解だ。 さらに『コンドル』ではマックス・フォン・シドー演じる謎の殺し屋とターナーの対決が映画の軸となっているが、本作でポールを貶めようとする者や殺そうとする者は、日本で公開される映画ではほとんど観たことが無いような面々ばかりであり、それがまた「こいつは敵なのか味方なのか?」感を強く感じさせることに成功している。 この映画は内容的にロシアでの撮影は非常に難しいということで、基本的にウクライナのキエフで撮影を実施。一部モスクワでの撮影パートもあるが、その際には当局の撮影許可を得るために偽の脚本を準備して提出し、何とか撮影を敢行したという。また脇役陣もポーランド人のカシア・スムトゥニアク(ショートカットが超絶似合ってて素晴らしい)やクロアチア人のラデ・シェルベッジアといった東欧系俳優が固めており、ロシア人俳優はほとんど登用されていないということから、ロシアにとって非常にセンシティブな内容になっていることが分かる。 現在の隣国が実はまだこんな状態であることを知るというだけでなく、何よりエンターテインメントとしても充分満足できる本作。モヤモヤが残るラストも含めて秀逸な作品である。■ ©2011 UFA Cinema GmbH
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COLUMN/コラム2017.07.29
『ブレンダンとケルズの秘密』7/29公開。まあこれはアカデミー賞ノミネートされるわな!なワケとは!?
本日、アニメ映画『ブレンダンとケルズの秘密』が公開されました。いゃ〜待望でしたねえ!昨夏は『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が単館系として全国順次公開され、公開規模に比して多くの日本人が魅了されて話題になりました。その監督のデビュー作が今作です。公開順が日本では逆転してしまいましたが。 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は“ポスト・ジブリ”との呼び声高いアイルランドのアニメーション・スタジオ「カートゥーン・サルーン」の第2作で、2014年度アカデミー長編アニメ映画賞にノミネートされたほど評価が高った。結局その年は『ベイマックス』が獲りましたけど、ジブリの『かぐや姫の物語』とも競ったのでした。その戦績からクオリティは推して知るべしということで。 監督はアイルランド人のトム・ムーア。これが監督2作目で、デビュー作である『ブレンダンとケルズの秘密』という作品も存在するらしい。しかもそっちもアカデミー長編アニメ映画賞にノミネートされている(2009年度)。獲ったのは『カールじいさん』でしたが、他に『コラライン』とか『ファンタスティック Mr.FOX』と競ったというのだから、デビュー戦からして華々しい。 ちなみに昨夏、ワタクシは監督にインタビューさせてもらいましたが、その模様と『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』についてはコチラの過去記事から。今回のこの投稿とも超リンクしてくる内容です。あわせてお読みいただけたら大変うれしい。 昨夏、この『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』に魅了され、デビュー作『ブレンダンとケルズの秘密』というのも見てみたい!と思った日本人は、少なからずいたでしょう。今夏、その願いが叶います!関西の映画祭で上映されたことはありましたが、ついに、商業上映で全国順次ロードショーが実現しました。 昨夏の『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』と同じくアイルランド感満点の映画となっております。映画を通じて遥かなる異国の文化や歴史に親しみを持てるってのは、実に素晴らしいことですなあ!映画を見る理由の一つです。きっと外国人も、ジブリの『もののけ姫』や『千と千尋』を通じて、我が国に興味と親近感を持ってくれたのでしょう。だから“ポスト・ジブリ”なのです。 ■ ■ ■ 今作『ブレンダンとケルズの秘密』のあらすじを、解説もちょいちょい差し挟みながら以下ご紹介していきましょう。時は9世紀。ケルト民族の島アイルランドはすでにキリスト教化されており修道院が各所に建っている。そこをヴァイキングが襲う。黄金製で絢爛豪華な教会の聖具を狙って。ヴァイキングはこの映画では顔も人格もない宇宙からのインベーダー的な扱いになっていますが、でもケルト人だってアイルランドの先住民族という訳ではなくて、この1000年くらい昔にヨーロッパ本土からやってきた移民・難民もしくは侵略者だったんですけどね。 今ではアイルランドといえば様々な映画で描かれている通り“カトリックの国”という印象ですが、9世紀のこの時代はローマ・カトリックとは一線を画する独自キリスト教派「ケルト系キリスト教」が盛んな島でした。4〜5世紀、ヨーロッパ本土は民族大移動(皆ご覧375ゲルマン人の移動だよ、375年)と西ローマ帝国崩壊(ローマは死なむ476と言いつつ死んじゃった、476年)の影響で大混乱におちいっていたのですが、最果ての島アイルランドはその混乱とは無縁だったため、キリスト教が無傷で温存された上に独自の発達を遂げたのです。 「学者と聖者の島」と尊称され、各国から留学僧を多く受け入れ、逆に各国に宣教師を派遣もしていた、西ヨーロッパ随一の文教センター。それがこの時代のアイルランドでした。遣隋使・遣唐使時代の都・長安みたいなものでしょうか。だからこの映画の中では、黒人まで含む、様々な人種・民族の留学僧がアイルランドの修道院に集っているのです。アイルランド史ではこの時代を「聖者の時代」と呼んでいます。ケルト民族の文化と融合した美しいキリスト教の文物が数多く作られ、それらは今ではアイルランドを象徴する文化財となっていますが、それをヴァイキングが狙ってきて、この映画のキーアイテム「ケルズの書」もそのうちの一つ(しかも現国宝)なのです。 「ケルズの書」とは、極彩色の緻密細密な渦巻き模様や唐草文様に彩られた福音書。渦巻き模様や唐草文様はケルト民族の伝統文様です。ケルト民族の故地・ヨーロッパ本土スイスあたりにあった紀元前のラ・テーヌ文化にまでさかのぼります。千数百年前にスイスにいたご先祖様と同じ模様を使って、その子孫たちが、アイルランドで独自に発展させ世界が絶賛した「ケルト系キリスト教」の聖典を彩った。それが「ケルズの書」なのです。それからさらに1000年後、ケルト民族の数十世代後の子孫たる現代アイルランド人が今も国宝として大切にしているのも納得です。 さて、ウンチクはやめてそろそろあらすじを始めねば。その頃ケルズ修道院というところにブレンダンというわんぱく少年修道士がおりました。この修道院では、「芸術を生み出すこと(特に写本作り)、文化を後世に伝え残すことが重要」という考えと「安全保障が最重要。壁を建設して異民族・外敵(ヴァイキング)の侵入を防ぐことが喫緊の課題」という考えが対立しています。大昔から「我が国をとりまく安全保障環境がヤバいことになってる」と騒いではやたらと壁を建設したがる輩ってのはいるものです。そのタイプが修道院長。ブレンダン君の叔父さんです。 ブレンダン君はアイルランドのケルト系キリスト教を慕って渡来してきた外国人留学僧たちに囲まれ、装飾写本作りに興味を持つのですが、叔父さんの安保院長からスゲ無く「そんな下らんことにかまけていられるご時世か!」的なリアクションを返される毎日。そんなある時、当代最高の写本絵師ブラザー・エイダン(実在の歴史上の人物)がヴァイキングから逃れここケルズ修道院まではるばるやって来る。このエイダン師に感化され、ますます写本熱が高まるブレンダン君。叔父さんの院長は苦々しく思う。 エイダン師は美しいイラストで埋め尽くされた描きかけの書を携えてきており、興味津々のブレンダン君に絵本作りを手伝ってくれと頼みます。まず森に入ってインクの材料となる木の実を拾ってきてくれと言い、その言いつけに従って、鉄壁の要塞と化しつつある修道院を抜け出し森にはじめて分け入ったブレンダン君は、その森の奥で道に迷ってしまいます。 そこで、不思議な自然児、森に精通していて「ここは私の森」と豪語する白髪の少女アシュリンと遭遇するのです。 アシュリンちゃんとは何者なのか?ケルト民族は妖精を信じていますので、妖精か妖怪変化のたぐいでしょうか?森はキリスト教ではなく妖精や異教の領域。そこでキリスト教の修道士ブレンダン君とケルトの妖精アシュリンちゃんが仲良しになるというところが、とてもアイルランド的なのです。ケルト+キリスト教=アイルランドなのです。「ケルト系キリスト教」も当然そういうことですし、今作劇中のキーアイテム「ケルズの書」も、ケルト伝統装飾で彩られたキリスト教福音書ですから。 このアシュリンちゃんも畏れる、忌むべき存在が森の奥底深くには潜んでいる。それがクロム・クルアッハ神。いにしえのケルト神話の神で、キリスト教以前のアイルランドには金銀製の巨像が祀られていたといいます。12柱の青銅製の従属神像を従えていたともいう。生贄を求め、初子かその家の子供たちの1/3を犠牲に捧げれば、戦いにも勝てるし大豊作も叶えてくれる、と信じられていました。まあ、はっきり言って邪神ですな。この邪神像を引きずり倒した漢が、アイルランドを象徴する聖人、三つ葉のクローバーでおなじみセント・パトリックなのですが、閑話休題。こういう、古代ケルトのまがまがしい存在も、妖精も、アイルランドの森には潜んでいる、という、まさにジブリ的な、『もののけ姫』的なアニメなのであります。 さて、とあるクエスト達成のため、この邪神クロム・クルアッハと対峙せねばならなくなるブレンダン君×アシュリンちゃんコンビ。さらに、ヴァイキングの来寇が目前に迫っていた…高い壁をはりめぐらせたケルズ修道院の命運は?そして、現代にまで伝わりアイルランドの国宝とされるに至る「ケルズの書」はいかにして誕生するのか? この続きは、映画本編でお確かめください。 ■ ■ ■ 最後に。一時期はキリスト教世界の中心地でさえあったアイルランド。その国際的地位が、実際にヴァイキングの襲来と破壊によって大きく衰退したことは歴史的な事実です。ヴァイキングは8世紀末からヨーロッパ中の沿岸部を荒らし回りました。しかし実はその前に「ケルト系キリスト教」の影響力も、民族大移動と西ローマ滅亡の大混乱から200年を経て立ち直りつつあったヨーロッパ本土のローマ・カトリックとの教義論争に敗れて(664年ホイットビー宗教会議)地位が弱まっていたのです。そのためアイルランドもまた、普通のカトリックの一角となってしまい(それでもだいぶユニークですが)、そしてさらにその後、キリスト教化したイギリス、しかもさらに後にはプロテスタント国となったイギリスの強い影響にさらされながら、こんにちに至るのです。 壁を築くというのは、侵略の恐怖にさらされた当時の人々にとっては切実な願いだったでしょうし、当然の行動でしょう。でも、無駄だった。ヴァイキングの侵寇も大英帝国の専横も、結局、防ぐことはできませんでした。だから無駄だ、とは思いません。国防が無駄である訳がない。やるだけやる意味はある。それで救われた命も幾つかはあったかもしれない。でも逆に、文化・芸術だって決して無駄ではない。結局、文化だけが残りました。ケルト芸術と「ケルト系キリスト教」の精華たる「ケルズの書」は、こんにちにまで伝わって、民族の誇り、アイデンティティの核として、国宝となったのです。 このアニメ映画、ケルトの伝統模様、渦巻き模様や唐草文様が画面中に散りばめられています。紀元前のラ・テーヌ文化から伝わる模様を使って9世紀に描かれた「ケルズの書」をめぐるファンタジー冒険アニメを、現代アイルランドのアニメ作家・スタジオが、やはり同じ文様を使って描く。文化と芸術が、二千数百年の時を経て、民族のあいだで連綿と伝えられてきたという確たる証拠。それがこの『ブレンダンとケルズの秘密』なのです。 まあ、これはアカデミー賞ノミネートされるよね!(蛇足:アシュリンちゃん、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』にも隠れキャラとして出ています。見れる人は探してみよう) 7月29日(土)にYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー2009年/75分/カラー/ドルビー・デジタル/ヴィスタサイズ/フランス・ベルギー・アイルランド合作 ©Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon
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COLUMN/コラム2017.07.28
個人的に熱烈推薦!編成部スタッフ1人1本レコメンド 【2017年8月】キャロル
『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリー監督がジャック・ブラックとダニー・グローヴァー主演で描く、ハートウォーミング・コメディ。ブロックバスター級のハリウッド映画を、ド素人がリメイクする!?というお話。手作り感満載のリメイク版は、作品の特徴をよく掴んでいて、オリジナル版を知っている人なら思わず「そうきたか(笑)!」と唸ってしまう場面もあるはず。冒頭のジャック・ブラックの“ウザキャラ”な役どころが本当にウザッたくて、観るのをやめようかと思うくらい不快感まで覚えてしまったのですが(なんて大人気ない)、気が付くと最後には“結局憎めないヤツ”になっていて・・・。そんなところに、ジャック・ブラックの俳優としてのスゴさを感じました。(実際にアメリカというデカい国にはゴロゴロいそうですしね、こういう困った人。)そして、現実ではちょっと考えられないような、無理やりな感じがするストーリー展開なのですが、最後の最後の最後で、やられたーーーーーーーーーー!まさかウルッと涙してしまうとは。これは予想外でした。ところで本作品の話題になると、必ずといっていいほど「邦題がひどいよね」と言う話が出てくるのですが(「僕らのミライへ逆回転」「邦題」でためしに検索したら、あらホント)、、、私はそんなに悪くないと思うなぁ。アナログな手段で未来を切り開いていく、みたいな含みを感じるし、温かみもあるし。映画っていいものですねぇ、と思わずにはいられない。軽いタッチでサラッと見れるけれど、製作者の映画愛が全編から伝わってくる温かい作品です。8月のザ・シネマで放送しますので、テレビをつけて偶然出会うことがありましたら、ぜひご覧になってみてください。■ © 2007 Junkyard Productions, LLC. All rights reserved.